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6 義姉は夫の浮気を認めているらしい ②
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「会いたかったわ、ターチ!」
「あ、姉上! いきなりどうしたのですか?」
クリスティーナ様はわたしを押し退けて、ターチ様に抱きついて答える。
「あなただってロブの話を知っているでしょう? 私が可哀想だと思わない?」
「え? あ、まあ、そうですね」
グラマー体型のクリスティーナ様はそれを自覚しているからか、胸元が大きく開いたドレスを着ていて、胸をグイグイとターチ様に押し付けている。そのせいか、ターチ様は目のやり場に困るように、周りを見回しながら頷いた。
「ねえ、ターチ。ロブが迎えに来るまでここにいさせてね。リリノアさんも良いわよね?」
有無を言わせない口調のクリスティーナ様に笑顔で頷く。
「ここはクリスティーナ様の生家ですから、わたしがどうこういうものではありません。それに、クリスティーナ様とお話したいこともあるんです」
「……話したいことって何かしら」
クリスティーナ様の緑色の瞳がわたしを捉える。元々、気の強そうな顔立ちだからか、挑戦的な態度に見えてしまう。
いや、挑戦的な態度を取られているんだわ。クリスティーナ様はターチ様のことを溺愛しているんだもの。
「ここでお話するにはちょっと……」
「どうせ、ロブの話でしょう? ここでかまわないわ」
「では、お聞きしますが、クリスティーナ様は浮気を許すおつもりですか?」
「侯爵令息の婚約者と浮気したロブは馬鹿だと思うわ。今、慰謝料を払うために必死に働いているの。だけどね、浮気させてしまった私にも問題があると思うのよ」
「だから、許すというのですか?」
「そう。ロブに浮気をさせないくらいに夢中にさせなかった私が悪いの」
「なら、どうしてこちらに? そう思うのなら、許してさしあげれば良いじゃないですか」
笑顔で言うと、クリスティーナ様は鼻で笑う。
「ちょっとした遊びよ。どうせ、あの男は私がいないと駄目なんだから」
「……そうですか。でも、クリスティーナ様は寛容な方ですわね」
「何が言いたいの?」
「わたしなら、浮気なんてされたら絶対に許しません」
はっきりと答えてから、ターチ様に目を向ける。
「信じて良いのよね?」
「……ああ」
ターチ様は間はあったものの笑顔で頷いた。
「では、ご姉弟でごゆっくり」
頭を下げて立ち去ろうとすると、クリスティーナ様に呼び止められる。
「リリノアさん、一つ言っておきたいことがあるの」
「……何でしょうか」
「男性の浮気を許してあげられるくらい、器の大きな女性になりなさい」
「……ターチ様は浮気をしていないとおっしゃっていますが?」
「もしもの話よ」
クリスティーナ様は挑戦的な笑みを浮かべた。そんな彼女に厳しい口調で答える。
「わたしは浮気を許すことが器が大きいだとは思いません。もし、クリスティーナ様のおっしゃることが一般的に言われていることだと言うのであれば、わたしは器の小さい人間でかまいません」
「リリノア」
ターチ様が何か言おうとすると、クリスティーナ様が割って入る。
「残念だわ。あ、そうだわ、リリノアさん。もし、お母様が帰ってきても、ロブの話はしないでね。お母様はそういう話を聞くのが大嫌いだから」
「自分の娘の夫の話でもですか?」
「そうよ。別れろだなんて言われたらたまらないわ」
クリスティーナ様は肩をすくめたあと、ターチ様の腕に頰を寄せる。
「ねえ。久しぶりなんだから、たくさんお話がしたいわ」
「姉さん、気持ちは嬉しいのですが、僕は仕事をしないといけないんです」
「ターチ様、仕事はわたしに任せて。クリスティーナ様とゆっくりしてちょうだい」
「まあ! ありがとう、リリノアさん」
クリスティーナ様は嬉しそうに微笑むとターチ様に話しかける。
「ねえ。今晩は一緒にいてくれるでしょう?」
「いや。その、僕が視察に行かなくちゃならないことは、姉上だって知っているでしょう」
「ターチ。今はやめておいたほうがいいわ」
クリスティーナ様はそう言うと、わたしを見て口角を上げた。
クリスティーナ様は私が疑っていることをわかっている。そして、ターチ様が動かなければわたしは何もできないと思っている。……これって、喧嘩をなめられているわよね。
売られた喧嘩は買うタイプだけど、負ける喧嘩はしたくない。離婚という勝利を確実に勝ち取るためにも、クリスティーナ様が嫌がっている、義母のスカベラ様と連絡を取らなければならない。
でも、どうしたら、連絡を取ることができるのかしら。
「あ、姉上! いきなりどうしたのですか?」
クリスティーナ様はわたしを押し退けて、ターチ様に抱きついて答える。
「あなただってロブの話を知っているでしょう? 私が可哀想だと思わない?」
「え? あ、まあ、そうですね」
グラマー体型のクリスティーナ様はそれを自覚しているからか、胸元が大きく開いたドレスを着ていて、胸をグイグイとターチ様に押し付けている。そのせいか、ターチ様は目のやり場に困るように、周りを見回しながら頷いた。
「ねえ、ターチ。ロブが迎えに来るまでここにいさせてね。リリノアさんも良いわよね?」
有無を言わせない口調のクリスティーナ様に笑顔で頷く。
「ここはクリスティーナ様の生家ですから、わたしがどうこういうものではありません。それに、クリスティーナ様とお話したいこともあるんです」
「……話したいことって何かしら」
クリスティーナ様の緑色の瞳がわたしを捉える。元々、気の強そうな顔立ちだからか、挑戦的な態度に見えてしまう。
いや、挑戦的な態度を取られているんだわ。クリスティーナ様はターチ様のことを溺愛しているんだもの。
「ここでお話するにはちょっと……」
「どうせ、ロブの話でしょう? ここでかまわないわ」
「では、お聞きしますが、クリスティーナ様は浮気を許すおつもりですか?」
「侯爵令息の婚約者と浮気したロブは馬鹿だと思うわ。今、慰謝料を払うために必死に働いているの。だけどね、浮気させてしまった私にも問題があると思うのよ」
「だから、許すというのですか?」
「そう。ロブに浮気をさせないくらいに夢中にさせなかった私が悪いの」
「なら、どうしてこちらに? そう思うのなら、許してさしあげれば良いじゃないですか」
笑顔で言うと、クリスティーナ様は鼻で笑う。
「ちょっとした遊びよ。どうせ、あの男は私がいないと駄目なんだから」
「……そうですか。でも、クリスティーナ様は寛容な方ですわね」
「何が言いたいの?」
「わたしなら、浮気なんてされたら絶対に許しません」
はっきりと答えてから、ターチ様に目を向ける。
「信じて良いのよね?」
「……ああ」
ターチ様は間はあったものの笑顔で頷いた。
「では、ご姉弟でごゆっくり」
頭を下げて立ち去ろうとすると、クリスティーナ様に呼び止められる。
「リリノアさん、一つ言っておきたいことがあるの」
「……何でしょうか」
「男性の浮気を許してあげられるくらい、器の大きな女性になりなさい」
「……ターチ様は浮気をしていないとおっしゃっていますが?」
「もしもの話よ」
クリスティーナ様は挑戦的な笑みを浮かべた。そんな彼女に厳しい口調で答える。
「わたしは浮気を許すことが器が大きいだとは思いません。もし、クリスティーナ様のおっしゃることが一般的に言われていることだと言うのであれば、わたしは器の小さい人間でかまいません」
「リリノア」
ターチ様が何か言おうとすると、クリスティーナ様が割って入る。
「残念だわ。あ、そうだわ、リリノアさん。もし、お母様が帰ってきても、ロブの話はしないでね。お母様はそういう話を聞くのが大嫌いだから」
「自分の娘の夫の話でもですか?」
「そうよ。別れろだなんて言われたらたまらないわ」
クリスティーナ様は肩をすくめたあと、ターチ様の腕に頰を寄せる。
「ねえ。久しぶりなんだから、たくさんお話がしたいわ」
「姉さん、気持ちは嬉しいのですが、僕は仕事をしないといけないんです」
「ターチ様、仕事はわたしに任せて。クリスティーナ様とゆっくりしてちょうだい」
「まあ! ありがとう、リリノアさん」
クリスティーナ様は嬉しそうに微笑むとターチ様に話しかける。
「ねえ。今晩は一緒にいてくれるでしょう?」
「いや。その、僕が視察に行かなくちゃならないことは、姉上だって知っているでしょう」
「ターチ。今はやめておいたほうがいいわ」
クリスティーナ様はそう言うと、わたしを見て口角を上げた。
クリスティーナ様は私が疑っていることをわかっている。そして、ターチ様が動かなければわたしは何もできないと思っている。……これって、喧嘩をなめられているわよね。
売られた喧嘩は買うタイプだけど、負ける喧嘩はしたくない。離婚という勝利を確実に勝ち取るためにも、クリスティーナ様が嫌がっている、義母のスカベラ様と連絡を取らなければならない。
でも、どうしたら、連絡を取ることができるのかしら。
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