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10 義姉に言わせれば浮気される側に原因があるらしい
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ターチ様が屋敷に帰るには一度、酒場に戻らなければならない。酒場には手配した人間がいるから、ターチ様が長時間、酒場にいなかったことは証明してもらえる。だから、わたしはそのまま帰ることができ、ターチ様を屋敷で待つことにした。
「あなた、一体、どこに行っていたのよ!?」
一度、部屋に戻ろうとすると、まだ、朝早い時間だというのに、エントランスホールにクリスティーナ様が寝巻き姿でやって来て叫んだ。
「散歩に行っていました」
「こんな時間に出歩くなんて非常識だわ!」
「クリスティーナ様はどうして、この時間に起きているのですか?」
「そ、それはそれよ」
「では、わたしもそれはそれ、ですわね」
鼻で笑うと、クリスティーナ様は怒りで顔を真っ赤にした。
「クリスティーナ様、わたしはもう、知らないフリをするのはやめたんです。ターチ様は浮気していますよね。しかも、複数の女性に声をかけて、結婚の約束までしています」
「……別に良いでしょう。ターチの場合は結婚願望があるけど、結婚できない女性に夢を与えてあげていたのよ!」
「ターチ様は既婚者で、重婚はこの国では認められていません。わたしと離婚して結婚するならまだしも、誰かは捨てられるんですよ!? あなたは自分が同じ立場になったらどうするんですか!」
「ターチが相手なら許すわ」
そこまで、魅力的な人だとは思えない。恋は盲目的なものかしら。
「では、質問を変えます。ロブ様のことは許さないんですか?」
ロブ様は何度か、クリスティーナ様を迎えに、この屋敷まで来ている。でも、クリスティーナ様が帰ろうとしない。
ターチ様と一緒にいたいだけなんでしょうけれど、素直に言うわけにはいかないわよね。姉の弟に対する愛情としては行き過ぎているもの。
「……許しているわよ。だけど、世間体ってものがあるでしょう」
「もう、十分だと思いますわ。それに、これから大変になりますわよ」
「……大変になるってどういうこと?」
クリスティーナ様はわたしを睨みつけながら聞き返した。
「そのままの意味です。わたしはターチ様との離婚を希望し、慰謝料を請求します」
「ふざけないで! ターチは悪くないわ! 浮気をさせるようなあなたが悪いのよ!」
言い返そうとした時、わたしの背後にある扉が開いた。ターチ様が帰ってきたのかと思ったらそうではなく、黒の外套を着たユーリ様が中に入ってくる。
「非常識な時間に約束もなしに来たけど、お邪魔させてもらっていいかな」
「かまいません。……あの、ユーリ様」
今は朝の4時前。こんな時間に来るのだから、よっぽどの事情があるはずだ。
そう思った瞬間、ユーリ様の後ろに誰かが立っていることに気がついた。
「……ユーリ様」
「大丈夫だ。味方だよ」
体型からして女性だろうか。フードを目深に被っているので顔はわからない。ユーリ様がフードの人と共に屋敷内に入ると、ドアマンが扉を閉めた。
「こんな時間に何だと言うのです!? ロブの浮気のことでしたら、慰謝料で解決したはずです!」
ヒステリックに叫ぶクリスティーナ様を見て、ユーリ様は失笑する。
「今日はその話をしに来たんじゃない。それよりも平民になったあなたが、伯爵夫人に偉そうな物言いをしているんだね」
「そ、それは……、義理の姉だからです」
「浮気させるような人が悪いと言ってたけど、それは僕にもそう言いたいのかな」
「……えっと、あの、そういうわけではありません」
クリスティーナ様は焦った顔になり、モゴモゴと口を動かす。
「あのさ、言っておくけど浮気はするほうが悪いんだよ。普通の人は浮気はやってはいけないことだとわかっている。だから、しない。原因があるって言いたいのかもしれないけど、たとえ、された側に原因があったとしても、するほうが悪い」
「結婚後に、真実の愛に出会うことだってあります!」
「なら、浮気せずに別れれば良いんじゃないかな」
「……っ」
クリスティーナ様が言い返せずに黙った時、ユーリ様の後ろにいた人がフードを後ろにやり、顔を見せた。
「そ……、そんな……、どうして!」
クリスティーナ様はその人の顔を見るなり、驚愕の表情を浮かべて後ずさる。
「久しぶりね、クリスティーナ。納得はできないけれど、あなたの言いたいことはよくわかったわ」
ダークブラウンの髪に赤色の瞳。少し吊り目の目を細め、スカベラ様は続ける。
「あなた、私がどれだけ浮気を嫌っているか、知らないわけがないわよね」
スカベラ様は言い終えると、問答無用でクリスティーナ様の頰を打った。
「あなた、一体、どこに行っていたのよ!?」
一度、部屋に戻ろうとすると、まだ、朝早い時間だというのに、エントランスホールにクリスティーナ様が寝巻き姿でやって来て叫んだ。
「散歩に行っていました」
「こんな時間に出歩くなんて非常識だわ!」
「クリスティーナ様はどうして、この時間に起きているのですか?」
「そ、それはそれよ」
「では、わたしもそれはそれ、ですわね」
鼻で笑うと、クリスティーナ様は怒りで顔を真っ赤にした。
「クリスティーナ様、わたしはもう、知らないフリをするのはやめたんです。ターチ様は浮気していますよね。しかも、複数の女性に声をかけて、結婚の約束までしています」
「……別に良いでしょう。ターチの場合は結婚願望があるけど、結婚できない女性に夢を与えてあげていたのよ!」
「ターチ様は既婚者で、重婚はこの国では認められていません。わたしと離婚して結婚するならまだしも、誰かは捨てられるんですよ!? あなたは自分が同じ立場になったらどうするんですか!」
「ターチが相手なら許すわ」
そこまで、魅力的な人だとは思えない。恋は盲目的なものかしら。
「では、質問を変えます。ロブ様のことは許さないんですか?」
ロブ様は何度か、クリスティーナ様を迎えに、この屋敷まで来ている。でも、クリスティーナ様が帰ろうとしない。
ターチ様と一緒にいたいだけなんでしょうけれど、素直に言うわけにはいかないわよね。姉の弟に対する愛情としては行き過ぎているもの。
「……許しているわよ。だけど、世間体ってものがあるでしょう」
「もう、十分だと思いますわ。それに、これから大変になりますわよ」
「……大変になるってどういうこと?」
クリスティーナ様はわたしを睨みつけながら聞き返した。
「そのままの意味です。わたしはターチ様との離婚を希望し、慰謝料を請求します」
「ふざけないで! ターチは悪くないわ! 浮気をさせるようなあなたが悪いのよ!」
言い返そうとした時、わたしの背後にある扉が開いた。ターチ様が帰ってきたのかと思ったらそうではなく、黒の外套を着たユーリ様が中に入ってくる。
「非常識な時間に約束もなしに来たけど、お邪魔させてもらっていいかな」
「かまいません。……あの、ユーリ様」
今は朝の4時前。こんな時間に来るのだから、よっぽどの事情があるはずだ。
そう思った瞬間、ユーリ様の後ろに誰かが立っていることに気がついた。
「……ユーリ様」
「大丈夫だ。味方だよ」
体型からして女性だろうか。フードを目深に被っているので顔はわからない。ユーリ様がフードの人と共に屋敷内に入ると、ドアマンが扉を閉めた。
「こんな時間に何だと言うのです!? ロブの浮気のことでしたら、慰謝料で解決したはずです!」
ヒステリックに叫ぶクリスティーナ様を見て、ユーリ様は失笑する。
「今日はその話をしに来たんじゃない。それよりも平民になったあなたが、伯爵夫人に偉そうな物言いをしているんだね」
「そ、それは……、義理の姉だからです」
「浮気させるような人が悪いと言ってたけど、それは僕にもそう言いたいのかな」
「……えっと、あの、そういうわけではありません」
クリスティーナ様は焦った顔になり、モゴモゴと口を動かす。
「あのさ、言っておくけど浮気はするほうが悪いんだよ。普通の人は浮気はやってはいけないことだとわかっている。だから、しない。原因があるって言いたいのかもしれないけど、たとえ、された側に原因があったとしても、するほうが悪い」
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「なら、浮気せずに別れれば良いんじゃないかな」
「……っ」
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「そ……、そんな……、どうして!」
クリスティーナ様はその人の顔を見るなり、驚愕の表情を浮かべて後ずさる。
「久しぶりね、クリスティーナ。納得はできないけれど、あなたの言いたいことはよくわかったわ」
ダークブラウンの髪に赤色の瞳。少し吊り目の目を細め、スカベラ様は続ける。
「あなた、私がどれだけ浮気を嫌っているか、知らないわけがないわよね」
スカベラ様は言い終えると、問答無用でクリスティーナ様の頰を打った。
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