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25 心強い味方

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「今、元々の土地を確認しに行かせました。あと気になることは他にありますか?」

 リュカの行動の速さに驚いたようなお父様だったけれど、少し考えてから答える。

「そうですね。あとはリリーの将来でしょうか。リリーが幸せになってくれるのであれば親としては喜ばしいのですが」

 お父様の言葉を聞いた私は、その気持ちが嬉しくて笑みが零れてしまう。

「お父様、そう言っていただけて嬉しいです。エマロン家に嫁ぐより、リュカと一緒にいることが私の幸せなんです。ワガママを言って困らせてしまってごめんなさい」
「……そうか。なら良かった。娘の幸せは親にとっては嬉しいことなんだから、今回は気にしなくて良い」
 
 お父様は微笑したあと、リュカに顔を向ける。

「娘のことをよろしくお願いいたします。それから、エマロン伯爵ですが、日にちは明日なら時間が取れるとのことでした。時間はこちらが指定して良いとのことでしたので、10時を指定しましたがいかがでしょうか」
「それでかまいません」
「ありがとうございます」

 頭を下げたお父様に、どうしても気になることを聞いてみる。

「お父様、先程お聞きしましたが、エマロン伯爵は私の婚約者がリュカだと言っても本当に信じてくれないのでしょうか?」
「ああ、そうなんだよ。本当に困ったものだ。アグリタ王国の陛下の所には、リュカ殿下のお父上である、ドラブレル王国の陛下から書状が送られているから、すんなり話が通ったんだ。でも、エマロン伯爵の場合は僕からの連絡だから信じてもらえず、逆にバカにしてるのかと怒られた、という感じだよ」
「それはご迷惑をおかけしました。その点ももう大丈夫です。明日は俺だけじゃ信用してもらえない可能性もありますから、他の人間も連れて行くことも考えていますので」

 リュカが笑顔で言うと、お父様は困惑の表情を浮かべた。


*****


 次の日の朝、私とリュカとお父様はエマロン伯爵邸に向かった。
 エマロン伯爵邸は私の家と同じ伯爵家なのに、財政が潤っているのか、それとも元々の財産があるのか、私の家よりも、かなり大きな敷地と建物だった。

 通された部屋で待っていると、不機嫌そうな顔をしたエマロン伯爵と、その息子であるアイザックが入ってきた。
 私の最近の記憶にあるアイザックよりも少し幼い。
 でも、赤色の髪や意地の悪そうな顔立ちは変わらなかった。

 あんなことがあったからか、昔は素敵だと思っていたのに、今となってはまったくときめかないんだから不思議なものね。
 それにリュカのほうが素敵だわ。

 心の中でそう思いながら、リュカたちと共に立ち上がって挨拶をした。
 すると、リュカを見たエマロン伯爵とアイザックの表情が驚きのものに変わった。
 焦った様子でエマロン伯爵がお父様に問いかける。

「あの、もしや……、そちらにいらっしゃるのは…」
「はじめまして、リュカ・ローブランシュです」
 
 お父様が答える前に、リュカが笑顔で自己紹介をした。
 エマロン親子は慌てて深々と頭を下げる。

「我が家にわざわざ足をお運びいただき、ありがとうございます」

 小太りだからか暑く感じるのか、それともただ冷や汗が出ているだけなのかはわからない。
 エマロン伯爵はペコペコと頭を下げながら、額から流れ出てくる汗をハンカチで必死に拭っている。
 エマロン伯爵の隣に立つアイザックは視線を下に向けたままで、リュカのほうを見ようとはしない。

 本当にお父様の話を信用していなかったのね。

 二人の様子を見て呆れて私は小さく息を吐いた。

「立たせたままで申し訳ございません。どうぞお座り下さい」

 エマロン伯爵は主にリュカのほうを見て促してきた。
 私たちが腰を下ろしたのを確認してから、エマロン伯爵はテーブルを挟んだ、お父様の向かい側に座り、アイザックを横に座らせた。

「リュカ殿下とリリー様のご婚約は大変喜ばしいものであると思うのですが、うちの息子も昔からリリー様に思いを寄せておりましてですね」
「そんなことはありえません!」

 思わず声を上げた私の右手を優しく握って、リュカが言う。

「リリー、落ち着け。大丈夫だから」
「ごめんなさい」

 リュカの手を握り返して、大きく息を吐いた。

 他の女性と一緒になるために、私の家族を殺すような人間が私に思いを寄せているだなんてありえない!        

 でも、それはこの世界では起きてないものだから、あまり感情的になってはいけないわ。

 巻き戻る前のこと知っているリュカは、私の気持ちをわかってくれる。

 でも、そうじゃないお父様たちにしてみれば、なぜ、私をがここまで嫌がるのかわからないんだもの。 

「申し訳ございませんでした」

 リュカの手を離し、立ち上がって頭を下げた私に、アイザックが話しかけてくる。

「リリー様、僕はあなたに何かしましたか? お話したこともないと思うのですが」

 立ったままアイザックを見つめる。
 すると、エマロン伯爵が私に腰を下ろすようにすすめてきたので、座ってからアイザックに話しかける。

「そうですよね。だからこそ、逆にお聞きしますが、お話したこともないのに、どうしてエマロン伯爵から、あなたが私に思いを寄せているだなんて話が出てくるのですか」
「そ、それは、その、パーティーで、以前、あなたをお見かけして、一目惚れをしてですね」
「一目惚れというなら、僕と一緒だな」

 リュカが一人称を僕に変えて、アイザックに同意した。

「リリーは可愛いから、好きになる気持ちはわかるよ」
「そ、そうですよね」

 リュカの言葉にアイザックも笑顔を作って同意した。
 
「アイザック様、お気持ちはありがたいのですが、私はリュカ殿下との結婚を望んでおります。勝手だと承知しておりますが、婚約の話は諦めていただきたいと思っております」

 私がお願いすると、アイザックは微笑して言う。

「リリー様は知らなかったかもしれませんが、僕はかなり前から、あなたとの未来を楽しみにしていたんです。そう簡単には諦められませんよ」
「相手が他国の王太子殿下でもですか」

 私がアイザックを睨みつけて言うと、少し怯みはしたけれど頷く。

「約束は守られるべきです」
「よくもそんなことを」
「リリー、落ち着けって」

 リュカが慌てて、身を乗り出そうとした私の身体をおさえた。

 約束は守られるべきだなんて!
 この男にそんなことを言われたくない!

 私が心の中で叫んだ時だった。
 部屋の扉が叩かれたため、エマロン伯爵が対応する。
 すると、焦った表情で執事らしき男性が部屋に入ってきてエマロン伯爵に耳打ちをした。

「な、なんだって!?」

 エマロン伯爵が声を上げて立ち上がると同時に開いている扉の向こうから、エマ様が顔を出した。

「苦戦してそうね。心強い味方を連れてきたわよ」

 そう言って、エマ様が横に退くと、中に入ってきたのはアグリタ王国の王妃陛下だった。




エマとエマロンと名前が似たようなものになってしまい、申し訳ございません。
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