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29 お外デート1回目②
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「アイラがさっきのカップルの手ばかり見ていたから、気になるのかなと思ったんだよ」
「き、気になるというか、デートってあんなものなのかなと思っていたのよ」
ドキドキしながら答えると、ロキは少しだけ考えてから口を開く。
「うーん。どうだろうな。人によるんじゃないか? 手を繋いでいる人もいれば、そうでない人もいるし。で、君はどうしたい?」
ロキが右手を差し出したまま聞いてくる。
う、うう。
これはどうしたらいいの?
手を取らないのも失礼だし、手を取るのも恥ずかしい!
手を繋ぐことが普通なのか、ロキに聞いてみる。
「他の王太子妃候補とはどうしてるの?」
「手を繋いだりはないかな。手や腕を貸したりすることはあるけど」
「そうなのね」
それはそうよね。
王太子妃候補は皆、同じ条件なんだから、手を繋いだりすることでわかるものだってあるかもしれない。
それなら、私も手を繋いでみようかしら。
「……で、ではお願いします」
照れながらも左手を差し出して彼の手を軽く握った。
すると、ロキはそれはもう嬉しそうな笑顔を見せて、私の手を握った。
*****
ロキとは店の前で手を離したから、手を繋いでいた時間は1分にも満たなかったかもしれない。
だけど、ロキの機嫌はとても良さそうなので、それはそれで良かったということにしておく。
ただ、緊張のせいか私の手汗が凄かった。
手汗が気になってしょうがなくて手を離してすぐに、ロキの手を私のハンカチで拭いた。
ロキは私の行動に不思議そうな顔をしたけれど、理由を伝えたら気にならなかったと笑ってくれた。
「いらっしゃいませ! 王……ではなく、ロキ様! そして、おかえりアイラちゃん!」
ロキと一緒に店に入っていくと、店番をしてくれていたのか、エディさんが笑顔で迎えてくれた。
そして、なぜかその横にはシフォン様がいた。
シフォン様はエディさんが、ロキのことを王太子殿下と呼びそうになった時に上手く止めてくれていた。
エディさんにはロキが来ることは伝えてあるけれど、王太子殿下と呼ばないようにお願いしていたのに、つい、口に出してしまいそうになったみたいだった。
だって、大きな声で言われてしまったら、お忍びで来た意味がないものね。
でも、どうしてここにシフォン様がいるのかしら。
「不肖の弟がサラさんに迷惑をかけたと聞いたんです。本日は、そのお詫びも兼ねまして、私が店番をさせていただきます」
私の心の声を読んだみたいに、シフォン様が笑顔で答えてくれた。
エイドがサラに迷惑をかけた、というか、好き勝手しすぎたから、姉のシフォン様がお詫びだなんて、姉弟の仲がとても良いのね。
「シフォンに聞いたら、何度か店番をやって楽しかったみたいた。だから、ぜひ、今日はサラの代わりに働きたいって言ってくれたんだよ」
ロキが苦笑しながら教えてくれた。
「そうだったのね。でも、公爵令嬢がケーキを売っているなんて知ったら、皆、驚くでしょうね」
「まあね。だけど、彼女が公爵令嬢だなんて言わないければわからない。貴族が来れば別だが、来たとしてもシフォンは上手くやるだろう。まあ、まさか彼女がここで働いているなんて、そのことを知っている人間以外は誰も思わないだろう」
「それはそうね」
シフォン様を知ってる人だって、まさか本人がこんな所で働いてるだなんて夢にも思わないわよね。
「あ、アイラもロキももう来てたのね!」
白のブラウスに若草色のプリーツスカートに身を包んだサラが店の奥から出てきて、笑顔で私たちに手を振ってから話しかけてくる。
「好きなケーキを選んでちょうだい。今日は私のおごりよ!」
「いや。アイラの家族へのお土産も必要だから、ここは僕が出すよ」
「いいから! ここで働くのは楽しいし、お給料もいいから気にしないで」
サラは上機嫌な笑顔でロキに言うと、今度は私のほうに顔を向ける。
「ここのお店で働いてると、絶対に太っちゃうわ! エディさんが新しいケーキを考えるのに、試作品をくれるんだけど、それがまた美味しくて!」
「何よ、それ! すごく羨ましいんだけど!?」
「私も本日、いただいてしまいました! エディさんのお作りになるケーキは、どれも美味しいですわね」
シフォン様が満面の笑みを浮かべて言った。
な、なんて、羨ましい!
王太子妃候補になって美味しい料理が毎日食べ
られているから幸せだけど、ここにも違う幸せがあったなんて!
「とにかくサラ、お店で人気のものや君のオススメがあれば教えてくれないか。それを買っていくよ」
「じゃあ、ロキとアイラの分は私が出すわ! ロキはアイラのご家族の分をお願いできる?」
「遠慮しすぎても君に失礼だろうし、お言葉に甘えさせてもらうよ」
ロキとサラがそんな話をしている内に、店内にお客さまがやって来た。
ロキとシフォン様、それにサラの顔面が普通の人よりも良いものだから、入ってきたカップルは少し驚いた顔をして立ち止まった。
女性のほうは、方を赤らめてロキのほうをチラチラと見ているし、男性のほうはシフォン様とサラのほうに目を奪われてしまっていて、二人が何をしに来たのかわからない。
「いらっしゃいませ!」
お客さんの来店に気が付いたシフォン様が笑顔を向けると、カップルが同時に我に返ったようで、ショーケースに並ぶケーキを見始めた。
サラとロキも話をしながら、持っていくケーキを相談している。
サラとロキが並んでいたら似合うわね。
って、こんなことを思っていたりしたら、エイドに怒られるかもしれないわ。
「おや、君はいつぞやの?」
背後から声が聞こえて振り返ると、こんな所にいるとは思いもしない人物、リュシリュー殿下がいた。
「き、気になるというか、デートってあんなものなのかなと思っていたのよ」
ドキドキしながら答えると、ロキは少しだけ考えてから口を開く。
「うーん。どうだろうな。人によるんじゃないか? 手を繋いでいる人もいれば、そうでない人もいるし。で、君はどうしたい?」
ロキが右手を差し出したまま聞いてくる。
う、うう。
これはどうしたらいいの?
手を取らないのも失礼だし、手を取るのも恥ずかしい!
手を繋ぐことが普通なのか、ロキに聞いてみる。
「他の王太子妃候補とはどうしてるの?」
「手を繋いだりはないかな。手や腕を貸したりすることはあるけど」
「そうなのね」
それはそうよね。
王太子妃候補は皆、同じ条件なんだから、手を繋いだりすることでわかるものだってあるかもしれない。
それなら、私も手を繋いでみようかしら。
「……で、ではお願いします」
照れながらも左手を差し出して彼の手を軽く握った。
すると、ロキはそれはもう嬉しそうな笑顔を見せて、私の手を握った。
*****
ロキとは店の前で手を離したから、手を繋いでいた時間は1分にも満たなかったかもしれない。
だけど、ロキの機嫌はとても良さそうなので、それはそれで良かったということにしておく。
ただ、緊張のせいか私の手汗が凄かった。
手汗が気になってしょうがなくて手を離してすぐに、ロキの手を私のハンカチで拭いた。
ロキは私の行動に不思議そうな顔をしたけれど、理由を伝えたら気にならなかったと笑ってくれた。
「いらっしゃいませ! 王……ではなく、ロキ様! そして、おかえりアイラちゃん!」
ロキと一緒に店に入っていくと、店番をしてくれていたのか、エディさんが笑顔で迎えてくれた。
そして、なぜかその横にはシフォン様がいた。
シフォン様はエディさんが、ロキのことを王太子殿下と呼びそうになった時に上手く止めてくれていた。
エディさんにはロキが来ることは伝えてあるけれど、王太子殿下と呼ばないようにお願いしていたのに、つい、口に出してしまいそうになったみたいだった。
だって、大きな声で言われてしまったら、お忍びで来た意味がないものね。
でも、どうしてここにシフォン様がいるのかしら。
「不肖の弟がサラさんに迷惑をかけたと聞いたんです。本日は、そのお詫びも兼ねまして、私が店番をさせていただきます」
私の心の声を読んだみたいに、シフォン様が笑顔で答えてくれた。
エイドがサラに迷惑をかけた、というか、好き勝手しすぎたから、姉のシフォン様がお詫びだなんて、姉弟の仲がとても良いのね。
「シフォンに聞いたら、何度か店番をやって楽しかったみたいた。だから、ぜひ、今日はサラの代わりに働きたいって言ってくれたんだよ」
ロキが苦笑しながら教えてくれた。
「そうだったのね。でも、公爵令嬢がケーキを売っているなんて知ったら、皆、驚くでしょうね」
「まあね。だけど、彼女が公爵令嬢だなんて言わないければわからない。貴族が来れば別だが、来たとしてもシフォンは上手くやるだろう。まあ、まさか彼女がここで働いているなんて、そのことを知っている人間以外は誰も思わないだろう」
「それはそうね」
シフォン様を知ってる人だって、まさか本人がこんな所で働いてるだなんて夢にも思わないわよね。
「あ、アイラもロキももう来てたのね!」
白のブラウスに若草色のプリーツスカートに身を包んだサラが店の奥から出てきて、笑顔で私たちに手を振ってから話しかけてくる。
「好きなケーキを選んでちょうだい。今日は私のおごりよ!」
「いや。アイラの家族へのお土産も必要だから、ここは僕が出すよ」
「いいから! ここで働くのは楽しいし、お給料もいいから気にしないで」
サラは上機嫌な笑顔でロキに言うと、今度は私のほうに顔を向ける。
「ここのお店で働いてると、絶対に太っちゃうわ! エディさんが新しいケーキを考えるのに、試作品をくれるんだけど、それがまた美味しくて!」
「何よ、それ! すごく羨ましいんだけど!?」
「私も本日、いただいてしまいました! エディさんのお作りになるケーキは、どれも美味しいですわね」
シフォン様が満面の笑みを浮かべて言った。
な、なんて、羨ましい!
王太子妃候補になって美味しい料理が毎日食べ
られているから幸せだけど、ここにも違う幸せがあったなんて!
「とにかくサラ、お店で人気のものや君のオススメがあれば教えてくれないか。それを買っていくよ」
「じゃあ、ロキとアイラの分は私が出すわ! ロキはアイラのご家族の分をお願いできる?」
「遠慮しすぎても君に失礼だろうし、お言葉に甘えさせてもらうよ」
ロキとサラがそんな話をしている内に、店内にお客さまがやって来た。
ロキとシフォン様、それにサラの顔面が普通の人よりも良いものだから、入ってきたカップルは少し驚いた顔をして立ち止まった。
女性のほうは、方を赤らめてロキのほうをチラチラと見ているし、男性のほうはシフォン様とサラのほうに目を奪われてしまっていて、二人が何をしに来たのかわからない。
「いらっしゃいませ!」
お客さんの来店に気が付いたシフォン様が笑顔を向けると、カップルが同時に我に返ったようで、ショーケースに並ぶケーキを見始めた。
サラとロキも話をしながら、持っていくケーキを相談している。
サラとロキが並んでいたら似合うわね。
って、こんなことを思っていたりしたら、エイドに怒られるかもしれないわ。
「おや、君はいつぞやの?」
背後から声が聞こえて振り返ると、こんな所にいるとは思いもしない人物、リュシリュー殿下がいた。
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