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26 ルール違反

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 セイデア伯爵令嬢は目を瞬かせてロキに尋ねる。

「もちろん、脱落する気ではおりますが、どうして、そんなことわざわざ言われる必要があるのですしょうか」
「いくら好きな人のためとはいえ、実家の財政を圧迫する様な、お金の使い方はおかしい。そんな女性が王太子妃、ゆくゆくは王妃になったりしたら駄目だろう」
「愛する人のために、お金を使うことの何が悪いんでしょうか」

 不思議そうにするセイデア伯爵令嬢の質問に、ロキはこめかみを指で押さえて答える。

「君が稼いだお金なら好きなようにしてかまわないと思う。だが、君がアルフレッド殿下のために使っているお金は君が稼いだお金ではなく、君のご両親が働いたり領民から集めた税金だろう?」
「お父様とお母様が良いと言っているのですから、それで良いではないですか」
「君が貴族として生きていけているのは多くの領民のおかげだぞ。領民が頑張って働いてくれているおかげで、君の両親の領地も経済的に潤うんだ。多くの利益があげられれば、領民のためにしてあげられることが増えるのに、今の状態だとアルフレッド殿下に貢いでいるだけじゃないか」
「お金の使い道に関しては、両親が考えたら良いことだと思います! 私が考えることではございませんわ!」

 セイデア伯爵令嬢は、ロキにきっぱりとそう答えた。
 
 これは駄目だわ。
 ロキの言っていることが、まったく伝わっていない感じ。
 そんな考え方だから、王太子妃には向いていないって言ってるのに。
 このままいけば、ロキは国王になるし、王太子妃は王妃になる。
 私たちの住んでいる国では、王妃陛下が政治に介入するわけじゃない。
 だから、決定権もないのだろうけれど、国王陛下が間違った判断をしていたら、それを正すのも王妃陛下の役目じゃないのかしら。
 今の言い方だと自分が王妃になっても、そんなことは国王陛下が考えればいいって丸投げしてるだけのようにしか聞こえないんだけど、彼女にはそう思えないの?

 かと言って、人の考え方なんて他人に言われてそう簡単に変わるものでもないし、絶対に変えないといけないわけでもない。
 彼女がそう思いたいなら、そのままにさせておいて王太子妃にはならせないようにすれば良いだけかもしれない。

 だから、ロキに話しかける。

「ねぇ、ロキ。このままだと話はずっと平行線だと思うの。それよりもセイデア家に直接、連絡を入れたほうがいいと思うわ。さすがに王太子妃候補が王太子殿下の前で相手が他国の第三王子殿下とはいえ、いちゃつくのはどうかと思うし、ルール違反をしているんじゃないかしら」
「わかってる。このことは彼女の両親にも、王太子妃候補の選定に関わっている人間にも伝えるよ」
 
 ロキは私にそう微笑んだあと、セイデア伯爵令嬢たちに顔を向ける。

「……セイデア伯爵令嬢、アルフレッド殿下、あなた方の気持ちはよくわかりました。まだ確定ではありませんが、近い内にセイデア伯爵令嬢は王太子妃候補から外れることになるでしょう」
「賞金はもらえるんですよね!?」

 焦った様子で聞いてきたのは、アルフレッド殿下だった。

 セイデア伯爵令嬢はロキの言葉を聞いてショックを受けた感じで、口を両手でおさえている。

 いや、アルフレッド殿下、食いつくところ間違っていませんか?
 普通はショックを受けている恋人のほうを気にした方がいいんじゃないのかしら。

 ロキはこれ見よがしに大きく息を吐いてから答える。

「もらえるわけがないでしょう。アルフレッド殿下は知っておられないかもしれませんが、王太子妃候補を決める時に婚約者や恋人の有無を確認しているんです。両方とも無しだという女性しか選んでいません。婚約者や恋人がいるのに二人の仲を引き裂く様なことはできませんからね。彼女はその際に無しと答えています。それなのに、恋人がいたということで虚偽報告になりますから失格になります」
「そ、そんな! ハニー! 何とかしてくれよ!」

 アルフレッド殿下が焦った顔をして、セイデア伯爵令嬢の両肩を掴んで言う。

「ごめんなさい、ダーリン! これから、ちょっと節約のデートでもいいかしら?」
「そんな! 僕は第三王子なんだよ! 恋人と行く所もスペシャルでなくては駄目じゃないか!」
「好きな人と行くのなら、どこだってスペシャルな場所になりますよ」

 ロキはセイデア伯爵令嬢の代わりに答えると、今度は私のほうを向いて言う。

「巻き込んですまない。アイラはもう帰っていいよ」
「大丈夫そう?」
「これくらい一人で対処できないとまずいだろ」
「なら良いけど、相手が相手だから無理はしないようにね」

 相手が他国の第三王子殿下だからという意味ではなく、話が通じなさそうな相手だということを伝えたかったのだけど、それについてもわかってくれたらしくロキは頷いた。

「大丈夫だ、ありがとう」

 気にはなったけれど、私がいても意味がないでしょうから、この場を立ち去ることにした。

「最近、発売した限定品の靴が欲しかったのにぃ!!」

 アルフレッド殿下のふざけた叫びが、静かな城の庭園内に響き渡ったのだった。

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