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番外編
あの時の少女 後編
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毒見役の女性が近づいてきて、横に置いてあった、まだ焼けていない肉を指定して、それを焼くように伝えると、お店の人は文句も言わずに肉を焼いてくれた。
私たちだけで美味しいものを食べるのも申し訳ない気がしたので、付いてきてくれている人たちにも食べてもらおうとロキが配慮してくれた。
だから、お肉を数本ではなく十本以上買ったので、それくらいはサービスしてくれたみたいだった。
屋台の人にしてみれば、良いお客様だったと思う。
人の往来の邪魔にならないように端に避けて食べていると、小さな女の子が立ち止まって、私たちを見つめていることに気が付いた。
正確には私たちではなく、私たちが食べている肉串を見つめていた。
昔の私を思い出して、私が食べている残りをあげても良いか、ロキに聞こうとした時、ロキが近くにいた毒見役の女性に声をかける。
「あの女の子にも買ってあげてくれないか」
「承知しました」
毒見役の人は微笑んで頷くと、小さな女の子とその子を連れている両親に声を掛けて、ロキのほうを手で示した。
両親はこちらを見て恐縮した様子だったけれど、ロキが笑顔で頷くと何度も頭を下げて、肉串を受け取った。
喜んでいる女の子の様子を見ていて、自分のことを思い出してロキに話しかける。
「私も昔、女の子から肉串をもらったことを覚えてるわ。すごく嬉しかったし美味しかった」
今食べている肉串も美味しいけれど、あの時の味は別格のような気がする。
「肉串を家族以外からもらったのは一度だけなのかな」
「どういうこと?」
「二回もらったりはしてないのか聞いてる」
「一度だけよ。とても可愛い女の子だったわ」
「女の子じゃない」
ロキが否定してくるので、ムッとなって言い返す。
「どうしてロキがわかるのよ。本当にすごく可愛かったんだから」
「自分で言うのもなんだけど、君が言っているのは本当にすごく可愛い男の子だよ」
「……え? 男の子? そんなわけないわよ! もし、あの子が男の子だったら、私が女性と名乗って良いのか悩むわ!」
「残念ながら男の子なんだよ。それから、君は女性だから安心していい」
「で、でも! というか、どうしてロキがそんなことがわかるのよ!?」
「僕だから」
ロキは笑顔で肉串についている野菜を指さしながら続ける。
「この野菜も食べてくれるかな」
そういえば、あの時の女の子は野菜が苦手なのか食べるのを躊躇っていた。
「え!? 嘘でしょう!? だって、めちゃくちゃ可愛くて!」
あんなに可愛い子が男の子だったなんて!
いや、もちろん、小さい頃だったら女の子みたいに可愛い男の子だっていてもおかしくない!
頭を抱えてパニックになっていると、ロキが声を上げて笑う。
「そこまで驚くとは思わなかった」
「驚くに決まってるじゃない! それに、わかってたんならどうして言ってくれなかったのよ!?」
「君が思い出すのを待ってたんだ。だけど、無理そうだから今言った」
「もっと早くに言ってよ!」
「ごめん。でも、君の中では女の子かもしれないけど、僕のことを覚えてくれていると思うだけで嬉しかったんだ」
ロキが満面の笑みを浮かべるから、不覚にも胸がドキドキしてしまった。
でも、この気持ちは別に駄目なものじゃないわよね。
「私にしてみれば、本当に大切な思い出だから忘れるわけないじゃない」
「それが嬉しいんだよ」
「何が嬉しいのかわからない!」
恥ずかしくなって、ロキに背中を向けた。
もしかしてロキは、その頃から私のことを好きでいてくれたのかと自惚れたことを考えてしまって、しばらく、ロキの顔を見ることができなかった。
私たちだけで美味しいものを食べるのも申し訳ない気がしたので、付いてきてくれている人たちにも食べてもらおうとロキが配慮してくれた。
だから、お肉を数本ではなく十本以上買ったので、それくらいはサービスしてくれたみたいだった。
屋台の人にしてみれば、良いお客様だったと思う。
人の往来の邪魔にならないように端に避けて食べていると、小さな女の子が立ち止まって、私たちを見つめていることに気が付いた。
正確には私たちではなく、私たちが食べている肉串を見つめていた。
昔の私を思い出して、私が食べている残りをあげても良いか、ロキに聞こうとした時、ロキが近くにいた毒見役の女性に声をかける。
「あの女の子にも買ってあげてくれないか」
「承知しました」
毒見役の人は微笑んで頷くと、小さな女の子とその子を連れている両親に声を掛けて、ロキのほうを手で示した。
両親はこちらを見て恐縮した様子だったけれど、ロキが笑顔で頷くと何度も頭を下げて、肉串を受け取った。
喜んでいる女の子の様子を見ていて、自分のことを思い出してロキに話しかける。
「私も昔、女の子から肉串をもらったことを覚えてるわ。すごく嬉しかったし美味しかった」
今食べている肉串も美味しいけれど、あの時の味は別格のような気がする。
「肉串を家族以外からもらったのは一度だけなのかな」
「どういうこと?」
「二回もらったりはしてないのか聞いてる」
「一度だけよ。とても可愛い女の子だったわ」
「女の子じゃない」
ロキが否定してくるので、ムッとなって言い返す。
「どうしてロキがわかるのよ。本当にすごく可愛かったんだから」
「自分で言うのもなんだけど、君が言っているのは本当にすごく可愛い男の子だよ」
「……え? 男の子? そんなわけないわよ! もし、あの子が男の子だったら、私が女性と名乗って良いのか悩むわ!」
「残念ながら男の子なんだよ。それから、君は女性だから安心していい」
「で、でも! というか、どうしてロキがそんなことがわかるのよ!?」
「僕だから」
ロキは笑顔で肉串についている野菜を指さしながら続ける。
「この野菜も食べてくれるかな」
そういえば、あの時の女の子は野菜が苦手なのか食べるのを躊躇っていた。
「え!? 嘘でしょう!? だって、めちゃくちゃ可愛くて!」
あんなに可愛い子が男の子だったなんて!
いや、もちろん、小さい頃だったら女の子みたいに可愛い男の子だっていてもおかしくない!
頭を抱えてパニックになっていると、ロキが声を上げて笑う。
「そこまで驚くとは思わなかった」
「驚くに決まってるじゃない! それに、わかってたんならどうして言ってくれなかったのよ!?」
「君が思い出すのを待ってたんだ。だけど、無理そうだから今言った」
「もっと早くに言ってよ!」
「ごめん。でも、君の中では女の子かもしれないけど、僕のことを覚えてくれていると思うだけで嬉しかったんだ」
ロキが満面の笑みを浮かべるから、不覚にも胸がドキドキしてしまった。
でも、この気持ちは別に駄目なものじゃないわよね。
「私にしてみれば、本当に大切な思い出だから忘れるわけないじゃない」
「それが嬉しいんだよ」
「何が嬉しいのかわからない!」
恥ずかしくなって、ロキに背中を向けた。
もしかしてロキは、その頃から私のことを好きでいてくれたのかと自惚れたことを考えてしまって、しばらく、ロキの顔を見ることができなかった。
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