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32  正体がわかりました

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 デルト様が言うには、禁断の魔法の話をミドルレイ子爵令嬢が幼い頃にメイドに話をしており、そのメイドから話を聞いたとのことでした。

「ミドルレイ子爵令嬢は、人が死んでも生き返らせることができると言っていたらしい」

 正確には時間を巻き戻すことができる、なのでしょうけれど、子どもの時には理解ができなかったのでしょう。

 子どもの言うことだから夢で見た話をしているのだろうと思い、笑って聞き流した話だということですが、私とアデルバート様にとっては笑い事ではすみません。

「子どもの作り話だと思っていたんだが、心当たりでもあるのか?」

 私たちの反応が思っていたものと違ったのか、デルト様が尋ねてきました。

 何度も人生をやり直しているという話をしても良いのかわからなくて、アデルバート様を見ると、悲しそうに顔を歪めたので話すことはやめました。
 アデルバート様は何度目かは忘れたようですが、巻き戻りの話を両親にしたことがあるそうです。そして、その時は自分だけでなく、事故という形で家族も一緒に殺されてしまったそうです。そのことを考えると、両親を巻き込みたくないという気持ちはわかります。

 何がきっかけで人の殺意が湧き出るのかわかりません。この話は、今となってはミドルレイ子爵令嬢にしてみれば知られたくない話でしょう。デルト様たちの身の安全を考えると、この話は嘘だと思ってもらったほうが良いのですよね。

「……いえ。驚いてしまっただけです。きっと、作り話だと思います。人を生き返らせるなんて無理ですもの」
「そうだよ、夢物語だ」

 何も知らないと嘘をつくのは心苦しいです。でも、デルト様たちを巻き込みたくないので、私たちは知らないフリをしたのでした。



******

 帰りはアデルバート様が家まで送ってくれることになりました。馬車に乗り込んで、情報を整理します。

 ミドルレイ子爵令嬢は、彼女のお兄様も同じく禁断の魔法が使えると言っていたようです。二人に接点ができたのは、彼の両親が娘を監視するために、兄と近づけさせたのだと考えられます。そして、禁断の魔法の使い方をミドルレイ子爵令嬢に教えたのは、彼女の兄なのでしょう。両親は監視役に付けたつもりが、息子が裏切ったという形になるのではないかというのが、私とアデルバート様の考えでした。

「彼が黒幕だったとはな……」
「……そうですね。でも、言われてみれば納得はできます」
「だから、アンナを気にかけてたんだろうけど、どうして、アンナで運命を変えようとしたんだろうか」
「わかりません。私が殺されたからでしょうか」
「アンナが殺されて困ることがあったから、アンナを生き返らせたということか?」

 本人に話を聞いたわけではありませんので、まだ、時間が巻き戻ることについての詳しい話はわかりません。

「私が殺されて困ることって何なのでしょうか」
「……アンナの死因は俺とは違ってバラバラだったよな。……ということは」 

 アデルバート様は眉根を寄せて「そういうことか」と呟きました。

「何かわかりましたか?」
「ああ。本人に確認したわけじゃないから、絶対とは言えないけどな」
「ぜひ、教えていただきたいです! それから、あとで良いので教えていただきたいんですが、アデルバート様が人生をやり直していた件についてはどういうことかわかりますか?」
「俺のほうは全くわからない。アンナはわかりそうか?」
「私も絶対とは言えませんが、ミドルレイ子爵令嬢の考えていることは単純だと思います。初めてアデルバート様の時間を巻き戻したのは、彼女が六歳の頃です。一回目はアデルバート様が亡くなったことがショックで、時間を巻き戻したのではないでしょうか」

 アデルバート様は首をひねりながら答えます。

「俺と彼女との接点はないんだ。それなのに、どうして俺のことが好きなんだ?」
「アデルバート様が気づいていないだけで、何かあったのかもしれませんね」

 これからどうしていくのか話をしているうちに、馬車は私の家に辿り着いたのでした。


*****


「君に話したいことがある」

 デルト様から話を聞いた、次の日の放課後、ニーニャたちと別れ、馬車に乗り込もうとした私にそう話しかけてきたのは、ロウト伯爵令息でした。

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