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1 犬猿の仲?
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「ミーグス! あなた、私に何か恨みでもあるの!?」
「たまたまだよ」
「そのたまたまが重なりすぎてるから文句を言っているのよ! 平民向けの定食を公爵令息が食べなくてもいいんじゃない?」
学園内にある大食堂で、毎日とまではいかないけれど頻繁に繰り広げられているのは、元伯爵令嬢であり、現在はただの平民である、私、ビアラ・ミゼライトと公爵令息であるディラン・ミーグスの喧嘩だ。
喧嘩といっても殴り合うわけではなく、ミーグスは決して私に手を出したりはしないので、基本は口喧嘩だ。
身分が天と地ほど違う私たちだが、学園内では身分が上である相手が許可をすれば、先輩や後輩は関係なく、対等に話すことができる。
私とミーグスは出席番号の関係で隣の席になってから、なんと9年連続で同じクラスで隣の席だった。
私たちが通うトマコマ学園は6歳から18歳までが通う男女共学校で、8歳のクラスからは成績順でクラスが分けられる。
そのため、優秀な成績をおさめて卒業したい私と、地頭がいいこともあり、余裕で良い成績をおさめているミーグスは必然的に同じクラスになっていた。
しかも、そうメンバーが入れ替わることもないため、毎年、隣の席になっていた。
私は腰まであるダークブラウンの長いくせのある髪をハーフアップにしていて、体型は女子生徒の中では高めで細身のほうだと思う。
小顔で瞳は髪色と同じ焦げ茶で、目は大きいけれど口は小さいと周りからはよく言われる。
ミーグスは漆黒のストレートの短髪で、おろしている前髪と後ろ髪は少しだけ長めで、長身痩躯だ。
瞳は燃えるような赤色で、吊り目気味ではあるけれど整った顔立ちをしており、美少年ということで女子生徒に人気がある。
現在の私は17歳になり、アルバイトをするなどして独り立ちする準備をすすめつつ、フェルナンディ子爵が私の家を売ったお金の残りで、学費と寮費を支払ってもらいながら学園に通っていた。
フェルナンディ邸は学園からそう遠くはないので、寮に入る必要もない。
でも、色々な話を理解出来るようになってからは、フェルナンディ子爵家にいることが嫌になり、無理を言って寮に入れてもらったのだ。
朝と晩は寮で出されている食事があるので良いのだけど、昼ご飯は自分で用意しなければならない。
寮にはキッチンがない。
正確にいうと、あるにはあるのだけれど、料理人用のキッチンしかない。
昼食代もお金を出せば作ってくれるのだけれど、ものすごく高いから、私には到底無理だった。
そのため、昼食は学食で食べているけれど、学生用のものなのに値段が高く、アルバイトをしているとはいえ、私にとってはかなりの痛手だった。
でも、平民も生徒数全体の1割にも満たないけれど通っているため、1日5食先着のお得なランチが用意されていた。
激安というだけに油がギトギトだったり、健康に悪そうなおかずしかない上に、何かの失敗作なのか味も美味しくないため人気はない。
けれど、お金がない私はそんなことで文句を言っていられなかった。
そんなランチなら、そんなに買う人はいないのでは?
と思われるかもしれないけれど、平民は5人以上は確実に校内にいる。
だから、先着となると、いつも男子生徒に負けてしまうのだ。
「そうカッカするなよ、ミゼライト。怒ると余計にお腹が減ると思うよ」
「それはそうかもしれないけれど、怒らせてるのはあなたでしょう!」
激安ランチの引換券を持っているミーグスを睨み付けた。
正直に言えば、ここに来るのが遅くなったから、ミーグスがいなくても他の人のものになっていた可能性が高い。
だから、負けは負けだ。
潔く負けを認めて、紺色のプリーツスカートを翻して、お高いランチを買いに向かうことにする。
パンも売ってるけど高いのよね。
一つだけ買って、なんとか夕食まで持つかしら。
前回みたいに静かな授業中に私のお腹の音が響き渡すのだけは勘弁してほしいわ。
そんなことを思って歩いていると、ミーグスが追いかけてきた。
「ミゼライト」
「何よ。馬鹿にするつもり?」
「馬鹿になんてしてない。ただ、勿体ないから食べてくれないか」
そう言われて差し出されたのは、大きな黒色のランチボックスだった。
幼い頃から一緒だということもあるのと、ミーグスが私に敬語を使ったりすることを気持ち悪がるから、学園内では敬語は使わないし、外でなら不敬罪と言われかねない素っ気ない態度でも、ここでは許されるので聞いてみる。
「これ、何なの?」
「昼食を持ってきていたのを忘れてたんだ」
「はい? あなたがそんなことを忘れるわけないでしょ」
「いいから。中身はサンドイッチだよ。具材は野菜とかハムとかチーズとか色々入ってると思う。しかも、寮のキッチンでさっき作ってもらったばかりのやつだから安全だよ」
「ハム!」
私にとっては、中々食べられない代物なだけに、声が弾んでしまった。
でも、慌てて私は平静を装う。
「て、敵からの施しは受けないわ」
「君が食べないなら捨てちゃうけどいいの?」
「捨てるの!? 捨てるくらいなら、私がもらおうかなぁ」
「なら食べてくれ」
そう言って、ミーグスはランチボックスを私に押し付けると、彼の友人たちが座っているテーブルに向かって歩いていく。
忘れてたなんて絶対に嘘だわ。
それに、普通に激安ランチの引換券を私にくれればいいだけなのに、どうしてこっちを渡してくるのよ。
そんなことを思ったところで、お礼を伝えていないことに気が付いた。
だから、慌ててミーグスの背中に声をかける。
「ありがとう、ミーグス」
立ち止まって振り返ったミーグスは、私のほうに顔を向け「ちゃんと好き嫌いなく食べなよ」と言うと、前を向いて去っていった。
「たまたまだよ」
「そのたまたまが重なりすぎてるから文句を言っているのよ! 平民向けの定食を公爵令息が食べなくてもいいんじゃない?」
学園内にある大食堂で、毎日とまではいかないけれど頻繁に繰り広げられているのは、元伯爵令嬢であり、現在はただの平民である、私、ビアラ・ミゼライトと公爵令息であるディラン・ミーグスの喧嘩だ。
喧嘩といっても殴り合うわけではなく、ミーグスは決して私に手を出したりはしないので、基本は口喧嘩だ。
身分が天と地ほど違う私たちだが、学園内では身分が上である相手が許可をすれば、先輩や後輩は関係なく、対等に話すことができる。
私とミーグスは出席番号の関係で隣の席になってから、なんと9年連続で同じクラスで隣の席だった。
私たちが通うトマコマ学園は6歳から18歳までが通う男女共学校で、8歳のクラスからは成績順でクラスが分けられる。
そのため、優秀な成績をおさめて卒業したい私と、地頭がいいこともあり、余裕で良い成績をおさめているミーグスは必然的に同じクラスになっていた。
しかも、そうメンバーが入れ替わることもないため、毎年、隣の席になっていた。
私は腰まであるダークブラウンの長いくせのある髪をハーフアップにしていて、体型は女子生徒の中では高めで細身のほうだと思う。
小顔で瞳は髪色と同じ焦げ茶で、目は大きいけれど口は小さいと周りからはよく言われる。
ミーグスは漆黒のストレートの短髪で、おろしている前髪と後ろ髪は少しだけ長めで、長身痩躯だ。
瞳は燃えるような赤色で、吊り目気味ではあるけれど整った顔立ちをしており、美少年ということで女子生徒に人気がある。
現在の私は17歳になり、アルバイトをするなどして独り立ちする準備をすすめつつ、フェルナンディ子爵が私の家を売ったお金の残りで、学費と寮費を支払ってもらいながら学園に通っていた。
フェルナンディ邸は学園からそう遠くはないので、寮に入る必要もない。
でも、色々な話を理解出来るようになってからは、フェルナンディ子爵家にいることが嫌になり、無理を言って寮に入れてもらったのだ。
朝と晩は寮で出されている食事があるので良いのだけど、昼ご飯は自分で用意しなければならない。
寮にはキッチンがない。
正確にいうと、あるにはあるのだけれど、料理人用のキッチンしかない。
昼食代もお金を出せば作ってくれるのだけれど、ものすごく高いから、私には到底無理だった。
そのため、昼食は学食で食べているけれど、学生用のものなのに値段が高く、アルバイトをしているとはいえ、私にとってはかなりの痛手だった。
でも、平民も生徒数全体の1割にも満たないけれど通っているため、1日5食先着のお得なランチが用意されていた。
激安というだけに油がギトギトだったり、健康に悪そうなおかずしかない上に、何かの失敗作なのか味も美味しくないため人気はない。
けれど、お金がない私はそんなことで文句を言っていられなかった。
そんなランチなら、そんなに買う人はいないのでは?
と思われるかもしれないけれど、平民は5人以上は確実に校内にいる。
だから、先着となると、いつも男子生徒に負けてしまうのだ。
「そうカッカするなよ、ミゼライト。怒ると余計にお腹が減ると思うよ」
「それはそうかもしれないけれど、怒らせてるのはあなたでしょう!」
激安ランチの引換券を持っているミーグスを睨み付けた。
正直に言えば、ここに来るのが遅くなったから、ミーグスがいなくても他の人のものになっていた可能性が高い。
だから、負けは負けだ。
潔く負けを認めて、紺色のプリーツスカートを翻して、お高いランチを買いに向かうことにする。
パンも売ってるけど高いのよね。
一つだけ買って、なんとか夕食まで持つかしら。
前回みたいに静かな授業中に私のお腹の音が響き渡すのだけは勘弁してほしいわ。
そんなことを思って歩いていると、ミーグスが追いかけてきた。
「ミゼライト」
「何よ。馬鹿にするつもり?」
「馬鹿になんてしてない。ただ、勿体ないから食べてくれないか」
そう言われて差し出されたのは、大きな黒色のランチボックスだった。
幼い頃から一緒だということもあるのと、ミーグスが私に敬語を使ったりすることを気持ち悪がるから、学園内では敬語は使わないし、外でなら不敬罪と言われかねない素っ気ない態度でも、ここでは許されるので聞いてみる。
「これ、何なの?」
「昼食を持ってきていたのを忘れてたんだ」
「はい? あなたがそんなことを忘れるわけないでしょ」
「いいから。中身はサンドイッチだよ。具材は野菜とかハムとかチーズとか色々入ってると思う。しかも、寮のキッチンでさっき作ってもらったばかりのやつだから安全だよ」
「ハム!」
私にとっては、中々食べられない代物なだけに、声が弾んでしまった。
でも、慌てて私は平静を装う。
「て、敵からの施しは受けないわ」
「君が食べないなら捨てちゃうけどいいの?」
「捨てるの!? 捨てるくらいなら、私がもらおうかなぁ」
「なら食べてくれ」
そう言って、ミーグスはランチボックスを私に押し付けると、彼の友人たちが座っているテーブルに向かって歩いていく。
忘れてたなんて絶対に嘘だわ。
それに、普通に激安ランチの引換券を私にくれればいいだけなのに、どうしてこっちを渡してくるのよ。
そんなことを思ったところで、お礼を伝えていないことに気が付いた。
だから、慌ててミーグスの背中に声をかける。
「ありがとう、ミーグス」
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