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7 公爵令息の元婚約者からの呼び出し
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放課後、学費や寮費の相談をするために学園の事務局に向かいながら、昼休みのことを思い出していた。
突然のディラン、ビアラ呼びに、エアリスとノノレイは興奮した様子で、私に何があったのかと質問攻めをしてきて大変だった。
同じクラスではあるけれど、休み時間中は婚約破棄の話を他の子に話していたから、呼び方については話せていなかった。
それにしても、女子って恋愛トークが好きよね。
私も人の話を聞くのは好きなんだけど、どうせ話を聞くなら幸せな話のほうが良い。
そう思っていると、不意にあの日のことを思い出した。
エアリスには恋人がいた。
上手くいっていると思っていた。
でも、約2年前のある日、恋人にフラれたとエアリスが泣きながら私に話をしてくれた。
次の日が休みだったこともあり、一晩中、彼女の話に付き合った。
その日の晩は、彼女が立ち直れるか心配で中々寝付けなかった。
でも、朝起きると、エアリスは昨日のことなんて何もなかったかのように、私に朝の挨拶をした。
そして、泣き腫らして目の周りが腫れ上がっている自分の姿を鏡で見て驚いていた。
エアリスはその日から、恋人だった彼のことを一切、口に出さなくなった。
彼の名前を出しても、小さい頃に遊んだ様な気がする、ということくらいしか覚えていなかった。
ノノレイに相談したところ、ショックで忘れてしまったのか、一生懸命忘れようとしているふりをしているだけなのかもしれないから、今はソッとしておこうと言われた。
だから、恋愛話については私たちからはエアリスには話せなかった。
私は初恋もまだで、色恋沙汰にはまったく縁がない。
だから、エアリスの気持ちが余計にわからない。
気になるのは、元彼のことをあまりにも綺麗さっぱりと忘れてしまっていることだ。
あまりにも不自然すぎて、何かあるのではないかと疑ってしまう。
そんなことを考えている内に事務局に着いたので受付の人に話しかける。
「あの、寮費と学費の件で相談したいのですが、担当の方をお願いできますか」
その後、自分の名前や学年とクラスを聞かれたので答えると、担当の人が出てきて、詳しい話を別室で話してくれることになった。
「ビアラ・ミゼライトさんね? 調べてみたけれど、先程、あなたの分の学費と寮費は来年分も含めて先払いされているわ」
「え? そんな、間違いじゃないですか? 逆に返せと言ってきたのでは?」
フェルナンディ子爵が私の学費を前払いできるわけがない。
驚いていると、担当の人は笑顔を見せる。
「ミーグス公爵閣下の名前で、お支払いいただいたのよ。返せだなんて言うわけがないわ」
「ミーグス公爵閣下!?」
どうして、ミーグス公爵閣下が私の学費や寮費を払ってくれるの!?
これって、もしかしなくても、ミーグスが話をしてくれたということよね。
結局、私は何も心配しなくても良いからと言われ、寮に帰ることになったのだった。
*****
次の日の朝、私はいつもより早く寮を出て教室に向かった。
始業よりも1時間近く早い時間のため、来ている人は少ない。
でも、ミーグスがこの時間に登園していることは、恋人のふりをすると決まった時に聞いていた。
「おはよう」
「おはよう、ミーグス!」
私から何を言われるかわかっているのか、ミーグスは笑顔で話しかけてくる。
「もうわかったの?」
「気になることは早い内に解決してしまいたいから、昨日の放課後に学費や寮費の支払いをどれくらい待ってもらえるか聞こうと思って事務局に行ったのよ。だからわかったんだけど、どういうことなの?」
「君には任務を全うしてもらうために学園にいてもらわないといけないんだ」
「だからって、ここまでしてくれなくても」
「フェルナンディがまた君に近寄ってきたらいけないから、今までの学費と寮費はフェルナンディ家に送っておいたよ。どうせ君に金を返せとか言ってくるだろうから」
手紙の話はしていないのに、どうしてわかったのかしら。
ホーリルとの一件の時に、そう思ったの?
「で、でも、そんなことをしたら、フェルナンディ子爵が調子にのるだけじゃない! もちろん、支払ってもらったことには感謝するわ。本当にありがとう」
「どういたしまして。君の言いたいことはわかるよ。でも、こうすることで君とフェルナンディとの関わりはなくなるはずだ。それに、君の後ろに僕の家があるということは馬鹿でもわかるだろ。それでもまだ、お金を要求するなら考えるよ」
「わからないわよ。フェルナンディ子爵は本当に馬鹿だもの。それに、あなたのお父様はよく許してくれたわね」
「うちの家からはお金を出してないから」
「え?」
「あれは、フレシアからもらった慰謝料だよ」
そう言われて、ふと、ミーグスとフレシア様の婚約破棄について気になって聞いてみた。
「その感じだと、婚約の破棄は許してはもらえたのね?」
「まあね。それにうちの領にある、ホテルの経営権は譲渡させたし」
「そうなのね。まだ、メリットがあったのなら良かったじゃない」
「新たな婚約者探しが必要になったけどね」
「…そういえば、婚約者はどうするつもりなの? あなたならよりどりみどりなんでしょうね」
褒めたつもりだったのに、ミーグスは私を恨めしそうに見たあと、大きなため息を吐いた。
「ちょっと、なんなのよ!」
ミーグスの態度にムッとした時だった。
ミーグスの表情が歪んだので、彼が見つめている方向に視線を向けると、ミーグスの元婚約者のフレシア様が教室に入ってきたところだった。
フレシア様は教室内に入ってすぐのところで立ち止まり、ミーグスに話しかける。
「ディラン、あのね、あなたにお話があるの。少しだけ時間をもらえないかしら」
フレシア様は目を潤ませてミーグスに話しかけた。
「僕のほうには君と話すことなんてないんだけどな。まあ一応、聞いてはおくよ。何の話かな?」
「ここでは話がしにくいわ。あと、ミゼライトさんも一緒に来てほしいの。大事な話なのよ」
「私もですか?」
失礼かもしれないけれど、露骨に嫌そうな顔をして聞き返した。
でも、フレシア様はそんな私の態度を気にする様子もなく頷くと、私たちの返答も待たずに背を向けて教室から出ていった。
「なんなの? ついて来いってことかしら」
「だろうね」
ミーグスは小さく息を吐いてから立ち上がると、私を促してくる。
「君も呼ばれてたろ? 行くよ」
「行きたくないんだけど、絶対に行かないと駄目かしら」
「駄目だろ。職務放棄しないでくれよ」
「うっ。そうよね。一番にミーグスから引き離さないといけない女性って彼女だものね。あと、その前に」
立ち上がってから、深々と頭を下げる。
「改めてお礼を言うわ。立て替えてくれてありがとう。ミーグス公爵閣下にもお礼を伝えてもらえる? あ、それとも手紙を送ったほうがいいかしら」
「……立て替えたわけじゃない」
「え?」
「ほら、そんなことはいいから行くよ」
ぽんぽんと頭をなでられたので調子が狂う。
最近のミーグスは人が変わったみたいに私に甘くない?
「ほら、行くよ」
ミーグスに急かされて、私は慌てて彼の後を追った。
突然のディラン、ビアラ呼びに、エアリスとノノレイは興奮した様子で、私に何があったのかと質問攻めをしてきて大変だった。
同じクラスではあるけれど、休み時間中は婚約破棄の話を他の子に話していたから、呼び方については話せていなかった。
それにしても、女子って恋愛トークが好きよね。
私も人の話を聞くのは好きなんだけど、どうせ話を聞くなら幸せな話のほうが良い。
そう思っていると、不意にあの日のことを思い出した。
エアリスには恋人がいた。
上手くいっていると思っていた。
でも、約2年前のある日、恋人にフラれたとエアリスが泣きながら私に話をしてくれた。
次の日が休みだったこともあり、一晩中、彼女の話に付き合った。
その日の晩は、彼女が立ち直れるか心配で中々寝付けなかった。
でも、朝起きると、エアリスは昨日のことなんて何もなかったかのように、私に朝の挨拶をした。
そして、泣き腫らして目の周りが腫れ上がっている自分の姿を鏡で見て驚いていた。
エアリスはその日から、恋人だった彼のことを一切、口に出さなくなった。
彼の名前を出しても、小さい頃に遊んだ様な気がする、ということくらいしか覚えていなかった。
ノノレイに相談したところ、ショックで忘れてしまったのか、一生懸命忘れようとしているふりをしているだけなのかもしれないから、今はソッとしておこうと言われた。
だから、恋愛話については私たちからはエアリスには話せなかった。
私は初恋もまだで、色恋沙汰にはまったく縁がない。
だから、エアリスの気持ちが余計にわからない。
気になるのは、元彼のことをあまりにも綺麗さっぱりと忘れてしまっていることだ。
あまりにも不自然すぎて、何かあるのではないかと疑ってしまう。
そんなことを考えている内に事務局に着いたので受付の人に話しかける。
「あの、寮費と学費の件で相談したいのですが、担当の方をお願いできますか」
その後、自分の名前や学年とクラスを聞かれたので答えると、担当の人が出てきて、詳しい話を別室で話してくれることになった。
「ビアラ・ミゼライトさんね? 調べてみたけれど、先程、あなたの分の学費と寮費は来年分も含めて先払いされているわ」
「え? そんな、間違いじゃないですか? 逆に返せと言ってきたのでは?」
フェルナンディ子爵が私の学費を前払いできるわけがない。
驚いていると、担当の人は笑顔を見せる。
「ミーグス公爵閣下の名前で、お支払いいただいたのよ。返せだなんて言うわけがないわ」
「ミーグス公爵閣下!?」
どうして、ミーグス公爵閣下が私の学費や寮費を払ってくれるの!?
これって、もしかしなくても、ミーグスが話をしてくれたということよね。
結局、私は何も心配しなくても良いからと言われ、寮に帰ることになったのだった。
*****
次の日の朝、私はいつもより早く寮を出て教室に向かった。
始業よりも1時間近く早い時間のため、来ている人は少ない。
でも、ミーグスがこの時間に登園していることは、恋人のふりをすると決まった時に聞いていた。
「おはよう」
「おはよう、ミーグス!」
私から何を言われるかわかっているのか、ミーグスは笑顔で話しかけてくる。
「もうわかったの?」
「気になることは早い内に解決してしまいたいから、昨日の放課後に学費や寮費の支払いをどれくらい待ってもらえるか聞こうと思って事務局に行ったのよ。だからわかったんだけど、どういうことなの?」
「君には任務を全うしてもらうために学園にいてもらわないといけないんだ」
「だからって、ここまでしてくれなくても」
「フェルナンディがまた君に近寄ってきたらいけないから、今までの学費と寮費はフェルナンディ家に送っておいたよ。どうせ君に金を返せとか言ってくるだろうから」
手紙の話はしていないのに、どうしてわかったのかしら。
ホーリルとの一件の時に、そう思ったの?
「で、でも、そんなことをしたら、フェルナンディ子爵が調子にのるだけじゃない! もちろん、支払ってもらったことには感謝するわ。本当にありがとう」
「どういたしまして。君の言いたいことはわかるよ。でも、こうすることで君とフェルナンディとの関わりはなくなるはずだ。それに、君の後ろに僕の家があるということは馬鹿でもわかるだろ。それでもまだ、お金を要求するなら考えるよ」
「わからないわよ。フェルナンディ子爵は本当に馬鹿だもの。それに、あなたのお父様はよく許してくれたわね」
「うちの家からはお金を出してないから」
「え?」
「あれは、フレシアからもらった慰謝料だよ」
そう言われて、ふと、ミーグスとフレシア様の婚約破棄について気になって聞いてみた。
「その感じだと、婚約の破棄は許してはもらえたのね?」
「まあね。それにうちの領にある、ホテルの経営権は譲渡させたし」
「そうなのね。まだ、メリットがあったのなら良かったじゃない」
「新たな婚約者探しが必要になったけどね」
「…そういえば、婚約者はどうするつもりなの? あなたならよりどりみどりなんでしょうね」
褒めたつもりだったのに、ミーグスは私を恨めしそうに見たあと、大きなため息を吐いた。
「ちょっと、なんなのよ!」
ミーグスの態度にムッとした時だった。
ミーグスの表情が歪んだので、彼が見つめている方向に視線を向けると、ミーグスの元婚約者のフレシア様が教室に入ってきたところだった。
フレシア様は教室内に入ってすぐのところで立ち止まり、ミーグスに話しかける。
「ディラン、あのね、あなたにお話があるの。少しだけ時間をもらえないかしら」
フレシア様は目を潤ませてミーグスに話しかけた。
「僕のほうには君と話すことなんてないんだけどな。まあ一応、聞いてはおくよ。何の話かな?」
「ここでは話がしにくいわ。あと、ミゼライトさんも一緒に来てほしいの。大事な話なのよ」
「私もですか?」
失礼かもしれないけれど、露骨に嫌そうな顔をして聞き返した。
でも、フレシア様はそんな私の態度を気にする様子もなく頷くと、私たちの返答も待たずに背を向けて教室から出ていった。
「なんなの? ついて来いってことかしら」
「だろうね」
ミーグスは小さく息を吐いてから立ち上がると、私を促してくる。
「君も呼ばれてたろ? 行くよ」
「行きたくないんだけど、絶対に行かないと駄目かしら」
「駄目だろ。職務放棄しないでくれよ」
「うっ。そうよね。一番にミーグスから引き離さないといけない女性って彼女だものね。あと、その前に」
立ち上がってから、深々と頭を下げる。
「改めてお礼を言うわ。立て替えてくれてありがとう。ミーグス公爵閣下にもお礼を伝えてもらえる? あ、それとも手紙を送ったほうがいいかしら」
「……立て替えたわけじゃない」
「え?」
「ほら、そんなことはいいから行くよ」
ぽんぽんと頭をなでられたので調子が狂う。
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