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19 生まれた友情

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「マーサ、ごめんね。お茶を淹れてもらえる? ここで飲むから」
「承知いたしました」
「エレイン様。今日は私の父が経営している店のケーキがあるんです。よろしければ食べてみてもらえませんか?」
「まあ、嬉しい」

 エレイン様が両手を合わせて微笑んでくれた時だった。

「いただきますわ!」

 ぽっちゃり体型のフューニ様が、なぜか私たちのテーブルの空いていた椅子を引いて座ると会話に割って入ってきた。

「公爵家御用達のケーキだとお聞きしましたわ。食べてさしあげてもよろしくてよ?」
「無理して食べ手いただかなくても結構ですよ」
「無理なんてしていませんわ。頼まれたら食べると言っているの」
「あの、じゃあ、結構です」

 身分が上の人間に対して言う言葉ではないかもしれないけれど、この場ではそういったほうが良いような気がしたので素直に言うと、フューニ様の動きが止まった。

「今、なんておっしゃいました?」
「あの、無理をしてお食べにならなくても大丈夫です。余ったらメイドにあげますから」
「そ、そんな! 無理はしていないと言っているでしょう」

 フューニ様が必死の形相で私に言った時だった。

 エディさんが色々な種類を食べられるようにと、私用に作ってくれたミニケーキがたくさんのったケーキスタンドをマーサがテーブルの真ん中に置いてくれた。

「わあ! 美味しそうですわね!」

 ケーキスタンドにのっているケーキを見たエレイン様が嬉しそうな声を上げた。

「あの、ねぇ、私も、その」

 フューニ様がもじもじしながら言うので、これ以上断ると意地悪しているみたいだしやめておく。

「よろしければ、フューニ様もどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「私もいただきますわ!!」

 感激した様子でお礼を言ってきたフューニ様を押しのけて、フィーニ様が叫んだ。

 美味しいものって、人によっては争うこと無く和解できるきっかけを作ってくれるものなのかもしれない。
 
 ケーキスタンドにのったミニケーキを見て、目をキラキラさせているノビス辺境伯姉妹を見て、そんなことを思ってしまった。

 でも、それって素敵よね。
 そう思って、私はエレイン様のほうを見ると、しょうがないと言わんばかりに頷いてくれた。
 
 結局、ミニケーキを4人で仲良く食べたところ、どこのケーキ屋さんが美味しいというケーキの話題で盛り上がった。
 どこどこのケーキ屋が美味しかったけれど、今日食べたケーキが一番美味しいと、エレイン様たちが褒めてくれたのはとても嬉しかった。

 過去のことがあるからか、最初は2人を警戒していたエレイン様だったけれど、ケーキの話が盛り上がるにつれて打ち解けてきたのか笑顔も増えて、とても楽しそうだった。

 ケーキを食べ終えて自分たちの部屋に戻る際には、フューニ様たちがエレイン様に今までのことを謝ったのだから、美味しいものを食べると人は幸せな気持ちになって優しい気持ちになれるのかしら、なんて思ってしまった。

 もちろん、全ての人ではないだろうけれど、今回は良い結果になって良かった。

 エレイン様たちがエディーさんの作ったケーキを家族に食べさせたいと言ってくれたけれど、さすがに北と南の辺境伯家にはケーキを送ってあげられないので、エディさんに今度、日持ちのするクッキーを作れるかどうか聞いてみようと思った。

 そうすれば遠方から来た人だって、旅のお土産にもできるものね!
 ケーキは日持ちしないから、遠方から来た人だと家に持って帰るということができない。
 例え持って帰ったとしても傷んでしまって美味しくないだろうし、お腹を壊してしまう恐れがある。

 そうだわ。
 それを考えたら、その場で買ったケーキを食べられるスペースを設けるのもいいかもしれない。
 繁盛したなら、今より大きな場所に移転するのも良いかも!
 夢が膨らむわ!

「アイラ様、とても嬉しそうなお顔をされていますが、そんなにお茶会が楽しかったのですか?」

 マーサが休憩に入ったため交代したコニーが、部屋でニコニコしている私に笑顔で話しかけてきた。

「ええ。思った以上にすごく楽しかったわ。性格が悪そうだなと思ってた人とも仲良くなれたし、それはそれで良かったんだけど」

 問題とまでは言えないけれど気になったことを思い出して、私の声が小さくなっていったからかコニーが首を傾げる。

「どうかされましたか?」
「応援すると言われてしまって」
「……どういうことでしょう」

 コニーが不思議そうに私を見て聞いてきた。

 フューニ様たちと仲良くなったのはいいものの、彼女たちは今までの私への態度をコロッと変えた。
 彼女たちが言うには、こんなに美味しいケーキを皆に届けたいと思う人に悪い人はいないと言うのだ。
 
 私の国では通説とまではいかないかもしれないけれど、動物を好きな人は良い人が多いと伝わっている。
 フューニ様たちは、それと同じ様な感じで美味しいものを独り占めせずに人に分け与えたり教えたりする人は良い人だと思っているらしい。

 というわけで、そのケーキを作ってくれているエディさんも良い人だと言い、そのケーキを提供したいと思った、私のお父様も良い人認定された。
 そして、そのお父様の店を守りたいと思った私も良い人と思ってくれたらしく、ロキに好かれているだけある、となぜか認められてしまったのだ。

 王妃になるにはロキに愛されているだけでなく、今、私だけがやっているようなマナーなどの勉強は絶対にやっておいたほうが良いと言われたし、何か力になることがあればいつでも声をかけてほしいとまで言われた。
 しかも、推薦する人間の名前も私の名前を書くとまで言ってくれた。

 外堀を自分で埋めていってしまったと思うのは気のせいだろうか。

 残りの三人に残って、お金を少しでも多くもらいたいという気持ちはあったから、有り難いといえば有り難いのだけど、私が王妃なんて絶対に無理よ。

「あの、アイラ様、やはり体調がよろしくないのでしょうか」
「違うの。ごめんなさい、コニー。実はね」

 先程まで脳内で考えていたことをコニーに話すと、彼女は苦笑して言う。

「アイラ様は、ロキ様に恋に落ちてしまえば覚悟が出来るのでしょうか」
「わからないわ。だけど、そうなった場合はきっと覚悟しないと駄目よね。一緒にいたいと思うか、そうでないか。もしくは好きだからこそ身を引くとかもありかもしれないわ」
「それですと恋愛小説の王子様が相手ですと、追いかけてくるパターンなのではないでしょうか」
「それはそうだけど、私はヒロインじゃないしね。でも、ロキは追いかけてくるかしら」
「アイラ様が身を引いたとわかれば追いかけてくるのではないでしょうか」
「でも、王太子妃候補の最後の一人に私が選ばれなかったら、ロキは諦めると言ってるのよ? 追いかけてきたら怖くない?」
「ロキ様のことですから、アイラ様が真剣にやって、それでも王太子妃に選ばれなかったか、そうでなかったかはわかるでしょうし、真剣にやらなかった場合は自分はフラれたと理解されると思いますよ」
「フラれた……かぁ」

 ソファに倒れ込むように座り、背もたれに背中を預けて天井を見上げた。

 ロキが王太子じゃなければ、きっと、私はロキの告白を受け入れていて、普通の恋人同士になっていたんじゃないかなって思う。
 だって、告白されて嫌な気持ちとか、困った気持ちにならなかったから。
 嬉しいと恥ずかしいしかなかったし。

 そして、今、コニーの言葉を聞いて私がロキをフッただなんて、ロキに思ってほしくないと思う気持ちもある。

 ああ、難しい。
 これは好きということなの?
 それとも、友人としての好きなの?
 わからない!

「ねえ、コニー」
「何でしょうか」
「どうして、コニーはハンスと結婚したの?」

 ハンスというのは、コニーの旦那様の名前だ。
 私のフットマンでもあるけれど、普段は屋敷の中の雑用をしてくれていて今はここにはいない。

「難しいことを言われますね」

 コニーが笑うから体を起こして、コニーを見上げて尋ねる。

「難しいことなの? 政略結婚とかではないのね」
「政略結婚ではありません。でも、言葉にするのが難しいと言いますか」
「そうなのね。でも、好きだったから結婚したのよね」
「そうですね」

 コニーが白い頬をピンク色に染めたので、私が頬を緩めるとコニーは慌てた顔になった。

「大変です! ロキ様からアイラ様へのお手紙を預かっていたんです」

 そう言って、テーブルの上に置かれていた封筒を取ると私に手渡してくれた。

 毎日、ロキは私にラブレターを送ってくる。
 読むと恥ずかしくなって、ベッドの上でシーツにくるまりたくなってしまうから未だに返事をしていない。
 なのにロキは毎日送ってくる。

「返事をしたほうがいいかしら。さすがに無視し続けるのは失礼よね」
「ロキ様が好きでやっているようですし、無理に返さなくても良いと思いますが、返事が返ってきたら、きっと喜ばれると思いますよ」

 喜んでくれるのなら書いたほうがいいわよね。

「じゃあ、書くわ! この手紙の返事を書くから!」

 そう宣言して封筒から手紙を取り出し、早速、読み始めたまでは良かった。

『仕事中、疲れてどうしようもなくなった時に君のことを思い出すと頑張れるよ。君も、たまには僕のことを思い出してくれたら嬉しいんだけどな』

 何を考えてるのよ、ロキはっ!

「うわあああああ」

 心の声だけでは抑えられなくなって恥ずかしさで絶叫すると、コニーが驚いて飛び跳ねた。

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