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番外編
それぞれのその後 〜元婚約者とケーキ屋さん〜
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アイラが王太子妃になることが確定したため、未来の王太子妃の実家が経営しているという噂が回り、ケーキ屋は今までよりも繁盛し始めた。
平民用のシンプルなものと貴族向けの値段が高いものなど、ケーキの種類も増えたことにより、より多くの層の人が買いに来るようにもなった。
閉店時間までにケーキが売り切れることは当たり前になり、今日もまだ早い時間ではあるが、店を閉めようかとサラが思っていた時、アイラの元婚約者のマグナが店にやって来た。
「久しぶりだな」
「どちらさまでしたっけ」
サラが冷たく応えると、マグナは眉根を寄せる。
「友人を忘れるなんて酷いだろ」
「私はあなたのことを一度も友人と認識したことはないんだけど」
「そんな冷たいことを言うなよ。未来の王太子殿下と王太子妃殿下の友達なんだぞ」
自慢げに言うマグナを見て、サラは嫌悪感をあらわにする。
「あなた、そんな嘘をついていると、そのうち痛い目に遭うわよ」
「痛い目ってなんだよ! これ以上、痛い目に遭うことなんてない! うちの家は商売が上手くいかなくなって大変なんだ。毎日、食べるものにも苦労してるのに何があるって言うんだよ!」
「食べるものにも苦労してるって……。もしかして、ケーキを食べさせろとでも言いに来たの?」
「いや。ケーキがほしいんだ」
「ちゃんと買ってくれるなら売れるわよ。だけど、今日は駄目ね。すでに売り切れてるわ」
「じゃあ、明日の朝に来る!」
マグナはそう言って、なぜか逃げるように走り去っていった。
その背中を見つめながら、サラは大きく息を吐く。
(私、明日は休みなのよね)
サラは店の中に戻り、明日の担当の人にマグナが来てもケーキを渡さなくても良いという伝言と、まだ店にいたエディーにもその旨を伝えて、次の日は予定通り休みを取った。
そして、その日の晩、エイドにこんなことがあったということを伝えておいた。
次の日、やはりマグナのことが気になって家でゆっくりする気にもなれず、店に出勤しようか迷っていたサラの元にエイドから手紙が届いた。
『あなたのことですし、グライトが気になって休めないでしょうから連絡しておきます。あなたの同僚はグライトにケーキを渡してしまったようです。そして、そのケーキをかなりの高額で転売しようとして捕まりました』
その他にも色々と書いてあったけれど、サラはその部分だけを何度か読み直した。
グライトというのは誰だかわからなかったからだ。
少し考えてから、マグナの姓だということに気づき、ぽつりと呟く。
「マグナだけにマグナム級の馬鹿だったのかしら」
マグナの家はアイラとの婚約を破棄したということで有名になっていて、その理由も知れ渡っているから、商会としての信用がなくなってしまった。
そのせいで、商売が上手くいかなくなっている。
このままいけば、城下近くに住むこともできなくなるだろう。
心配事のなくなったサラは、エイドにお礼の手紙を書き終えたあとは、心置きなく休みを満喫することにしたのだった。
平民用のシンプルなものと貴族向けの値段が高いものなど、ケーキの種類も増えたことにより、より多くの層の人が買いに来るようにもなった。
閉店時間までにケーキが売り切れることは当たり前になり、今日もまだ早い時間ではあるが、店を閉めようかとサラが思っていた時、アイラの元婚約者のマグナが店にやって来た。
「久しぶりだな」
「どちらさまでしたっけ」
サラが冷たく応えると、マグナは眉根を寄せる。
「友人を忘れるなんて酷いだろ」
「私はあなたのことを一度も友人と認識したことはないんだけど」
「そんな冷たいことを言うなよ。未来の王太子殿下と王太子妃殿下の友達なんだぞ」
自慢げに言うマグナを見て、サラは嫌悪感をあらわにする。
「あなた、そんな嘘をついていると、そのうち痛い目に遭うわよ」
「痛い目ってなんだよ! これ以上、痛い目に遭うことなんてない! うちの家は商売が上手くいかなくなって大変なんだ。毎日、食べるものにも苦労してるのに何があるって言うんだよ!」
「食べるものにも苦労してるって……。もしかして、ケーキを食べさせろとでも言いに来たの?」
「いや。ケーキがほしいんだ」
「ちゃんと買ってくれるなら売れるわよ。だけど、今日は駄目ね。すでに売り切れてるわ」
「じゃあ、明日の朝に来る!」
マグナはそう言って、なぜか逃げるように走り去っていった。
その背中を見つめながら、サラは大きく息を吐く。
(私、明日は休みなのよね)
サラは店の中に戻り、明日の担当の人にマグナが来てもケーキを渡さなくても良いという伝言と、まだ店にいたエディーにもその旨を伝えて、次の日は予定通り休みを取った。
そして、その日の晩、エイドにこんなことがあったということを伝えておいた。
次の日、やはりマグナのことが気になって家でゆっくりする気にもなれず、店に出勤しようか迷っていたサラの元にエイドから手紙が届いた。
『あなたのことですし、グライトが気になって休めないでしょうから連絡しておきます。あなたの同僚はグライトにケーキを渡してしまったようです。そして、そのケーキをかなりの高額で転売しようとして捕まりました』
その他にも色々と書いてあったけれど、サラはその部分だけを何度か読み直した。
グライトというのは誰だかわからなかったからだ。
少し考えてから、マグナの姓だということに気づき、ぽつりと呟く。
「マグナだけにマグナム級の馬鹿だったのかしら」
マグナの家はアイラとの婚約を破棄したということで有名になっていて、その理由も知れ渡っているから、商会としての信用がなくなってしまった。
そのせいで、商売が上手くいかなくなっている。
このままいけば、城下近くに住むこともできなくなるだろう。
心配事のなくなったサラは、エイドにお礼の手紙を書き終えたあとは、心置きなく休みを満喫することにしたのだった。
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