上 下
48 / 51

47 状況を整理する午後②

しおりを挟む
 リュカは私を連れて書き物机のほうに移動し、書き物机の椅子に私を座らせた。
 そのため、リュカは立ったまま腰を折り、机の上に置いた紙の上にペンで文字を走らせていく。





時間を戻す前:兄さんとティナ様の場合


兄さん、もしくはソフィー様がティナ様に殺意を覚えて、トロット公爵家に殺害を依頼。俺に罪を着せさせるつもりだった。

結果、ティナ様が殺されて俺が捕まる。

俺に罪を着せようとしたのは、ソフィー様たちの指示?

証拠不十分で牢から出してもらえなかったのは、ソフィー様たちの妨害があった可能性がある。
俺がティナ様にフラれたなど、嘘の証言をした可能性もあり、犯行動機を作ったのかもしれない。

国民感情を配慮して、俺の命を守るためにも牢に入れていた可能性もある。
外に出れば、ティナ様を思う国民から狙われる可能性があった。

俺の命を守るために無実だと証明されるまでは、牢に入れられていた?



時間を戻した後:


ソフィー様もしくは兄さんがティナ様の殺害をトロット公爵家に依頼。俺に罪を着せるつもりが、その場に現れなかったため殺害を断念。

結果、ティナ様は回復してリリーと知り合う。



共通点:ソフィー様は俺を王太子の座から引きずり下ろし、兄さんに継がせたい?
                      』


「こんな感じか?」
「ええ。私もそうだと思うわ」
「次はリリーの方だな」

 私が頷くと、リュカは新たに紙に文字を書いていく。





時間が戻る前:リリーとアルカ公爵令嬢


トロット公爵の依頼で、エマロン家はリリーに恨みがあるテレサ嬢を使い、アルカ公爵令嬢のお茶に毒を入れさせる。


トロット公爵家はアルカ公爵に解毒薬を渡して交渉材料にしようとした?
エマロン家は金につられた可能性あり。
(これについては仮説。時間が巻き戻る前のため、確認が取れない)



時間が巻き戻った後:

現在のところはまだ何も起きていない。

だが、時間が巻き戻る前は知り合っていなかったはずのアルカ公爵令嬢とリリーが知り合いになっている。


共通点:

タイディ家とエマロン家のつながり。
テレサ嬢とエマロン卿は恋愛関係にあった。
                      』

       

 リュカはそこまで書き終えると、ペンを机の上に置いた。

「時間を巻き戻す前の記憶とこんがらがってしまいそうだから書いてみたんだが」
「そうね。私もどっちがどっちだかわからなくなるわ。その情景を思い浮かべれば相手の様子でどちらかの時かわかるのだけれど」

 両方とも私の中では起きた出来事だから、時間が巻き戻る前か巻き戻った後の現在に起きたことなのか、わからなくなってしまうのよね。

「とにかく、これから俺たちが安全に暮らしていくにはどうしたら良いかだが」
「やっぱり、大元をどうにかしないといけないわよね」
「ああ。そうしない限り、あの手この手を使って、兄さんたちはティナ様に、テレサ嬢はリリーに接触してこようとするだろう」
「嫌になるわ」
「とにかく1番にやることは決まってる」
「何なの?」

 何をするのかわからなくて尋ねてみると、リュカは笑顔で答える。

「テレサ嬢とエマロン卿を潰しにかかろう。彼らは末端だが過去では君を処刑という形で殺そうとしたし、現在だって君をどこかへ売り飛ばそうとした。それに彼らを潰すのが今の時点では1番簡単だ。正確に言えばタイディ家とエマロン家だけど」
「……ありがとう、リュカ」
「お礼を言われることじゃない」

 リュカは私の頭を優しく撫でて微笑んだ。

 ドキドキしている場合じゃないとわかっているけれど、この笑顔を見てドキドキしないなんて無理だわ。

 頬が赤くなってるのか、リュカは不思議そうな顔で熱くなっている私の頬に触れた。

「……リュカ?」
「リリー」

 リュカに至近距離で見つめられ、彼の瞳に吸い寄せられるかの様な感覚を覚えた。

「リュカ殿下、そろそろティータイムの時間ですのでよろしければ、リリーと一緒に我が家のティールームにいらっしゃいませんか?」

 ノックの音と共に、お父様の声が聞こえた。

 リュカは私の頬から手を離して、慌てて返事をする。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 お父様の足音が聞こえなくなってから、リュカが苦笑する。

「毎回、こんなのばかりだな」

 リュカは固まっている私の額に自分の額を当てると続ける。

「今日は諦めるけど、次は邪魔されても続きをしてもいいか?」
「……その、状況によっては断るかもしないけど、2人きりだと言うなら、もちろん、はい、よ」

 自分で言ったのに頬が熱くなった。
 そんな私を見て、リュカは嬉しそうに笑った。


*****


 それから数日後、エマロン家とタイディ家の家宅捜索が決まった。
 私の拉致未遂を理由にした。
 当日までは秘密裏に進められているはずだった。

 それは、放課後の学園でリアラ様とティナ様と一緒に馬車の乗降場に向かっていた時に起きた。

「あんたを絶対に許さない」
 
 目の前に立ちはだかったのは、目を血走らせたテレサだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

夫が浮気をしたので、子供を連れて離婚し、農園を始める事にしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 10月29日「小説家になろう」日間異世界恋愛ランキング6位 11月2日「小説家になろう」週間異世界恋愛ランキング17位 11月4日「小説家になろう」月間異世界恋愛ランキング78位 11月4日「カクヨム」日間異世界恋愛ランキング71位 完結詐欺と言われても、このチャンスは生かしたいので、第2章を書きます

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから

鈴蘭
恋愛
結婚式の翌日、愛する夫からナターシャに告げられたのは、愛人がいて彼女は既に懐妊していると言う事実だった。 子はナターシャが産んだ事にする為、夫の許可が下りるまで、離れから出るなと言われ閉じ込められてしまう。 その離れに、夫は見向きもしないが、愛人は毎日嫌味を言いに来た。 幸せな結婚生活を夢見て嫁いで来た新妻には、あまりにも酷い仕打ちだった。 完結しました。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...