【書籍化のため引き下げ予定】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

２ 学園長の目に留まりました

　あっという間に日は過ぎて、６歳になった私は学園に入学することになりました。それと同時に、屋根裏部屋から三階の隅の部屋に移動しました。友人同士の会話で屋根裏部屋に住んでいるなんて言われると困るようで、何度もその話はしないようにと言われました。
　十二年間通うことになるローンノウル学園は、現ローンノウル侯爵の曾祖父が設立した共学校で貴族が多く通っています。成績優秀者以外は学費がとても高く、金銭面的に貴族しか通えないからです。　

　なぜ、家族に嫌われている私がこの学園に入れたかというと、お母様が勝手にライバル視しているレイガス伯爵夫人の発言からでした。元々は、お姉様だけこの学園に通わせるつもりでした。ですが、レイガス伯爵夫人から『あら、二人共を通わせる財力がないの？』と不思議そうにされ、私をこの学園に通わせざるを得なくなったのです。
　レイガス伯爵夫人はお母様がお姉様ばかり可愛がっていることに気づいていたようで、嫌味を言ってみたのだと５回目のやり直しの人生の時に教えてもらうことができました。

　学園の制服は白色のシャツに紺色のスカートに、女子生徒はスカートと同じ色の大きめなリボンで、男子生徒は青色のネクタイです。学年ごとに制服のデザインが変わり、最新のファッションが取り入れられています。高学年に行けばいくほど古い流行の制服になるわけですが、そこまで酷く感じるものではありません。

　今まではお馬鹿さんのふりをしていましたが、今回は違います。自慢できるものではありませんが、学園生活をすでに１０回経験しています。勉強も含め、今までの経験や知識をフルに活用することにしました。

　授業が始まると、６歳児としてはありえない学力レベルだと先生に絶賛され、テストも学年トップになりました。
　５歳の時から入学するまでもそうですが、教科書を愛用書として読み続け、予習復習を続けていると、先生から両親に私を飛び級させないかという連絡がきたのです。

　両親は何かの間違いだと、私を連れて学園長の元に向かいました。
　約束をしていないにもかかわらず、学園長はすぐに面会してくれ、学園長室に私たちを通すと、それはもう私を褒めちぎってくれました。

「アンナさんは本当にすごいですよ。６歳とは思えないくらいにしっかりしておられますし、学力もずば抜けています。こんなに賢い少女はめったにいませんよ！」
「そ……、そんな、何かの間違いです。きっと、この子はカンニングでもしたんですわ！」

　お母様の対面に座っている恰幅の良い中年の学園長は、黒くて太い眉根を寄せて訝しげな顔で尋ねます。

「自分の娘がカンニングしていたと仰るのですか？」
「あ……、いえ、それは」
「私はご両親の躾や良い家庭教師をつけているから、アンナさんがこれだけ賢いのだと思っていたのですが……」
「そ、それは、もちろんです。家庭教師は付けていませんが、姉のミルーナが教えています。彼女の教え方が上手いからですわ」

　焦った顔のお母様や目を閉じ、話を黙って聞いているお父様を見て、学園長は何かおかしいと思ったようです。微笑んで私に問いかけてきます。

「アンナさん。いつも、君はお姉さんと勉強しているのかな？」
「いいえ。毎日、教科書を読んで、一人で勉強しています」
「家庭教師もいないのかな？」
「いません。家ではいつも一人なんです。食事も一人で食べています」
　
　わざと聞かれてもいないことを言ってみると、お母様は私の口を慌てて押さえました。

「一人で食べているなんて嘘ですわ。ここ最近、口が達者になったと思ったら、嘘をつくようになって困っているんです」
「嘘をついているようには見えませんがねぇ」

　学園長は疑わしげな視線を両親に向けはしたものの、話を戻します。

「お姉さんと一緒に勉強させているというのであれば、同じ学年に移るのはどうでしょうか」
「……お気持ちは嬉しいのですが、姉と同じクラスになるのは嫌です」

　お母様が答える前に、私が身を乗り出して訴えると、学園長は微笑みます。

「大丈夫ですよ。お姉さんは普通クラスですが、あなたは特別クラスになりますからね」

　特別クラスというのは学年ごとで優秀な成績をおさめた生徒だけが集められるクラスです。普段は学年末のテストの成績で決まるのですが、まだ、学年も始まったばかりなので、特別に試験を受けさせてくれるとのことでした。

「私だけ特別扱いは違うと思います。今年度の期末テストの点数で判断していただけませんか？」
「わかったよ。それにしても本当にしっかりした娘さんですね。さぞ、ご両親は鼻が高いでしょう」

　学園長は温和な笑みを浮かべていましたが、口調にはどこか皮肉めいたものを感じました。私が感じたことは間違っておらず、この日から、学園長は担任に指示をして、家での私の暮らしをさりげなく調べるようにしてくれたのです。こんなことは今までの人生ではありませんでした。そして、そのおかげで、私は今までよりも楽に６歳の学園生活を謳歌することができたのでした。

　７歳になった私は期末テストで特別クラス行きの権利を獲得しただけでなく、お姉様よりも一つ上の学年に進級が決まりました。ただ、一つ問題なのが、その学年には婚約者のエイン様がいるということです。

「へぇ。すごい！　君は年上に混ざって勉強をするんだね！　もしかしたら、同じクラスになるかもしれない。その時はよろしくね！」

　３つ年上の婚約者、金髪碧眼の可愛らしい顔立ちのエイン・フロットル様は、クラス分けが発表される朝、クラス分けが張り出されている掲示板の前でそう言いました。でも、それだけ探しても、エイン様の名前は特別クラスにはありません。

「あれ、おかしいな」
「違うクラスのようですわね。では、失礼いたします」

　まだ諦められないのか、エイン様はその場で立ち止まって掲示板を見つめ続けていました。