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29  愛の告白! ……ではないですね

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 ニーニャの侍女に教えられた場所は、中庭に続く扉がある場所でした。

「マイクス侯爵令息はニーニャを連れ出して、何をするつもりなのでしょうか」
「どうにかしてアンナと話したそうだったから、伝言を頼むつもりだったのか、ニーニャを人質にアンナを呼び出すつもりだったか。今のところ考えられるとしたら、それくらいだな」
「私に近づいて、何をしようとしているんでしょうか」

 アデルバート様が答える前に、私はニーニャの姿を見つけて叫びます。

「ニーニャ!」
「アンナさん! アデルバート様!」 
 
 ニーニャは私たちの所へ駆け寄ってくると、何度も謝ります。

「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「謝らなくて良いですよ。一体、何があったのですか?」

 ニーニャをなんとか落ち着かせて、話を聞いてみることにします。

「よ、よ……、用事があるから、中庭に一緒に来いと言われたんです。どんな用かと尋ねたら、ここでは話せないって……。ア、アンナさんたちに……、ほ、報告してから行きますと言ったら、無理やり連れて行かれそうになったので、助けを求めたんです」
「怖かったですよね。もう、大丈夫ですよ」

 震えるニーニャの背中を優しく撫でると、ニーニャは泣き始めてしまいました。私がニーニャと話をしている間に、アデルバート様がヴィーチに話しかけます。

「一体、どういうことだ」
「話があったから、人がいない所へ移動しようとしただけだ。君にどうこう言われる筋合いはない」
「婚約者がいる令嬢が婚約者でもない若い男に連れて行かれそうになってるんだ。気にするのは当然だろ。人がいない所へ連れて行って本当に話をするだけだったのか?」
「当たり前だろう!」
「話だけならどこでもできるだろう。二人きりにならないといけないと言う時点で、怪しまれても仕方がないんだよ」

 アデルバート様に睨みつけられたヴィーチは、少し怯んだ様子を見せました。

「ニーニャは戻っていてください」
「でも……」

 怯えているニーニャを一人で戻すのも心配なので、警備兵に頼むと、頷きはしましたが尋ねてきます。

「アンナ様たちはどうされるのですか?」
「どうしても私と話したいようですから、話を聞こうと思います」

 シルバートレイを見せながら笑顔で答えると、警備兵はニーニャを連れて会場のほうへ歩いていきました。私の実力は知っていますし、アデルバート様もいるので大丈夫だろうと判断したのでしょう。

 警備兵二人とニーニャを見送ってから、ヴィーチに話しかけます。

「マイクス侯爵令息、話したいことがあるなら、今のうちにどうぞ。すぐにお父様たちが来ますわよ」
「……二人きりで話がしたい」
「お断りします。今、ここで話してください」
「個人的な話なんだ!」
「アンナに嫌なことをしておいて、自分の願いは聞いてほしいなんて都合の良いことを言うな。話を聞いてもらえるだけでも感謝しろよ」

 アデルバート様に厳しい口調で言われたヴィーチは、舌打ちをしたあとに渋々といった様子で口を開きます。

「アンナ嬢、僕は恋愛対象として君のことが好きになった」
「はい!?」
「はあ?」
 
 私とアデルバート様が大きな声で聞き返すと、ヴィーチは不機嫌そうに眉根を寄せました。

 ヴィーチが私を好きになったなんて嘘です。絶対に何か魂胆があるに決まっています。

 ヴィーチは笑顔を作って話しかけてきます。

「最近の君はよく頑張っているし、顔だって可愛くなって」
「あの、申し訳ございませんが、気持ちを伝えていただいても、私はありがとうございました、としか言えませんので、もう良いです」

 ヴィーチの言葉を遮り、笑顔で話を続けます。

「私のことを好きだと言ってくださるのは有り難いことですが、気持ちには応えられません」
「そ、そんな、少しくらい考えてくれてもいいだろう」
「私にはアデルバート様がいるのですよ? 考える必要もないでしょう。ですので、もし、次にあなたが私や友人に付きまとうなどの迷惑行為をした場合は、マイクス侯爵家がそれを許しているものだとして、社交場で話します」
「や、やめてくれ!」

 さすがのヴィーチも家族の名誉を汚されるのは嫌なようです。焦った顔をするヴィーチに、シルバートレイを持ったままカーテシーをします。

「本日はお越しいただき、ありがとうございました。気をつけてお帰りになってください」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 手を伸ばしてきたヴィーチの手をシルバートレイで叩きます。

「私の大切な友人に怖い思いをさせたんです。お咎めなしで帰らせてもらえるだけ、有り難いと思ってくださいませ」
「気持ちを伝えたんだぞ! そんな態度はないだろう!」
「これ以上、何か言うなら俺が相手になるぞ」
「ぐっ!」

 アデルバート様に睨まれたヴィーチは、悔しそうな顔をしていましたが、それ以上は何も言うことはできませんでした。

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