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番外編
あの時の少女 前編
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王太子妃候補にも休みはある。
かといって家に帰れるわけではないので、休みの日は部屋でのんびりしたり、メイドやフットマンたちと、お茶を呑みながら談笑して過ごすことが多い。
そんな休みの日の朝、突然、ロキから連絡があった。
城下でお祭りをしているので出かけないとかというお誘いだった。
お祭りに行きたい気持ちはあるけれど、大勢の人の所に行くのは、ロキの身が危険な気がしたので、どう返事をしようか迷った。
だけど、元々、ロキはこのお祭りには行く予定をしていたみたいだから、警備の面もしっかりしていると聞いたので一緒に出かけることにした。
城下に出るのなら、サラたちと待ち合わせをして一緒にお祭りに行きたかったけど、サラは人混みが嫌いだし、私とロキが一緒に出かけるのだとわかったら遠慮するだろうから声をかけるのはやめておいた。
*****
少し離れた場所に停めた馬車から降りて、ロキや護衛騎士たちと一緒に開催場所向かう。
何度も歩いた場所なのに、お祭りをしているというだけで全く違う雰囲気で、何だかワクワクしてしまう。
左右に並ぶ出店に目を向けながら歩いていると、ロキが聞いてくる。
「はぐれても良くないし、手を繋いでもいいかな」
「大丈夫よ。だって、護衛の人が付いていてくれるんでしょう。はぐれそうになったら教えてくれるわ」
「……鈍感なだけなのか、わかっててそう言ってるのかどっちなのかな」
「どういう意味? 本当のことを言っているだけよ」
ロキが何を言おうとしているのかわからなくて眉根を寄せると、ロキは苦笑する。
「僕が繋ぎたいだけなんだけど」
「ええ!? どうして?」
「どうしてって、周りを見てみたらわかるだろ」
そう言われて行き交う人たちに目を向けると、手を繋いだり腕を組んで歩いているカップルが多かった。
「あ、あれは、デートだからじゃないの? 私とロキは市井の視察なんだからデートじゃないわ」
「視察だからこそ、ああいう風にして歩いたほうが自然な感じがするだろ」
「そ、それはそうかもしれないけど」
ロキと手を繋いで歩いたことがないわけではない。
でも、やっぱり恥ずかしい。
しかも、護衛騎士の人たちに見守られているとわかっているから、余計に恥ずかしい。
きっと、微笑ましいとか温かい目で見てくれるんだろうけど、恥ずかしいことに変わりはない。
「嫌ならいいけど」
そう言ったロキの顔がどこか傷ついているように見えたので、私は慌ててロキの手を掴んだ。
「わかったわ。行きましょう!」
「うん。……あのさアイラ、手を繋いで歩けることは嬉しいんだけど、すごく痛い」
力いっぱいロキの手を握りしめていたせいで、ロキから苦情が出た。
手を緩めるとロキは私の手を包むように、優しく握ってくれた。
ドキドキしてしまうのは、ロキを意識しているからなのか。
それとも、マグナと手を繋いでも、こんな風にドキドキするのかしら。
――って、マグナにドキドキすることはないわね。
どちらかというと、手の指をへし折る形になるかもしれない。
それくらい、マグナに対しての怒りはまだ残っている。
「何か食べたいものでもある?」
「……そうね。王城で好きな物を食べさせてもらっているし、今はそう食べたいものはないんだけど」
辺りを見回していると香ばしい匂いがして足を止めた。
それは、庶民やお金のない貴族にしてみれば高額である肉串だった。
今は別邸でお肉を食べさせてもらっているから、そこまで食べたいとは思わ……、いや、食べたい。
目の前で焼かれているのを見たら美味しそうに見える。
「食べる?」
私に合わせて足を止めてくれていたロキが聞いてきた。
「えーっと、食べても良い? 毒見は私がするから」
「毒見役も連れてきているから大丈夫だよ」
そう言って、ロキは私の手を引いて肉串の屋台に近づいたのだった。
かといって家に帰れるわけではないので、休みの日は部屋でのんびりしたり、メイドやフットマンたちと、お茶を呑みながら談笑して過ごすことが多い。
そんな休みの日の朝、突然、ロキから連絡があった。
城下でお祭りをしているので出かけないとかというお誘いだった。
お祭りに行きたい気持ちはあるけれど、大勢の人の所に行くのは、ロキの身が危険な気がしたので、どう返事をしようか迷った。
だけど、元々、ロキはこのお祭りには行く予定をしていたみたいだから、警備の面もしっかりしていると聞いたので一緒に出かけることにした。
城下に出るのなら、サラたちと待ち合わせをして一緒にお祭りに行きたかったけど、サラは人混みが嫌いだし、私とロキが一緒に出かけるのだとわかったら遠慮するだろうから声をかけるのはやめておいた。
*****
少し離れた場所に停めた馬車から降りて、ロキや護衛騎士たちと一緒に開催場所向かう。
何度も歩いた場所なのに、お祭りをしているというだけで全く違う雰囲気で、何だかワクワクしてしまう。
左右に並ぶ出店に目を向けながら歩いていると、ロキが聞いてくる。
「はぐれても良くないし、手を繋いでもいいかな」
「大丈夫よ。だって、護衛の人が付いていてくれるんでしょう。はぐれそうになったら教えてくれるわ」
「……鈍感なだけなのか、わかっててそう言ってるのかどっちなのかな」
「どういう意味? 本当のことを言っているだけよ」
ロキが何を言おうとしているのかわからなくて眉根を寄せると、ロキは苦笑する。
「僕が繋ぎたいだけなんだけど」
「ええ!? どうして?」
「どうしてって、周りを見てみたらわかるだろ」
そう言われて行き交う人たちに目を向けると、手を繋いだり腕を組んで歩いているカップルが多かった。
「あ、あれは、デートだからじゃないの? 私とロキは市井の視察なんだからデートじゃないわ」
「視察だからこそ、ああいう風にして歩いたほうが自然な感じがするだろ」
「そ、それはそうかもしれないけど」
ロキと手を繋いで歩いたことがないわけではない。
でも、やっぱり恥ずかしい。
しかも、護衛騎士の人たちに見守られているとわかっているから、余計に恥ずかしい。
きっと、微笑ましいとか温かい目で見てくれるんだろうけど、恥ずかしいことに変わりはない。
「嫌ならいいけど」
そう言ったロキの顔がどこか傷ついているように見えたので、私は慌ててロキの手を掴んだ。
「わかったわ。行きましょう!」
「うん。……あのさアイラ、手を繋いで歩けることは嬉しいんだけど、すごく痛い」
力いっぱいロキの手を握りしめていたせいで、ロキから苦情が出た。
手を緩めるとロキは私の手を包むように、優しく握ってくれた。
ドキドキしてしまうのは、ロキを意識しているからなのか。
それとも、マグナと手を繋いでも、こんな風にドキドキするのかしら。
――って、マグナにドキドキすることはないわね。
どちらかというと、手の指をへし折る形になるかもしれない。
それくらい、マグナに対しての怒りはまだ残っている。
「何か食べたいものでもある?」
「……そうね。王城で好きな物を食べさせてもらっているし、今はそう食べたいものはないんだけど」
辺りを見回していると香ばしい匂いがして足を止めた。
それは、庶民やお金のない貴族にしてみれば高額である肉串だった。
今は別邸でお肉を食べさせてもらっているから、そこまで食べたいとは思わ……、いや、食べたい。
目の前で焼かれているのを見たら美味しそうに見える。
「食べる?」
私に合わせて足を止めてくれていたロキが聞いてきた。
「えーっと、食べても良い? 毒見は私がするから」
「毒見役も連れてきているから大丈夫だよ」
そう言って、ロキは私の手を引いて肉串の屋台に近づいたのだった。
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