9 / 36
8 浮気とは
しおりを挟む
私たちが来るのをを待っていたのか、見える所で待っていてくれたフレシア様に付いていくと、彼女は中庭のガゼボまでやって来た。
フレシア様がガゼボの中に入って立ち止まると、私たちはガゼボの中には入らずに彼女から距離を取って立ち止まった。
まだ朝の早い時間ということもあり、中庭の小道を通る人もいない。
ガゼボに続く道の左右にある花壇に色とりどりの花が咲き誇っているのを横目で見ながら、私たちははフレシア様が話し出すのを待つ。
「言わせてもらいますね」
フレシア様は口を開いたかと思うと涙目で話し始める。
「ひどいわ、ディラン! 数日前まで私という婚約者がいながら、すぐにミゼライトさんと付き合うことになるだなんて信じられない」
「「は?」」
私とミーグスの聞き返す声が重なった。
「は? じゃないわよ! あなたがそんな不誠実な方だったとは思いませんでした!」
「いや、フレシア。君、自分が何を言ってるかわかってる?」
「十分わかっておりますとも! 私があなたに浮気をされたということでしょう」
「……わかってないじゃないか」
ミーグスはこめかみを押さえて、大きく息を吐いたあとに話を続ける。
「僕とビアラが付き合っていたとしても、君との婚約破棄後なんだから、君に責められるいわれはないだろ?」
「そうですよ。大体、浮気をしたのはフィアディス様とフェルナンディではないんですか?」
私も一緒になって言い返すと、フレシア様は私を睨みつけながら言う。
「そういえばミゼライトさん。あなた、私のホーリルに地獄に落ちろ、とか言っておられましたよね」
「言いましたが、言われてもおかしくないくらいのことを彼は私にしていると思います」
「そんなことはありません! 彼は傷付いたと思います。謝って下さい」
この人、自分に都合のいいことしか聞こえないのかしら。
どうにかしなさいよ、と、フレシア様の元婚約者であるミーグスを睨む。
すると、私の視線に気がついたミーグスはこめかみから手を離し、フレシア様に向かって言った。
「フレシア、用はそれだけかな?」
「違うわ! ディラン、あなた、私の家から慰謝料をもらったようだけれど返してちょうだい!」
「何を理由に返さないといけないんだよ」
「あなたが浮気していたからよ!」
「ああもう、ここまで馬鹿だったとは思わなかった」
このままじゃ、堂々巡りになるわね。
ミーグスがまたこめかみを押さえたのを見て、さすがに彼が気の毒になってきた。
だから、フレシア様に話しかける。
「あの、フィアディス様」
「フレシアで結構よ」
「では、フレシア様」
「何かしら?」
目に涙をためた状態で、フレシア様は私を見て首を傾げる。
何で、この人は泣いているのかしら。
この人が先に浮気したのよね。
意味がわからないんだけど。
心の中で突っ込んでから、口を開く。
「私とディランがお付き合いを始めたのは、昨日からです。そして、私とディランがあなた方に婚約破棄をされたのはいつでしょうか」
「二日前だけど、それがどうしたの?」
「では、昨日の段階では私たちは婚約破棄されており、ディランとフレシア様、それから、私とフェルナンディ子爵令息は何の繋がりもなくなったわけです」
「そうね」
「じゃあ、なぜ浮気になるんです?」
丁寧に説明してから尋ねると、フレシア様は首を傾げる。
「ディランは私を好きだったはずでしょう」
「そんな事実はないよ」
「どうして? 優しくしてくれたじゃない」
「それは君が婚約者だったからだよ」
「やっぱり浮気だったのね!」
何でそうなるのよ。
「もういい! 一応聞いておくけど、君とフェルナンディの関係は浮気じゃないのか?」
ミーグスが珍しく苛立った口調で尋ねた。
ミーグスをここまでイラつかせるなんて、フレシア様はある意味、大物かもしれないわ。
規格外を一人で相手にするのは大変よね。
ここは力を合わせるしかないのかしら。
「私たちは純愛なの! そんな浮ついたものじゃないわ!」
「なら、私とディランもそういうことでお願いします」
「え?」
聞き返してきたのはフレシア様ではなくミーグスだったので、私はミーグスを一睨みして黙らせてから話を続ける。
「あなたたに婚約破棄されてから愛が芽生えました。だから浮気ではありませんよね。婚約者がいても純愛なら浮気じゃないんですよね。そうであれば、私たちは婚約者も恋人もいませんから、浮気でもありませんし純愛なはずですよね」
馬鹿には何を言っても無駄だわ。
ここは彼女のレベルに合わせて話をしないと駄目だと思っている私も苛立っているので、フレシア様に向ける表情は笑顔ではあるものの、目は笑っていないと思われる。
「そ、そうね。それなら、まあ。しょうがないかもしれないわ」
何がしょうがないのか、さっぱりわからない。
でも、納得したみたいだし、もう話は終わりで良いわよね。
「話は終わりでよろしいですよね」
「あの、慰謝料はどうなるの?」
「払ってくださるんですか、追加で?」
きつい口調で聞き返すと、フレシア様はびくりと体を震わせ、ポロポロと涙を流しながら叫ぶ。
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないの。ミゼライトさん、怖い。ホーリルが言っていた通りだわ」
私はホーリルと大して話をした覚えがないんだけど。
それなのに、あの男に怖いとか言われたくないわ。
「あなたはギャンブル依存症で借金を作って、ホーリルや彼のお父様に迷惑をかけてるんでしょう!?」
「はあ?」
駄目だわ。
今すぐ、ホーリルを事故に見せかけてどうこうしたくなってきたわ。
聞き返した私が次の言葉を紡ぐより先に、ミーグスが口を開く。
「フレシア、君はフェルナンディ子爵家に行ったことはあるのか?」
「まだないわ。次の休みに顔合わせに行くの」
「そうか。それなら、その時に真実を知るといい」
ミーグスは冷たく言い放つと、私に声を掛ける。
「ビアラ、行くよ」
「あ、はい」
「ねえ、慰謝料はどうなるの!?」
フレシア様は泣きながら叫び続けていたけれど、追いかけてくることはなかった。
だから、私もミーグスも足を止めず振り返ることもなかった。
フレシア様がガゼボの中に入って立ち止まると、私たちはガゼボの中には入らずに彼女から距離を取って立ち止まった。
まだ朝の早い時間ということもあり、中庭の小道を通る人もいない。
ガゼボに続く道の左右にある花壇に色とりどりの花が咲き誇っているのを横目で見ながら、私たちははフレシア様が話し出すのを待つ。
「言わせてもらいますね」
フレシア様は口を開いたかと思うと涙目で話し始める。
「ひどいわ、ディラン! 数日前まで私という婚約者がいながら、すぐにミゼライトさんと付き合うことになるだなんて信じられない」
「「は?」」
私とミーグスの聞き返す声が重なった。
「は? じゃないわよ! あなたがそんな不誠実な方だったとは思いませんでした!」
「いや、フレシア。君、自分が何を言ってるかわかってる?」
「十分わかっておりますとも! 私があなたに浮気をされたということでしょう」
「……わかってないじゃないか」
ミーグスはこめかみを押さえて、大きく息を吐いたあとに話を続ける。
「僕とビアラが付き合っていたとしても、君との婚約破棄後なんだから、君に責められるいわれはないだろ?」
「そうですよ。大体、浮気をしたのはフィアディス様とフェルナンディではないんですか?」
私も一緒になって言い返すと、フレシア様は私を睨みつけながら言う。
「そういえばミゼライトさん。あなた、私のホーリルに地獄に落ちろ、とか言っておられましたよね」
「言いましたが、言われてもおかしくないくらいのことを彼は私にしていると思います」
「そんなことはありません! 彼は傷付いたと思います。謝って下さい」
この人、自分に都合のいいことしか聞こえないのかしら。
どうにかしなさいよ、と、フレシア様の元婚約者であるミーグスを睨む。
すると、私の視線に気がついたミーグスはこめかみから手を離し、フレシア様に向かって言った。
「フレシア、用はそれだけかな?」
「違うわ! ディラン、あなた、私の家から慰謝料をもらったようだけれど返してちょうだい!」
「何を理由に返さないといけないんだよ」
「あなたが浮気していたからよ!」
「ああもう、ここまで馬鹿だったとは思わなかった」
このままじゃ、堂々巡りになるわね。
ミーグスがまたこめかみを押さえたのを見て、さすがに彼が気の毒になってきた。
だから、フレシア様に話しかける。
「あの、フィアディス様」
「フレシアで結構よ」
「では、フレシア様」
「何かしら?」
目に涙をためた状態で、フレシア様は私を見て首を傾げる。
何で、この人は泣いているのかしら。
この人が先に浮気したのよね。
意味がわからないんだけど。
心の中で突っ込んでから、口を開く。
「私とディランがお付き合いを始めたのは、昨日からです。そして、私とディランがあなた方に婚約破棄をされたのはいつでしょうか」
「二日前だけど、それがどうしたの?」
「では、昨日の段階では私たちは婚約破棄されており、ディランとフレシア様、それから、私とフェルナンディ子爵令息は何の繋がりもなくなったわけです」
「そうね」
「じゃあ、なぜ浮気になるんです?」
丁寧に説明してから尋ねると、フレシア様は首を傾げる。
「ディランは私を好きだったはずでしょう」
「そんな事実はないよ」
「どうして? 優しくしてくれたじゃない」
「それは君が婚約者だったからだよ」
「やっぱり浮気だったのね!」
何でそうなるのよ。
「もういい! 一応聞いておくけど、君とフェルナンディの関係は浮気じゃないのか?」
ミーグスが珍しく苛立った口調で尋ねた。
ミーグスをここまでイラつかせるなんて、フレシア様はある意味、大物かもしれないわ。
規格外を一人で相手にするのは大変よね。
ここは力を合わせるしかないのかしら。
「私たちは純愛なの! そんな浮ついたものじゃないわ!」
「なら、私とディランもそういうことでお願いします」
「え?」
聞き返してきたのはフレシア様ではなくミーグスだったので、私はミーグスを一睨みして黙らせてから話を続ける。
「あなたたに婚約破棄されてから愛が芽生えました。だから浮気ではありませんよね。婚約者がいても純愛なら浮気じゃないんですよね。そうであれば、私たちは婚約者も恋人もいませんから、浮気でもありませんし純愛なはずですよね」
馬鹿には何を言っても無駄だわ。
ここは彼女のレベルに合わせて話をしないと駄目だと思っている私も苛立っているので、フレシア様に向ける表情は笑顔ではあるものの、目は笑っていないと思われる。
「そ、そうね。それなら、まあ。しょうがないかもしれないわ」
何がしょうがないのか、さっぱりわからない。
でも、納得したみたいだし、もう話は終わりで良いわよね。
「話は終わりでよろしいですよね」
「あの、慰謝料はどうなるの?」
「払ってくださるんですか、追加で?」
きつい口調で聞き返すと、フレシア様はびくりと体を震わせ、ポロポロと涙を流しながら叫ぶ。
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないの。ミゼライトさん、怖い。ホーリルが言っていた通りだわ」
私はホーリルと大して話をした覚えがないんだけど。
それなのに、あの男に怖いとか言われたくないわ。
「あなたはギャンブル依存症で借金を作って、ホーリルや彼のお父様に迷惑をかけてるんでしょう!?」
「はあ?」
駄目だわ。
今すぐ、ホーリルを事故に見せかけてどうこうしたくなってきたわ。
聞き返した私が次の言葉を紡ぐより先に、ミーグスが口を開く。
「フレシア、君はフェルナンディ子爵家に行ったことはあるのか?」
「まだないわ。次の休みに顔合わせに行くの」
「そうか。それなら、その時に真実を知るといい」
ミーグスは冷たく言い放つと、私に声を掛ける。
「ビアラ、行くよ」
「あ、はい」
「ねえ、慰謝料はどうなるの!?」
フレシア様は泣きながら叫び続けていたけれど、追いかけてくることはなかった。
だから、私もミーグスも足を止めず振り返ることもなかった。
92
お気に入りに追加
1,261
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
半日だけ侍女になった美貌の公爵令嬢は世界を手に入れる?
青空一夏
恋愛
美貌の公爵令嬢カトリーヌは、夜会で一間惚れした男爵家の三男カート様に会うために侍女に変装します。さぁ、侍女になったカトリーヌは‥‥お転婆の美しい公爵令嬢の半日だけの大冒険?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる