【完結】婚約破棄された貧乏子爵令嬢ですが、王太子殿下に溺愛されています

風見ゆうみ

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17 来訪者が続くよ

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 ロキとのデートから二日後のこと。
 今日の授業を終えて、昨日書けなかったサラへの手紙を書いていると、部屋の扉がノックされた。
 キャシーが誰か確認するために扉を開けると、そこにいたのは以前の顔合わせの時に、私に舌打ちをしてきたメイドだった。

「カーラ様がお呼びです」
「いつ?」

 挨拶もなしに聞いてきた上に、相手はメイドなので敬語を使う必要もないかと思って聞いてみると、彼女は目を細めて答える。

「カーラ様が呼んでいるのですから今すぐです」

 言い方が横柄だったので、さすがにカチンときてしまったので言い返す。

「忙しいから無理ですとお伝え下さい」
「なんですって!? 相手は公爵令嬢なんですよ!?」
「知っているわよ。だけど、公爵令嬢だからこそ約束もなしに今から来いだなんて命令することが礼儀知らずだということを知っているべきでしょう」
「なんて、生意気なことを言うのですか!」
「生意気なことを言っているのはあなただわ。私は王太子妃候補で、あなたは他の王太子妃候補のメイドでしょう。たとえ、あなたが仕えている相手が公爵令嬢であろうとも礼儀は必要だわ」
「私は子爵令嬢なんです! あなたと一緒なんです!」
「なら、偉そうに出来ないじゃない。私の家が貧乏だから言ってるの? まあ、それは間違ってないからいいとしても、あなた、大事なことを忘れていない?」

 ペンを置いて書物机の椅子から立ち上がり、廊下に立っている彼女に向かって歩きながら言葉を続ける。

「さっきも言ったけれど私は王太子妃候補なの。贔屓はしてもらえないけど特別枠よ。王太子殿下のことはよく知っているし、王太子殿下と私は仲が良いわ。だから今度のデートの時に、あなたのことを王太子殿下に話してしまうかもしれないわ」
「そ、そんな」

 メイドは唇を震わせながら後退る。

「そういえば、お名前を聞いていなかったわね。あなたはどこの子爵家のご令嬢?」

 笑顔で尋ねると、メイドは「お部屋にいらっしゃらなかったとお伝え致します! では、失礼します!」と名乗らずに走って帰っていった。

「何も出来ず、申し訳ございませんでした」

 扉を閉めて静かになったところで、キャシーが謝ってきた。

「いいのよ。扉を開けてって言ったのは私だから。これからは相手を確認してからにするわ。こちらこそごめんね」
「ですが……」
「もしどうしても気になるんなら、お茶の用意をしてくれない? お腹減っちゃった」
「そ、それはかまわないのですが、アイラ様」
「何?」
「1時間前もそう仰って、アイラ様のお知り合いの方が作られたケーキを食べていらっしゃいましたよね」
「え、エディさんの作ったケーキは美味しいからね!」

 キャシーの冷たい視線から目を逸らして言った。

 そりゃあ、言われるわよね。
 夕食前の時点で、すでにケーキを3個も食べているんだもの。
 でも、たまにはご褒美が多めでもいいわよね。

 その時、私は食べ物のことで印象に残っている幼い頃のことを思い出した。

 家族で出かけたお祭りで、肉串が食べたいのに買ってもらえなかったことがあった。
 今思えば、肉串がとても高かったからだとわかる。
 子供だから駄々をこねていると、誰かが肉串を買ってくれた覚えがある。

 たしか、私と同じ年くらいの可愛らしい女の子だった。
 あの子は元気にしているのかしら。

「どうかなさいましたか?」

 黙り込んでいたからか、キャシーが心配そうな顔をして聞いてきた。

「キャシー、さっきの件だけど、やっぱり会いにいったほうがいいのかしら。メイドの態度にかちんときてしまって、ついつい言い返してしまったんだけど、良くない態度だったわよね」
「……どうでしょうか。先程のメイドの態度は失礼すぎますので、あれくらいであれば言っても差し支えないかと思います」 

 キャシーは少し考える様子を見せてから話を続ける。

「ロキ様が後ろに付いていることは嘘ではありませんし、王太子妃候補同士で争うことは当たり前のことではありますが、喧嘩のようなことになることを良しとされているわけでもありません。いつかは王妃陛下になられるのですから、争いを好むような女性は向いていないと判断されるはずです」

 一度言葉を区切って、私が理解できたか確認してから話を続ける。

「彼女は気付いていないようですが、王太子妃候補の家から連れて来たメイドですから、王太子妃候補の点数にも関与してきますので、今回の件は減点対象になるのではないかと思われます」
「そうなの?」
「はい。見られていないようで見られているんです。アイラ様もお気をつけ下さいませ」
「わ、わかったわ」
 
 部屋から出たら気を抜いてはいけないということね。

 そう思ったあと、サラへの手紙を書くことを再開しようとすると、また誰かがやって来た。

 警戒して返事をすると、今度はエイドだった。

「突然、伺ってすみません」
「あなたなら気にしなくていいわよ。それよりもこの前は大丈夫だった?」
「大丈夫といえば、大丈夫といいますか」

 先日のロキもそうだけれど、エイドも疲れた顔をしているから、とにかくソファに座ってもらう。

「キャシー、エイドにお茶を淹れてあげてくれる?」
「承知しました。エイド様、いつものものでよろしいですか?」
「お願いします」

 キャシーも、エイドたちが男爵令息と名乗っていた時代から彼らと一緒にいる。
 だから、エイドの好きなお茶などは全て把握済みだから、こういう時はとても助かる。
 エイドが頷いたのを確認して、キャシーはお茶を淹れる準備を始めてくれた。

 その間、私が向かいのソファに座って、エイドに話しかける。

「サラは許してくれたの?」
「現在は保留中です」
「保留中? どういうこと?」
「友人として許せる範囲は許すけれど、度を越している分に関しては許せないんだそうです」

 エイドはがっくりと肩を落として言った。

 サラの性格上、そうなることはエイドだってわかっていたでしょうに。
 って、ロキも同じようなことを言ってたわね。

 ロキでもわかるのに、どうして彼女のことを好きなエイドがわからなかったのかしら。

 わかっていたから、余計に言い出しにくくなった感じとかかしらね。

「度を越してる分は怒られてもしょうがないことくらい、エイドだってわかっているんでしょう?」
「それはもちろんそうなんですが、って、今日は、その話をしに来た訳ではないんです」
「そうなの?」

 キャシーがエイドの分と一緒に、私の分のお茶も淹れてくれたので、お礼を言ってから一口飲んでみる。

 うん。
 何回、飲んでも思う。
 茶葉が良いと聞いただけで、すごく美味しい感じがする。
 もちろん、キャシーたちのお茶の淹れ方のおかげもあるんだろうけど。

 こんな贅沢なお茶を毎日飲んでいたら、家に帰った時が心配になるわ。
 ……それはそれでまた美味しいんだろうけど。

「先日、ロキから頼まれた件で話をしに来たんですが」
「ロキから? あ、もしかして、マグナのこと?」
「そうです。あなたはよく、あんな男と何年も婚約関係を続けていられましたね」
「学園で顔を合わせるくらいしか、ほとんど接点がなかったからよ。外で話すことがあったとしても、事務的な話しかしなかったし」
「本当にそんな彼と結婚するつもりだったんですか?」
「親が決めたことなんだからしょうがないじゃない。結婚すれば何とかなるかなと思ってたの。別に仮面夫婦でも良いわけだし」

 責められているように感じて、少しだけ眉根を寄せて答えると、エイドが謝ってくる。

「申し訳ございません。気分を害させたかったわけじゃないんです」
「本気で怒ってるわけじゃないから気にしないで。で、マグナはどんな感じなの? 諦めてくれそう?」
「ケーキ屋に近付くのは諦めたようですが、今度は、あなたのご実家にプレゼントを送っているようですよ」
「はあ!? どうしてそんなことを!?」

 私は大きな声で聞き返した。
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