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16 変化する気持ち
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「どうしてそんなことを聞くんだよ」
「えっと、誰とでもしてるのかなと思って」
自分でもどうしてこんな質問をしたのかわからなくて困惑していると、ロキは詳しく聞かずに答えてくれる。
「そんな訳ないだろ。外出してばかりだよ。あれが欲しいとかこれが欲しいとかねだる人もいるし色々だよ」
「王太子殿下に何かを買ってほしいとおねだりする人がいるのね。自分の家で買ってもらえばいいのに」
「王太子に買ってもらったって自慢できるからじゃないかな。さすがにアクセサリーはお断りしてるけどね」
「どうして?」
「デートの記念で何かを買う人もいるかもしれないけど、普通のデートで高額のアクセサリーをたくさん買ったりしないだろ。出すお金は僕が稼いだお金もあるけど、お祖父様から譲り受けたお金もある。そのお金を贅沢なことには使いたくないんだ。君への賞金は無駄金だと思う人もいると思うけど、それについては僕のお金だよ」
苦笑しているロキを見て思う。
きっと、反対意見が出たのでしょうね。
ロキはワガママを言うタイプじゃないのに押し通したということは、ロキにとっては私をここに呼んだことはただ単にワガママというだけではなく、切実な願いもあったのかもしれない。
「ごめんね。私がもう少し恋愛に興味があれば良かったんだけど」
「どういうこと?」
ロキが私の腕にもたれかかってきて聞いてきた。
「私、実は初恋もまだなのよね」
「え?」
「だって、今まで婚約者がいたし、婚約者を好きになろうと思っても、あの男のどこを好きになったら良いのかわからなかったのよ」
「……そう言われてみればそうだな」
ロキは小さく息を吐いてから納得してくれた。
ロキと知り合った頃には、マグナはすでに私の婚約者だった。
だから、ロキをそんな風に見たことはなかったんだけど、もし、マグナという婚約者がいなければ、私はロキを意識していたのかしら。
右腕にロキの温もりを感じながら、ぼんやりと思った。
「そういえば、私とロキの出会いっていつだったかしら。クラスが一緒になって初めて知り合ったんだっけ?」
「えっ!?」
驚かれるような質問をしたわけではないと思うんだけど、ロキが動揺した声で聞き返してきた。
私は驚くようなことを言ったつもりはないから、不思議に思って質問を変える。
「驚かれるようなことを言ったかしら」
「いや、その、アイラはいつだと思うんだ?」
「……そうね。初めて同じクラスになった時かしら」
「……だよな。記憶にないよな」
ロキがなぜか悲しそうな顔をしたから問い詰めようとしたけれど、のらりくらりと躱されてしまった。
*****
結局、お部屋デートはロキが眠ることはなく、他愛のない話をするだけで終わった。
でも、リラックスはしてくれたみたいで、帰る頃にはほんの少しだけ顔色が良くなっているようにも思えた。
これは私がそう願っているから、そう見えてしまっただけかもしれないけれど、ロキが笑顔だから良いことにする。
「体を気遣ってくれて本当にありがとう。でも、次は僕のことは気にしなくていいよ。君の行きたい所に行こう。君の実家に行ったり君のお父上が経営しているケーキ屋に行ってもいい。そうすればサラにも会えるし」
「ありがとう。でも、私はロキの行きたい所に行きたいわね。それに実家に行くなんて言ったら、家族が緊張してお腹を壊すかもしれないわ」
「お腹を壊すのは良くないな。あと、言い忘れていたけど君となら、どこでも楽しくなるから場所は早めに言ってくれるのならどこでも良い」
「お部屋デートは嫌なの?」
ジッとしていられないタイプなのかと思い聞いてみるとロキは答えてくれる。
「君と二人きりだと何かしたくなっちゃうから辛いんだ」
「な、な、何かって何?」
「知りたい?」
ロキが顔を近づけて来たので、慌てて後ろに飛び退く。
「謎のままでいいわ!」
「それはそれで困るかな」
「駄目だからね。そういうことをしていいのは、王太子妃に決まった人じゃないと駄目だからね!」
「そういうことって何?」
「意地悪! もういい! 早く帰って!」
「ごめんって」
ロキは笑うと彼の身体を扉のほうに押しやろうとしていた私の両腕を掴んで見つめてきた。
心臓の鼓動のスピードがすごい。
それにしても、こんなにロキって整った顔をしていたかしら。
王子だとわかったから、私の目にキラキラ見えるようなフィルターでもかかってるの?
不意にエイドが前に言っていた白馬に乗ったロキを想像して噴き出しそうになった。
すると、それに気が付いたロキが眉根を寄せる。
「何で笑いそうになってるわけ?」
「白馬に乗った王子様に憧れてるって言ったら、エイドがロキを白馬に乗せるって言ってたのを思い出したら笑いが堪えられなくて。ごめんなさい」
普通にロキが白い馬に乗ることはあると思う。
でも、エイドのせいで、ロキが白馬に乗ってるのを見ると目がキラキラしたキザな王子が頭の中に浮かんできそうで怖いわ。
「白馬に乗った僕が白馬に乗った王子と言われても、本当のことなんだからおかしくないだろ。何で笑うんだよ」
「何でもないわ。ごめんなさい。ほら、ロキはもうそろそろデートの終わりの時間なんだから帰ったほうがいいわ。エイドのことも心配だし様子を見てきてほしいから」
「……生きてるかな、エイド」
「さあ? サラ次第じゃないかしら」
首を傾げてみせると、ロキは苦笑してから自分で扉を開ける。
「今日はありがとう。君も無理はしないように」
「こちらこそ。あと、ロキは体を大事にしてね」
「わかった」
ロキが部屋から出ていくと当たり前だけれど、部屋の中は静かになった。
二度と会えないわけではないし、今までよりも近い距離にいるはずなのに、どうしてか無性に寂しくなった。
これはロキの気持ちに気付いて、彼を意識しているからなの?
いやいや、そんなわけないわ!
「アイラ様、中に入ってもよろしいですか?」
マーサの声が聞こえて我に返った私は、すぐに部屋の扉を開けて、彼女を部屋の中に迎え入れた。
「えっと、誰とでもしてるのかなと思って」
自分でもどうしてこんな質問をしたのかわからなくて困惑していると、ロキは詳しく聞かずに答えてくれる。
「そんな訳ないだろ。外出してばかりだよ。あれが欲しいとかこれが欲しいとかねだる人もいるし色々だよ」
「王太子殿下に何かを買ってほしいとおねだりする人がいるのね。自分の家で買ってもらえばいいのに」
「王太子に買ってもらったって自慢できるからじゃないかな。さすがにアクセサリーはお断りしてるけどね」
「どうして?」
「デートの記念で何かを買う人もいるかもしれないけど、普通のデートで高額のアクセサリーをたくさん買ったりしないだろ。出すお金は僕が稼いだお金もあるけど、お祖父様から譲り受けたお金もある。そのお金を贅沢なことには使いたくないんだ。君への賞金は無駄金だと思う人もいると思うけど、それについては僕のお金だよ」
苦笑しているロキを見て思う。
きっと、反対意見が出たのでしょうね。
ロキはワガママを言うタイプじゃないのに押し通したということは、ロキにとっては私をここに呼んだことはただ単にワガママというだけではなく、切実な願いもあったのかもしれない。
「ごめんね。私がもう少し恋愛に興味があれば良かったんだけど」
「どういうこと?」
ロキが私の腕にもたれかかってきて聞いてきた。
「私、実は初恋もまだなのよね」
「え?」
「だって、今まで婚約者がいたし、婚約者を好きになろうと思っても、あの男のどこを好きになったら良いのかわからなかったのよ」
「……そう言われてみればそうだな」
ロキは小さく息を吐いてから納得してくれた。
ロキと知り合った頃には、マグナはすでに私の婚約者だった。
だから、ロキをそんな風に見たことはなかったんだけど、もし、マグナという婚約者がいなければ、私はロキを意識していたのかしら。
右腕にロキの温もりを感じながら、ぼんやりと思った。
「そういえば、私とロキの出会いっていつだったかしら。クラスが一緒になって初めて知り合ったんだっけ?」
「えっ!?」
驚かれるような質問をしたわけではないと思うんだけど、ロキが動揺した声で聞き返してきた。
私は驚くようなことを言ったつもりはないから、不思議に思って質問を変える。
「驚かれるようなことを言ったかしら」
「いや、その、アイラはいつだと思うんだ?」
「……そうね。初めて同じクラスになった時かしら」
「……だよな。記憶にないよな」
ロキがなぜか悲しそうな顔をしたから問い詰めようとしたけれど、のらりくらりと躱されてしまった。
*****
結局、お部屋デートはロキが眠ることはなく、他愛のない話をするだけで終わった。
でも、リラックスはしてくれたみたいで、帰る頃にはほんの少しだけ顔色が良くなっているようにも思えた。
これは私がそう願っているから、そう見えてしまっただけかもしれないけれど、ロキが笑顔だから良いことにする。
「体を気遣ってくれて本当にありがとう。でも、次は僕のことは気にしなくていいよ。君の行きたい所に行こう。君の実家に行ったり君のお父上が経営しているケーキ屋に行ってもいい。そうすればサラにも会えるし」
「ありがとう。でも、私はロキの行きたい所に行きたいわね。それに実家に行くなんて言ったら、家族が緊張してお腹を壊すかもしれないわ」
「お腹を壊すのは良くないな。あと、言い忘れていたけど君となら、どこでも楽しくなるから場所は早めに言ってくれるのならどこでも良い」
「お部屋デートは嫌なの?」
ジッとしていられないタイプなのかと思い聞いてみるとロキは答えてくれる。
「君と二人きりだと何かしたくなっちゃうから辛いんだ」
「な、な、何かって何?」
「知りたい?」
ロキが顔を近づけて来たので、慌てて後ろに飛び退く。
「謎のままでいいわ!」
「それはそれで困るかな」
「駄目だからね。そういうことをしていいのは、王太子妃に決まった人じゃないと駄目だからね!」
「そういうことって何?」
「意地悪! もういい! 早く帰って!」
「ごめんって」
ロキは笑うと彼の身体を扉のほうに押しやろうとしていた私の両腕を掴んで見つめてきた。
心臓の鼓動のスピードがすごい。
それにしても、こんなにロキって整った顔をしていたかしら。
王子だとわかったから、私の目にキラキラ見えるようなフィルターでもかかってるの?
不意にエイドが前に言っていた白馬に乗ったロキを想像して噴き出しそうになった。
すると、それに気が付いたロキが眉根を寄せる。
「何で笑いそうになってるわけ?」
「白馬に乗った王子様に憧れてるって言ったら、エイドがロキを白馬に乗せるって言ってたのを思い出したら笑いが堪えられなくて。ごめんなさい」
普通にロキが白い馬に乗ることはあると思う。
でも、エイドのせいで、ロキが白馬に乗ってるのを見ると目がキラキラしたキザな王子が頭の中に浮かんできそうで怖いわ。
「白馬に乗った僕が白馬に乗った王子と言われても、本当のことなんだからおかしくないだろ。何で笑うんだよ」
「何でもないわ。ごめんなさい。ほら、ロキはもうそろそろデートの終わりの時間なんだから帰ったほうがいいわ。エイドのことも心配だし様子を見てきてほしいから」
「……生きてるかな、エイド」
「さあ? サラ次第じゃないかしら」
首を傾げてみせると、ロキは苦笑してから自分で扉を開ける。
「今日はありがとう。君も無理はしないように」
「こちらこそ。あと、ロキは体を大事にしてね」
「わかった」
ロキが部屋から出ていくと当たり前だけれど、部屋の中は静かになった。
二度と会えないわけではないし、今までよりも近い距離にいるはずなのに、どうしてか無性に寂しくなった。
これはロキの気持ちに気付いて、彼を意識しているからなの?
いやいや、そんなわけないわ!
「アイラ様、中に入ってもよろしいですか?」
マーサの声が聞こえて我に返った私は、すぐに部屋の扉を開けて、彼女を部屋の中に迎え入れた。
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