24 / 51
23 忘れていたこと
しおりを挟む
「リュカ」
握っていた手を離し、その手を伸ばしてリュカの頬に触れた。
すると、リュカが不思議そうな顔をする。
「どうした?」
「あなたが泣き出しそうだから。別に泣いてもいいのよ。大事な友達だったんでしょう?」
「……ありがとう」
コツンとリュカが自分の額を私の額に当てて目を閉じた。
私も目を閉じていたほうがリュカは泣きやすいかしら。
そんなことを考えながら、リュカを見つめる。
閉じていたリュカの目が開いて、心臓の鼓動が速くなる。
目が合って、そのままの状態で固まっていた時だった。
「ちょっとリュカ、リリーがどこにいるか知らない? 一緒に夕食を食べたいんだ……け……と」
エマ様がノックはしたけれど、中からの返事は待たずに執務室に入ってきた。
そして、私たちを見て動きを止めた。
私たちも、ゆっくりとエマ様のほうに顔を向ける。
「えっ!? きゃー、うそ!? 邪魔してしまったのね!? ちょ、ちょっと待ってね。本当にごめんなさい! あ、でも、まだ大丈夫よ。今、扉を閉めるからね。はい、やり直し!」
そう言って、エマ様は部屋の外に出て扉を閉めた。
……と思ったけれど、少しだけ隙間をあけて覗こうとしていた。
「母上、見えてますよ」
「ご、ごめんね。あの、本当に行くから続きをしてちょうだい」
「「しません!」」
私とリュカの声が重なった。
「この調子だと孫の顔を見るのもそう遅くはないかもしれないわね。急かしているわけじゃないのよ。しばらくは二人の生活を楽しみたいと思うならそうしてね! やっぱり、二人で過ごす時間も大切よね。あなたたちはまだまだ若いし!」
あの後、私たちは立ち去ろうとしたエマ様を引き止めて、夕食を共にすることになった。
あんな誤解されてもおかしくない場面をエマ様に見られるなんて恥ずかしくてしょうがない。
思い出しただけで頬が熱くなるのを感じる。
さっきのことばかり考えていたせいで、何を食べても味がほとんどわからなかった。
エマ様が私を食事に誘った理由は、ただお話がしたいだけだったので、話が先程のものから変わると、落ち着いた気持ちで話をすることができた。
エマ様との食事と話を終えたあと、リュカとも別れて、メイドと共に部屋に向かって歩いていた私は、ふと、トロット公爵令嬢との約束を思い出した。
ちゃんと情報はもらえたことだし、約束は守らないといけないわよね。
トロット公爵令嬢をリュカと会わせてあげないといけないわ。
*****
次の日の夕方、王太子妃教育を終えた私は、リュカの執務室に向かった。
扉をノックすると、レイクウッドではない側近の男性が返事をしてくれたので、自分の名を名乗ると、扉を開けて中に入れてくれた。
「リュカ、少しだけいいかしら?」
書類を見ていたリュカは、私が執務室の中に入ると、慌てて書類を机の上に置いて立ち上がって出迎えてくれた。
「どうしたんだ? 何かあったのか」
「あ、いえ、えっと、その」
側近に聞かれるのはあまり良くないと思ったので目を向けると、何度か顔を合わせている彼は、私と目が合った瞬間に口を開く。
「リュカ殿下、本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「悪いな。また明日も頼む」
リュカが頷くと、側近は一礼してから執務室を出て行った。
「ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまって」
「かまわない。それよりも何かあったのか?」
「トロット公爵令嬢のことなんだけど、私が彼女にリュカと会わせる約束を勝手にしてしまったでしょう」
「向こうが勝手に決めていったんだろ。気にしなくて良い」
リュカが俯いていた私の頭を優しく撫でてくれたので、ホッとして顔を上げる。
「そのことで、日にちはいつにしようか決めないといけないと思ったの。私が国に帰る日も近付いてきているし、早めに彼女にお手紙を送ろうと思うのよ」
「そうだな。リリーの予定に合わせるけど」
「トロット公爵令嬢にはレイクウッドの件でお世話になってしまったし、先に片付けた方が良いでしょうから、7日後くらいなら失礼に当たらないかしら」
「俺が言うのもなんだけど、向こうは少しでも早く会いたいんじゃないのか?」
「そういえばそうね」
頷いてから、レイクウッドの妹さんのことで気になっていたことを思い出して、リュカに聞いてみる。
「そういえばスニッチは最初から、私たちにあの薬を渡すつもりで持ってきていたのかしら」
「妹の病気を知っていたから、俺たちに売りつけるつもりだったんじゃないか?」
「じゃあ、どうして、お金を請求せずに私たちにくれたの?」
「……恩を売りたかったのかもな」
「恩を売りたい?」
「もしくは、ありえない話かもしれないが、最初からザライスの妹を助けるつもりだったか」
私たちは顔を見合わせたあと、ここでどんなに考えても答えが出ないだろうと諦めて、トロット公爵令嬢と会う日時を決めることにした。
握っていた手を離し、その手を伸ばしてリュカの頬に触れた。
すると、リュカが不思議そうな顔をする。
「どうした?」
「あなたが泣き出しそうだから。別に泣いてもいいのよ。大事な友達だったんでしょう?」
「……ありがとう」
コツンとリュカが自分の額を私の額に当てて目を閉じた。
私も目を閉じていたほうがリュカは泣きやすいかしら。
そんなことを考えながら、リュカを見つめる。
閉じていたリュカの目が開いて、心臓の鼓動が速くなる。
目が合って、そのままの状態で固まっていた時だった。
「ちょっとリュカ、リリーがどこにいるか知らない? 一緒に夕食を食べたいんだ……け……と」
エマ様がノックはしたけれど、中からの返事は待たずに執務室に入ってきた。
そして、私たちを見て動きを止めた。
私たちも、ゆっくりとエマ様のほうに顔を向ける。
「えっ!? きゃー、うそ!? 邪魔してしまったのね!? ちょ、ちょっと待ってね。本当にごめんなさい! あ、でも、まだ大丈夫よ。今、扉を閉めるからね。はい、やり直し!」
そう言って、エマ様は部屋の外に出て扉を閉めた。
……と思ったけれど、少しだけ隙間をあけて覗こうとしていた。
「母上、見えてますよ」
「ご、ごめんね。あの、本当に行くから続きをしてちょうだい」
「「しません!」」
私とリュカの声が重なった。
「この調子だと孫の顔を見るのもそう遅くはないかもしれないわね。急かしているわけじゃないのよ。しばらくは二人の生活を楽しみたいと思うならそうしてね! やっぱり、二人で過ごす時間も大切よね。あなたたちはまだまだ若いし!」
あの後、私たちは立ち去ろうとしたエマ様を引き止めて、夕食を共にすることになった。
あんな誤解されてもおかしくない場面をエマ様に見られるなんて恥ずかしくてしょうがない。
思い出しただけで頬が熱くなるのを感じる。
さっきのことばかり考えていたせいで、何を食べても味がほとんどわからなかった。
エマ様が私を食事に誘った理由は、ただお話がしたいだけだったので、話が先程のものから変わると、落ち着いた気持ちで話をすることができた。
エマ様との食事と話を終えたあと、リュカとも別れて、メイドと共に部屋に向かって歩いていた私は、ふと、トロット公爵令嬢との約束を思い出した。
ちゃんと情報はもらえたことだし、約束は守らないといけないわよね。
トロット公爵令嬢をリュカと会わせてあげないといけないわ。
*****
次の日の夕方、王太子妃教育を終えた私は、リュカの執務室に向かった。
扉をノックすると、レイクウッドではない側近の男性が返事をしてくれたので、自分の名を名乗ると、扉を開けて中に入れてくれた。
「リュカ、少しだけいいかしら?」
書類を見ていたリュカは、私が執務室の中に入ると、慌てて書類を机の上に置いて立ち上がって出迎えてくれた。
「どうしたんだ? 何かあったのか」
「あ、いえ、えっと、その」
側近に聞かれるのはあまり良くないと思ったので目を向けると、何度か顔を合わせている彼は、私と目が合った瞬間に口を開く。
「リュカ殿下、本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「悪いな。また明日も頼む」
リュカが頷くと、側近は一礼してから執務室を出て行った。
「ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまって」
「かまわない。それよりも何かあったのか?」
「トロット公爵令嬢のことなんだけど、私が彼女にリュカと会わせる約束を勝手にしてしまったでしょう」
「向こうが勝手に決めていったんだろ。気にしなくて良い」
リュカが俯いていた私の頭を優しく撫でてくれたので、ホッとして顔を上げる。
「そのことで、日にちはいつにしようか決めないといけないと思ったの。私が国に帰る日も近付いてきているし、早めに彼女にお手紙を送ろうと思うのよ」
「そうだな。リリーの予定に合わせるけど」
「トロット公爵令嬢にはレイクウッドの件でお世話になってしまったし、先に片付けた方が良いでしょうから、7日後くらいなら失礼に当たらないかしら」
「俺が言うのもなんだけど、向こうは少しでも早く会いたいんじゃないのか?」
「そういえばそうね」
頷いてから、レイクウッドの妹さんのことで気になっていたことを思い出して、リュカに聞いてみる。
「そういえばスニッチは最初から、私たちにあの薬を渡すつもりで持ってきていたのかしら」
「妹の病気を知っていたから、俺たちに売りつけるつもりだったんじゃないか?」
「じゃあ、どうして、お金を請求せずに私たちにくれたの?」
「……恩を売りたかったのかもな」
「恩を売りたい?」
「もしくは、ありえない話かもしれないが、最初からザライスの妹を助けるつもりだったか」
私たちは顔を見合わせたあと、ここでどんなに考えても答えが出ないだろうと諦めて、トロット公爵令嬢と会う日時を決めることにした。
9
お気に入りに追加
1,162
あなたにおすすめの小説
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
夫が浮気をしたので、子供を連れて離婚し、農園を始める事にしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
10月29日「小説家になろう」日間異世界恋愛ランキング6位
11月2日「小説家になろう」週間異世界恋愛ランキング17位
11月4日「小説家になろう」月間異世界恋愛ランキング78位
11月4日「カクヨム」日間異世界恋愛ランキング71位
完結詐欺と言われても、このチャンスは生かしたいので、第2章を書きます
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから
鈴蘭
恋愛
結婚式の翌日、愛する夫からナターシャに告げられたのは、愛人がいて彼女は既に懐妊していると言う事実だった。
子はナターシャが産んだ事にする為、夫の許可が下りるまで、離れから出るなと言われ閉じ込められてしまう。
その離れに、夫は見向きもしないが、愛人は毎日嫌味を言いに来た。
幸せな結婚生活を夢見て嫁いで来た新妻には、あまりにも酷い仕打ちだった。
完結しました。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる