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12 ティールームでの内緒話
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別邸にはティールームがあるので、ナスカム辺境伯令嬢と二人でお茶をしながら話すことになった。
一緒に付いてきてくれていたメイドのコニーと、ナスカム辺境伯令嬢のメイドがお茶を淹れてくれたあとは、メイドたちはティールームから出ていった。
ティールームの中は外から見えるようになっているので、騎士と一緒に外で待ってくれるようだった。
「突然、馴れ馴れしく話しかけてしまってごめんなさいね」
「いえ、逆に子爵令嬢の私なんかにお声がけいただきありがとうございます」
辺境伯令嬢と子爵令嬢の身分の差は、雲泥の差とまではいかないけれど、普通の子爵令嬢なら知り合いになることも難しいといった感じだ。
だから、素直にお礼を言ってみたら、ナスカム辺境伯令嬢は柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。
「爵位がどんなに上であっても、私の父の爵位が辺境伯なだけです。それに心が醜ければ権力があっても意味がないと私は思っております。キャスティー様は純粋そうですし王太子殿下が選んだ方ですもの。きっと良い人に決まっていますわ。だから、お声がけいたしましたの」
「ありがとうございます。あの、失礼ですが、ナスカム辺境伯令嬢は王太子殿下とはどのようご関係なのでしょう」
ロキのことをよく知っているような言い方に聞こえたので聞いてみると、ナスカム辺境伯令嬢は私の質問に答える前に違う話をしてきた。
「よろしければエレインと呼んで下さいませ。ナスカム辺境伯令嬢なんて呼び方、とても呼びにくいでしょう?」
「そんな、恐れ多いです」
「私からのお願いですわ。先程も言いましたけれど、私はキャスティー様を応援しておりますから」
「では、私のことはアイラとお呼びください。あのエレイン様、質問を重ねて申し訳ございませんが、私を応援しているというのはどういう意味なのでしょうか」
エレイン様とは今日が初対面だ。
それなのに、応援すると言われても何だか怖い。
ロキと仲が良くて、私の話を聞いているとかかしら。
だけど、ナスカム辺境伯令嬢は、今までロキの正体を知らなかったはずよね。
家の人にお願いして、私のことを誰かに調べさせたのかもしれない。
「そのままの意味ですわ。それから王太子殿下と別に親しいわけではありません。今まで、身分を隠されて過ごされておられましたし、アイラ様と同じ学園に通っていらっしゃったのでしょう。接点がございませんわ」
「そうですよね。王太子殿下と私はずっと同じクラスでしたので、学園での交友関係については私のほうが詳しいはずですから」
「そうですわね」
エレイン様は笑顔で頷いたあと話を続ける。
「王太子殿下は素敵な方だとは思いますが、この一年で好きになれるかどうかはわかりません。それなら王太子殿下には本当に好きな人と結ばれてほしいと思うんです」
「私は子爵令嬢で、見た目も皆さんのように良いわけではないですし、応援していただいてもご希望にそえるかどうかわかりません」
「アイラ様だって見た目が悪いわけではありませんわ。それに大事なのは教養と心ですわよ」
「そうですよね! 顔だけが全てじゃないですよね!」
実は気になっていた。
ここ何日かロキとの将来というものを考えてみたけれど、どうもまだしっくりこなかった。
だって、王太子妃になんてなったら、大勢の人の前に出ないといけない。
ロキの横に私のような平凡な顔があったら、違う意味で目立ちそうな気がしていた。
もちろん、一番の理由はそれじゃなくて、責任感とか色々なプレッシャーもあって、精神的に辛いだろうと思ったから脱落しようと思っていたというのもある。
今はロキの気持ちを知って、ちゃんと向き合おうと決めたから気持ちは揺れてるけれど、ロキじゃなかったら、私はこの場にいたかしら。
「顔だけで王太子妃になれるのでしたら、平民にもたくさん素敵な方がいらっしゃると思いますわ」
エレイン様はそう言ってから、私から視線を逸らして、王城の方向を見つめて話を続ける。
「正直に言わせていただきますと、本日、王太子殿下に群がっておられた三人のことを私は好きじゃないんです」
「す、好きじゃない、ですか?」
「ええ。一応、理由はありましてよ。あの姉妹につきましては、わたくしたちの親がライバルでして、その影響で小さい頃から勝手にライバル視されてましたの。社交場で顔を合わせれば喧嘩を売ってくるんですのよ。それに他の貴族女性に対しても失礼な物言いばかり! それに対して何も注意しない両親! あれが辺境伯だなんて信じられません! そして、もう一人、ポスティム公爵令嬢なんですが、私の友人を執拗にいじめていたようです。私がそのことを知った時には、友人は精神を病んでしまっておりました」
「そんな酷いことをする人なんですね」
詳しい話を聞いてみると、エレイン様は今年19歳になるんだそうで、私と同じ年だ。
ポスティム公爵令嬢もそうらしく、エレイン様のご友人と、ポスティム公爵令嬢は同じ学園で同じクラスだったらしい。
エレイン様は別の学園に通っていたから、その時は知らなかったそうなんだけれど、ポスティム公爵令嬢は陰湿ないじめをする人で、エレイン様の友人を執拗にいじめたらしく、そのせいで、お友達は精神を病んでしまったのだそう。
「そんな女性を王太子妃になんて絶対にさせませんわ。アイラ様。あなたには申し訳ございませんが、一番になってもらわないといけません!」
「い、一番!?」
「そうです! この六人の中で一番王太子妃にふさわしいのはアイラ様だと言わせなければならないんです!」
「ええ!?」
「正直に言わせていただきますが、アイラ様のほうがあの三人よりも絶対にふさわしいのだけは確かです」
「性格の問題だけで言えば、私もそれはそう思いたいです」
私が頷くと、エレイン様は両拳を握りしめる。
「私が防具と武器になりますわ。ですので、あの三人を徹底的に潰しましょう」
エレイン様の瞳に炎が見えた気がした。
おかしいわね。
これって、何の戦いだったかしら。
王太子妃候補の選抜試験じゃなかったの?
エレイン様の感じだと何か違うような気にもなってくるけれど、話が本当なら、あの三人の内の誰かを王太子妃にさせたくないし、ロキのお嫁さんにもなってもらいたくない。
脱落者三人をとりあえず、あの三人に持っていくようにしなくちゃいけなくなった。
エレイン様との話を終え、コニーと一緒に自分の部屋に戻ると、花束が届いていると伝えられた。
贈ってくれたのはロキだという。
「シフォン様が届けに来てくださいましたよ。他の方にも花束は贔屓なく贈られているようです。メッセージカードについては、人によってメッセージを変えているそうですよ」
キャシーに言われて、花束に付いていたメッセージカードを見てみる。
『王太子の立場上、他の王太子妃候補と出かけなくてはいけないが、いつも君のことだけを想ってる』
「うわぁっ!」
恥ずかしくなって、キャシーたちに見られないようにメッセージカードを書き物机の引き出しに隠した。
一緒に付いてきてくれていたメイドのコニーと、ナスカム辺境伯令嬢のメイドがお茶を淹れてくれたあとは、メイドたちはティールームから出ていった。
ティールームの中は外から見えるようになっているので、騎士と一緒に外で待ってくれるようだった。
「突然、馴れ馴れしく話しかけてしまってごめんなさいね」
「いえ、逆に子爵令嬢の私なんかにお声がけいただきありがとうございます」
辺境伯令嬢と子爵令嬢の身分の差は、雲泥の差とまではいかないけれど、普通の子爵令嬢なら知り合いになることも難しいといった感じだ。
だから、素直にお礼を言ってみたら、ナスカム辺境伯令嬢は柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。
「爵位がどんなに上であっても、私の父の爵位が辺境伯なだけです。それに心が醜ければ権力があっても意味がないと私は思っております。キャスティー様は純粋そうですし王太子殿下が選んだ方ですもの。きっと良い人に決まっていますわ。だから、お声がけいたしましたの」
「ありがとうございます。あの、失礼ですが、ナスカム辺境伯令嬢は王太子殿下とはどのようご関係なのでしょう」
ロキのことをよく知っているような言い方に聞こえたので聞いてみると、ナスカム辺境伯令嬢は私の質問に答える前に違う話をしてきた。
「よろしければエレインと呼んで下さいませ。ナスカム辺境伯令嬢なんて呼び方、とても呼びにくいでしょう?」
「そんな、恐れ多いです」
「私からのお願いですわ。先程も言いましたけれど、私はキャスティー様を応援しておりますから」
「では、私のことはアイラとお呼びください。あのエレイン様、質問を重ねて申し訳ございませんが、私を応援しているというのはどういう意味なのでしょうか」
エレイン様とは今日が初対面だ。
それなのに、応援すると言われても何だか怖い。
ロキと仲が良くて、私の話を聞いているとかかしら。
だけど、ナスカム辺境伯令嬢は、今までロキの正体を知らなかったはずよね。
家の人にお願いして、私のことを誰かに調べさせたのかもしれない。
「そのままの意味ですわ。それから王太子殿下と別に親しいわけではありません。今まで、身分を隠されて過ごされておられましたし、アイラ様と同じ学園に通っていらっしゃったのでしょう。接点がございませんわ」
「そうですよね。王太子殿下と私はずっと同じクラスでしたので、学園での交友関係については私のほうが詳しいはずですから」
「そうですわね」
エレイン様は笑顔で頷いたあと話を続ける。
「王太子殿下は素敵な方だとは思いますが、この一年で好きになれるかどうかはわかりません。それなら王太子殿下には本当に好きな人と結ばれてほしいと思うんです」
「私は子爵令嬢で、見た目も皆さんのように良いわけではないですし、応援していただいてもご希望にそえるかどうかわかりません」
「アイラ様だって見た目が悪いわけではありませんわ。それに大事なのは教養と心ですわよ」
「そうですよね! 顔だけが全てじゃないですよね!」
実は気になっていた。
ここ何日かロキとの将来というものを考えてみたけれど、どうもまだしっくりこなかった。
だって、王太子妃になんてなったら、大勢の人の前に出ないといけない。
ロキの横に私のような平凡な顔があったら、違う意味で目立ちそうな気がしていた。
もちろん、一番の理由はそれじゃなくて、責任感とか色々なプレッシャーもあって、精神的に辛いだろうと思ったから脱落しようと思っていたというのもある。
今はロキの気持ちを知って、ちゃんと向き合おうと決めたから気持ちは揺れてるけれど、ロキじゃなかったら、私はこの場にいたかしら。
「顔だけで王太子妃になれるのでしたら、平民にもたくさん素敵な方がいらっしゃると思いますわ」
エレイン様はそう言ってから、私から視線を逸らして、王城の方向を見つめて話を続ける。
「正直に言わせていただきますと、本日、王太子殿下に群がっておられた三人のことを私は好きじゃないんです」
「す、好きじゃない、ですか?」
「ええ。一応、理由はありましてよ。あの姉妹につきましては、わたくしたちの親がライバルでして、その影響で小さい頃から勝手にライバル視されてましたの。社交場で顔を合わせれば喧嘩を売ってくるんですのよ。それに他の貴族女性に対しても失礼な物言いばかり! それに対して何も注意しない両親! あれが辺境伯だなんて信じられません! そして、もう一人、ポスティム公爵令嬢なんですが、私の友人を執拗にいじめていたようです。私がそのことを知った時には、友人は精神を病んでしまっておりました」
「そんな酷いことをする人なんですね」
詳しい話を聞いてみると、エレイン様は今年19歳になるんだそうで、私と同じ年だ。
ポスティム公爵令嬢もそうらしく、エレイン様のご友人と、ポスティム公爵令嬢は同じ学園で同じクラスだったらしい。
エレイン様は別の学園に通っていたから、その時は知らなかったそうなんだけれど、ポスティム公爵令嬢は陰湿ないじめをする人で、エレイン様の友人を執拗にいじめたらしく、そのせいで、お友達は精神を病んでしまったのだそう。
「そんな女性を王太子妃になんて絶対にさせませんわ。アイラ様。あなたには申し訳ございませんが、一番になってもらわないといけません!」
「い、一番!?」
「そうです! この六人の中で一番王太子妃にふさわしいのはアイラ様だと言わせなければならないんです!」
「ええ!?」
「正直に言わせていただきますが、アイラ様のほうがあの三人よりも絶対にふさわしいのだけは確かです」
「性格の問題だけで言えば、私もそれはそう思いたいです」
私が頷くと、エレイン様は両拳を握りしめる。
「私が防具と武器になりますわ。ですので、あの三人を徹底的に潰しましょう」
エレイン様の瞳に炎が見えた気がした。
おかしいわね。
これって、何の戦いだったかしら。
王太子妃候補の選抜試験じゃなかったの?
エレイン様の感じだと何か違うような気にもなってくるけれど、話が本当なら、あの三人の内の誰かを王太子妃にさせたくないし、ロキのお嫁さんにもなってもらいたくない。
脱落者三人をとりあえず、あの三人に持っていくようにしなくちゃいけなくなった。
エレイン様との話を終え、コニーと一緒に自分の部屋に戻ると、花束が届いていると伝えられた。
贈ってくれたのはロキだという。
「シフォン様が届けに来てくださいましたよ。他の方にも花束は贔屓なく贈られているようです。メッセージカードについては、人によってメッセージを変えているそうですよ」
キャシーに言われて、花束に付いていたメッセージカードを見てみる。
『王太子の立場上、他の王太子妃候補と出かけなくてはいけないが、いつも君のことだけを想ってる』
「うわぁっ!」
恥ずかしくなって、キャシーたちに見られないようにメッセージカードを書き物机の引き出しに隠した。
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