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35 自分のことしか考えていませんね!
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昼休み、私が来ないことに痺れを切らして、ヴィーチがやって来るかもしれないと、ミルルンたちに話をしていました。ですが、彼は中々、食堂に姿を現しませんでした。和やかに食事を済ませ、教室に戻ろうと食堂の出入り口に向かっていると、突然、叫び声が聞こえました。
「何するのよ!」
「それはこっちの台詞ですわ!」
女性同士が言い争っているようです。その、どちらの声も聞いたことがありましたので、私はミルルンたちに話しかけます。
「ミドルレイ子爵令嬢とミルーナさんの声です。もう少し、食堂にいても良いですか?」
「もちろんよ。それにしても、食堂の出入り口は一つしかないんだから、そんな所で喧嘩しないでほしいわね。みんなの迷惑になるじゃない」
シェラルが眉根を寄せて言いました。どうして二人が喧嘩をしているのか気にはなりますが、私の顔を見れば、二人の怒りの矛先は私に変わるでしょう。私は良い人ではありませんので、自分を犠牲にしてまで喧嘩を仲裁する気はありません。
「アデルバート様はあたしのものよ!」
「いいえ! いつかはわたしのものになる人です!」
ミドルレイ子爵令嬢とミルーナさんは、アデル様を取り合って喧嘩しているようです。
それにしても、いつの間にアデル様がミドルレイ子爵令嬢のものになったのでしょうか。ミルーナさんも婚約者がいるのに、そんなことを言って良いんですかね……。
「おい、アデル。お前を巡って、女性二人が取っ組み合いの喧嘩してるぞ」
「警備員が止めてくれるだろ」
今日は食堂で食べていたようで、アデル様たちの声が聞こえて振り返ると、うんざりした様子のアデル様の姿が見えました。
「あんたなんて、お呼びじゃないのよ! どうして、今回はアデルバート様を気にするの! 今まではフロットル卿が好きだったんでしょう!?」
「エイン様のことはもう忘れたの!」
「何よ、それ! あんたにはロウト伯爵令息がいるでしょう! 痛いっ! 髪を引っ張らないでよ!」
聞いているだけで、なんだか気の毒な気持ちになる会話です。
「アンナ嬢」
ロウト伯爵令息が近づいてきて、私に小声で話しかけてきます。
「話し合いの場だけど、次の休みはどうかな」
「かまいません」
「場所だけど」
ロウト伯爵令息が話している途中で、アデル様が私とロウト伯爵令息の間に体を割り込ませてきました。
「近づき過ぎだ」
「……すみません」
アデル様に注意された、ロウト伯爵令息は素直に謝りました。
「アンナに話しかける前に、自分の婚約者が派手に喧嘩してるんだ。止めてこいよ」
「……わかりました」
ロウト伯爵令息は頷くと、私に視線を移して言います。
「場所は改めて伝えるよ」
「承知いたしました」
ロウト伯爵令息はアデル様に軽く一礼して、ミルーナさんたちのいる方向に歩いていきました。すでに警備員や先生によって喧嘩は止められており、二人共、職員室に連れて行かれるようです。
「二人はどうして、喧嘩になったのでしょうね」
「わからない。気持ちだけはありがたいと思うが、それ以外については迷惑なことは確かだな」
アデル様はそう言って、ため息を吐きました。
気持ちが有り難いと思わないといけないのは、自分がいつか上に立つ人間なので、どんな気持ちも受け止めないといけないからなのでしょうね。となると、辺境伯夫人になる私も、こんな人たちもいるのだと納得するしかないのでしょうか。
******
噂でしかありませんが、二人が喧嘩をした理由を聞いてみたところ、たまたま食堂を出るタイミングが同じだったようで、ミドルレイ子爵令嬢がミルーナさんに喧嘩を売ったようです。
今回の喧嘩がきっかけで、ミルーナさんの本性がバレてしまいました。親の爵位が奪われ、可哀想だと同情の声もあった彼女でしたが、自分を助けてくれた人であり、婚約者でもあるロウト伯爵令息を裏切る発言をしていたため、ミルーナさんに軽蔑の眼差しを送る人が増えたそうです。
それはそうですよね。婚約者がいるのに他の男性のことで喧嘩しているのですから。簡単に挑発にのってしまったのは、ミルーナさんもかなりのストレスが溜まっていたからなんでしょう。
……自分本位でわがままですから、自分のことを悪く言われて腹が立っただけかもしれませんが。
放課後、ニーニャたちと一緒に馬車の乗降場に向かおうとしていると、後ろから声をかけられました。
声の主はヴィーチでした。
「おい! レイガス伯爵令嬢!」
「……なんでしょうか」
ヴィーチは怒りの形相で叫びます。
「どうして来なかったんだ!?」
「……やはり、手紙の主はあなただったんですね」
「うるさい! 人を持たせるならまだしも、来ないなんてどういうことだ!?」
「宛名も差出人も書かれていないんです。怪しすぎて行く気にはなりません」
そういえば、ヴィーチは屋上で私を待っていたから、ミルーナさんの件は噂でしか知らないんでしょうね。どれくらい待っていたのでしょう。ここは謝らないといけないのでしょうか。
「……アンナさん」
憤っているヴィーチの後ろから、ミルーナさんが姿を現しました。外見の美しさは相変わらずですが、喧嘩をした時に引っかかれたのか、白い頬に3本の線傷があります。
「ごきげんよう、ミルーナさん」
「ご、ごきげんよう。あのね、わたしたち、仲直り、しない?」
「しません」
私は迷うことなく答えました。
この人たち、本当に自分のことしか考えていませんね!
ちょうど良い機会です。これを機に、二人との縁を無理矢理にでも断ち切ることにしましょう。
「何するのよ!」
「それはこっちの台詞ですわ!」
女性同士が言い争っているようです。その、どちらの声も聞いたことがありましたので、私はミルルンたちに話しかけます。
「ミドルレイ子爵令嬢とミルーナさんの声です。もう少し、食堂にいても良いですか?」
「もちろんよ。それにしても、食堂の出入り口は一つしかないんだから、そんな所で喧嘩しないでほしいわね。みんなの迷惑になるじゃない」
シェラルが眉根を寄せて言いました。どうして二人が喧嘩をしているのか気にはなりますが、私の顔を見れば、二人の怒りの矛先は私に変わるでしょう。私は良い人ではありませんので、自分を犠牲にしてまで喧嘩を仲裁する気はありません。
「アデルバート様はあたしのものよ!」
「いいえ! いつかはわたしのものになる人です!」
ミドルレイ子爵令嬢とミルーナさんは、アデル様を取り合って喧嘩しているようです。
それにしても、いつの間にアデル様がミドルレイ子爵令嬢のものになったのでしょうか。ミルーナさんも婚約者がいるのに、そんなことを言って良いんですかね……。
「おい、アデル。お前を巡って、女性二人が取っ組み合いの喧嘩してるぞ」
「警備員が止めてくれるだろ」
今日は食堂で食べていたようで、アデル様たちの声が聞こえて振り返ると、うんざりした様子のアデル様の姿が見えました。
「あんたなんて、お呼びじゃないのよ! どうして、今回はアデルバート様を気にするの! 今まではフロットル卿が好きだったんでしょう!?」
「エイン様のことはもう忘れたの!」
「何よ、それ! あんたにはロウト伯爵令息がいるでしょう! 痛いっ! 髪を引っ張らないでよ!」
聞いているだけで、なんだか気の毒な気持ちになる会話です。
「アンナ嬢」
ロウト伯爵令息が近づいてきて、私に小声で話しかけてきます。
「話し合いの場だけど、次の休みはどうかな」
「かまいません」
「場所だけど」
ロウト伯爵令息が話している途中で、アデル様が私とロウト伯爵令息の間に体を割り込ませてきました。
「近づき過ぎだ」
「……すみません」
アデル様に注意された、ロウト伯爵令息は素直に謝りました。
「アンナに話しかける前に、自分の婚約者が派手に喧嘩してるんだ。止めてこいよ」
「……わかりました」
ロウト伯爵令息は頷くと、私に視線を移して言います。
「場所は改めて伝えるよ」
「承知いたしました」
ロウト伯爵令息はアデル様に軽く一礼して、ミルーナさんたちのいる方向に歩いていきました。すでに警備員や先生によって喧嘩は止められており、二人共、職員室に連れて行かれるようです。
「二人はどうして、喧嘩になったのでしょうね」
「わからない。気持ちだけはありがたいと思うが、それ以外については迷惑なことは確かだな」
アデル様はそう言って、ため息を吐きました。
気持ちが有り難いと思わないといけないのは、自分がいつか上に立つ人間なので、どんな気持ちも受け止めないといけないからなのでしょうね。となると、辺境伯夫人になる私も、こんな人たちもいるのだと納得するしかないのでしょうか。
******
噂でしかありませんが、二人が喧嘩をした理由を聞いてみたところ、たまたま食堂を出るタイミングが同じだったようで、ミドルレイ子爵令嬢がミルーナさんに喧嘩を売ったようです。
今回の喧嘩がきっかけで、ミルーナさんの本性がバレてしまいました。親の爵位が奪われ、可哀想だと同情の声もあった彼女でしたが、自分を助けてくれた人であり、婚約者でもあるロウト伯爵令息を裏切る発言をしていたため、ミルーナさんに軽蔑の眼差しを送る人が増えたそうです。
それはそうですよね。婚約者がいるのに他の男性のことで喧嘩しているのですから。簡単に挑発にのってしまったのは、ミルーナさんもかなりのストレスが溜まっていたからなんでしょう。
……自分本位でわがままですから、自分のことを悪く言われて腹が立っただけかもしれませんが。
放課後、ニーニャたちと一緒に馬車の乗降場に向かおうとしていると、後ろから声をかけられました。
声の主はヴィーチでした。
「おい! レイガス伯爵令嬢!」
「……なんでしょうか」
ヴィーチは怒りの形相で叫びます。
「どうして来なかったんだ!?」
「……やはり、手紙の主はあなただったんですね」
「うるさい! 人を持たせるならまだしも、来ないなんてどういうことだ!?」
「宛名も差出人も書かれていないんです。怪しすぎて行く気にはなりません」
そういえば、ヴィーチは屋上で私を待っていたから、ミルーナさんの件は噂でしか知らないんでしょうね。どれくらい待っていたのでしょう。ここは謝らないといけないのでしょうか。
「……アンナさん」
憤っているヴィーチの後ろから、ミルーナさんが姿を現しました。外見の美しさは相変わらずですが、喧嘩をした時に引っかかれたのか、白い頬に3本の線傷があります。
「ごきげんよう、ミルーナさん」
「ご、ごきげんよう。あのね、わたしたち、仲直り、しない?」
「しません」
私は迷うことなく答えました。
この人たち、本当に自分のことしか考えていませんね!
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