53 / 61
番外編
あの時の少女 後編
しおりを挟む
毒見役の女性が近づいてきて、横に置いてあった、まだ焼けていない肉を指定して、それを焼くように伝えると、お店の人は文句も言わずに肉を焼いてくれた。
私たちだけで美味しいものを食べるのも申し訳ない気がしたので、付いてきてくれている人たちにも食べてもらおうとロキが配慮してくれた。
だから、お肉を数本ではなく十本以上買ったので、それくらいはサービスしてくれたみたいだった。
屋台の人にしてみれば、良いお客様だったと思う。
人の往来の邪魔にならないように端に避けて食べていると、小さな女の子が立ち止まって、私たちを見つめていることに気が付いた。
正確には私たちではなく、私たちが食べている肉串を見つめていた。
昔の私を思い出して、私が食べている残りをあげても良いか、ロキに聞こうとした時、ロキが近くにいた毒見役の女性に声をかける。
「あの女の子にも買ってあげてくれないか」
「承知しました」
毒見役の人は微笑んで頷くと、小さな女の子とその子を連れている両親に声を掛けて、ロキのほうを手で示した。
両親はこちらを見て恐縮した様子だったけれど、ロキが笑顔で頷くと何度も頭を下げて、肉串を受け取った。
喜んでいる女の子の様子を見ていて、自分のことを思い出してロキに話しかける。
「私も昔、女の子から肉串をもらったことを覚えてるわ。すごく嬉しかったし美味しかった」
今食べている肉串も美味しいけれど、あの時の味は別格のような気がする。
「肉串を家族以外からもらったのは一度だけなのかな」
「どういうこと?」
「二回もらったりはしてないのか聞いてる」
「一度だけよ。とても可愛い女の子だったわ」
「女の子じゃない」
ロキが否定してくるので、ムッとなって言い返す。
「どうしてロキがわかるのよ。本当にすごく可愛かったんだから」
「自分で言うのもなんだけど、君が言っているのは本当にすごく可愛い男の子だよ」
「……え? 男の子? そんなわけないわよ! もし、あの子が男の子だったら、私が女性と名乗って良いのか悩むわ!」
「残念ながら男の子なんだよ。それから、君は女性だから安心していい」
「で、でも! というか、どうしてロキがそんなことがわかるのよ!?」
「僕だから」
ロキは笑顔で肉串についている野菜を指さしながら続ける。
「この野菜も食べてくれるかな」
そういえば、あの時の女の子は野菜が苦手なのか食べるのを躊躇っていた。
「え!? 嘘でしょう!? だって、めちゃくちゃ可愛くて!」
あんなに可愛い子が男の子だったなんて!
いや、もちろん、小さい頃だったら女の子みたいに可愛い男の子だっていてもおかしくない!
頭を抱えてパニックになっていると、ロキが声を上げて笑う。
「そこまで驚くとは思わなかった」
「驚くに決まってるじゃない! それに、わかってたんならどうして言ってくれなかったのよ!?」
「君が思い出すのを待ってたんだ。だけど、無理そうだから今言った」
「もっと早くに言ってよ!」
「ごめん。でも、君の中では女の子かもしれないけど、僕のことを覚えてくれていると思うだけで嬉しかったんだ」
ロキが満面の笑みを浮かべるから、不覚にも胸がドキドキしてしまった。
でも、この気持ちは別に駄目なものじゃないわよね。
「私にしてみれば、本当に大切な思い出だから忘れるわけないじゃない」
「それが嬉しいんだよ」
「何が嬉しいのかわからない!」
恥ずかしくなって、ロキに背中を向けた。
もしかしてロキは、その頃から私のことを好きでいてくれたのかと自惚れたことを考えてしまって、しばらく、ロキの顔を見ることができなかった。
私たちだけで美味しいものを食べるのも申し訳ない気がしたので、付いてきてくれている人たちにも食べてもらおうとロキが配慮してくれた。
だから、お肉を数本ではなく十本以上買ったので、それくらいはサービスしてくれたみたいだった。
屋台の人にしてみれば、良いお客様だったと思う。
人の往来の邪魔にならないように端に避けて食べていると、小さな女の子が立ち止まって、私たちを見つめていることに気が付いた。
正確には私たちではなく、私たちが食べている肉串を見つめていた。
昔の私を思い出して、私が食べている残りをあげても良いか、ロキに聞こうとした時、ロキが近くにいた毒見役の女性に声をかける。
「あの女の子にも買ってあげてくれないか」
「承知しました」
毒見役の人は微笑んで頷くと、小さな女の子とその子を連れている両親に声を掛けて、ロキのほうを手で示した。
両親はこちらを見て恐縮した様子だったけれど、ロキが笑顔で頷くと何度も頭を下げて、肉串を受け取った。
喜んでいる女の子の様子を見ていて、自分のことを思い出してロキに話しかける。
「私も昔、女の子から肉串をもらったことを覚えてるわ。すごく嬉しかったし美味しかった」
今食べている肉串も美味しいけれど、あの時の味は別格のような気がする。
「肉串を家族以外からもらったのは一度だけなのかな」
「どういうこと?」
「二回もらったりはしてないのか聞いてる」
「一度だけよ。とても可愛い女の子だったわ」
「女の子じゃない」
ロキが否定してくるので、ムッとなって言い返す。
「どうしてロキがわかるのよ。本当にすごく可愛かったんだから」
「自分で言うのもなんだけど、君が言っているのは本当にすごく可愛い男の子だよ」
「……え? 男の子? そんなわけないわよ! もし、あの子が男の子だったら、私が女性と名乗って良いのか悩むわ!」
「残念ながら男の子なんだよ。それから、君は女性だから安心していい」
「で、でも! というか、どうしてロキがそんなことがわかるのよ!?」
「僕だから」
ロキは笑顔で肉串についている野菜を指さしながら続ける。
「この野菜も食べてくれるかな」
そういえば、あの時の女の子は野菜が苦手なのか食べるのを躊躇っていた。
「え!? 嘘でしょう!? だって、めちゃくちゃ可愛くて!」
あんなに可愛い子が男の子だったなんて!
いや、もちろん、小さい頃だったら女の子みたいに可愛い男の子だっていてもおかしくない!
頭を抱えてパニックになっていると、ロキが声を上げて笑う。
「そこまで驚くとは思わなかった」
「驚くに決まってるじゃない! それに、わかってたんならどうして言ってくれなかったのよ!?」
「君が思い出すのを待ってたんだ。だけど、無理そうだから今言った」
「もっと早くに言ってよ!」
「ごめん。でも、君の中では女の子かもしれないけど、僕のことを覚えてくれていると思うだけで嬉しかったんだ」
ロキが満面の笑みを浮かべるから、不覚にも胸がドキドキしてしまった。
でも、この気持ちは別に駄目なものじゃないわよね。
「私にしてみれば、本当に大切な思い出だから忘れるわけないじゃない」
「それが嬉しいんだよ」
「何が嬉しいのかわからない!」
恥ずかしくなって、ロキに背中を向けた。
もしかしてロキは、その頃から私のことを好きでいてくれたのかと自惚れたことを考えてしまって、しばらく、ロキの顔を見ることができなかった。
158
お気に入りに追加
1,743
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします
水都 ミナト
恋愛
伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。
事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。
かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。
そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。
クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが…
★全7話★
※なろう様、カクヨム様でも公開中です。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる