犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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13 公爵令息からのお誘い

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 ミーグスからパーティーに誘われた5日後、学園が休みの日だったので、朝からカフェで働いていると、ミーグスが昼過ぎに今日は一人でやって来た。
 紺色の薄手のコートに白いシャツ。
 下は紺色のパンツ姿なので制服とあまり変わらない格好のはずなのに、いつもと違うように感じてしまい、少しだけドキリとした。

 ミーグスのことを褒めるのはなんか悔しいけど、女子に人気があるだけあるわよね。
 スタイルも顔も良いから羨ましいわ。
 しかも頭も良い。
 悪いのは性格くらいなのかしら。 
 いや、性格が悪いとまではいかない?

 そんなことを呑気に思っていると、一緒に働いている女性から話しかけられる。

「あの人素敵ね! 私が接客してもいい?」
「はい、どうぞ!」

 前回、ミーグスが友人たちと来た時にはいなかった女性に尋ねられて、私はすぐに頷いてしまった。

 ……って、私、彼女のフリをしないといけないんだったわ。

 ミーグスを席に案内する、私よりも年上で、ここで働いているのも私より長い、フワリさんを見つめながら、自己嫌悪で小さく息を吐く。

 咄嗟の感情で判断してしまって、ミーグスにも迷惑をかけてるのよね。
 本当に申し訳ないわ。
 ミーグスには学費や寮費の恩もある。
 返すつもりではいるけれど、いつになったら返せるのかはわからない。
 だから卒業までは、できることをしなくちゃいけないのよね。

 ぼんやりとそこまで考えてから、弱気になってしまった自分の両頬を叩く。

 弱気になっちゃ駄目よ!
 何としてでも、お金は在学中に返さないと返しそびれてしまう。
 だって、ミーグスはこの領の人間じゃないし、卒業したら二度と会わなくなるかもしれない。

 ミーグスの実家があるミーグス領と、学園があるカイジス領は隣ではあるけれど、一日で移動できる距離ではない。
 転移の魔道具を使えばすぐに移動できるけれど魔道具は高すぎて、私のような平民には、到底買えるものではなかった。

 だから、卒業してしまえば、私はもうミーグスに会うことはなくなるのだ。

 もう二度と会えないかもしれないと思うと、やっぱり少しは寂しいかもしれない。

「ちょっと、ミゼライトさん!」
「は、はい!」
「彼氏なら彼氏って教えてよ。どうして言ってくれなかったの!?」
「え、あ! す、すみません! 付き合い始めたばかりで、まだ信じられなくて」
「あなたの彼氏、すごく素敵だものね。でも、ミゼライトさんだって可愛いからお似合いよ。自信持って!」

 お世辞でも私のことを可愛いと言ってくれた優しいフワリさんの言葉に感動したあと、フワリさんに促されて、ミーグスのいるテーブルに向かった。

「いらっしゃいやせー」
「やせ、ってなんなの。ちゃんとした接客をお願いしますよ、可愛いお姉さん」
「可愛いだなんて本気で思ってないでしょ」
「……思ってるよ」
「はい?」

 なぜか悲しげな笑みを見せたミーグスに、今の言葉はどういう意味なのか聞こうとした時だった。

「ここのカフェの制服、可愛いよね?」
「……ですよね」

 ドキッとして損したわ。
 そうよね。
 ミーグスが私のことを可愛いだなんて思っているはずがないもの。

「で、何しに来られたんですか。お客様」
「今日の君のバイトは何時まで?」
「こんなところでナンパは困ります、お客様」
「彼女の設定はどうしたの」
「……とにかく、何か注文くらいしてよ。私は仕事中なんだから」
「わかってるよ」

 ミーグスの注文を受けてから、先程の質問に答える。

「あと数時間くらいで終わる予定だけど、どうしてそんなことを聞くの?」
「用事がないなら、バイト後に僕に付き合ってほしいんだけど」
「かまわないけど何するの?」
「来週のパーティーの準備をしないといけないだろ」
「ああ、そうね。考えてみたら、社交場でのマナーなどを教えてもらわないと駄目ね」

 頷いてから、ミーグスに尋ねる。

「どうするつもりなの? 私のバイトが終わるまで、あなたはここで待っててくれるの?」
「うん。許されるなら大人しく待ってるよ」

 ミーグスが頷いたのを確認してから、オーダーを通しに厨房に入る。
 すると、フワリさんが店長たちに私とミーグスの話をしてしまったようで、店長が笑顔で話しかけてきた。

「ビアラちゃんの彼氏、すごい美少年だよね。そりゃあ僕にまったく動じないわけだ」
「店長。それ、自分で言いますか」
「言っちゃうよ。だって、僕はモテるしね。昨日もビアラちゃんのお友達が来てくれたし」
「お友達?」

 エアリスやノノレイが来るなら、いつも私が勤務している時なので、おかしいと思って聞き返した。

「うん。ほらフレシアちゃん、だっけ?」
「……嘘ですよね」
「嘘じゃないよ。先日、ビアラちゃんに相談したいことがあるって言ってただろ。僕が聞こうかって言ったら話をしてくれたんだ。人に話をしても良いと言ってたから話すけど、彼氏と婚約しようと思ったら、相手の両親は了承してくれたけど、肝心のフレシアちゃんの両親から駄目だと言われたんだって」
「そうだったんですね」
「らしいよ。そんな借金のある家と婚約だなんて許さないって言われたんだってさ。あ、で、ビアラちゃんの彼氏は何を頼んでくれたの?」
「すみません。アイスの紅茶をお願いします」

 フレシア様のご両親は思ったよりも馬鹿ではなかったということかしら。

 仕事中のため、プライベートな話は休憩中にすることになり、私も接客に集中することにした。
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