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その日の放課後、ちょうどアデルバート様と出かける予定でしたので、予約しているカフェに向かう馬車の中で、昼休みの話をしてみました。
「アンナは、ミドルレイ子爵令嬢が、お兄様、と言おうとしたんじゃないかと思うんだな?」
「はい」
「オニという名前がつく誰かの可能性は本当にないのか?」
「それもあるかと思ったんですが、お兄様と言おうとしたんじゃないかと思うんです」
何の根拠もありません。私が知らないだけかもしれませんが、ミドルレイ子爵令嬢の周りにオニが付く名の人も確認できませんでした。
彼女はミドルレイ子爵家に養女として出されています。どこの家の子どもなのかわからないというところも不自然です。
「ミドルレイ子爵令嬢には兄はいません。彼女が養女になったあとに、ミドルレイ子爵夫妻には子どもができて、その子は男の子ですが……」
「弟のことを、お兄様とは言わないよな」
「はい」
「跡継ぎが生まれたあとに、養女だからといって可愛がられていないわけでもなさそうだし、元々の家が恋しいというわけでもないだろうし」
「そうですよね。侯爵家に釣書を送ってくるくらいですから、子爵夫妻は娘のことがよっぽど可愛いのでしょう」
ミドルレイ子爵令嬢は男性の庇護欲をそそる、可愛らしいタイプの令嬢です。少し甲高くて間延びした声が気に入らないという一部の女子生徒が彼女を避けているようですが、いじめられているわけではなさそうです。
受け止め方によって変わるかもしれませんが、無視をすることと関わらないようにすることとは、また違いますものね。
釣書の件を話したからか、アデルバート様が言います。
「言っておくけど、俺は見合いの件は断ってるからな」
「もちろん存じ上げております。ソールノ様から何度もお聞きしています」
ソールノ様というのは、アデルバート様のお母様のことです。何度かお会いしているのですが、娘がいないからか、私のことをとても可愛がってくれています。
会う度に、アデルバート様が私のことを大事に思ってくれていると教えてくれるので、不安になったことはありません。
私とアデルバート様には共通の秘密がありますから、裏切られることはないと安心しきっているのですが、もし、ミドルレイ子爵令嬢も同じように、時間を巻き戻っているなら、状況は違ってくるのでしょうか。
「……どうかしたのか?」
表情が曇ってしまっていたのか、アデルバート様が顔を覗き込んできました。
「大丈夫です」
「アンナがそんなに気にするなら、詳しく調べてもらうことにする。ピンチの時に咄嗟に助けを求める相手なら、何らかの形でやり取りはしているだろうからな」
ミドルレイ子爵令嬢のことを警戒はしていましたが、学園の外での様子までは調べていなかったみたいです。
まだ、アデルバート様も学生ですから、個人的に調べるのにも限界があるのでしょう。まさか、昔、彼女に殺されたなんて、両親にも言えないですものね。何度も人生をやり直すだなんて、経験したことのある人でしか、中々、信じられないことですから。
「ありがとうございます。お手数をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします」
「俺にもかかわることかもしれないし、アンナのためなら苦じゃない」
「……ありがとうございます」
真剣な表情で見つめられて、心臓の鼓動が速くなります。
ここ最近のアデルバート様は、急に男の子から男性に変わった気がします。
エイン様のことで、もう恋なんてしないと思いましたが、自分の気持ちを抑えることって、本当に難しいのですね。今になって、あの時のニーニャの気持ちがわかるようになりましたが、エイン様とアデルバート様を一緒にすることは失礼ですかね。
******
その後、アデルバート様がご両親に相談してくれたところ、ミドルレイ子爵令嬢の出生を調べてもらえることになりました。一般的に個人的なことを他人が深く探るというのは良いことではありません。普通なら、ミドルレイ子爵令嬢の学園での付きまとい行為を権力で抑えつければ良いのですが、くだらないことに権力を使いたくなかったようです。でも、私のために堪忍袋の緒が切れたという設定で調べてくれるそうです。
調べてもらっている間は学園生活に専念していたのですが、私も十六歳になるということで、社交界デビューをすることになりました。悲しいかな、今までの人生で社交界デビューをしたことは一度もありませんので、不安な気持ちもありますが、ここは開き直っていこうと思います。
私たちの住んでいる国では、デビュタントの際のパートナーは婚約者がいる人は婚約者でもかまわないのですが、一般的には父親がすることになっています。ですので、私はお父様にパートナーになってもらうことにしました。アデルバート様もパーティーに出席するので、晴れ姿を見守ってもらえますし、良いですよね。
ダンスの練習をしたり、礼儀作法を改めて覚え直したりとしている内に、デビュー当日になりました。
「「うちの娘が一番可愛い」」
お父様とお母様は白のドレスを着た私を見て、しまりのない顔になっています。
「ありがとうございます」
今まで社交場で見てきた、どの令嬢よりも可愛いと褒めてもらい、お世辞だとわかっていますが、嬉しくて笑みがこぼれてしまいます。
今日のパーティーは夜に行われますので、イブニングドレスです。シニヨンにした髪に大きめのピンク色の花飾りをつけてもらいました。
今日はニーニャたちも来るので、正装姿を見るのが楽しみです!
ただ、一つだけ問題がありました。このパーティーにヴィーチが来るのです。私の家は伯爵家ですので、侯爵家に招待状を送らざるを得なかったのです。そして、長男は出席せず、ヴィーチだけ出席すると返事が来た時は、断ってくると思っただけに焦りました。最近の彼が大人しい分、今回のパーティーで何か動いてくるかもしれません。
どんなことをしてこようが負けるつもりはありません。私が強くなったことをヴィーチは知りませんし、今回はティアトレイという商品名のシルバートレイもありますから受けてたつことにします!
「アンナは、ミドルレイ子爵令嬢が、お兄様、と言おうとしたんじゃないかと思うんだな?」
「はい」
「オニという名前がつく誰かの可能性は本当にないのか?」
「それもあるかと思ったんですが、お兄様と言おうとしたんじゃないかと思うんです」
何の根拠もありません。私が知らないだけかもしれませんが、ミドルレイ子爵令嬢の周りにオニが付く名の人も確認できませんでした。
彼女はミドルレイ子爵家に養女として出されています。どこの家の子どもなのかわからないというところも不自然です。
「ミドルレイ子爵令嬢には兄はいません。彼女が養女になったあとに、ミドルレイ子爵夫妻には子どもができて、その子は男の子ですが……」
「弟のことを、お兄様とは言わないよな」
「はい」
「跡継ぎが生まれたあとに、養女だからといって可愛がられていないわけでもなさそうだし、元々の家が恋しいというわけでもないだろうし」
「そうですよね。侯爵家に釣書を送ってくるくらいですから、子爵夫妻は娘のことがよっぽど可愛いのでしょう」
ミドルレイ子爵令嬢は男性の庇護欲をそそる、可愛らしいタイプの令嬢です。少し甲高くて間延びした声が気に入らないという一部の女子生徒が彼女を避けているようですが、いじめられているわけではなさそうです。
受け止め方によって変わるかもしれませんが、無視をすることと関わらないようにすることとは、また違いますものね。
釣書の件を話したからか、アデルバート様が言います。
「言っておくけど、俺は見合いの件は断ってるからな」
「もちろん存じ上げております。ソールノ様から何度もお聞きしています」
ソールノ様というのは、アデルバート様のお母様のことです。何度かお会いしているのですが、娘がいないからか、私のことをとても可愛がってくれています。
会う度に、アデルバート様が私のことを大事に思ってくれていると教えてくれるので、不安になったことはありません。
私とアデルバート様には共通の秘密がありますから、裏切られることはないと安心しきっているのですが、もし、ミドルレイ子爵令嬢も同じように、時間を巻き戻っているなら、状況は違ってくるのでしょうか。
「……どうかしたのか?」
表情が曇ってしまっていたのか、アデルバート様が顔を覗き込んできました。
「大丈夫です」
「アンナがそんなに気にするなら、詳しく調べてもらうことにする。ピンチの時に咄嗟に助けを求める相手なら、何らかの形でやり取りはしているだろうからな」
ミドルレイ子爵令嬢のことを警戒はしていましたが、学園の外での様子までは調べていなかったみたいです。
まだ、アデルバート様も学生ですから、個人的に調べるのにも限界があるのでしょう。まさか、昔、彼女に殺されたなんて、両親にも言えないですものね。何度も人生をやり直すだなんて、経験したことのある人でしか、中々、信じられないことですから。
「ありがとうございます。お手数をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします」
「俺にもかかわることかもしれないし、アンナのためなら苦じゃない」
「……ありがとうございます」
真剣な表情で見つめられて、心臓の鼓動が速くなります。
ここ最近のアデルバート様は、急に男の子から男性に変わった気がします。
エイン様のことで、もう恋なんてしないと思いましたが、自分の気持ちを抑えることって、本当に難しいのですね。今になって、あの時のニーニャの気持ちがわかるようになりましたが、エイン様とアデルバート様を一緒にすることは失礼ですかね。
******
その後、アデルバート様がご両親に相談してくれたところ、ミドルレイ子爵令嬢の出生を調べてもらえることになりました。一般的に個人的なことを他人が深く探るというのは良いことではありません。普通なら、ミドルレイ子爵令嬢の学園での付きまとい行為を権力で抑えつければ良いのですが、くだらないことに権力を使いたくなかったようです。でも、私のために堪忍袋の緒が切れたという設定で調べてくれるそうです。
調べてもらっている間は学園生活に専念していたのですが、私も十六歳になるということで、社交界デビューをすることになりました。悲しいかな、今までの人生で社交界デビューをしたことは一度もありませんので、不安な気持ちもありますが、ここは開き直っていこうと思います。
私たちの住んでいる国では、デビュタントの際のパートナーは婚約者がいる人は婚約者でもかまわないのですが、一般的には父親がすることになっています。ですので、私はお父様にパートナーになってもらうことにしました。アデルバート様もパーティーに出席するので、晴れ姿を見守ってもらえますし、良いですよね。
ダンスの練習をしたり、礼儀作法を改めて覚え直したりとしている内に、デビュー当日になりました。
「「うちの娘が一番可愛い」」
お父様とお母様は白のドレスを着た私を見て、しまりのない顔になっています。
「ありがとうございます」
今まで社交場で見てきた、どの令嬢よりも可愛いと褒めてもらい、お世辞だとわかっていますが、嬉しくて笑みがこぼれてしまいます。
今日のパーティーは夜に行われますので、イブニングドレスです。シニヨンにした髪に大きめのピンク色の花飾りをつけてもらいました。
今日はニーニャたちも来るので、正装姿を見るのが楽しみです!
ただ、一つだけ問題がありました。このパーティーにヴィーチが来るのです。私の家は伯爵家ですので、侯爵家に招待状を送らざるを得なかったのです。そして、長男は出席せず、ヴィーチだけ出席すると返事が来た時は、断ってくると思っただけに焦りました。最近の彼が大人しい分、今回のパーティーで何か動いてくるかもしれません。
どんなことをしてこようが負けるつもりはありません。私が強くなったことをヴィーチは知りませんし、今回はティアトレイという商品名のシルバートレイもありますから受けてたつことにします!
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