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47 悪あがきする公爵令嬢④
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中に入ってきたポスティム公爵令嬢は、いつものような高慢な表情は消え失せ、憔悴しきっていた。
ロキはコの字型になっているソファの一人席に座り、私は今まで座っていた席のところで立ったまま、ポスティム公爵令嬢を出迎えた。
ポスティム公爵令嬢は泣きはらした目をしていて、事情を知らなければ同情してしまいそうなくらいだ。
ふらふらとした足取りで、ポスティム公爵令嬢は私の向かい側のソファの前に立った。
そして、しばらくの沈黙が続いたあと、腰を下ろす様子のない彼女に、ロキが話しかける。
「一体、何の用かな」
「……カッとなって執事にお願いしてしまいました。もう二度といたしませんので、どうかお許し願えませんでしょうか」
「許す理由がわからない。それに二度としませんとかいう問題じゃない」
ロキが冷たい口調で言うと、ポスティム公爵令嬢は大粒の涙を流して許しを請う。
「もう一度言わせていただきます! もう二度といたしません! 申し訳ございませんでした!」
「謝っても無駄だよ。君は王太子妃候補という立場なんだから、そんなことをしたらどうなるかなんてわかるだろう。いや、それもわかっていなかったんだから、そんな君を王太子妃候補として残すことはできない」
「わたくしは本当にロキアス様のことを!」
「王太子妃の条件は僕のことをどれだけ好きかというものじゃないんだよ。それくらいわかるだろう」
「では、キャスティー子爵令嬢はどうなるんですの!? この方はどう考えても王太子妃に向いていないではないですか!」
はっきりと言われてしまい、言い返せない自分が悔しい。
でも、これだけは言っておきたいと思うことがあって口を開く。
「ポスティム公爵令嬢、私は王太子妃になる人間としてはまだまだ未熟だとは思います。ですが、あなたに言われたくありません。あなたが考えた馬鹿げたことを誰かにしようだなんて、そんなことは絶対に思いませんから」
「……っ! お前がいなければ、こんなことにはならなかったのに!」
「私がいなかったら、エレイン様が王太子妃になっていただけだと思いますよ」
エレイン様は正義感の強い人だから、王太子妃にポスティム公爵令嬢がなるくらいなら、自分がなったほうが良いと頑張ってくださっていると思うから、そう応えた。
「こんな女のどこが良いんですか!」
ポスティム公爵令嬢がロキに向かって叫んだ時、彼女のヒステリックな声が廊下まで聞こえていたからか扉が叩かれた。
「ポスティム公爵令嬢、今日はもう帰ってくれ。君の言いたいことはわかった。でも、どんな決断を下すかは僕だけで決めることじゃない」
ロキはそう告げると、立ち上がって部屋の扉を開けても良いと許可をした。
すると、騎士が心配そうな表情で扉を開けて尋ねる。
「ロキアス殿下、申し訳ございません。中がとても騒がしいので心配になったのですが」
「ポスティム公爵令嬢が興奮しているみたいだ。落ち着いてもらいたいから、部屋に連れ戻してくれ」
「承知しました」
指示された騎士は恭しく頭を下げると「失礼します」と言って部屋に入ってくると、ポスティム公爵令嬢に話しかける。
「お部屋までお連れいたします」
「嫌よ! 話は終わっていないわ! わたくしはロキアス殿下の妻になるのよ!」
ポスティム公爵令嬢は腕を振り回しながら泣き叫んだ。
ロキとポスティム公爵令嬢が会ったのは、つい最近のはずなのに、ここまでロキのことを好きになれるのは本当にすごいと思う。
だけど、ロキが好きなだけじゃ王太子妃にはなれない。
ポスティム公爵令嬢をどこか気の毒に思いつつも、やってはいけないことをしたのだから、その罪は償うべきだと思った。
※
お読みいただきありがとうございます!
明日で完結予定ですが、もし、こんなエピソードが見たかったなどありましたら、完結前に教えていただけますと幸いです。
ロキはコの字型になっているソファの一人席に座り、私は今まで座っていた席のところで立ったまま、ポスティム公爵令嬢を出迎えた。
ポスティム公爵令嬢は泣きはらした目をしていて、事情を知らなければ同情してしまいそうなくらいだ。
ふらふらとした足取りで、ポスティム公爵令嬢は私の向かい側のソファの前に立った。
そして、しばらくの沈黙が続いたあと、腰を下ろす様子のない彼女に、ロキが話しかける。
「一体、何の用かな」
「……カッとなって執事にお願いしてしまいました。もう二度といたしませんので、どうかお許し願えませんでしょうか」
「許す理由がわからない。それに二度としませんとかいう問題じゃない」
ロキが冷たい口調で言うと、ポスティム公爵令嬢は大粒の涙を流して許しを請う。
「もう一度言わせていただきます! もう二度といたしません! 申し訳ございませんでした!」
「謝っても無駄だよ。君は王太子妃候補という立場なんだから、そんなことをしたらどうなるかなんてわかるだろう。いや、それもわかっていなかったんだから、そんな君を王太子妃候補として残すことはできない」
「わたくしは本当にロキアス様のことを!」
「王太子妃の条件は僕のことをどれだけ好きかというものじゃないんだよ。それくらいわかるだろう」
「では、キャスティー子爵令嬢はどうなるんですの!? この方はどう考えても王太子妃に向いていないではないですか!」
はっきりと言われてしまい、言い返せない自分が悔しい。
でも、これだけは言っておきたいと思うことがあって口を開く。
「ポスティム公爵令嬢、私は王太子妃になる人間としてはまだまだ未熟だとは思います。ですが、あなたに言われたくありません。あなたが考えた馬鹿げたことを誰かにしようだなんて、そんなことは絶対に思いませんから」
「……っ! お前がいなければ、こんなことにはならなかったのに!」
「私がいなかったら、エレイン様が王太子妃になっていただけだと思いますよ」
エレイン様は正義感の強い人だから、王太子妃にポスティム公爵令嬢がなるくらいなら、自分がなったほうが良いと頑張ってくださっていると思うから、そう応えた。
「こんな女のどこが良いんですか!」
ポスティム公爵令嬢がロキに向かって叫んだ時、彼女のヒステリックな声が廊下まで聞こえていたからか扉が叩かれた。
「ポスティム公爵令嬢、今日はもう帰ってくれ。君の言いたいことはわかった。でも、どんな決断を下すかは僕だけで決めることじゃない」
ロキはそう告げると、立ち上がって部屋の扉を開けても良いと許可をした。
すると、騎士が心配そうな表情で扉を開けて尋ねる。
「ロキアス殿下、申し訳ございません。中がとても騒がしいので心配になったのですが」
「ポスティム公爵令嬢が興奮しているみたいだ。落ち着いてもらいたいから、部屋に連れ戻してくれ」
「承知しました」
指示された騎士は恭しく頭を下げると「失礼します」と言って部屋に入ってくると、ポスティム公爵令嬢に話しかける。
「お部屋までお連れいたします」
「嫌よ! 話は終わっていないわ! わたくしはロキアス殿下の妻になるのよ!」
ポスティム公爵令嬢は腕を振り回しながら泣き叫んだ。
ロキとポスティム公爵令嬢が会ったのは、つい最近のはずなのに、ここまでロキのことを好きになれるのは本当にすごいと思う。
だけど、ロキが好きなだけじゃ王太子妃にはなれない。
ポスティム公爵令嬢をどこか気の毒に思いつつも、やってはいけないことをしたのだから、その罪は償うべきだと思った。
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明日で完結予定ですが、もし、こんなエピソードが見たかったなどありましたら、完結前に教えていただけますと幸いです。
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