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4  昼過ぎのとあるカフェにて

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 広場を抜けて、商店が左右に建ち並ぶ、人通りの多い通りに入った。
 リュカは私の手を引いたまま、近くの路地に入ると手を離した。
 そして、着ているコートを脱いで脇に抱えると、その下に着ていた黒色の上質そうなロングコートも脱いで、私に羽織らせた。

「リュカが着ておけばいいんじゃないの?」
「服装が違うだけでも、少しはごまかせるだろ」
「でも、明らかにサイズが合ってないから、不自然で目立つと思うんだけど?」

 私は女性の平均的な身長よりも背が高いほうではある。
 でも、リュカのほうが私より頭一つ分は背が高い。
 だから、私がリュカのコートを羽織って歩くと、引きずるまではいかないけれど、足がほとんど隠れてしまうし、肩幅だって全然違うから違和感しかない。

「まあ、バレた時はバレた時で、その時に考えよう」

 リュカは明るい口調でそう言うと、改めて私の手を取り、人の波にうまく入り込んだ。

 そして、目的の場所でもあるのか、迷うことなく進んでいく。

 私の家の騎士たちは上手くまけたみたいだった。
 後でかなり怒られるんでしょうね。
 でも、しょうがないわ。
 時間が巻き戻る前に裏切った騎士が、あの中にいないとは限らないもの。

 それにしても、リュカは、これからどうするつもりなのかしら?
  
 だんだん不安になってきた。
 でも、今はリュカを信じるしかない。
 あの場所で待ち合わせていることを知っているのはリュカだけだから、私の手を引いている彼がリュカであることは間違いないんだから。

 数分後、私とリュカは大通りから少し離れた、こじんまりしたカフェに入った。
 店内の奥の四人がけの丸テーブルには予約席という札が置かれていた。
 どうやら、リュカが予約してくれていたようで、リュカは店員に一声掛けてから、そのテーブル席に向かった。

 席に着いてすぐに、リュカが笑顔で口を開く。

「リリー、約束を守ってくれてありがとう」
「約束を守ることは当たり前だわ。だけどリュカ、一体どうなってるの? どうして、私たちは過去に戻れているの!?」

 追っ手に見つかった時にすぐに逃げられるように、料金は先に払い、頼んだ飲み物が来るのを待っている間に、私は一気にリュカに質問をぶつけた。

 リュカは苦笑して、困ったように首を傾げる。
 
「そうだな。色々と聞きたいよな。何から話したらいいかな。あ、まずは改めて、自己紹介からしておかないか?」
「そうね。じゃあ、私から言うわ。もう知っているとは思うけれど、私の名前はリリー・ミアシスで、父は伯爵よ」
「俺の名前は、聞いたことくらいあるかな? リュカ・ローブランシュって言うんだけど」
「リュカ・ローブランシュ?」

 名を口にしてから、その名前に心当たりがあったから、かなり焦った。
 リュカ・ローブランシュは、隣国であるトラブレル王国の第一王子殿下の名前と同じ名前だった。

 そして、その王子が投獄されているという、過去に戻る前の話も同時に思い出した。

 リュカは地下牢で自分も冤罪で捕まったと言っていた。
 捕まったトラブレル王国の第一王子が冤罪だと訴えていることも耳にしたことがあるわ。

 他国の王子様にはあまり興味がなかったから、顔までは知らなかった。
 それにしても、本当の話なの?
 まさか、リュカが隣国の王子様だなんて!

 やっぱり信じられないわ。

「嘘をついているんじゃないわよね?」
「嘘なんてついてない。本当だよ」

 リュカは私の反応を見て、なぜか楽しそうに笑う。
 
 こういう笑い方というか、笑う声は、私の知っているとリュカと同じだった。

「ねえリュカ、もう一度確認するけれど、私をからかっているわけじゃないわよね?」
「そんなことするわけないだろ。リリー、頼むから信じてくれよ」
「わかったわ。ごめんなさい」
「いや、信じられない気持ちもわかる。でも、話を進めるぞ? 見つかる前に色々と話し合っておきたいんだ」
「わかったわ。本題からそれてしまってごめんなさい」
「あ、やっぱり話す前に一つ聞いていいか?」
「かまわないけど、何を聞きたいの?」

 リュカが王子であるならば、私は彼に敬語を使わなければならない。
 でも、私の中ではまだ半信半疑なので、今まで通りの口調で先を促した。

「リリーは俺が何かの罪に問われた時、俺がやってないといえば信じてくれるか?」

 リュカがテーブルに身を乗り出し、真剣な眼差しで尋ねてきた。
 だから、困惑しながらも頷く。

「リュカがそういうなら信じるわ」

 リュカとは、そう長い時間を過ごしたわけじゃない。
 でも、悪い人ではないことはわかるし、私だって冤罪をかけられた身だもの。
 信じてもらえない辛さはわかるわ。

 私の心の声が聞こえたみたいに、リュカは微笑む。

「ありがとう。なら、俺も君を信じて話す」
「なんだか、ドキドキするわ」
「そうだろうな。まず、君と俺が3年前に戻ったのには理由がある。俺がこの日を指定したからだ」
「今日はリュカにとって、何か特別な日なの?」
「時間を巻き戻すまでは最悪の日だよ。今日は俺が罠にはめられた日なんだ」
「罠にはめられた日?」

 聞き返すと、リュカは頷いて答えてくれる。

「過去に戻る前は、今日、ある場所で人が殺されるんだ。そして、第一発見者は俺なんだ」
「えっ? どういうこと?」
「過去の俺は今頃なら、この国の城の中にいたんだよ」
「それってまさか……」

 3年前、城、殺人、と聞いて、私の頭の中に浮かんだのは、第一王女殿下が何者かに殺害された事件だった。

「リュカ、それって」
「誤解しないでくれ。俺は何もしてない。呼び出された場所に行ったら、彼女はもう殺されてた。たぶん、何者かは俺を殺人犯にしたかったんだろう」
「じゃあ、今、リュカがここにいるなら、第一王女殿下は殺されることはないのかしら?」
「たぶん。そうであってほしい。それがわかるのは、あと少ししてからだろうな」

 辛そうな表情のリュカを見て、私はなんと声をかけたら良いか迷った。
 色々と考えてみたけれど、かける言葉は見つかりそうになかった。
 だから、他に聞きたいこともあったので、話題を変えることにする。

「リュカ、第一王女殿下がどうなったかは、あとで確認するとして、どうして私たちは3年前に戻ることができたの?」
「それなんだけど、リリーにその理由を伝えてもいいんだが、リリーには色々と迷惑がかかるかもしれない」

 リュカは困った顔をして言い淀む。

「なにか問題でもあるの?」
「ああ。悪いけどリリー、真実を知りたいなら、今すぐに覚悟は決めれるか?」
「か、覚悟って、どういうこと?」
「どうして過去に戻れたかという話をしてしまうと、君は俺から逃れることが出来なくなる。それでもいいか?」
「逃れることが出来ないって、どういう意味?」

 尋ねると、リュカは整った顔を歪めて答える。

「ローブランシュ家に関わる話だから、簡単に口には出せない」

 ローブランシュ家に関わるということは王家に関わるということだ。
 だけど、ここで怖気づいていてはいけない。

「私はリュカと一緒に戦うって約束したでしょう? 今更、撤回はしないわ」

 私ははっきりと答えた。
 でも、リュカは答えに満足していないようで、まだ迷っているようだった。
 私は大きく息を吐いてから、リュカに尋ねる。

「知ったことにより、私はリュカに殺されたりするの? もしくは他の人に命を狙われたりとかしたりするの?」
「俺がリリーを殺そうとするわけないだろ。逆だ。君を守るよ。でも、他の人に命を狙われるということになるということついては、まだわからない。第一王女がどうなってるかによるよ」

 リュカの「君を守る」という発言が、まるで恋愛小説に出てくる王子様のようで、胸が高鳴った。

 何にしても、リュカはきっと私を信用してくれているから、こんな話をしてくれているのよね。
 それに、彼は私の恩人だもの。

 私だって恩を返さなくちゃ。

「リュカが守ってくれるのなら安心だし、それに私だってリュカを守るわ!」

 両拳を握りしめて宣言すると、リュカは嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとう。じゃあ、話すけど」

 そう言って、リュカは白シャツの胸ポケットから白くて小さな丸い石を取り出して、テーブルの上に置いた。

「これは王家に代々伝わってる過去に戻ることができる石なんだ。半径5m以内なら、近くにいる人間も一緒に過去に戻すことが出来る」
「……ということは、リュカが地下牢で言っていたとおり、私たちは、これから人生をやり直せるってこと?」
「ああ。今から動けば、悲しい未来を変えることができる」

 私の質問に、リュカは大きく首を縦に振った。
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