【完結】婚約破棄された貧乏子爵令嬢ですが、王太子殿下に溺愛されています

風見ゆうみ

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20 ございますよ

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 結局、私はロキからもらった手紙の返事を書いた。
 いや、書けた、と言ったほうが正しいのか、そこのところはよくわからない。
「恥ずかしくて死ぬかと思ったわ」

 何とか返事を書き終え、封筒に封蝋を押したところで、私はばたりと書物机の上に上半身をゆだねた。

「大丈夫ですか、アイラ様」

 コニーが苦笑して、ソーサーにのせられた花柄のティーカップを机の上に置いてくれた。
 カップからは私の好きなフレーバーがした。

「お茶をありがとう。あ、コニー、これ、汚さないようにどこかにおいてくれるかしら。あと、この手紙はどうやって渡せばいいのかしら」
「そうですね。せっかくですし、直接、ロキ様に手渡すのはいかがでしょう?」
「え? 今、なんて?」
「今日はもう夜も遅いですし、今すぐはやめておいたほうが良いかもしれませんが、明日の夕方にでも持っていって差し上げたらいかがでしょう。 ロキ様のスケジュールを調べてお知らせいたしますわね」
「べ、別にそんなことしなくていいわよ! 返事を書いただけでも頑張ったでしょう」

 ロキへの返事を書き始めてから、もう3時間は経っていて夕食もとれていない。

「はい。アイラ様はとても頑張っていらっしゃいました。ですから、あともうひと踏ん張りいかがでしょうか」
「もうひと踏ん張りだなんて無理よ! コニーの鬼!」
「ロキ様が小さな頃からお仕えしていますので、こんなことを言っては恐れ多いのですが、弟みたいで可愛い存在なんです。たまにはご褒美をあげて下さい」

 苦笑するコニーに、私は書き物机に突っ伏した状態で顔だけ上げて言う。

「そりゃそうよね。付き合いの長さは私とロキの付き合いよりも、コニーは長いものだものね。だから、コニーがロキの味方になるのもわかるわ」
「申し訳ございません。アイラ様がそれ程、嫌がられるとは思っていなかったんです。ですので、先程の言葉は忘れて下さいませ」
「いいえ、忘れません! いつもコニーたちにはお世話になってるから、それくらいさせてもらいます!」
「ありがとうございます、アイラ様」

 怒っているわけでも拗ねているわけでもないことを伝えたくて、身を起こして笑顔で言うと、コニーは嬉しそうに微笑んで、お礼を言ってくれた。
 
 コニーだけじゃなくて、マーサもキャシーも、ロキのことを良く思っているみたい。
 私はコニーたちをすごく良い人たちだと思っているから、そんな人たちに好かれているロキは裏表のない良い人なんだと思う。

 よし、明日はロキに手紙を渡せるように頑張らなくちゃ!
 
 そう決めた瞬間、盛大にお腹が鳴った。


******


 次の日は、マナーの先生から授業に集中できていないと怒られてしまった。
 普通なら口を挟まないメイドたちだけれど、見かねたキャシーが、今日はロキ様に手紙を渡しに行くので緊張しているのだと伝えてくれた。
 すると先生はなぜか喜んで、急遽、次にロキに手紙を書く時に役立てられるような文章などを教えてくれた。

 すごく甘い言葉もあって、先生が書いてくれたものを読むだけでも恥ずかしかった。

 コニーたちの計らいで、ロキにはサプライズで会いに行くことになった。
 これについては、国王陛下から許可を得ているので、他の王太子妃候補に文句を言われることもなさそう。

 そういえば、一言も話したことのない令嬢がいるんだけど、あの令嬢とは、この先も話すことはないのかしら。
 あの人は何を目的にしているのだろう。

「アイラ様、手紙を渡しに行く前に身なりを整えましょう」

 コニーたちはそう言うと、手紙を渡しに行くだけなのに、綺麗なドレスに着替えさせられメイクもされて、またもや別人のようにされてしまった。

 私のすっぴんを相手は知ってるのに、意味があるのかしら。 

 そんなことを思ってから付いてきてくれているメイドたちに話しかける。
 
「別に付いてきてくれるのはかまわないわ。だけど、3人共付いてくるだなんて」
「アイラ様がやっぱりやめた、と言い出さないように応援する人数は多いほうが良いかと思いまして!」
「三人で私の逃げ場をなくそうとしてるの!?」

 ブツブツ文句を言っている私を、ロキの部屋の前までメイド三人組が連れて行ってくれた。

 マーサが代表して扉をノックする。

「ロキ様、マーサです。お忙しいところ申し訳ございませんが、今少しだけ、お時間よろしいでしょうか」
「ああ。かまわない。入ってくれ」
「アイラ様、では、ここからはお一人でどうぞ」

 マーサは満面の笑みを浮かべて、小声で言うと扉を開けてくれた。

 緊張しながら、初めてロキの部屋に入る。
 部屋はものすごく広くて、実家の私の部屋の3倍以上はあるように見える。
 奥のほうには大きなベッドが置かれていて、ロキはそのすぐ近くに置かれてある、執務机のような大きな机の椅子に座って書類を読んでいた。

 そろーり、そろーりと足音を忍ばせて近付いていく。

 すると、入ってきた相手が何も言葉を発さないことを不思議に思ったのか、ロキが書類から目を離して、私のほうを見た。

「「っ!?」」

 ロキと私は目が合うと、お互いに声にならない声を上げて動きを止めた。
 
 しばらくの沈黙のあと、先に動きを再開できたのは私のほうだった。

「では、失礼します」
「いや、帰るのが早すぎるだろ! 来たばかりじゃないか」

 ロキに引き止められて、私は足を止めた。

 そうよ。
 せめて、一生懸命書いた、この手紙だけでも渡さないといけないわ。

 ゆっくりと振り返ると、すぐ傍にロキがいて、私が抱きしめている封筒を指差した。

「アイラに会えて嬉しいよ。っていうか、その封筒、もしかして僕宛だったりする?」
「そ、そそ、そそそ」
「そそそ?」
「そうですぅ!!」

 叫んでから、目をつぶって手紙を差し出した。
 すると、私が思っていた様な感触ではなかったので、ゆっくりと目を開く。
 目をつぶっていたせいで、ロキの胸に押し付けるつもりが、ロキの額に両手で手紙を押し付ける形になってしまっていることに気が付いた。

 どこをどう間違ったのよ、私は!

 慌ててロキから離れて謝る。

「ご、ごめん、ロキ。い、痛かったわよね」
「……そりゃ痛いだろ」
「ですよね!! ごめんなさい!」

 手紙を片手だけで持ち、空いているほうの手でロキの額を撫でる。
 ロキは私の手に優しく触れて言う。

「大丈夫だから気にしなくていいよ。目じゃなくて良かった」
「そんなことしちゃったら、私、不敬罪で殺されてしまうわ」
「それは大丈夫だよ。僕が生きている限り、君をそんなことにはさせない」

 ロキは苦笑したあと、握りしめたり押し付けたりしたせいで、私の手の中でよれよれになってしまった手紙を指差す。

「で、もらってもいいのかな?」
「も、もちろんでございますでございますよ」

 私の返事を聞いた途端、ロキが噴き出した。
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