【完結】婚約破棄された貧乏子爵令嬢ですが、王太子殿下に溺愛されています

風見ゆうみ

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23 庭園での出来事

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 ロキとの文通は初めてお返事を書いた日から始まった。
 毎日、手紙をくれるロキに対して、私のほうは無理だった。
 だって、こんな風に他人から気持ちを言葉にされるのは初めてで、なんて返したらいいのかわからない。
 
 気持ちは嬉しい。
 でも、ロキからの手紙は本当に恋文といった感じだから、読むだけで恥ずかしいし、それについての返事を書くのは難しい。

 世間の恋人たちは会えない時は、こんな風に手紙を送り合ったりしているのかしら。

 ロキはさすがに書いてこないけれど、好きだよ、ハニー、みたいなことを書いて送ったりしているの?
 返事には私もよ、ダーリン、みたいなことを書くのかしら。

「うわあああ」

 考えただけで恥ずかしいわ。

 友達に彼氏がいる子はいたから、その時にもっと聞いておくべきだったかもしれないわ。
 その子は彼氏とは学園でも会っていたから、手紙のやり取りなんかしなくても良かったかもしれない。
 でも、どんな会話をしているかとか聞いておくべきだった。

 手紙に何を書けば良いのかわからなくて、机に突っ伏して、私は大きなため息を吐いた。




*****


 ロキとのデート日が近付いてきた、ある日。
 天気が良いのでキャシーと共に、城の敷地内にある庭を散歩していた時だった。
 私がため息ばかり吐いているからか、キャシーが尋ねてきた。

「大丈夫ですか、アイラ様」
「大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「何か心配事でもあるのでしょうか」
「心配事というか悩み事ね。ラブレターの返事の書き方の本って売っていたりするのかしら」
「ら、ラブレターの返事の書き方の本ですか? あまり、聞いたことがありませんが、そのようなものでしたら素直に自分の気持ちを書けば良いだけなのではないでしょうか。ロキ様が相手なのですし、日頃のアイラ様の様子を書くだけでも喜ばれると思いますよ」

 キャシーも既婚者だし、私にとっては恋愛の先生だわ。
 せっかくなので、このまま色々と聞いてみる。

「キャシーはラブレターを書いたことはあるの?」
「私は書いたことはございません。もらったことはありますが」
「え!? そうなの!? 嫌じゃなかったら、内容を聞かせてもらってもいい!? あと、返事はどうしたの?」
 
 広い庭だし、人に話を聞かれていることもないと思って普通の声のトーンで話をしていた。
 すると、私たちの話が耳に届いた人がいたらしく、私の質問に対して答えを返してくれたのはキャシーではなく背後から現れた別の人だった。

「そうだな。僕が美しいと書かれていたかな」
「……はい?」

 立ち止まって後ろを振り返ると、金色の腰まである長い髪をそのまま背中に垂らした若い男性が立っていた。

 背は私より少し高いくらいで、金色の髪に青色の瞳はすごく爽やかな印象を受けるけれど、見た目がなんとなくナルシストっぽい。
 いやいや。
 こんなことを言ったら失礼よね。

「アイラ様。この方は隣国のポテン国の第三王子のアルフレッド殿下です」

 呆気に取られている私に、キャシーが耳打ちしてくれた。

 え?
 この人が隣国の第三王子殿下なの?
 って、そんなことを思うのは失礼よね。

「申し訳ございません」
「どうして謝るんだい、子猫ちゃん」

 子猫ちゃんとは?

「あの、私は子猫ではありませんが」
「比喩表現だよ。それだけ君が可愛いってことだよ」

 バチン、とアルフレッド殿下が下手くそなウインクしてきた。

 アルフレッド殿下は恋愛小説に出てきそうな見た目の王子様だけれど、中身がちょっとやばそうだわ。

「あの、ありがとうございます」

 お礼を言ってから、カーテシーをする。

「アルフレッド殿下にお会いできて光栄です。アイラ・キャスティと申します」
「あ、僕のことを知ってるのかい? それは嬉しいなぁ。僕は君のこと知らないんだけどね! 王太子妃候補の一人かな?」

 なぜか、バチンバチン、とウインクをしながら、アルフレッド殿下は話しかけてくる。
 それについては無視をして聞かれたことだけ答える。

「そうでございます」
「そっかぁ! 君のお父上の爵位は?」
「子爵になります」

 アルフレッド殿下は笑顔でポンッと手を打って言う。

「子爵家というと君が特別枠の女性だね? うんうん。とってもチャーミングだ。庶民らしくて良い!」

 褒めてるのかしら。
 それに子爵家は庶民ではない。
 アルフレッド殿下にしてみれば、どうでも良いことなのだろうと思い訂正するのはやめた。

「あの、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ! 良かったら、一緒に庭園を歩かないか? オッケーだよね?」
「いえ。あの、ところで、どうしてアルフレッド殿下はこちらにいらっしゃるのでしょうか」
「ロキアス殿下と話をしていたら、彼の言っている話の内容が全然わからなくって逃げてきちゃったんだよ」

 逃げちゃ駄目です!
 
 何とか笑顔を作って話しかける。

「あの、ロキアス殿下が探していると思いますから一緒に戻りましょう」
「子猫ちゃんが手を引いてくれるなら戻ろうかな」
「私はロキアス殿下の妃候補ですので、そんなことはできません」

 どうすれば良いか相談しようと後ろを振り返る。
 さっきまで後ろにいてくれたキャシーがいなくなっていた。

 キャシー、どこに行っちゃったの!?

 と思ったら、アルフレッド殿下が私との距離を詰めてくる。

「大丈夫だよ。ちょっとだけ一緒に歩こうよぉ」
「歩こうよぉと言われましても! あの、アルフレッド殿下、失礼ですが年はおいくつでいらっしゃるのですか?」
「20歳だよ!」

 私よりも年上!
 それで、この話し方や態度はどうなの?
 
 第三王子殿下だから許されるのかしら。
 
「さあ、一緒にロキアス殿下の所へ戻ろう!」

 そう言って、アルフレッド殿下が私の手を取ろうとした時だった。

「僕はここにいますよ、アルフレッド殿下」

 そう言って私の腕を引っ張り、アルフレッド殿下の手から助けてくれたのは、少しだけ息を切らしたロキだった。

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