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19 チワーの提案
しおりを挟む その後、ドードー様は意識が戻らないまま、王城の救護室に運ばれていった。
本人が目を覚ましてから改めて取り調べをすることにはなったけれど、話せる動物が先に話をすることになった。
今回の件はヨウムのシオヨウさんもドードー様たちの会話を聞いていたらしい。
だから、ドードー様の声色まで真似て、ヒース様たちの前で再現話をしてくれたんだそう。
取り調べについての話をしてもらったのは、その日の夜のことだった。
ヒース様から食事に誘われたので、王城内にあるダイニングルームで一緒に食事をしながら話をしていた。
「今まで、こんなに上手くいくことはなかったんだ。チワー様がいらっしゃったから、神様が手助けしてくれたのかもしれないな」
「そうですよね。こんなに簡単に尻尾を掴めているのなら、ヒース様たちだって苦労されていませんものね」
チワー様が来てくれたおかげで神の加護のようなものが、今まで以上に多くいただけているのかもしれない。
この調子で問題の令嬢を片付けてしまいたいものだわ。
「ところでドードー様のことはどうされるおつもりなんですか?」
「取り調べが終わってから、はっきりと決めることにはなるが、懲戒解雇になることは確かだ。社交界でと行き場を失うだろうし、次の職場は見つけられないだろう」
「それはそうですわよね。あんな人と一緒に仕事なんてできませんし、したくもありません。動物たちにとっても良くありませんから解雇は当然です」
「彼の件が解決したから、君は明日から違うチームに入ってもらえないか? ベテラン職員と入れ替わりということになるが……」
「ただでさえ新入り2人のところにベテラン職員まで抜けたというのであれば困りますものね。チーム替えも不自然ではないかと思います」
頷くと、ヒース様は柔らかな笑みを浮かべる。
「ありがとう。君には迷惑をかけてばかりで悪いな」
「いえ。私は衣食住の面倒を見てもらっていますので、それくらいはさせていただかないと!」
「でも、君は公爵令嬢だぞ?」
ヒース様は申し訳無さそうに眉尻を下げる。
「もう過去の話ですから」
そう答えたところで、ヒース様との婚約の話を思い出した。
ヒース様はどう思われているのかしら。
もしかしたら、好きな人が他にいらっしゃるかもしれない。
その場合は、婚約の話は無しになるわよね。
「……どうかしたのか?」
食事をする手が止まっていたこともあり、向かいに座っているヒース様が心配そうに尋ねてきた。
「いえ、何でもありません」
「……もしかして、俺との婚約の話か?」
「その……、ヒース様はどうお考えでいらっしゃるのでしょうか」
「俺としては君のような人が婚約者になってくれたら嬉しいが、でも、君には迷惑だろうな」
「迷惑だなんてそんな……!」
何度も首を横に振って否定の意を示したけれど、ヒース様は信じてくれない。
「君はそう言うしかないよな。気にしなくていい。父上にはちゃんと伝えておくから」
「本当に違うんです! 私はヒース様が良いのであれば」
「俺の妻になるということは、貴族からは嫌な話しかされないぞ」
「……どういう意味ですか?」
尋ねると、ヒース様は視線を落として答える。
「母上が事故に遭ったのは、父上を悪く言う貴族の家のお茶会に出たからだった」
「……お茶会で何かあったのですか?」
「いや。母上はお茶会に出席するような人ではなかったらしい。でも、出席したい理由ができたんだ」
「……」
これ以上聞いてもよいのかわからなくて黙っていると、ヒース様は話を続ける。
「その貴族は父上のことを頭のおかしい人間だと陰で言いふらしていた」
「そんな……! どうしてですか?」
「動物と意思疎通できるなんておかしいという理由だった」
「ですが、それはロディ様の代から始まったわけではないじゃないですか! それにそんな発言は明らかに不敬です!」
「そうだが、その時はその貴族が噂を流したという証拠がなかった。だから、母上はお茶会に出席して、その話をさせるつもりだった。でも、その行き道で事故に遭ったんだ」
ヒース様は私のほうを見ようともしない。
もしかしたら、結婚したら、私も同じような目に遭うかもしれないと思っているということ?
「ヒース様!」
立ち上がって名を呼ぶと、ヒース様が顔を上げた。
「王妃陛下が事故に遭ったのはロディ様のせいではありません! ですから、私の身に何か遭ってもヒース様のせいではありません!」
「だけど、頭がおかしい人間の妻だと言われるんだぞ?」
「頭がおかしいだなんて言わせたい人に言わせておけば良いんです! 私はヒース様のように動物と意思疎通できるようになりたいですから、そんなことは気にしません! そんなことを言う人がいたら、動物たちと一緒にヒース様の名誉を守るために戦います!」
声を荒らげたからか、ヒース様は驚いた顔をして私を見ている。
言い過ぎてしまったかしら?
焦っていると、私の隣の椅子で食事をしていたチワー様が話しかけてくる。
「頭がおかしい人間だと言うほうが悪いが、そんなに気になるようなら、ミーアにもその力を授けてやっても良いぞ」
「……はい?」
驚いて聞き返すと、チワー様は、私の膝の上にのり前足をテーブルにかけてヒース様の顔を見て言う。
「ミーアにも動物の言葉がわかるようになれば、夫妻で頭がおかしいだから良いじゃろ?」
「いえ、良くはありません」
チワー様の提案をヒース様は容赦なく切り捨てた。
本人が目を覚ましてから改めて取り調べをすることにはなったけれど、話せる動物が先に話をすることになった。
今回の件はヨウムのシオヨウさんもドードー様たちの会話を聞いていたらしい。
だから、ドードー様の声色まで真似て、ヒース様たちの前で再現話をしてくれたんだそう。
取り調べについての話をしてもらったのは、その日の夜のことだった。
ヒース様から食事に誘われたので、王城内にあるダイニングルームで一緒に食事をしながら話をしていた。
「今まで、こんなに上手くいくことはなかったんだ。チワー様がいらっしゃったから、神様が手助けしてくれたのかもしれないな」
「そうですよね。こんなに簡単に尻尾を掴めているのなら、ヒース様たちだって苦労されていませんものね」
チワー様が来てくれたおかげで神の加護のようなものが、今まで以上に多くいただけているのかもしれない。
この調子で問題の令嬢を片付けてしまいたいものだわ。
「ところでドードー様のことはどうされるおつもりなんですか?」
「取り調べが終わってから、はっきりと決めることにはなるが、懲戒解雇になることは確かだ。社交界でと行き場を失うだろうし、次の職場は見つけられないだろう」
「それはそうですわよね。あんな人と一緒に仕事なんてできませんし、したくもありません。動物たちにとっても良くありませんから解雇は当然です」
「彼の件が解決したから、君は明日から違うチームに入ってもらえないか? ベテラン職員と入れ替わりということになるが……」
「ただでさえ新入り2人のところにベテラン職員まで抜けたというのであれば困りますものね。チーム替えも不自然ではないかと思います」
頷くと、ヒース様は柔らかな笑みを浮かべる。
「ありがとう。君には迷惑をかけてばかりで悪いな」
「いえ。私は衣食住の面倒を見てもらっていますので、それくらいはさせていただかないと!」
「でも、君は公爵令嬢だぞ?」
ヒース様は申し訳無さそうに眉尻を下げる。
「もう過去の話ですから」
そう答えたところで、ヒース様との婚約の話を思い出した。
ヒース様はどう思われているのかしら。
もしかしたら、好きな人が他にいらっしゃるかもしれない。
その場合は、婚約の話は無しになるわよね。
「……どうかしたのか?」
食事をする手が止まっていたこともあり、向かいに座っているヒース様が心配そうに尋ねてきた。
「いえ、何でもありません」
「……もしかして、俺との婚約の話か?」
「その……、ヒース様はどうお考えでいらっしゃるのでしょうか」
「俺としては君のような人が婚約者になってくれたら嬉しいが、でも、君には迷惑だろうな」
「迷惑だなんてそんな……!」
何度も首を横に振って否定の意を示したけれど、ヒース様は信じてくれない。
「君はそう言うしかないよな。気にしなくていい。父上にはちゃんと伝えておくから」
「本当に違うんです! 私はヒース様が良いのであれば」
「俺の妻になるということは、貴族からは嫌な話しかされないぞ」
「……どういう意味ですか?」
尋ねると、ヒース様は視線を落として答える。
「母上が事故に遭ったのは、父上を悪く言う貴族の家のお茶会に出たからだった」
「……お茶会で何かあったのですか?」
「いや。母上はお茶会に出席するような人ではなかったらしい。でも、出席したい理由ができたんだ」
「……」
これ以上聞いてもよいのかわからなくて黙っていると、ヒース様は話を続ける。
「その貴族は父上のことを頭のおかしい人間だと陰で言いふらしていた」
「そんな……! どうしてですか?」
「動物と意思疎通できるなんておかしいという理由だった」
「ですが、それはロディ様の代から始まったわけではないじゃないですか! それにそんな発言は明らかに不敬です!」
「そうだが、その時はその貴族が噂を流したという証拠がなかった。だから、母上はお茶会に出席して、その話をさせるつもりだった。でも、その行き道で事故に遭ったんだ」
ヒース様は私のほうを見ようともしない。
もしかしたら、結婚したら、私も同じような目に遭うかもしれないと思っているということ?
「ヒース様!」
立ち上がって名を呼ぶと、ヒース様が顔を上げた。
「王妃陛下が事故に遭ったのはロディ様のせいではありません! ですから、私の身に何か遭ってもヒース様のせいではありません!」
「だけど、頭がおかしい人間の妻だと言われるんだぞ?」
「頭がおかしいだなんて言わせたい人に言わせておけば良いんです! 私はヒース様のように動物と意思疎通できるようになりたいですから、そんなことは気にしません! そんなことを言う人がいたら、動物たちと一緒にヒース様の名誉を守るために戦います!」
声を荒らげたからか、ヒース様は驚いた顔をして私を見ている。
言い過ぎてしまったかしら?
焦っていると、私の隣の椅子で食事をしていたチワー様が話しかけてくる。
「頭がおかしい人間だと言うほうが悪いが、そんなに気になるようなら、ミーアにもその力を授けてやっても良いぞ」
「……はい?」
驚いて聞き返すと、チワー様は、私の膝の上にのり前足をテーブルにかけてヒース様の顔を見て言う。
「ミーアにも動物の言葉がわかるようになれば、夫妻で頭がおかしいだから良いじゃろ?」
「いえ、良くはありません」
チワー様の提案をヒース様は容赦なく切り捨てた。
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