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4 公爵令息との契約
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「どうするつもりなの?」
待ってくれていたらしいミーグスと合流すると、開口一番にそう聞かれた。
「どうするというのは?」
「学費や寮の費用だよ。払えるの?」
「アルバイトで貯めたお金を崩すしかないと思ってるわ。それでも卒業まで足りるわけがないから、最悪の場合は学園を辞めないといけなくなるかもしれない」
「……君はそれでいいの?」
「良くなんかないわ。今まで頑張ってきた意味がなくなるんだもの。でも、どうしようもないじゃない。誰かにお金を借りてまで卒業なんてしたくないのよ。それに、ホーリルやフェルナンディ子爵に頭を下げるなんて絶対に嫌!」
ホーリルとフレシア様に慰謝料をもらえるように手続きをしたいけど、弁護士を雇うにもお金がいる。
素直に払ってくれる相手じゃなさそうだし、請求しても、どうせなんだかんだ言ってもらえないでしょう。
私のお金だから返してくれといっても返してくれない。
もしくは、すでに使い切っている可能性もある。
そういえば、後見人がいなくなったらどうなるのかしら。
学園の事務局に相談してみないと駄目だわ。
婚約破棄を承諾したのはいいものの、色々と問題が山積みだということに気がついて、大きく息を吐いた。
すると、ミーグスが尋ねてくる。
「……借金じゃなければいいんだよね」
「どういうこと?」
「借りるんじゃなくて、もらうのはいいのかって聞いてるんだ」
「お金をくれる人なんていないでしょうし、もらっても気が引けるわよ」
「僕が相手でも?」
「ミーグスが相手だったら、そりゃあ、あなたの家はお金持ちだろうから、それくらいの金額を払っても痛くも痒くもないだろうけど、別にあなたと私はクラスメイト以外の何ものでもないし、誰であろうとお金の貸し借りは良くないと思うのよ」
お金がからむことによって、ミーグスに気を遣わないといけなくなるのも嫌だ。
拳を作って言う私をミーグスは呆れた顔で見つめてくる。
「君はそれで良いのかもしれないんだろうけれど、それはそれで僕が面白くない」
「面白くないってどういうことよ。遊びじゃないんだけど!」
「そんなことわかってるよ。疲れたから僕はもう帰る」
「何なのよ、一体。でもまあ、気を付けて帰りなさいよ」
トマコマ学園はカイジス公爵領というミーグスの実家があるミーグス公爵領とは別の領地の中にある。
だから彼は、一軒家を学園の近くに借りて、使用人や執事たちと一緒に暮らしているらしい。
元々はカイジス家がミーグス家の領地の学園に進学したことから、ミーグスも父からカイジス領の学園に行くように言われ、この学園に来ているとミーグスのファンだという女子から聞いてもないのに教えられた。
公爵家同士の交流というところなのかもしれない。
歩き出したミーグスは動きを止めたかと思うと、こちらを振り返った。
「君は」
何か言いかけたけれど、途中で言葉を止める。
「何よ。話したいことがあるなら言いなさいよ。……もしかして、やっぱりさっきの婚約破棄が、今頃になって辛くなってきたとか?」
ライバルながらも心配になって、背の高いミーグスの顔を覗き込む。
「距離が近い」
「それは申し訳ございませんでした」
「相手が女性ならまだしも男性にはやめたほうがいい」
「申し訳ございませんでした。気をつけます」
後退りするミーグスに、彼が間違ったことは言っていないと理解したので謝った。
すると、ミーグスは先程の問いかけの答えを返してくれる。
「婚約破棄されたことについては別に辛くはないよ。フレシアの頭がこんなに悪かったのかと呆れただけかな」
「普通は親に確認してから婚約破棄を告げるものだと思うんだけれど、そんなことも知らないのかと思うと呆れてしまうわね」
「君はどうなんだよ」
「学費などの心配をしなければ、私のほうは婚約破棄については嬉しいの。ホーリルと結婚なんて絶対に嫌だもの。お金の件や後見人がいなくなることについては、学園の事務局に明日にでも相談しに行くわ」
私の答えを聞いてミーグスは無言で頷くと、乗降場に停まっていた自分の家の馬車の前で立ち止まった。
「送ってくれてありがとう」
「送ったわけじゃないわよ」
「ここまで付いてきたじゃないか」
「会話してたのに離れていくわけにはいかないでしょ!」
いつもふてぶてしい顔をしているミーグスの顔が沈んでいるように見えたから、優しさを見せたつもりだったけれど、全然意味がなかった。
「婚約者がいたから、あなたに声をかけなかった人間も多そうだし、婚約者がいなくなったなんて知れたら、ここぞとばかりにアピールしてきそうだし大変そうね」
「楽しそうに言わないでくれ。女性に好かれるのは有り難いと思うけど、僕の身体は一つしかないんだ」
「その優しさを私にも少しはまわしてくれないかしら」
「君にも優しくしてるじゃないか」
そう言われた私は、昼にミーグスからサンドイッチをもらったことを思い出し、素直に礼を言う。
「昼は美味しかったです。ありがとうございました」
「どういたしまして」
ミーグスは私を見て微笑んだ。
そういえば、どうしてミーグスは私にサンドイッチをくれたのかしら。
とにかく、サンドイッチ分は慰めよう。
「ミーグス」
「なに?」
「きっと良いことがあるわよ」
「……どうして、そう思うの?」
「だって、私もあなたも、あの馬鹿共の被害者なんだから良いことがないとやっていられないでしょう」
「……なら」
小さく呟いて、なぜか苦しそうな顔をしたミーグスに尋ねる。
「どうしたの? あなた、今日は本当におかしいわよ。大丈夫なの? って、まあ、あんなことがあったから、そうなるのもしょうがないのかもしれないけど」
「なんでもない。父上になんて報告したらいいか考えてただけだ」
こめかみを押さえ、目を閉じて言うミーグスを見て、どうでも良いことを思う。
ずっと思ってはいたけれど、やっぱりまつ毛長いのよね。
羨ましい。
「……何だよ」
「あ、ごめん。まつ毛が長く羨ましいなて思っていただけ」
「君は本当にノーダメージだなんだな。楽天的で羨ましい」
「あんな奴にダメージ食らうなんてプライドが許さないのよ。ダメージを受けるよりも、あいつをぎゃふんと言わせる方法を考えることと、どうやって学園生活を続けるかが大事でしょう!?」
「ぎゃふん、って。令嬢が使う言葉じゃないだろ」
「今は令嬢じゃないのよ。平民よ。だけど、卒業試験で1位を取って爵位をもらうんだから!」
拳を握りしめて私は言ったあと肩を落とす。
「……このままだと、辞めなくちゃいけなくなるかもしれないけど」
「まだわからないだろ」
「あなたみたいに公爵令息という権力があれば、あいつを簡単にぎゃふんと言わせられるんでしょうね」
「まぁね。僕のほうからもフェルナンディの家には抗議の連絡はするよ。言い分が自分勝手過ぎるからね」
「ありがとう」
今日のミーグスが優しすぎてなんだか困る。
調子が狂うので、この場から離れようとすると、ミーグスが話しかけてきた。
「僕に協力してくれない?」
「……どういうこと?」
「君に僕の権力を貸してあげるよ。だから、協力してくれないか」
「権力を貸すだなんて何を言ってるのよ? そんなことできるわけないでしょう」
「方法があるにはあるよ」
ミーグスがなぜか笑みを浮かべて言った。
彼が何を考えてるのかさっぱりわからない。
「どんな方法なの?」
「僕に新しい婚約者が出来るまで、学園内で君が僕の盾になってくれないか」
「盾?」
「ああ。女性を僕に必要以上に近付けないようにしてくれるだけでいい。そうすれば、君の後見人の心配はなくなるだろう」
ミーグスの家には使用人がいるだろうから、その人に頼んでくれるのかもしれない。
デメリットはメリットに比べて少ないので、ミーグスの提案を承諾することに決めた。
「いいわ。私があなたを守ってあげようじゃない」
大きく頷いてみせると、ミーグスはなぜか満足そうな笑みを浮かべた。
待ってくれていたらしいミーグスと合流すると、開口一番にそう聞かれた。
「どうするというのは?」
「学費や寮の費用だよ。払えるの?」
「アルバイトで貯めたお金を崩すしかないと思ってるわ。それでも卒業まで足りるわけがないから、最悪の場合は学園を辞めないといけなくなるかもしれない」
「……君はそれでいいの?」
「良くなんかないわ。今まで頑張ってきた意味がなくなるんだもの。でも、どうしようもないじゃない。誰かにお金を借りてまで卒業なんてしたくないのよ。それに、ホーリルやフェルナンディ子爵に頭を下げるなんて絶対に嫌!」
ホーリルとフレシア様に慰謝料をもらえるように手続きをしたいけど、弁護士を雇うにもお金がいる。
素直に払ってくれる相手じゃなさそうだし、請求しても、どうせなんだかんだ言ってもらえないでしょう。
私のお金だから返してくれといっても返してくれない。
もしくは、すでに使い切っている可能性もある。
そういえば、後見人がいなくなったらどうなるのかしら。
学園の事務局に相談してみないと駄目だわ。
婚約破棄を承諾したのはいいものの、色々と問題が山積みだということに気がついて、大きく息を吐いた。
すると、ミーグスが尋ねてくる。
「……借金じゃなければいいんだよね」
「どういうこと?」
「借りるんじゃなくて、もらうのはいいのかって聞いてるんだ」
「お金をくれる人なんていないでしょうし、もらっても気が引けるわよ」
「僕が相手でも?」
「ミーグスが相手だったら、そりゃあ、あなたの家はお金持ちだろうから、それくらいの金額を払っても痛くも痒くもないだろうけど、別にあなたと私はクラスメイト以外の何ものでもないし、誰であろうとお金の貸し借りは良くないと思うのよ」
お金がからむことによって、ミーグスに気を遣わないといけなくなるのも嫌だ。
拳を作って言う私をミーグスは呆れた顔で見つめてくる。
「君はそれで良いのかもしれないんだろうけれど、それはそれで僕が面白くない」
「面白くないってどういうことよ。遊びじゃないんだけど!」
「そんなことわかってるよ。疲れたから僕はもう帰る」
「何なのよ、一体。でもまあ、気を付けて帰りなさいよ」
トマコマ学園はカイジス公爵領というミーグスの実家があるミーグス公爵領とは別の領地の中にある。
だから彼は、一軒家を学園の近くに借りて、使用人や執事たちと一緒に暮らしているらしい。
元々はカイジス家がミーグス家の領地の学園に進学したことから、ミーグスも父からカイジス領の学園に行くように言われ、この学園に来ているとミーグスのファンだという女子から聞いてもないのに教えられた。
公爵家同士の交流というところなのかもしれない。
歩き出したミーグスは動きを止めたかと思うと、こちらを振り返った。
「君は」
何か言いかけたけれど、途中で言葉を止める。
「何よ。話したいことがあるなら言いなさいよ。……もしかして、やっぱりさっきの婚約破棄が、今頃になって辛くなってきたとか?」
ライバルながらも心配になって、背の高いミーグスの顔を覗き込む。
「距離が近い」
「それは申し訳ございませんでした」
「相手が女性ならまだしも男性にはやめたほうがいい」
「申し訳ございませんでした。気をつけます」
後退りするミーグスに、彼が間違ったことは言っていないと理解したので謝った。
すると、ミーグスは先程の問いかけの答えを返してくれる。
「婚約破棄されたことについては別に辛くはないよ。フレシアの頭がこんなに悪かったのかと呆れただけかな」
「普通は親に確認してから婚約破棄を告げるものだと思うんだけれど、そんなことも知らないのかと思うと呆れてしまうわね」
「君はどうなんだよ」
「学費などの心配をしなければ、私のほうは婚約破棄については嬉しいの。ホーリルと結婚なんて絶対に嫌だもの。お金の件や後見人がいなくなることについては、学園の事務局に明日にでも相談しに行くわ」
私の答えを聞いてミーグスは無言で頷くと、乗降場に停まっていた自分の家の馬車の前で立ち止まった。
「送ってくれてありがとう」
「送ったわけじゃないわよ」
「ここまで付いてきたじゃないか」
「会話してたのに離れていくわけにはいかないでしょ!」
いつもふてぶてしい顔をしているミーグスの顔が沈んでいるように見えたから、優しさを見せたつもりだったけれど、全然意味がなかった。
「婚約者がいたから、あなたに声をかけなかった人間も多そうだし、婚約者がいなくなったなんて知れたら、ここぞとばかりにアピールしてきそうだし大変そうね」
「楽しそうに言わないでくれ。女性に好かれるのは有り難いと思うけど、僕の身体は一つしかないんだ」
「その優しさを私にも少しはまわしてくれないかしら」
「君にも優しくしてるじゃないか」
そう言われた私は、昼にミーグスからサンドイッチをもらったことを思い出し、素直に礼を言う。
「昼は美味しかったです。ありがとうございました」
「どういたしまして」
ミーグスは私を見て微笑んだ。
そういえば、どうしてミーグスは私にサンドイッチをくれたのかしら。
とにかく、サンドイッチ分は慰めよう。
「ミーグス」
「なに?」
「きっと良いことがあるわよ」
「……どうして、そう思うの?」
「だって、私もあなたも、あの馬鹿共の被害者なんだから良いことがないとやっていられないでしょう」
「……なら」
小さく呟いて、なぜか苦しそうな顔をしたミーグスに尋ねる。
「どうしたの? あなた、今日は本当におかしいわよ。大丈夫なの? って、まあ、あんなことがあったから、そうなるのもしょうがないのかもしれないけど」
「なんでもない。父上になんて報告したらいいか考えてただけだ」
こめかみを押さえ、目を閉じて言うミーグスを見て、どうでも良いことを思う。
ずっと思ってはいたけれど、やっぱりまつ毛長いのよね。
羨ましい。
「……何だよ」
「あ、ごめん。まつ毛が長く羨ましいなて思っていただけ」
「君は本当にノーダメージだなんだな。楽天的で羨ましい」
「あんな奴にダメージ食らうなんてプライドが許さないのよ。ダメージを受けるよりも、あいつをぎゃふんと言わせる方法を考えることと、どうやって学園生活を続けるかが大事でしょう!?」
「ぎゃふん、って。令嬢が使う言葉じゃないだろ」
「今は令嬢じゃないのよ。平民よ。だけど、卒業試験で1位を取って爵位をもらうんだから!」
拳を握りしめて私は言ったあと肩を落とす。
「……このままだと、辞めなくちゃいけなくなるかもしれないけど」
「まだわからないだろ」
「あなたみたいに公爵令息という権力があれば、あいつを簡単にぎゃふんと言わせられるんでしょうね」
「まぁね。僕のほうからもフェルナンディの家には抗議の連絡はするよ。言い分が自分勝手過ぎるからね」
「ありがとう」
今日のミーグスが優しすぎてなんだか困る。
調子が狂うので、この場から離れようとすると、ミーグスが話しかけてきた。
「僕に協力してくれない?」
「……どういうこと?」
「君に僕の権力を貸してあげるよ。だから、協力してくれないか」
「権力を貸すだなんて何を言ってるのよ? そんなことできるわけないでしょう」
「方法があるにはあるよ」
ミーグスがなぜか笑みを浮かべて言った。
彼が何を考えてるのかさっぱりわからない。
「どんな方法なの?」
「僕に新しい婚約者が出来るまで、学園内で君が僕の盾になってくれないか」
「盾?」
「ああ。女性を僕に必要以上に近付けないようにしてくれるだけでいい。そうすれば、君の後見人の心配はなくなるだろう」
ミーグスの家には使用人がいるだろうから、その人に頼んでくれるのかもしれない。
デメリットはメリットに比べて少ないので、ミーグスの提案を承諾することに決めた。
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