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28 改めて思い出す午後
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テレサの名前を聞いたあとは、平静を保とうとしても難しかった。
私の様子がおかしいことに気付いたティナ様は、私を気遣ってくれた。
「ごめんなさいね、リリー。今日は緊張して疲れてしまったのだろうから、もう帰ってゆっくりしたほうが良いわ」
「ですが、まだ来たばかりですし」
「初対面で、しかも私が相手では疲れても無理はないわよ。今日は良いから改めて話をしてくれない?」
「ありがとうございます」
ティナ様に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、その言葉に甘えて今日は帰らせてもらった。
家に帰り着くと、お父様たちが心配した様子で、今日はどうだったかと尋ねてきた。
お父様たちには疲れているから改めて話すことを伝えて部屋に入った。
部屋に入り、一人になると書き物机に両手を付き、小さく呟く。
「信じられない」
テレサがティナ様と知り合いだったなんて知らなかった。
時間が巻き戻る前はそんな話は聞いたことがなかった。
だけど、それはティナ様が亡くなっていたからなのかもしれない。
もしかして、ティナ様のお友達というのは、アルカ公爵令嬢のことなのかしら。
アルカ公爵令嬢の紹介でティナ様はテレサと知り合ったのかもしれない。
私だって、テレサがアルカ公爵令嬢と仲が良かったから、お茶会に誘われたのかもしれない。
そして、テレサの罠にまんまと嵌ったんだわ。
1人で考えを巡らせていると、部屋の扉がノックされた。
心配してくれた家族かと思って返事をする。
「はい」
「リリー、俺だよ」
扉の向こうから聞こえてきたのは、リュカの声だった。
「なんか様子が変だったってご両親から聞いた。ティナ殿下は悪い人じゃなかっただろ? 城で何かあったのか?」
「リュカ!」
急いで部屋の扉を開け、リュカの手を引っ張り、自分の部屋の中に招き入れた。
「お、おい、リリー!?」
「聞いてよリュカ!」
私は焦るリュカの様子の様子などおかまいなしに、彼を自分のお気に入りの安楽椅子に座らせる。
そして、ティナ様から聞いた話をリュカに伝えた。
私から話を聞いたリュカは少し考えたあとに口を開く。
「時間が巻き戻る前の様な状態にならないにしても、こんなことを言っちゃなんだが、クソ女とリリーは出会う縁があるってことなんだろうな」
「そんな! こっちはもう二度とあんな目に遭いたくないのよ! 復讐するために接触するにしても、公爵令嬢が関わってきたら、あの時のことを思い出して不安しかなくなるじゃない!」
「でも、どちらにしても、このままだと学園で会わないといけなくなるわけだろ?」
リュカに言われ、私は不機嫌そうな口調で答える。
「それはそうなんだけど、違う形で接触したかったのよ。ああ、学園に通うことをやめたほうが良いのかしら」
「難しいところだな。学園は卒業してくれたほうが俺としては助かる。学園を中退した王太子妃はあまり聞こえが良くないだろう」
「それもそうね。ちゃんとした理由がないと認めてもらえないだろうし」
部屋の中を歩き回る私をリュカが椅子から立ち上がって止める。
「リリーなら大丈夫だ。さすがに俺が16歳として学園に入学するのは無理だけど、少しでもリリーを守る方法を考えるから」
「ありがとう、リュカ」
大きく深呼吸して気持ちを落ち着けてから、笑顔で話を続ける。
「ちょっと前まではリュカに偉そうなことばかり言っていたのに、自分のことになったら弱気になってしまってごめんなさい。気をつけるわ」
「別にかまわない。弱音を吐くことは悪いことじゃないと思うし、吐きたいだけ吐けばいい。後退しても最終的に少しでも前に進めればいいと俺は思うけどな」
「そうよね。ええ、そうするわ」
2人で笑いあったあと、リュカが何か思い出したのか、眉根を寄せて聞いてくる。
「そういえば、執事の件はどうなったんだ?」
「執事?」
それで思い出した。
マララについては、レイクウッドがすでに手配をしてくれていて、私が帰った時にはクビになっていた。
だから、一安心だと思っていたのに、実際はそんなことはなかった。
「そうだわ! 執事のことを忘れていたわ! 現役の執事には辞める予定があるかどうかなんて聞きづらいし、お父様に確認しなくちゃ」
「そうだな。エマロン家と婚約はしなくて良くなったし、リリーの家族が危険な目に遭うことはなさそうだが、すぐに情報を売る様な執事なんて必要ない。可能なら他の人間にするべきだろうな」
「そうよね! なんだかんだとやることがいっぱいだわ! ティナ様にもお詫びのご連絡をしなくっちゃ」
私が慌てた顔をして言うと、なぜかリュカは優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
私の様子がおかしいことに気付いたティナ様は、私を気遣ってくれた。
「ごめんなさいね、リリー。今日は緊張して疲れてしまったのだろうから、もう帰ってゆっくりしたほうが良いわ」
「ですが、まだ来たばかりですし」
「初対面で、しかも私が相手では疲れても無理はないわよ。今日は良いから改めて話をしてくれない?」
「ありがとうございます」
ティナ様に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、その言葉に甘えて今日は帰らせてもらった。
家に帰り着くと、お父様たちが心配した様子で、今日はどうだったかと尋ねてきた。
お父様たちには疲れているから改めて話すことを伝えて部屋に入った。
部屋に入り、一人になると書き物机に両手を付き、小さく呟く。
「信じられない」
テレサがティナ様と知り合いだったなんて知らなかった。
時間が巻き戻る前はそんな話は聞いたことがなかった。
だけど、それはティナ様が亡くなっていたからなのかもしれない。
もしかして、ティナ様のお友達というのは、アルカ公爵令嬢のことなのかしら。
アルカ公爵令嬢の紹介でティナ様はテレサと知り合ったのかもしれない。
私だって、テレサがアルカ公爵令嬢と仲が良かったから、お茶会に誘われたのかもしれない。
そして、テレサの罠にまんまと嵌ったんだわ。
1人で考えを巡らせていると、部屋の扉がノックされた。
心配してくれた家族かと思って返事をする。
「はい」
「リリー、俺だよ」
扉の向こうから聞こえてきたのは、リュカの声だった。
「なんか様子が変だったってご両親から聞いた。ティナ殿下は悪い人じゃなかっただろ? 城で何かあったのか?」
「リュカ!」
急いで部屋の扉を開け、リュカの手を引っ張り、自分の部屋の中に招き入れた。
「お、おい、リリー!?」
「聞いてよリュカ!」
私は焦るリュカの様子の様子などおかまいなしに、彼を自分のお気に入りの安楽椅子に座らせる。
そして、ティナ様から聞いた話をリュカに伝えた。
私から話を聞いたリュカは少し考えたあとに口を開く。
「時間が巻き戻る前の様な状態にならないにしても、こんなことを言っちゃなんだが、クソ女とリリーは出会う縁があるってことなんだろうな」
「そんな! こっちはもう二度とあんな目に遭いたくないのよ! 復讐するために接触するにしても、公爵令嬢が関わってきたら、あの時のことを思い出して不安しかなくなるじゃない!」
「でも、どちらにしても、このままだと学園で会わないといけなくなるわけだろ?」
リュカに言われ、私は不機嫌そうな口調で答える。
「それはそうなんだけど、違う形で接触したかったのよ。ああ、学園に通うことをやめたほうが良いのかしら」
「難しいところだな。学園は卒業してくれたほうが俺としては助かる。学園を中退した王太子妃はあまり聞こえが良くないだろう」
「それもそうね。ちゃんとした理由がないと認めてもらえないだろうし」
部屋の中を歩き回る私をリュカが椅子から立ち上がって止める。
「リリーなら大丈夫だ。さすがに俺が16歳として学園に入学するのは無理だけど、少しでもリリーを守る方法を考えるから」
「ありがとう、リュカ」
大きく深呼吸して気持ちを落ち着けてから、笑顔で話を続ける。
「ちょっと前まではリュカに偉そうなことばかり言っていたのに、自分のことになったら弱気になってしまってごめんなさい。気をつけるわ」
「別にかまわない。弱音を吐くことは悪いことじゃないと思うし、吐きたいだけ吐けばいい。後退しても最終的に少しでも前に進めればいいと俺は思うけどな」
「そうよね。ええ、そうするわ」
2人で笑いあったあと、リュカが何か思い出したのか、眉根を寄せて聞いてくる。
「そういえば、執事の件はどうなったんだ?」
「執事?」
それで思い出した。
マララについては、レイクウッドがすでに手配をしてくれていて、私が帰った時にはクビになっていた。
だから、一安心だと思っていたのに、実際はそんなことはなかった。
「そうだわ! 執事のことを忘れていたわ! 現役の執事には辞める予定があるかどうかなんて聞きづらいし、お父様に確認しなくちゃ」
「そうだな。エマロン家と婚約はしなくて良くなったし、リリーの家族が危険な目に遭うことはなさそうだが、すぐに情報を売る様な執事なんて必要ない。可能なら他の人間にするべきだろうな」
「そうよね! なんだかんだとやることがいっぱいだわ! ティナ様にもお詫びのご連絡をしなくっちゃ」
私が慌てた顔をして言うと、なぜかリュカは優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
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