上 下
6 / 14

6   義姉は夫の浮気を認めているらしい ②

しおりを挟む
「会いたかったわ、ターチ!」
「あ、姉上! いきなりどうしたのですか?」

 クリスティーナ様はわたしを押し退けて、ターチ様に抱きついて答える。

「あなただってロブの話を知っているでしょう? 私が可哀想だと思わない?」
「え? あ、まあ、そうですね」
 
 グラマー体型のクリスティーナ様はそれを自覚しているからか、胸元が大きく開いたドレスを着ていて、胸をグイグイとターチ様に押し付けている。そのせいか、ターチ様は目のやり場に困るように、周りを見回しながら頷いた。

「ねえ、ターチ。ロブが迎えに来るまでここにいさせてね。リリノアさんも良いわよね?」

 有無を言わせない口調のクリスティーナ様に笑顔で頷く。

「ここはクリスティーナ様の生家ですから、わたしがどうこういうものではありません。それに、クリスティーナ様とお話したいこともあるんです」
「……話したいことって何かしら」

 クリスティーナ様の緑色の瞳がわたしを捉える。元々、気の強そうな顔立ちだからか、挑戦的な態度に見えてしまう。

 いや、挑戦的な態度を取られているんだわ。クリスティーナ様はターチ様のことを溺愛しているんだもの。

「ここでお話するにはちょっと……」
「どうせ、ロブの話でしょう? ここでかまわないわ」
「では、お聞きしますが、クリスティーナ様は浮気を許すおつもりですか?」
「侯爵令息の婚約者と浮気したロブは馬鹿だと思うわ。今、慰謝料を払うために必死に働いているの。だけどね、浮気させてしまった私にも問題があると思うのよ」
「だから、許すというのですか?」
「そう。ロブに浮気をさせないくらいに夢中にさせなかった私が悪いの」
「なら、どうしてこちらに? そう思うのなら、許してさしあげれば良いじゃないですか」

 笑顔で言うと、クリスティーナ様は鼻で笑う。

「ちょっとした遊びよ。どうせ、あの男は私がいないと駄目なんだから」
「……そうですか。でも、クリスティーナ様は寛容な方ですわね」
「何が言いたいの?」
「わたしなら、浮気なんてされたら絶対に許しません」

 はっきりと答えてから、ターチ様に目を向ける。

「信じて良いのよね?」
「……ああ」

 ターチ様は間はあったものの笑顔で頷いた。

「では、ご姉弟でごゆっくり」

 頭を下げて立ち去ろうとすると、クリスティーナ様に呼び止められる。

「リリノアさん、一つ言っておきたいことがあるの」
「……何でしょうか」
「男性の浮気を許してあげられるくらい、器の大きな女性になりなさい」
「……ターチ様は浮気をしていないとおっしゃっていますが?」
「もしもの話よ」

 クリスティーナ様は挑戦的な笑みを浮かべた。そんな彼女に厳しい口調で答える。

「わたしは浮気を許すことが器が大きいだとは思いません。もし、クリスティーナ様のおっしゃることが一般的に言われていることだと言うのであれば、わたしは器の小さい人間でかまいません」
「リリノア」

 ターチ様が何か言おうとすると、クリスティーナ様が割って入る。

「残念だわ。あ、そうだわ、リリノアさん。もし、お母様が帰ってきても、ロブの話はしないでね。お母様はそういう話を聞くのが大嫌いだから」
「自分の娘の夫の話でもですか?」
「そうよ。別れろだなんて言われたらたまらないわ」

 クリスティーナ様は肩をすくめたあと、ターチ様の腕に頰を寄せる。

「ねえ。久しぶりなんだから、たくさんお話がしたいわ」
「姉さん、気持ちは嬉しいのですが、僕は仕事をしないといけないんです」
「ターチ様、仕事はわたしに任せて。クリスティーナ様とゆっくりしてちょうだい」
「まあ! ありがとう、リリノアさん」

 クリスティーナ様は嬉しそうに微笑むとターチ様に話しかける。

「ねえ。今晩は一緒にいてくれるでしょう?」
「いや。その、僕が視察に行かなくちゃならないことは、姉上だって知っているでしょう」
「ターチ。今はやめておいたほうがいいわ」

 クリスティーナ様はそう言うと、わたしを見て口角を上げた。

 クリスティーナ様は私が疑っていることをわかっている。そして、ターチ様が動かなければわたしは何もできないと思っている。……これって、喧嘩をなめられているわよね。

 売られた喧嘩は買うタイプだけど、負ける喧嘩はしたくない。離婚という勝利を確実に勝ち取るためにも、クリスティーナ様が嫌がっている、義母のスカベラ様と連絡を取らなければならない。

 でも、どうしたら、連絡を取ることができるのかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

裏切りの先にあるもの

松倖 葉
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...