【完結】婚約破棄された貧乏子爵令嬢ですが、王太子殿下に溺愛されています

風見ゆうみ

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36 複雑な気持ち

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 その日はとても良い天気だった。
 白い雲が多少はあるけれど、綺麗な青空も見えていて、気温も快適だった。
 私は運動が好きなので、こういう時はランニングをしたくなる。

 肌の露出が少なければラフな格好に着替えることは許されているので、騎士たちに付いてきてもらい、庭園をランニングしていた。
 かなり息が上がってきたので休憩するために、走るスピードを緩めていた時、どこからか声が聞こえてきた。

「ロキアス様、お願いいたします! わたくしを選んでくださいませ! わたくしはあなたをお慕いしております!」

 ポスティム公爵令嬢の声だった。

 盗み聞きするつもりはないのに、ポスティム公爵令嬢の大きな声は私の耳に勝手に入ってきた。
 その後に、ロキの困った声が聞こえる。

「悪いけど、好き嫌いで決めるようなものじゃないんだよ」
「私なら、あなたを失望させることはありませんわ!」

 足を止めて周りを見回すと、私がいる小道に平行している小道が少し離れた所にあり、ロキとポスティム公爵令嬢はそこに立って話をしていた。

 しかも、ポスティム公爵令嬢はロキに抱きつこうと腕を伸ばしていた。
 でも、彼女の腕をロキが掴んで、抱きつかれることを拒んでいた。

 今日はデートの日だったのかしら。
 それとも、違う日に約束をしたのかはわからない。
 もやりとした気持ちが胸に湧いた気がして、自然と胸に手を当てる。

「アイラ様、立ち聞きしていると思われても困りますので、もう行きましょう。ロキアス殿下の周りにも騎士はおりますから」
「そうね。そうしましょう」

 一緒にランニングに付き合ってくれていた騎士に話しかけられて頷いた時だった。

「ロキアス様、せめて、このお願いだけは聞いてください!」
「一応聞いておくよ。どんなことかな」
「キャスティ子爵令嬢ばかり特別扱いするのはやめてくださいませ! 彼女にやっていることをロキアス様は他の女性にもするべきなのです!」

 ポスティム公爵令嬢がヒステリックに叫んだ。

「そんなつもりじゃなかった。でも、贔屓しているように見えると教えてくれてありがとう。自分では気付けなかったことだ。これからは気をつけるよ。本当に済まなかった」

 ロキが素直に謝る姿を見て、また胸が痛んだ。

 ポスティム公爵令嬢にあんなことを言われたのは、私のせいではないんだと思う。
 でも、ロキがこれを機会に、他の女性にも優しくするのだと思うと、なぜか複雑な気分だった。

「アイラ様」

 騎士に急かされて二人に気づかれないように私たちはその場を離れた。

 汗をかいたので部屋に戻って、湯浴みをすることにした。

 湯浴みをしている間にロキからの手紙が届いていたので、恐る恐る内容を読んでみた。
 手紙には諸事情で私宛に送っている手紙の回数を減らすことになるけれど、私を好きなことに変わりはないと書かれていた。

 


 
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