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48 王太子殿下に溺愛されています

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 それから2日後、ポスティム公爵令嬢の処分について、エイドが知らせに来てくれた。
 
 彼を部屋に招き入れ、ソファに向かい合って座り、話を聞くことにした。

 両陛下や宰相、辺境伯家以上の高位貴族が集まって話し合ったところ、ポスティム公爵令嬢をどうするのか、最初は意見が割れたらしい。
 未遂なんだから許すべきではないかという声もあっただけでなく、こんな状況に持っていくために、私がポスティム公爵令嬢をわざと挑発したのではないかという人もいたらしい。

 たとえそうだったとしても、最終的に挑発にのったポスティム公爵令嬢が悪いと思うんだけど、貴族の考えはよくわからないわ。

 どうしても私を悪者にしたい人もいるらしい。

 高位貴族には格式にこだわる人も多く、子爵令嬢を王太子妃にするよりも、多少の問題があっても公爵令嬢のほうが良いという声も少なくなかったと、エイドは呆れた顔で言った。

「王家と子爵令嬢は身分差がありすぎるものね」
「ですが、身分で王太子妃が決まるのであれば、わざわざ候補を集めて選ぶ必要はないでしょう」
「そう言われればそうね」

 その後、エイドは話題を元に戻し、その場で多数決により、ポスティム公爵令嬢は王太子妃にふさわしくないと決定し、正式にポスティム公爵令嬢に王太子妃候補から除外することが告げられたと話してくれた。

「ポスティム公爵令嬢は今はどうされているのかしら」
「別邸から出ていく準備をしてもらっています。ポスティム公爵令嬢が出ていくまでは、あなたは部屋から出ないほうが良いでしょう」
「そうするわ。向こうも私の顔なんか、今は見たくないでしょうし、いつか社交場で出会った時に、ポスティム公爵令嬢が幸せそうなら声をかけてみるわ」
「社交場で出会うことはないと思いますので、ここを出る前に向こうが挨拶に来るようなら会ってあげてください」

 エイドの意味深な言葉が気にはなったけど、そのうち意味がわかるだろうと思って、深くは聞かないことにした。

 そして、エイドが帰っていった後にエレイン様が訪ねてきて、王太子妃候補を辞退するつもりだと教えてくれた。

 ちゃんと理由もあって、ナスカム辺境伯家を継ぐはずだったお兄様が、自分は当主には向いてないと言い出したらしい。
 そして、エレイン様に王太子妃になれなかった場合に、自分の家を継ぐ気はあるのかと聞いてきたそうで、すでに継ぐと答えているそうだ。

「これからしばらくは一緒に生活できると思っていたから残念ですが、エレイン様が決めたことですから応援いたします」 

 心からの言葉を伝えると、エレイン様は嬉しそうな顔をして、私の手を握った。

「アイラ様、ありがとうございます。でも、本当に良いのですか? 私までいなくなれば自動的にアイラ様が王太子妃に決まりますわよ」
「そ、そうなんですよね」

 覚悟を決めるまでにまだ時間があると思っていただけに、その時は、エレイン様の決断を後押しすることしか考えていなかった。



*****


 
 ポスティム公爵令嬢が出て行き、エレイン様の辞退が許されると、私はたった一人の王太子妃候補になった。
 かといってそれで家に帰ることはできなかった。

 色々と覚えなければいけないことがあり、別邸ではひたすら勉強する日々を送っていた。

 苦手なダンスも続けているけれど、いつまで経っても上達した気にならない。

 そんなある日、ロキが私の所にやって来てくれたので、一緒に中庭を散歩することになった。

「調子はどう?」
「まずまずといったところかしら。ダンスは本当に上達しないわ」

 勉強やダンスのことを聞かれているのだと思ったら違ったみたいで、ロキが苦笑する。

「元気かどうか聞いてたんだけど、聞き方が悪くてごめん」
「早とちりしてごめんなさい。私は元気よ。ロキはどう?」
「僕も元気だよ」

 ロキの笑顔が引きつっている気がして聞いてみる。

「どうかしたの?」
「……あのさ」

 庭園には私たちから少し離れた場所に騎士がいるくらいで、話が聞こえる位置にいるのは、お互いしかいない。

 ロキは一度俯いたあと、顔を上げて言う。

「僕と結婚してほしい」
「……はい?」

 まさか、プロポーズされるなんて思ってもいなくて声が裏返った。

「王太子妃候補はもう君しかいない。だから、君が断らなければ、僕は君と結婚できる。だけど、無理に結婚してもらおうとも思っていない」
「だから、プロポーズなの? お付き合いしてみるとかじゃなくて?」
「……それって、お付き合いしてくれるってことかな」

 ロキに聞き返されて頬が熱くなる。

 そういう風にとられてもおかしくない。
 でも、そうしてみるのが一番良いのかなと思っていた。

「あのね、普通のカップルでも告白されてお試しに付き合う人もいるの。お付き合いしてみて、お互いに色々なことを知っていって、それでもってなったら……」

 その先の言葉を口に出すのが恥ずかしくて躊躇っていると、ロキが聞いてくる。

「その場合は結婚してくれるってことかな」
「……はい」

 頷いたら、恥ずかしさで一気に顔が熱くなった。

「アイラに好きになってもらうように頑張るよ」

 ロキは満面の笑みを浮かべると、私の右手をとって歩き出す。

「なんで手を握るのよ!」
「お付き合いしてるなら、自然のことだよね」
「そ、そ、そうかもしれない」

 ロキの手を握り返すと、なぜか顔を近づけてきたので、空いている手でロキの鼻をつまんだ。



***** 
 


 私とロキが少しずつ距離を縮めている、いや、ロキに無理矢理縮められている間に色々と動きがあった。
 ポスティム公爵令嬢はエイドの意味深な発言通り、社交場には二度と姿を現せなくなった。

 そして、わたしたちに触発されたみたいに、サラとエイドもお付き合いを始めた。
 エイドの家族はサラをとても気に入ったらしいから、結婚も私たちよりも早そうな気がする。

「僕たちのほうが結婚は早いと思ってたけど、エイドたちのほうが早そうだな」

 部屋で勉強していると、やって来たロキが後ろから抱きしめてきて頬を寄せてきた。

「ロキ、今は勉強中なの」
「何の?」
「外国語!」

 世界の言語は数種類あって、私たちが話している言語は世界共通語だ。
 でも、現地にしかない言葉を理解できるようになれば、外交に良い気がしたから自主的にやっている。

「教えてあげようか」
「ロキはわかるの?」
「うん。8カ国語しか話せないけど」
「それだけ話せれば十分よ!」
「教えるお礼はしてくれるのかな」
「私と一緒にいることが、ご褒美じゃないの?」
「そうだね。ずっと一緒にいてくれたら嬉しい」

 ロキは私の頬にキスをすると、窓際に置かれていた安楽椅子を私の横まで持ってきて、私の専属家庭教師になってくれたのだった。


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お読みいただき、本当にありがとうございました。
本編としましては完結で、次の話からはリクエストいただきました話を更新し、書き終えたあとに連載中から完結にさせていただきます。

予定しておりますのは、ポスティム公爵令嬢がどうなったか、ロキとアイラのお忍びデート、元婚約者や、婚約者候補たち、エイドとサラのその後となっております。
あと、アイラが小さい頃に会った女の子がロキだったことを知る話も書くかもしれません。

あと、もう少しだけお付き合いいただけますと幸いです!

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