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31  いらない子

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 教室に戻って、ロウト伯爵令息からの助言で思いついたことをアデルバート様に話してみると、私の考えに納得してくれたのか頷きました。

「そう言われてみればそうだな。ミルーナ嬢はアンナにかなりこだわっていたし、婚約者を奪った理由もアンナのものは自分のものだという考えからだったみたいだしな」
「そのことにマイクス侯爵令息が気づいたのであれば、自分を選んでもらうために、私を誘惑しようとしたのかもしれません」
「でも、アンナはもう妹じゃない。それに、婚約者がいる相手を誘惑しようだなんておかしいだろ」
「普通の人はそう考えますが、マイクス侯爵令息はそんな人間ではありません。ミルーナさんと同じ考えで、私の人生などどうでも良いのでしょう」
「最低な奴だな」

 アデルバート様は呟いたあと、難しい表情のまま、話を続けます。

「ロウト伯爵令息はミルーナ嬢に自分を奪わせたいから、アンナが誰かを好きになるなら、自分を好きになってほしいと言ったんだろうけど、すでに彼は婚約者だろ。何で、そんなことを言うんだ?」
「ミルーナさんはまだ、私にこだわっているのかもしれませんね」
「希望を口に出しただけとはいえ、俺にしてみれば気に入らないな」
「私がロウト伯爵令息を選んだりしたら、アデルバート様を裏切る行為になりますものね」
「アンナを信じてるけど、気に入らないものは気に入らない。人の婚約者を狙ってるんだからな」

 アデルバート様は自分のことを滑られていると感じているみたいです。それはそうですよね。

「もし、私がロウト伯爵令息を好きになったとしても、勝手に私が相手を好きになったのだと言い張るのでしょうね」
「自分は悪くないってか」
「そういうことでしょう。……復讐のことだけ考えるのなら、ヴィーチの思惑に気づかないふりをすれば良いんですけど、好きなふりをするのは無理です」

 頑張って演技をしようとしても、ストレスでどうにかなってしまいそうです。

「アンナが頑張らなくても、このままいけばマイクス侯爵令息はどうせ不幸になる。ミルーナ嬢はロウト伯爵令息と結婚するだろうからな。その時点て、彼はかなりのショックだろう。今は無理して動かなくていい」
「……ありがとうございます。私はアデルバート様の婚約者ですから、演技でも違う人を好きなふりをするのは無理です」

 問題は残っていますが、眉間に皺を寄せているアデルバート様に微笑むと、笑顔を見せてくれました。でも、すぐにまた、難しい表情になって言います。

「考えてみたら、マイクス侯爵令息はミルーナ嬢が結婚してからも、アンナを憎んでたんだよな」
「そうなんです。それが問題なんですよね」

 ヴィーチのことはまだ、警戒を怠ってはいけません。それに、ロウト伯爵令息のことも気になります。

 どうせ、殺されるのだと最初は思っていましたが、今が幸せですので、やっぱり殺されたくありません。アデルバート様のように生き残る未来を勝ち取らなければ!


******


 特に動きがないまま数日が過ぎ、ミドルレイ子爵令嬢のことがわかったと連絡がありました。学園が休みの日に、ローンノウル侯爵邸に向かうと、侯爵夫妻が揃って出迎えてくれました。応接室に通されて最初の1時間ほどは、デビュタントの時の話などで侯爵夫妻から恥ずかしくなるくらい、褒めちぎられました。

 成績が良いだけでなく、外見や性格まで褒められると、お世辞だとわかっていても調子に乗ってしまいそうになって危ないところでした。

 アデルバート様が「アンナが可愛いのは前からわかっているでしょう。本題に入ってください」と言ってくれてやっと、ミドルレイ子爵令嬢の話になったのでした。

 ミドルレイ子爵令嬢は生まれてすぐに養女に出されているそうです。
 ……というのも、ミドルレイ子爵令嬢も、私と同じように、本当の両親からいらない子だと判断されたからだと教えてもらいました。

「どうして、いらないと言われたのでしょうか」
「望んでいなかった子どもらしい」 
「……そうだったんですね」
 
 アデルバート様のお父様である、デルト様は眉尻を下げて言います。

「彼女の場合は幼い頃から、自分が養女であることを知らされていた。だから、本当の兄との交流も密かに行われていたらしい」
「そんなことをするくらいなら、養女に出さなければ良かったのではないでしょうか。本当にいらない子だったのですか?」

 デルト様に言っても意味がないのに、つい、強い口調で聞いてしまいました。デルト様は気を悪くした様子は見せずに答えます。

「ここからが信じられない話なんだが、その家に女の子が生まれると不吉だということで養女に出された。だから、家にとってはいらない子なんだ」
「……不吉、ですか」
「ああ。その家では女の子が生まれると、禁断の魔法が使えるようになるらしい」
「「禁断の魔法?」」

 心当たりがある私とアデルバート様は、声を揃えて聞き返したのでした。

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