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13 お部屋デート

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 次の日からはマナーの勉強で大変だった。
 講師の人は私の所作がおかしくても馬鹿にするような人ではなく、一から丁寧に教えてくれた。

 そして毎回、授業の終わりには反省点と良かった点を伝えてくれてモチベーションが下がらないように配慮もしてくれていた。

 怒られてばかりじゃ、やる気が失せちゃう時もあるからかもしれないわ。
 特に私おだてられると頑張っちゃうタイプなので、駄目なところは言ってもらって、良いところはとことん褒めてもらえるほうが嬉しい。
 先生もそれをわかってくれているのかもしれない。

「今日は先生から怒られることが少なくて良かったですね」
「上達している証拠よね!」
「ええ。その通りですわ」

 授業を受け始めてから10日目の日、マーサから言われて私は素直に喜んだ。

 歩き方や立ち姿、お辞儀、カーテシーなど、多くの人に見られるものを練習中だけど、最初の時よりも注意されることが少なくなってきた。

 今までは貧乏な子爵家だからか多少マナーが悪くても何も言われなかったことと、パーティーに招待されることもなかった。
 貴族のマナーを真剣に学んで覚えておいて損はないし、王太子妃候補から脱落しても、これからの人生に役立てられると思う。

 私は私で忙しくしていたからか、ロキとは全然会えていなくて、2日後に久しぶりに会うことになる。

 ロキは昼間は王太子妃候補のお相手、夕方からは王族としての仕事をして、夕食後は夜遅くまで仕事をしているらしいから体調が心配だわ。

 私とのデートの時間をなくして、ゆっくり休んでほしいなと思ったけれど、マーサたちから私がそんなことを言ったらロキがショックを受けると言われたで何も言わないことにした。

 次の日、午前中の授業を終え、午後からエレイン様と別邸のテラスでお話をする約束をしていた。
 だから、お待たせしないように約束の時間よりも早くに着くと、すでにエレイン様はテラスでお茶を飲んでいた。

「エレイン様、遅くなって申し訳ございません」
「いいえ。私が早くに来ていただけですわ」
「……何かあったのですか?」
「いいえ。早く来すぎてしまっただけです。こんなことを言ってはなんですが、ここには娯楽がなくて退屈で退屈で。そんなことより今日は私の領地の名産の茶葉が届きましたから、よろしければどうかしら」
「いただきたいです」

 エレイン様のメイドがお茶を淹れてくれてから、毒見役の人が確認してくれている間に、ロキとのデートを断ろうかと思っていた話をすると、エレイン様は焦った顔をする。

「先代の国王陛下も同じようにされておられますから、そのような心配をなさらなくても大丈夫だと思いますわ。それに好きな人に会うなんて、ご褒美じゃないですか。その楽しみを奪ってはいけませんわ」
「エレイン様も王太子殿下とお出かけされたのですよね。どうでしたか?」
「当たり障りのないものでしたわ。お話はたくさんしましたけれど」
「そうなんですね」
「お話といっても、あなたのお話ですけれど」
「はい!?」

 驚いて聞き返すと、エレイン様は微笑する。

「王太子殿下には私の正直な気持ちをお伝えしましたの。どうするかは君の判断に任せると言ってくださいましたから、このままアイラ様を推薦させていただくつもりですと伝えておきました」
「あの、エレイン様、推薦というのはどういうことでしょう」
「先日、王太子妃候補が集められた時にお話がありましたが、もしかして聞いておられなかったのですか?」
「も、申し訳ございません。少しの間、王太子殿下に気を取られていた時がありまして、その時かもしれません」
「ふふっ。謝らないで下さいませ。では、説明致しますわね。約半年後にまず三人の脱落者が決まるわけですが、その時に私たち王太子妃候補六人は誰が王太子妃候補にふさわしいか、名前を書かなければいけないのです」
「自分の名前も書いていいんですか?」
「もちろんです。書いていい名前は二人まで。自分の名前を自分で書いてもポイントになるそうです」

 あの時、ロキと目が合ったせい、いや、私がロキを見たから悪いのかもしれないけど、そんな大事な話をしてくれていたなんて知らなかった。
 やっぱり、人の話はちゃんと聞いておかないといけないわ。

「エレイン様と仲良くなっていなければ知らないままだったかもしれません。教えてくださりありがとうございます」
「脱落する気だったのなら上の空になる気持ちもわかりますし、気になさらないで。アイラ様のお役に立てて嬉しいですわ」

 エレイン様には私の本音も簡単だけれど伝えていて、理解もしてくださっている。
 だけど、あの三人をどうにかするまでは我慢してほしいとお願いされて、それについては私も承諾した。

「今は気持ちを入れ替えて手は抜かずに頑張ろうと思います」
「そういえば、アイラ様、明日はロキ様とデートですわよね? どうされるおつもりなの?」
「そのことなんですけど」

 デートについては、最初の二ヶ月は女性側が行きたいところを決めて、次の二ヶ月はそれぞれの女性のためのデートプランをロキが考えることになっている。
 だから、ロキとの初デートは私が行き先を考えることになっているのだけれど、今のところ手抜きだと思われそうだけれど、お部屋デートを予定していた。


*****


 次の日、予定時刻に私の部屋にやって来たロキに、開口一番に言う。

「今日はお部屋デートでお願いします」
「お部屋デート?」
「うん。じゃなくて、ええ。私の部屋でゆっくりお話しませんか?」

 ロキの顔はどこか疲れた様に見えるから、少しでも休ませてあげたい。
 そう思って言うと、ロキは微笑んだ。

「気遣ってくれてありがとう」
「お茶を用意してもらいますね? お好きなお茶は何ですか?」
「今なら何を飲んでも美味しいよ」
「それじゃあ困りますわ。今日の担当はマーサだから、マーサに決めてもらいますね」

 好きな食べ物は聞いたことがあるけれど、好きなお茶の種類は知らない。
 ロキのことを知っているようで知らないことはたくさんある。
 とにかくまずは、一つずつ知っていかなくちゃ。

 マーサがお茶を淹れてくれたあとは、笑顔で部屋から出ていってしまったので、ロキと二人きりになった。
 部屋の中で二人きりということは、思った以上に緊張するということを始めて知った。
 今までは人がたくさんいる所で話をしていたから気付かなかったわ。

「何か、アイラの口調がいつもと違うから変な感じがする」
「あなたのために頑張ってるんじゃないですか」

 自分で言っておきながら恥ずかしいことを言ってしまったことに気付き、慌てて自分の口を手で押さえると、ロキが楽しそうに笑う。

「疲れてたけど、その言葉で元気が出た。君に会えただけで幸せだし、今日は良い日だ」
「ロキ! そういうのは言わなくていいから!」
「アイラはすぐに照れるんだな。頬が赤くなってて可愛い」

 ソファに腰を下ろしたロキがニコニコと幸せそうに笑うから、恥ずかしくて、どんどん身体が熱くなるのを感じる。

「ロキが恥ずかしくなるようなことを言うからでしょ!」

 このままでは、ロキのペースで流されてしまいそうなので無理矢理かもしれないけれど、私は彼をお昼寝をさせることに決めた。
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