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22 大きな一発

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「オーランド、何をふざけたことを言ってるんだ」

 私が何か答える前にヒース様が怒りをあらわにして言うと、オーランド殿下は悪びれた様子もなく答える。

「正直な気持ちを伝えただけだ。セフィラも言うんだ。呪いが上手くとけなかったのなら、元の鞘に収まったほうが良いんじゃないかって」
「元の鞘に収まるだと? その言葉の意味を知ってるのか」

 ヒース様の声が一段と低くなった。

「知っているよ。本来の姿に戻るという意味だろう?」

 オーランド殿下は悪びれた様子もなく笑顔で答えた。

 ここまで無神経な人だとは思っていなかった。
 セフィラと一緒になるために私を殺そうとしただけでも人として最悪なのに、これ以上、印象を悪くしてくるだなんて逆にすごいわ。

 というか、もしかして、呪いのせいで正常な判断ができなくなってしまっているのかしら?
 もしくは、目を開けたまま眠ってる?

 正気かどうかを確かめるために、オーランド殿下に言う。

「オーランド殿下、寝言は寝てから言っていただけませんか」
「何を言ってるんだよ、ミーア! 僕の目は開いてだろう? 起きてる! 寝言なんかじゃない!」
「目を開けたまま眠れる動物もいますから。それに起きているのに、そんなことを馬鹿げたことを言うだなんて信じられないのですが?」
「だってミーア、君は僕のことを好きだったよね? 君の僕への思いはそんな簡単に忘れられるようなものだったのかい?」

 昔は大好きだった優しい笑みを浮かべて聞かれても、今の私にはまったく効果がない。

「もちろん、昔は簡単に忘れられるような思いではありませんでした。ですが、私はあなたたちに殺されそうになったんです。だから嫌いになりました。殺されそうになったことが、あなたへの恋心を消滅させたのですから、簡単な理由にはなりませんよね?」

 普通なら相手への愛情は冷めるはずだわ。
 少なくとも私はそうだった。

 すると、オーランド殿下は不思議そうな顔をする。

「殺されそうになったとしても、君はまだ僕のことを愛してくれていると思っていた。もしかして、そうじゃなくなったのは、ヒースのせいなのか?」
「……どうしてそんなことを思えるのですか?」
「だって、それが普通だろう?」

 殺されそうになっても好きだった人を好きでいるのが当たり前のことなの?
 どれだけ皆、優しい人たちばかりなのよ!?

「普通じゃない。ミーア、オーランドの考えを当たり前だと思うな」
「……ありがとうございます」

 ヒース殿下に言われ、私は冷静になることが出来た。

「ミーア、お願いよ! このままじゃ私まで精神的に疲れてしまうわ。二時間おきに浄化魔法だなんてやってられない! しかも体力を使うのよ!」
「いい加減にして! 私を殺そうとした人間に私が優しくしてあげる必要はあるの!?」

 セフィラの言葉に声を荒らげると、セフィラは眉根を寄せて言う。

「ミーアは性格が良いんでしょう? なら、助けてくれるのが普通じゃない? それに今はあなたのことを殺そうだなんて思ってないから過去のことは水に流してよ」
「あなたのことを川か何かに流したいわ」

 あまりにも腹が立って暴言を吐いてしまった。

「とにかく用件は聞いた。こちら側から出来ることは何もないのでお引き取り願おうか」

 ヒース様は大きく息を吐くと立ち上がる。
 そして、オーランド殿下たちに向かって扉のほうを手で示して言った。

「まだ話は終わっていないよ! ミーア、一緒に帰ろう」

 オーランド殿下が立ち上がり、ローテーブルを回り込んで私のところへ来ようとする。

「こいつ、何を考えておるのじゃ?」

 大人しくしていたチワー様が太ももの上で立ち上がり、ヒース様もオーランド殿下との間に入ってくれた。

「いい加減にしろ、オーランド。ミーアを追放したのはお前の父だろう!」
「父上は寝たきりで動ける状態じゃない。近い内に僕が後を継ぐことになっている」
「まだ公になっていないのに、そんなことを俺に聞かせて良いのか」

 ヒース様が呆れた顔をして言うと、オーランド殿下は焦る。

「君が言いふらさなければ良いだけの話だよ! ミーア、だから帰ろう! 昔みたいに僕を助けて欲しい」
「嫌です!」
「ミーア、わがままを言わないでくれ! 素直にならないと後悔するよ!?」

 オーランド殿下が訳のわからないことを叫んだ時だった。

 見守ってくれていたシロクマオさんがオーランド殿下の背後から、ゆっくりと近付いていく。
 そして、後ろ足だけで立ち上がったシロクマオさんはオーランド殿下の頭を片方の前足で殴った。

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