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13 浮気ではないらしい
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「な、何をしたか……ですか。は、は、母上のおっしゃっていることがわからないんですが……」
「しらばっくれるのはやめなさい! あなた、浮気をしているんでしょう?」
「えっ……!? いや、そんな、僕は浮気なんて……」
ターチ様は声をうわずらせながら目を泳がせる。わたしに答えた時のようにしていないと言えないのは、スカベラ様に嘘をつきたくないからかしら。それなら、全て吐いてしまえば良いのに。
「浮気なんて何なの?」
「外出が多かったことは認めます! 僕はただ、領民に寄り添っていたかったんです!」
「あなたが寄り添いたい領民はローズ侯爵領の領民のことですか?」
スカベラ様の代わりに笑顔で尋ねると、ターチ様は首を横に振る。
「そんなわけないだろう! 自分の領民以外のところに、毎晩、通ったりしないよ!」
「ターチ様、確認を入れましたが、あなたが収穫祭の前に視察に来たことなんて、数えるほどしかないと領民は言っていましたよ。しかも、夜にあなたの姿を見たことがないとも言っていました」
「い、いつ、そんな話を聞いたんだよ!?」
「少し前です。ローズ侯爵家から、ここに帰るまでに領民の様子を見に行ったんです」
「……そ、そんな、勝手なことをしていたのか」
ターチ様はわたしを睨みつけて続ける。
「ということは、全部知っていて、知らないフリをしていたのか!?」
「聞かれなかったから言わなかっただけです。ところでターチ様、チータ様という人をご存知ですか?」
「……知らない」
「そうですか。ターチ様とそっくりなお顔をされていましたが、やはり他人の空似なんでしょうか」
「そ、そうだよ! 僕じゃない!」
「では、行きましょうか」
ターチ様はきょとんとした顔でわたしを見つめる。
「行くってどこにだよ」
「あなたは今日は領民のところに行っていたんですよね? なら、アリバイがあるはずです。確認しに行きましょう」
「こ、こんな時間に行くのは失礼だろう」
「では、皆さんが起きるまで、宿屋で待たせてもらいましょうか」
冷たい眼差しでターチ様を見つめると、彼はスカベラ様に助けを求める。その時に初めて、スカベラ様の手にシルバートレイが握られていることに気がついた。
「母上! リリノアは酷いんです! 僕は領民のために頑張っているのに、リリノアはそれを嘘だと言うんですよ!」
「嘘だとは言っていません。信じられないので確かめたいだけです」
「同じことだろう!」
ターチ様はしつこく、スカベラ様に話しかける。
「母上、信じてください! ああ、それよりも、帰ってきてくれて嬉しいです! 母上、こんな酷いことを言うリリノアとは離婚しますから、僕と一緒に暮らしましょう!」
「いいかげんにしなさい!」
スカベラ様は怒りのせいか、体を震わせて続ける。
「正直に話しなさい! あなた、浮気していたんでしょう!?」
「う、浮気ではありません!」
ターチ様は目を潤ませて訴える。
「義兄と賭けをしていただけなんです! 僕が……、僕が、本当に愛しているのは、母う」
「うるさい!」
スカベラ様は持っていたシルバートレイでターチ様の頬を殴った。
バインという音と共に、ターチ様は床にひっくり返り、わたしの所に転がってきたが、ぶつかる前にユーリ様が足でターチ様を止めてくれた。
「……悪い」
足蹴にしてしまったと感じたのか、ユーリ様が謝る。でも、ターチ様はそれどころではなかった。
「母上! どうして、リリノアの味方をするんですか!?」
「常識のある人なら、みんな、リリノアさんの味方をするわよ!」
スカベラ様はそう言うと、シルバートレイをわたしに差し出す。
「リリノアさん。暴力は良くないけど、ターチには言葉よりも一発のほうが効くと思うわ。直接、触れたくないでしょうから良かったら使ってちょうだい」
「ありがとうございます」
シルバートレイを受け取り、少しだけ考える。
ターチ様の体のどこも触りたくないのは確かなんだけど、きっと、求められているのはあの場所よね。
仰向け状態になっているターチ様を見下ろして、笑顔で尋ねる。
「ターチ様、正直に答えてください。あなたは複数の女性に自分はチータだと名乗っていましたか?」
「は、はい」
「では、さっき、フララさんの家で会ったのはあなたですね?」
「は……、ははは、はい!」
「あなたは自分は独身だと言っていたらしいですね」
「い……、いいえ!」
ターチ様はぶるぶると何度も首を横に振った。
「おかしいですね。あなたが声をかけた女性はみな、あなたが独身だと言っていましたよ?」
「ううううう! すまなかった!」
ターチ様は情けない声を上げて起き上がると、わたしに向かって頭を下げた。
「しらばっくれるのはやめなさい! あなた、浮気をしているんでしょう?」
「えっ……!? いや、そんな、僕は浮気なんて……」
ターチ様は声をうわずらせながら目を泳がせる。わたしに答えた時のようにしていないと言えないのは、スカベラ様に嘘をつきたくないからかしら。それなら、全て吐いてしまえば良いのに。
「浮気なんて何なの?」
「外出が多かったことは認めます! 僕はただ、領民に寄り添っていたかったんです!」
「あなたが寄り添いたい領民はローズ侯爵領の領民のことですか?」
スカベラ様の代わりに笑顔で尋ねると、ターチ様は首を横に振る。
「そんなわけないだろう! 自分の領民以外のところに、毎晩、通ったりしないよ!」
「ターチ様、確認を入れましたが、あなたが収穫祭の前に視察に来たことなんて、数えるほどしかないと領民は言っていましたよ。しかも、夜にあなたの姿を見たことがないとも言っていました」
「い、いつ、そんな話を聞いたんだよ!?」
「少し前です。ローズ侯爵家から、ここに帰るまでに領民の様子を見に行ったんです」
「……そ、そんな、勝手なことをしていたのか」
ターチ様はわたしを睨みつけて続ける。
「ということは、全部知っていて、知らないフリをしていたのか!?」
「聞かれなかったから言わなかっただけです。ところでターチ様、チータ様という人をご存知ですか?」
「……知らない」
「そうですか。ターチ様とそっくりなお顔をされていましたが、やはり他人の空似なんでしょうか」
「そ、そうだよ! 僕じゃない!」
「では、行きましょうか」
ターチ様はきょとんとした顔でわたしを見つめる。
「行くってどこにだよ」
「あなたは今日は領民のところに行っていたんですよね? なら、アリバイがあるはずです。確認しに行きましょう」
「こ、こんな時間に行くのは失礼だろう」
「では、皆さんが起きるまで、宿屋で待たせてもらいましょうか」
冷たい眼差しでターチ様を見つめると、彼はスカベラ様に助けを求める。その時に初めて、スカベラ様の手にシルバートレイが握られていることに気がついた。
「母上! リリノアは酷いんです! 僕は領民のために頑張っているのに、リリノアはそれを嘘だと言うんですよ!」
「嘘だとは言っていません。信じられないので確かめたいだけです」
「同じことだろう!」
ターチ様はしつこく、スカベラ様に話しかける。
「母上、信じてください! ああ、それよりも、帰ってきてくれて嬉しいです! 母上、こんな酷いことを言うリリノアとは離婚しますから、僕と一緒に暮らしましょう!」
「いいかげんにしなさい!」
スカベラ様は怒りのせいか、体を震わせて続ける。
「正直に話しなさい! あなた、浮気していたんでしょう!?」
「う、浮気ではありません!」
ターチ様は目を潤ませて訴える。
「義兄と賭けをしていただけなんです! 僕が……、僕が、本当に愛しているのは、母う」
「うるさい!」
スカベラ様は持っていたシルバートレイでターチ様の頬を殴った。
バインという音と共に、ターチ様は床にひっくり返り、わたしの所に転がってきたが、ぶつかる前にユーリ様が足でターチ様を止めてくれた。
「……悪い」
足蹴にしてしまったと感じたのか、ユーリ様が謝る。でも、ターチ様はそれどころではなかった。
「母上! どうして、リリノアの味方をするんですか!?」
「常識のある人なら、みんな、リリノアさんの味方をするわよ!」
スカベラ様はそう言うと、シルバートレイをわたしに差し出す。
「リリノアさん。暴力は良くないけど、ターチには言葉よりも一発のほうが効くと思うわ。直接、触れたくないでしょうから良かったら使ってちょうだい」
「ありがとうございます」
シルバートレイを受け取り、少しだけ考える。
ターチ様の体のどこも触りたくないのは確かなんだけど、きっと、求められているのはあの場所よね。
仰向け状態になっているターチ様を見下ろして、笑顔で尋ねる。
「ターチ様、正直に答えてください。あなたは複数の女性に自分はチータだと名乗っていましたか?」
「は、はい」
「では、さっき、フララさんの家で会ったのはあなたですね?」
「は……、ははは、はい!」
「あなたは自分は独身だと言っていたらしいですね」
「い……、いいえ!」
ターチ様はぶるぶると何度も首を横に振った。
「おかしいですね。あなたが声をかけた女性はみな、あなたが独身だと言っていましたよ?」
「ううううう! すまなかった!」
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