【完結】婚約破棄された貧乏子爵令嬢ですが、王太子殿下に溺愛されています

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
52 / 61
番外編

あの時の少女 前編

しおりを挟む
 王太子妃候補にも休みはある。
 かといって家に帰れるわけではないので、休みの日は部屋でのんびりしたり、メイドやフットマンたちと、お茶を呑みながら談笑して過ごすことが多い。
 そんな休みの日の朝、突然、ロキから連絡があった。

 城下でお祭りをしているので出かけないとかというお誘いだった。
 お祭りに行きたい気持ちはあるけれど、大勢の人の所に行くのは、ロキの身が危険な気がしたので、どう返事をしようか迷った。
 だけど、元々、ロキはこのお祭りには行く予定をしていたみたいだから、警備の面もしっかりしていると聞いたので一緒に出かけることにした。

 城下に出るのなら、サラたちと待ち合わせをして一緒にお祭りに行きたかったけど、サラは人混みが嫌いだし、私とロキが一緒に出かけるのだとわかったら遠慮するだろうから声をかけるのはやめておいた。

 

*****


 少し離れた場所に停めた馬車から降りて、ロキや護衛騎士たちと一緒に開催場所向かう。

 何度も歩いた場所なのに、お祭りをしているというだけで全く違う雰囲気で、何だかワクワクしてしまう。
 左右に並ぶ出店に目を向けながら歩いていると、ロキが聞いてくる。

「はぐれても良くないし、手を繋いでもいいかな」
「大丈夫よ。だって、護衛の人が付いていてくれるんでしょう。はぐれそうになったら教えてくれるわ」
「……鈍感なだけなのか、わかっててそう言ってるのかどっちなのかな」
「どういう意味? 本当のことを言っているだけよ」

 ロキが何を言おうとしているのかわからなくて眉根を寄せると、ロキは苦笑する。

「僕が繋ぎたいだけなんだけど」
「ええ!? どうして?」
「どうしてって、周りを見てみたらわかるだろ」

 そう言われて行き交う人たちに目を向けると、手を繋いだり腕を組んで歩いているカップルが多かった。

「あ、あれは、デートだからじゃないの? 私とロキは市井の視察なんだからデートじゃないわ」
「視察だからこそ、ああいう風にして歩いたほうが自然な感じがするだろ」
「そ、それはそうかもしれないけど」

 ロキと手を繋いで歩いたことがないわけではない。
 でも、やっぱり恥ずかしい。
 しかも、護衛騎士の人たちに見守られているとわかっているから、余計に恥ずかしい。
 きっと、微笑ましいとか温かい目で見てくれるんだろうけど、恥ずかしいことに変わりはない。

「嫌ならいいけど」

 そう言ったロキの顔がどこか傷ついているように見えたので、私は慌ててロキの手を掴んだ。

「わかったわ。行きましょう!」
「うん。……あのさアイラ、手を繋いで歩けることは嬉しいんだけど、すごく痛い」

 力いっぱいロキの手を握りしめていたせいで、ロキから苦情が出た。
 手を緩めるとロキは私の手を包むように、優しく握ってくれた。

 ドキドキしてしまうのは、ロキを意識しているからなのか。
 それとも、マグナと手を繋いでも、こんな風にドキドキするのかしら。

 ――って、マグナにドキドキすることはないわね。
 どちらかというと、手の指をへし折る形になるかもしれない。
 それくらい、マグナに対しての怒りはまだ残っている。

「何か食べたいものでもある?」
「……そうね。王城で好きな物を食べさせてもらっているし、今はそう食べたいものはないんだけど」

 辺りを見回していると香ばしい匂いがして足を止めた。
 それは、庶民やお金のない貴族にしてみれば高額である肉串だった。
 今は別邸でお肉を食べさせてもらっているから、そこまで食べたいとは思わ……、いや、食べたい。
 目の前で焼かれているのを見たら美味しそうに見える。

「食べる?」

 私に合わせて足を止めてくれていたロキが聞いてきた。

「えーっと、食べても良い? 毒見は私がするから」
「毒見役も連れてきているから大丈夫だよ」

 そう言って、ロキは私の手を引いて肉串の屋台に近づいたのだった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします

水都 ミナト
恋愛
 伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。  事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。  かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。  そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。  クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが… ★全7話★ ※なろう様、カクヨム様でも公開中です。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

らんか
恋愛
 あれ?    何で私が悪役令嬢に転生してるの?  えっ!   しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!  国外追放かぁ。  娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。  そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。  愛し子って、私が!?  普通はヒロインの役目じゃないの!?  

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

処理中です...