25 / 61
23 庭園での出来事
しおりを挟む
ロキとの文通は初めてお返事を書いた日から始まった。
毎日、手紙をくれるロキに対して、私のほうは無理だった。
だって、こんな風に他人から気持ちを言葉にされるのは初めてで、なんて返したらいいのかわからない。
気持ちは嬉しい。
でも、ロキからの手紙は本当に恋文といった感じだから、読むだけで恥ずかしいし、それについての返事を書くのは難しい。
世間の恋人たちは会えない時は、こんな風に手紙を送り合ったりしているのかしら。
ロキはさすがに書いてこないけれど、好きだよ、ハニー、みたいなことを書いて送ったりしているの?
返事には私もよ、ダーリン、みたいなことを書くのかしら。
「うわあああ」
考えただけで恥ずかしいわ。
友達に彼氏がいる子はいたから、その時にもっと聞いておくべきだったかもしれないわ。
その子は彼氏とは学園でも会っていたから、手紙のやり取りなんかしなくても良かったかもしれない。
でも、どんな会話をしているかとか聞いておくべきだった。
手紙に何を書けば良いのかわからなくて、机に突っ伏して、私は大きなため息を吐いた。
*****
ロキとのデート日が近付いてきた、ある日。
天気が良いのでキャシーと共に、城の敷地内にある庭を散歩していた時だった。
私がため息ばかり吐いているからか、キャシーが尋ねてきた。
「大丈夫ですか、アイラ様」
「大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「何か心配事でもあるのでしょうか」
「心配事というか悩み事ね。ラブレターの返事の書き方の本って売っていたりするのかしら」
「ら、ラブレターの返事の書き方の本ですか? あまり、聞いたことがありませんが、そのようなものでしたら素直に自分の気持ちを書けば良いだけなのではないでしょうか。ロキ様が相手なのですし、日頃のアイラ様の様子を書くだけでも喜ばれると思いますよ」
キャシーも既婚者だし、私にとっては恋愛の先生だわ。
せっかくなので、このまま色々と聞いてみる。
「キャシーはラブレターを書いたことはあるの?」
「私は書いたことはございません。もらったことはありますが」
「え!? そうなの!? 嫌じゃなかったら、内容を聞かせてもらってもいい!? あと、返事はどうしたの?」
広い庭だし、人に話を聞かれていることもないと思って普通の声のトーンで話をしていた。
すると、私たちの話が耳に届いた人がいたらしく、私の質問に対して答えを返してくれたのはキャシーではなく背後から現れた別の人だった。
「そうだな。僕が美しいと書かれていたかな」
「……はい?」
立ち止まって後ろを振り返ると、金色の腰まである長い髪をそのまま背中に垂らした若い男性が立っていた。
背は私より少し高いくらいで、金色の髪に青色の瞳はすごく爽やかな印象を受けるけれど、見た目がなんとなくナルシストっぽい。
いやいや。
こんなことを言ったら失礼よね。
「アイラ様。この方は隣国のポテン国の第三王子のアルフレッド殿下です」
呆気に取られている私に、キャシーが耳打ちしてくれた。
え?
この人が隣国の第三王子殿下なの?
って、そんなことを思うのは失礼よね。
「申し訳ございません」
「どうして謝るんだい、子猫ちゃん」
子猫ちゃんとは?
「あの、私は子猫ではありませんが」
「比喩表現だよ。それだけ君が可愛いってことだよ」
バチン、とアルフレッド殿下が下手くそなウインクしてきた。
アルフレッド殿下は恋愛小説に出てきそうな見た目の王子様だけれど、中身がちょっとやばそうだわ。
「あの、ありがとうございます」
お礼を言ってから、カーテシーをする。
「アルフレッド殿下にお会いできて光栄です。アイラ・キャスティと申します」
「あ、僕のことを知ってるのかい? それは嬉しいなぁ。僕は君のこと知らないんだけどね! 王太子妃候補の一人かな?」
なぜか、バチンバチン、とウインクをしながら、アルフレッド殿下は話しかけてくる。
それについては無視をして聞かれたことだけ答える。
「そうでございます」
「そっかぁ! 君のお父上の爵位は?」
「子爵になります」
アルフレッド殿下は笑顔でポンッと手を打って言う。
「子爵家というと君が特別枠の女性だね? うんうん。とってもチャーミングだ。庶民らしくて良い!」
褒めてるのかしら。
それに子爵家は庶民ではない。
アルフレッド殿下にしてみれば、どうでも良いことなのだろうと思い訂正するのはやめた。
「あの、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ! 良かったら、一緒に庭園を歩かないか? オッケーだよね?」
「いえ。あの、ところで、どうしてアルフレッド殿下はこちらにいらっしゃるのでしょうか」
「ロキアス殿下と話をしていたら、彼の言っている話の内容が全然わからなくって逃げてきちゃったんだよ」
逃げちゃ駄目です!
何とか笑顔を作って話しかける。
「あの、ロキアス殿下が探していると思いますから一緒に戻りましょう」
「子猫ちゃんが手を引いてくれるなら戻ろうかな」
「私はロキアス殿下の妃候補ですので、そんなことはできません」
どうすれば良いか相談しようと後ろを振り返る。
さっきまで後ろにいてくれたキャシーがいなくなっていた。
キャシー、どこに行っちゃったの!?
と思ったら、アルフレッド殿下が私との距離を詰めてくる。
「大丈夫だよ。ちょっとだけ一緒に歩こうよぉ」
「歩こうよぉと言われましても! あの、アルフレッド殿下、失礼ですが年はおいくつでいらっしゃるのですか?」
「20歳だよ!」
私よりも年上!
それで、この話し方や態度はどうなの?
第三王子殿下だから許されるのかしら。
「さあ、一緒にロキアス殿下の所へ戻ろう!」
そう言って、アルフレッド殿下が私の手を取ろうとした時だった。
「僕はここにいますよ、アルフレッド殿下」
そう言って私の腕を引っ張り、アルフレッド殿下の手から助けてくれたのは、少しだけ息を切らしたロキだった。
毎日、手紙をくれるロキに対して、私のほうは無理だった。
だって、こんな風に他人から気持ちを言葉にされるのは初めてで、なんて返したらいいのかわからない。
気持ちは嬉しい。
でも、ロキからの手紙は本当に恋文といった感じだから、読むだけで恥ずかしいし、それについての返事を書くのは難しい。
世間の恋人たちは会えない時は、こんな風に手紙を送り合ったりしているのかしら。
ロキはさすがに書いてこないけれど、好きだよ、ハニー、みたいなことを書いて送ったりしているの?
返事には私もよ、ダーリン、みたいなことを書くのかしら。
「うわあああ」
考えただけで恥ずかしいわ。
友達に彼氏がいる子はいたから、その時にもっと聞いておくべきだったかもしれないわ。
その子は彼氏とは学園でも会っていたから、手紙のやり取りなんかしなくても良かったかもしれない。
でも、どんな会話をしているかとか聞いておくべきだった。
手紙に何を書けば良いのかわからなくて、机に突っ伏して、私は大きなため息を吐いた。
*****
ロキとのデート日が近付いてきた、ある日。
天気が良いのでキャシーと共に、城の敷地内にある庭を散歩していた時だった。
私がため息ばかり吐いているからか、キャシーが尋ねてきた。
「大丈夫ですか、アイラ様」
「大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「何か心配事でもあるのでしょうか」
「心配事というか悩み事ね。ラブレターの返事の書き方の本って売っていたりするのかしら」
「ら、ラブレターの返事の書き方の本ですか? あまり、聞いたことがありませんが、そのようなものでしたら素直に自分の気持ちを書けば良いだけなのではないでしょうか。ロキ様が相手なのですし、日頃のアイラ様の様子を書くだけでも喜ばれると思いますよ」
キャシーも既婚者だし、私にとっては恋愛の先生だわ。
せっかくなので、このまま色々と聞いてみる。
「キャシーはラブレターを書いたことはあるの?」
「私は書いたことはございません。もらったことはありますが」
「え!? そうなの!? 嫌じゃなかったら、内容を聞かせてもらってもいい!? あと、返事はどうしたの?」
広い庭だし、人に話を聞かれていることもないと思って普通の声のトーンで話をしていた。
すると、私たちの話が耳に届いた人がいたらしく、私の質問に対して答えを返してくれたのはキャシーではなく背後から現れた別の人だった。
「そうだな。僕が美しいと書かれていたかな」
「……はい?」
立ち止まって後ろを振り返ると、金色の腰まである長い髪をそのまま背中に垂らした若い男性が立っていた。
背は私より少し高いくらいで、金色の髪に青色の瞳はすごく爽やかな印象を受けるけれど、見た目がなんとなくナルシストっぽい。
いやいや。
こんなことを言ったら失礼よね。
「アイラ様。この方は隣国のポテン国の第三王子のアルフレッド殿下です」
呆気に取られている私に、キャシーが耳打ちしてくれた。
え?
この人が隣国の第三王子殿下なの?
って、そんなことを思うのは失礼よね。
「申し訳ございません」
「どうして謝るんだい、子猫ちゃん」
子猫ちゃんとは?
「あの、私は子猫ではありませんが」
「比喩表現だよ。それだけ君が可愛いってことだよ」
バチン、とアルフレッド殿下が下手くそなウインクしてきた。
アルフレッド殿下は恋愛小説に出てきそうな見た目の王子様だけれど、中身がちょっとやばそうだわ。
「あの、ありがとうございます」
お礼を言ってから、カーテシーをする。
「アルフレッド殿下にお会いできて光栄です。アイラ・キャスティと申します」
「あ、僕のことを知ってるのかい? それは嬉しいなぁ。僕は君のこと知らないんだけどね! 王太子妃候補の一人かな?」
なぜか、バチンバチン、とウインクをしながら、アルフレッド殿下は話しかけてくる。
それについては無視をして聞かれたことだけ答える。
「そうでございます」
「そっかぁ! 君のお父上の爵位は?」
「子爵になります」
アルフレッド殿下は笑顔でポンッと手を打って言う。
「子爵家というと君が特別枠の女性だね? うんうん。とってもチャーミングだ。庶民らしくて良い!」
褒めてるのかしら。
それに子爵家は庶民ではない。
アルフレッド殿下にしてみれば、どうでも良いことなのだろうと思い訂正するのはやめた。
「あの、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ! 良かったら、一緒に庭園を歩かないか? オッケーだよね?」
「いえ。あの、ところで、どうしてアルフレッド殿下はこちらにいらっしゃるのでしょうか」
「ロキアス殿下と話をしていたら、彼の言っている話の内容が全然わからなくって逃げてきちゃったんだよ」
逃げちゃ駄目です!
何とか笑顔を作って話しかける。
「あの、ロキアス殿下が探していると思いますから一緒に戻りましょう」
「子猫ちゃんが手を引いてくれるなら戻ろうかな」
「私はロキアス殿下の妃候補ですので、そんなことはできません」
どうすれば良いか相談しようと後ろを振り返る。
さっきまで後ろにいてくれたキャシーがいなくなっていた。
キャシー、どこに行っちゃったの!?
と思ったら、アルフレッド殿下が私との距離を詰めてくる。
「大丈夫だよ。ちょっとだけ一緒に歩こうよぉ」
「歩こうよぉと言われましても! あの、アルフレッド殿下、失礼ですが年はおいくつでいらっしゃるのですか?」
「20歳だよ!」
私よりも年上!
それで、この話し方や態度はどうなの?
第三王子殿下だから許されるのかしら。
「さあ、一緒にロキアス殿下の所へ戻ろう!」
そう言って、アルフレッド殿下が私の手を取ろうとした時だった。
「僕はここにいますよ、アルフレッド殿下」
そう言って私の腕を引っ張り、アルフレッド殿下の手から助けてくれたのは、少しだけ息を切らしたロキだった。
102
お気に入りに追加
1,743
あなたにおすすめの小説
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします
水都 ミナト
恋愛
伯爵令嬢であるクリスティーナは、婚約者であるフィリップに「役立たずなお飾り令嬢」と蔑まれ、婚約破棄されてしまう。
事業が波に乗り調子付いていたフィリップにうんざりしていたクリスティーヌは快く婚約解消を受け入れ、幼い頃に頻繁に遊びに行っていた田舎のリアス領を訪れることにする。
かつては緑溢れ、自然豊かなリアスの地は、土地が乾いてすっかり寂れた様子だった。
そこで再会したのは幼馴染のアルベルト。彼はリアスの領主となり、リアスのために奔走していた。
クリスティーナは、彼の力になるべくリアスの地に残ることにするのだが…
★全7話★
※なろう様、カクヨム様でも公開中です。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ
Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます!
ステラの恋と成長の物語です。
*女性蔑視の台詞や場面があります。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる