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39  なんてことをするのですか!

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 ロウト伯爵令息はミドルレイ子爵令嬢を連れて、ローンノウル侯爵邸にやって来ました。このことは、事前に話を聞いていましたので、特に驚きはありません。

 今日のミドルレイ子爵令嬢はアデル様に会うからか、学園にいる時よりもメイクが濃くなっていて、大人っぽく見せようとしているようです。
 話し合いをすることを知ったデルト様は、自分も同席したいと申し出てくれましたが、聞かせられない話でもありますので、丁重にお断りしました。

 私たちが通された応接室には、三人掛けのソファが二つに黒いローテーブル、窓際には大きな花瓶が置かれています。花瓶には私の大好きな向日葵という、黄色の大きな花が挿してありました。

 アデル様の向かい側にロウト伯爵令息とミドルレイ子爵令嬢が座り、隣には私が座りました。今日は念の為にシルバートレイを持参していて、今は太腿の上に置いています。
 メイドが退出し、四人だけになった応接室で、簡単な挨拶を交わしたあと、アデル様が早速尋ねます。

「一体、何の話をするつもりだ?」
「僕たちが、あなたたちの人生をやり直しさせているということは、もうわかっているんでしょう?」

 ロウト伯爵令息は質問を返してきました。隠す必要もありませんので、アデル様は頷きます。

「どうやっているのかはわからないが、俺たちが何度も人生をやり直していることを知っているんだから、犯人はお前なんだろうな」
「アデルバート様! あなたの人生をやり直すようにさせたのはあたしです!」

 ミドルレイ子爵令嬢が立ち上がって叫ぶと、ロウト伯爵令息が窘めます。

「自分のことをあたしと言うのはやめろと言っただろう」
「ごめんなさい」

 、ミドルレイ子爵令嬢は、ぷくっと頬を膨らませて不満そうな顔をしながらも、謝罪をしてソファに腰を下ろしました。

「ということは、ミドルレイ子爵令嬢は俺を、ロウト卿はアンナの人生をやり直すようにさせたのか?」
「そういうことです」
「アデルバート様、ミドルレイ子爵令嬢ではなく、ビアナと呼んでいただきたいですわ!」

 ミドルレイ子爵令嬢が両拳を握りしめて言うと、アデルバート様は首を横に振ります。

「遠慮しておく」
「ど、どうしてですか?」

 こてんと首を傾げる仕草や表情は、とても可愛らしいのですが、明らかに媚を売っているのがわかります。
 アデル様は女性が苦手ですし、ミドルレイ子爵令嬢に殺されたことがあるのですから、名前を呼ぶことも嫌なのでしょう。

「君のことは好きじゃない」
「……ど、どうして、そんなことを言うんですか! 私とアデルバート様は運命の相手なのですよ!?」
「運命の相手がいるとするならば、俺にはアンナしかいない」

 アデル様は隣に座る私の手を握ると、動揺している私に話しかけます。

「アンナはどう思う?」
「そ、それはもちろん、そのっ、私に運命の相手がいるとするならば、アデル様だと思います!」
「それなら良かった」

 アデル様は私には微笑んでくれましたが、ミドルレイ子爵令嬢には冷たい目を向けます。

「俺のことは諦めてくれ。君のことを好きになる日は永遠に来ない」
「……そんな……、酷い。酷いわ!」

 ミドルレイ子爵令嬢は泣き出すかと思いましたが、そうではなく、怒りで体が打ち震えているようです。このままではミルーナさんの時のように喧嘩になる恐れがありますので、先に聞いておきたいことを尋ねます。

「ミドルレイ子爵令嬢にお聞きします。どうして、あなたは、アデル様に人生を何度もやり直させたのですか?」
「……そんなの簡単じゃない。アデルバート様を私のものにするためよ!」
「運命の人だと思っているんですよね。運命の人なら、そんなことをしなくても結ばれるのではないですか?」
「うるさいわね! アデルバート様が私に気づかないからいけないのよ!」

 興奮したミドルレイ子爵令嬢は立ち上がると、中身が入ったティーカップを私に投げつけてきたました。それと同時にアデル様が動き、ティーカップを手で払ってくれましたので、私にお茶がかかることはありません。

「アデル様! 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。ティーカップは大丈夫じゃないけどな」

 ローテーブルに落ちたティーカップは割れてしまい、中身と共に散乱しています。

「あ、あの、その」

 冷静になってミドルレイ子爵令嬢が自分のしたことに焦りますが、許すことはできません。

「なんてことをするんですか!」

 私は膝の上に置いていたシルバートレイを手にとって立ち上がると、ブーメランのようにミドルレイ子爵令嬢に向かって投げたのでした。
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