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27 彷徨う王子
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「一体、何なんだったのでしょうか」
部屋に戻り、窓際に置いてある安楽椅子に身体を預けた私に、キャシーがお茶の準備をはじめながら言った。
「何にしても二人共、少し変わっている感じがするわよね」
「少しどころではない気もしますが……」
「やっぱり、キャシーもそう思う? かなり変わっているわよね? あまり貴族社会とかに詳しくないから、貴族や王族って、あんなものかと思ってしまいそうになってしまうけれど、そうじゃないということで合っているわよね?」
「お二人に関しては悪い例といいますか、あまり無い例だと思ったほうが良いかと思われます。もちろん、貴族にも悪い人間はいますから、アイラ様もお気をつけ下さいね。それから、今日は、ポテン国の王子殿下が全員いらっしゃっているようです。部屋から出ないほうが良いかもしれませんね」
「わかったわ。さっきみたいに出くわしたくないし部屋で大人しくしているわ」
頷くと、キャシーは簡易テーブルを私の横に置き、その上にお茶の入ったカップを置いてくれた。
礼を言って、早速お茶を飲みながら、先程の話をキャシーとしていると、複数の足音が近付いてくるのがわかった。
身構えていると、部屋の前で足音がピタリと止まった。
私にお客さんかしら。
そう思ってキャシーのほうを見ると、無言で頷いてから扉に近付いていく。
それと同時に、扉が叩かれた。
やって来たのは、フィーニ様とフューニ様で、二人共、それはもう興奮した様子だった。
「大変ですわよ! 失格者が出ましたの!」
「もしかして、セイデア伯爵令嬢のことでしょうか?」
部屋にお通しして、ソファに並んで座ってもらってから、二人の向かい側に座って尋ねた。
すると、フィーニ様だけじゃなくフューニ様もがっかりしたような顔になった。
「……知っておられたんですね」
「あ、その、申し訳ございません。失格になる理由を知ってしまったというか見てしまったというか」
「見ておられたんですか!? 一体何があったんですの!?」
フューニ様が身を乗り出して聞いてきたけれど、苦笑して首を横に振る。
「さすがに私の口からお話するのはちょっと……。正式に発表があれば、私からもお話できると思います」
「……そうですわよね。なんでもかんでも簡単にペラペラと話をしてはいけませんわよね」
フューニ様はうんうんと何度も首を縦に振った後、話題を変えてくる。
「では、こちらの話はどうでしょうか。ポテン国の第二王子殿下の話です」
「第二王子殿下ですか」
他国の王子様については本当に詳しくない。
本当に王太子妃になるのであれば、しっかり勉強しないといけないところだけど、今のところ、マナーの勉強でいっぱいいっぱいだ。
先生も今の状態で勉強などを始めたら、マナーの時間に勉強して覚えたことを忘れてしまいそうだということで、マナーが自然と身につくまでは勉強を先延ばしにしてくれている。
だんだんわかってきたので。近い内に勉強がメインに変更される話は聞いていた。
「ええ。リュシリュー殿下です。とても素敵な方ですわよ」
「見たことがあるんですか?」
「ええ!」
フィーニ様に聞き返すと、二人そろって両拳を握りしめて頷いた。
本当はこういう話題も王太子妃候補としては、失礼に当たるかもしれないし、駄目なのかもしれない。
そう思ったけれど、悪口ではないから許されるということにしておく。
「どちらで見かけられたんですか?」
「先程、見ましたわよ。失格の話もリュシリュー殿下から聞いたんです。よくわかりませんが、弟を叱りたいから、セイデア伯爵令嬢を探しているとか何とか言っていらしたんです」
「はい?」
私がフューニ様に聞き返した時だった。
コンコン、と扉が叩かれる音が聞こえて、返事をすると、私の部屋の前で警備をしてくれている騎士が扉の向こうから話しかけてきた。
「あの、邸内を迷っておられる方がいらっしゃるんです。ご案内が必要なようですので、少しだけ、持ち場から離れてもよろしいでしょうか?」
「迷う? この屋敷の中で?」
「そのようです」
騎士もどこか呆れた声だった。
普通はメイドが案内するものだけれど、近くにいないのであればしょうがない。
キャシーを貸してもよいけど、相手が誰だかわからないし、とにかく扉を開けて聞いてみることにした。
「一体、どういうことなの?」
「す、すまない……」
扉から顔だけ出して騎士に顔を向けて尋ねると、騎士のほうからではなく、私の真正面から声が返ってきた。
だから、騎士に向けていた顔を動かすと、アルフレッド殿下の顔立ちにそっくりな男性が立っていた。
背は彼よりも高いし、もう少し気が強そうな印象を受ける、整った顔立ちの男性だった。
この邸内に入れるということは、危険人物ではないことは確かだ。
「あ、あの、どちら様でしょうか?」
「すまない。この屋敷に入る許可は得ているんだ。だが、その、言われた通りに歩いて来たつもりなんだが、セイデア伯爵令嬢の部屋にどうしてもたどり着けないんだよ!」
頭を抱えて訴える男性に、私は呆れながらも尋ねる。
「あの、わたくし、アイラ・キャスティーと申します。失礼ですが、あなた様のお名前をお聞かせ願えますか」
どんな答えが返ってくるかわかっているのだけれど聞いてしまった。
「ああ。俺はリュシリュー・ワウガス。ポテン国の第二王子だ」
方向音痴の王子様は爽やかな笑顔で答えてくれた。
そして、相手が誰だかわかったと同時に、私はポテン国が本当に心配になった。
部屋に戻り、窓際に置いてある安楽椅子に身体を預けた私に、キャシーがお茶の準備をはじめながら言った。
「何にしても二人共、少し変わっている感じがするわよね」
「少しどころではない気もしますが……」
「やっぱり、キャシーもそう思う? かなり変わっているわよね? あまり貴族社会とかに詳しくないから、貴族や王族って、あんなものかと思ってしまいそうになってしまうけれど、そうじゃないということで合っているわよね?」
「お二人に関しては悪い例といいますか、あまり無い例だと思ったほうが良いかと思われます。もちろん、貴族にも悪い人間はいますから、アイラ様もお気をつけ下さいね。それから、今日は、ポテン国の王子殿下が全員いらっしゃっているようです。部屋から出ないほうが良いかもしれませんね」
「わかったわ。さっきみたいに出くわしたくないし部屋で大人しくしているわ」
頷くと、キャシーは簡易テーブルを私の横に置き、その上にお茶の入ったカップを置いてくれた。
礼を言って、早速お茶を飲みながら、先程の話をキャシーとしていると、複数の足音が近付いてくるのがわかった。
身構えていると、部屋の前で足音がピタリと止まった。
私にお客さんかしら。
そう思ってキャシーのほうを見ると、無言で頷いてから扉に近付いていく。
それと同時に、扉が叩かれた。
やって来たのは、フィーニ様とフューニ様で、二人共、それはもう興奮した様子だった。
「大変ですわよ! 失格者が出ましたの!」
「もしかして、セイデア伯爵令嬢のことでしょうか?」
部屋にお通しして、ソファに並んで座ってもらってから、二人の向かい側に座って尋ねた。
すると、フィーニ様だけじゃなくフューニ様もがっかりしたような顔になった。
「……知っておられたんですね」
「あ、その、申し訳ございません。失格になる理由を知ってしまったというか見てしまったというか」
「見ておられたんですか!? 一体何があったんですの!?」
フューニ様が身を乗り出して聞いてきたけれど、苦笑して首を横に振る。
「さすがに私の口からお話するのはちょっと……。正式に発表があれば、私からもお話できると思います」
「……そうですわよね。なんでもかんでも簡単にペラペラと話をしてはいけませんわよね」
フューニ様はうんうんと何度も首を縦に振った後、話題を変えてくる。
「では、こちらの話はどうでしょうか。ポテン国の第二王子殿下の話です」
「第二王子殿下ですか」
他国の王子様については本当に詳しくない。
本当に王太子妃になるのであれば、しっかり勉強しないといけないところだけど、今のところ、マナーの勉強でいっぱいいっぱいだ。
先生も今の状態で勉強などを始めたら、マナーの時間に勉強して覚えたことを忘れてしまいそうだということで、マナーが自然と身につくまでは勉強を先延ばしにしてくれている。
だんだんわかってきたので。近い内に勉強がメインに変更される話は聞いていた。
「ええ。リュシリュー殿下です。とても素敵な方ですわよ」
「見たことがあるんですか?」
「ええ!」
フィーニ様に聞き返すと、二人そろって両拳を握りしめて頷いた。
本当はこういう話題も王太子妃候補としては、失礼に当たるかもしれないし、駄目なのかもしれない。
そう思ったけれど、悪口ではないから許されるということにしておく。
「どちらで見かけられたんですか?」
「先程、見ましたわよ。失格の話もリュシリュー殿下から聞いたんです。よくわかりませんが、弟を叱りたいから、セイデア伯爵令嬢を探しているとか何とか言っていらしたんです」
「はい?」
私がフューニ様に聞き返した時だった。
コンコン、と扉が叩かれる音が聞こえて、返事をすると、私の部屋の前で警備をしてくれている騎士が扉の向こうから話しかけてきた。
「あの、邸内を迷っておられる方がいらっしゃるんです。ご案内が必要なようですので、少しだけ、持ち場から離れてもよろしいでしょうか?」
「迷う? この屋敷の中で?」
「そのようです」
騎士もどこか呆れた声だった。
普通はメイドが案内するものだけれど、近くにいないのであればしょうがない。
キャシーを貸してもよいけど、相手が誰だかわからないし、とにかく扉を開けて聞いてみることにした。
「一体、どういうことなの?」
「す、すまない……」
扉から顔だけ出して騎士に顔を向けて尋ねると、騎士のほうからではなく、私の真正面から声が返ってきた。
だから、騎士に向けていた顔を動かすと、アルフレッド殿下の顔立ちにそっくりな男性が立っていた。
背は彼よりも高いし、もう少し気が強そうな印象を受ける、整った顔立ちの男性だった。
この邸内に入れるということは、危険人物ではないことは確かだ。
「あ、あの、どちら様でしょうか?」
「すまない。この屋敷に入る許可は得ているんだ。だが、その、言われた通りに歩いて来たつもりなんだが、セイデア伯爵令嬢の部屋にどうしてもたどり着けないんだよ!」
頭を抱えて訴える男性に、私は呆れながらも尋ねる。
「あの、わたくし、アイラ・キャスティーと申します。失礼ですが、あなた様のお名前をお聞かせ願えますか」
どんな答えが返ってくるかわかっているのだけれど聞いてしまった。
「ああ。俺はリュシリュー・ワウガス。ポテン国の第二王子だ」
方向音痴の王子様は爽やかな笑顔で答えてくれた。
そして、相手が誰だかわかったと同時に、私はポテン国が本当に心配になった。
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