41 / 61
39 休暇中の出来事②
しおりを挟む
驚くことに今日の午後から、別邸のダンスホールでダンスのレッスンが始まることになった。
ロキに恥をかかせないようにしなくちゃと意気込んだのは良いものの、やって来た講師の先生が私の苦手なタイプだった。
ちなみに先生の性格が悪いとかいうわけではない。
先生の人との距離の詰め方が苦手だった。
ダンスをするのだから、先生と近づかないといけないことくらいはわかっている。
でも、あまりにも密着してくることが多くて、優しい紳士と見せかけて、必要以上に触ってきているのではないかと思ってしまった。
自意識過剰になっているだけかもしれないから何も言わずに無言で教えられた練習をしていると、講師であるマクスミュード先生は、白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべる。
「アイラ様、表情が険しくなっていますよ。あ、でも、初日ですから緊張してしまいますよね。僕も緊張していますよ」
「それは、はい。そうですよね」
笑顔が引きつりそうになるのを、何とか堪える。
いきなり頼んで来てもらっているのだから、多少のことくらいで文句を言っては駄目だわ。
気持ちを切り替えて、ダンスの練習に集中しようとした。
でも、やっぱり駄目だった。
どう考えても、先生はわたしに必要以上に触れようとしてきているとしか思えなかった。
わたしが王太子妃候補だということは知っているからか、お尻や胸などの無関係な所に触れてきたりはしない。
でも、首を撫でてくるのは違うような気がする。
ダンスというものはこんなものなのか、エレイン様に相談してみようかと思っていた時、ロキが様子を見に来てくれた。
「男性の講師しか見つからなかったとは聞いて、しょうがないと諦めたけど、距離が近すぎるだろう」
ロキも先生と私の距離が、踊っている時ならまだしも、話をしているだけなのに近いことに気がついて、無理矢理、間に割って入ってきた。
すると、先生は慌てて頭を下げる。
「申し訳ございません、ロキアス殿下。そのようなつもりはなかったのです。一生懸命やっておりました」
「急に呼びたてたのは悪いと思っているが、王太子妃候補と必要以上に仲良くしろとは言っていない」
「申し訳ございません!」
ロキに睨まれた先生は、何度も頭を下げた。
「彼女のダンスのパートナーはフットマンにさせるから、君は口頭で教えてくれ」
「……承知いたしました」
返事に間があったことは気になるけれど、とりあえずの危機は脱したようなので、ロキにお礼を言う。
「ありがとう、ロキ。本当に助かったわ」
「どういたしまして。気になったから見に来たんだけど来てみて良かったよ」
微笑するロキに「こんなことをしたら、ポスティム公爵令嬢にも同じことをしないといけないんじゃないの」と言いたくなった。
でも、嫌な発言に思えて、言葉を止めることが出来た。
……これってヤキモチなのかしら。
胸を押さえて黙っていると、ロキが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「アイラ、どうかしたのか?」
「ううん、何でもないわ。心配してくれてありがとう」
「体調が悪いなら今日はもうやめたほうがいい」
「ううん、大丈夫よ! ダンスの基礎は覚えているし、何とかやれると思うから」
「……わかった。なら、今日はこのまま、僕がパートナーをするよ。本番も僕が相手だからね」
「ええっ!?」
微笑むロキに、わたしは大きな声で聞き返した。
ロキに恥をかかせないようにしなくちゃと意気込んだのは良いものの、やって来た講師の先生が私の苦手なタイプだった。
ちなみに先生の性格が悪いとかいうわけではない。
先生の人との距離の詰め方が苦手だった。
ダンスをするのだから、先生と近づかないといけないことくらいはわかっている。
でも、あまりにも密着してくることが多くて、優しい紳士と見せかけて、必要以上に触ってきているのではないかと思ってしまった。
自意識過剰になっているだけかもしれないから何も言わずに無言で教えられた練習をしていると、講師であるマクスミュード先生は、白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべる。
「アイラ様、表情が険しくなっていますよ。あ、でも、初日ですから緊張してしまいますよね。僕も緊張していますよ」
「それは、はい。そうですよね」
笑顔が引きつりそうになるのを、何とか堪える。
いきなり頼んで来てもらっているのだから、多少のことくらいで文句を言っては駄目だわ。
気持ちを切り替えて、ダンスの練習に集中しようとした。
でも、やっぱり駄目だった。
どう考えても、先生はわたしに必要以上に触れようとしてきているとしか思えなかった。
わたしが王太子妃候補だということは知っているからか、お尻や胸などの無関係な所に触れてきたりはしない。
でも、首を撫でてくるのは違うような気がする。
ダンスというものはこんなものなのか、エレイン様に相談してみようかと思っていた時、ロキが様子を見に来てくれた。
「男性の講師しか見つからなかったとは聞いて、しょうがないと諦めたけど、距離が近すぎるだろう」
ロキも先生と私の距離が、踊っている時ならまだしも、話をしているだけなのに近いことに気がついて、無理矢理、間に割って入ってきた。
すると、先生は慌てて頭を下げる。
「申し訳ございません、ロキアス殿下。そのようなつもりはなかったのです。一生懸命やっておりました」
「急に呼びたてたのは悪いと思っているが、王太子妃候補と必要以上に仲良くしろとは言っていない」
「申し訳ございません!」
ロキに睨まれた先生は、何度も頭を下げた。
「彼女のダンスのパートナーはフットマンにさせるから、君は口頭で教えてくれ」
「……承知いたしました」
返事に間があったことは気になるけれど、とりあえずの危機は脱したようなので、ロキにお礼を言う。
「ありがとう、ロキ。本当に助かったわ」
「どういたしまして。気になったから見に来たんだけど来てみて良かったよ」
微笑するロキに「こんなことをしたら、ポスティム公爵令嬢にも同じことをしないといけないんじゃないの」と言いたくなった。
でも、嫌な発言に思えて、言葉を止めることが出来た。
……これってヤキモチなのかしら。
胸を押さえて黙っていると、ロキが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「アイラ、どうかしたのか?」
「ううん、何でもないわ。心配してくれてありがとう」
「体調が悪いなら今日はもうやめたほうがいい」
「ううん、大丈夫よ! ダンスの基礎は覚えているし、何とかやれると思うから」
「……わかった。なら、今日はこのまま、僕がパートナーをするよ。本番も僕が相手だからね」
「ええっ!?」
微笑むロキに、わたしは大きな声で聞き返した。
101
お気に入りに追加
1,743
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします
水都 ミナト
恋愛
伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。
事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。
かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。
そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。
クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが…
★全7話★
※なろう様、カクヨム様でも公開中です。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました
ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」
オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。
「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」
そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。
「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」
このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。
オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。
愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん!
王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。
冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる