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24  冷たい人間と言われてもかまいません

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「ふざけたこと言いやがって」

 アデルバート様が元ディストリー伯爵に近づこうとしたので、慌てて腕を掴んで止めます。

「アデルバート様、怒ってくださりありがとうございます。ですが、気にしなければ良いことです」
「気にしなければって、気にするだろ」
「悪いと思っていない人間に感情をぶつけても同じです」

 これが自分のことではなかったら、私もアデルバート様と同じように怒ることでしょう。でも、自分のことだからか、馬鹿馬鹿しいという気持ちのほうが強いのです。

 あくまでも冷静に対処することにします。元ディストリー伯爵に厳しい口調で話しかけます。

「もう、あなたと私は他人です。しかも、あなたには過去に酷いことをされているんです。助ける筋合いはありませんよね」
「だから、私は何もしていないと言っているだろう! お前が学園に通えることになったのも、私がお金を出してやったからだぞ!」
「そのことについては感謝していますが、学費を払うからといって子どもを虐待しても良いなんてことはありませんよね」
「……わ、私は別に虐待なんてしていない!」

 わかってもらえそうにないので、ちゃんと説明することにします。

「あなたがたとえ指示していなくても、屋根裏部屋に娘が住んでいることをおかしいと思わない親は普通ではありえません。無関心も容認していることと同じですよ」
「しょ、しょうがないだろう。子育てはエイブリーに任せていたんだ。仕事が大変だったんだよ!」

 元ディストリー伯爵は、自分は悪くないと言いはります。
 もう、いいかげんにしてほしいものです。

「アンナ、もういいわ。ごめんなさいね。あなたに嫌な思いをさせるつもりではなかったの」

 お母様が近寄ってきて、私を抱きしめて謝ります。

「気にしないでください。私もエイブリーさんの悔しそうな姿が見れて、スッキリしましたから」
「……ありがとう。……でも、私は母親失格ね。自分のためにあなたをこんな所につれて来たんだもの」
「私はそうは思いません」
「……本当に?」
「はい」

 お母様が私の体を離したので、笑顔で頷きました。お母様は目に涙を浮かべています。憎い女性の子供である私を、こんな風に思ってくれているだけで十分です。

「私たちがいなければお前は生まれなかったんだぞ!」
「そうよ、感謝しなさい!」

 元ディストリー伯爵夫妻は生みの親だということをアピールしてきました。

 さて、スッキリするにはもっと言わせてもらわなければなりません。元ディストリー伯爵と呼ぶのは長いので、ディストリーさんと呼ばせてもらいます。

「ディストリーさん、お聞きしたいのですが、あなたはどうして、私にアンナと名付けたのですか?」
「……なんだって?」
「ですから、私の名前はどうしてアンナなのですか?」
「そ、それは、エイブリーが決めたんだ」

 ディストリーさんは縋るような眼差しでエイブリーさんを見つめました。すると、エイブリーさんは焦った顔をして首を横に振ります。

「わ、私は知らないわよ!」
「知らないってどういうことだ!? じゃあ、誰がアンナと名付けたんだ!?」
「知らないって言ってるじゃないの! 役所の人間が勝手につけたんじゃないの!?」
「そんなことを口に出す段階で普通ではありえないのですよ」

 言い争い始めた二人に、厳しい口調で真実を伝えます。

「名前を付けてくれたのは、以前、ここで働いていた執事です。あなたたちではなく、執事に付けてもらえて本当に良かったと思っています」
「わ、悪かった! 心を入れ替える! だから、過去のことは忘れて助けてくれ! ……そうだ。助けるのは私だけでいい! エイブリーが一番酷い奴だからな!」

 エイブリーさんを押しのけて、ディストリーさんは叫びました。
 本当に救いようがないですね。

「嫌です」
「……は?」

 驚いた表情のディストリーさんを見て、私も驚きます。
 どうして、助けてもらえるだなんて思うのでしょうか。

「私があなたを助けるわけがないでしょう」

 言葉を区切り、お父様たちに体を向けます。

「お父様、お母様、ディストリー夫妻と話をすることはもうありません。私とアデルバート様は別の場所で待っていても良いですか?」
「もちろんよ。本当にごめんなさい」

 お母様は本当に後悔しているようで、まだ涙目のままです。私は、自分の言いたいことを言える機会をもらえて良かったんですけどね。
 呆然としているディストリー夫妻に、笑顔で手を振って別れを告げます。

「では、さようなら。お元気で」
「ま、待ってくれ! そんな冷たいことを言わないでくれ!」

 背を向けた私でしたが、聞き捨てならない言葉だったので、足を止めて振り返りました。

「冷たい? ……そうですね。あなた方の血を引いているのですからそうなのでしょう。私は冷たいですから、あなた方を助けません」

 にこりと微笑んでみせると、今度こそ、私は部屋から出ていきました。

「悪かった! 謝るから許してくれ!」
「アンナ! ごめんなさい! あの時は本当にどうかしていたわ!」

 部屋から出ても二人の叫び声が聞こえてきました。

 男児が生まれなかったからショックを受けていたと言いたいのでしょうけれど、それは虐待をしても良いという理由にはなりません。
 
「大丈夫か?」
「はい!」

 尋ねてきたアデルバート様に笑顔で元気に頷くと、アデルバート様は優しい笑みを浮かべたあと、すぐに難しい顔になりました。

「ミルーナ嬢の姿が見えないが、一体、どうしているんだろうな」
「……私も気になっていました」

 私が来ているとわかれば、すぐに現れそうなものです。それなのに、現れないということは、この屋敷にはいないということなのでしょうか。
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