【完結】婚約破棄された貧乏子爵令嬢ですが、王太子殿下に溺愛されています

風見ゆうみ

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8  友人は大切に

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 男性がマグナを運んでいったあと、残ってくれていた女性たちに話を聞いてみると、王太子妃候補には護衛をつけるのが当たり前のことなのだと教えてくれた。
 そして、ほとんどの貴族は自分の家の護衛を使うらしい。
 高位貴族の人たちは王太子妃候補に選ばれなくても、最初から護衛がいるから、わざわざ王家から出す必要はない。
 けれど、私の家には護衛どころか、使用人もほとんどおらず、いても料理人と庭師くらいしかいない。
 ロキはそのことを知っているから、何も言わずに護衛を私につけるようにしてくれたみたいだった。

 マグナは彼女たちの情報では、私の知り合い枠に入れられていた。
 でも、私たちに絡んでいるようだったから排除することにしてくれたのだそうだ。

 しかも、気絶しているマグナをさっきの男性が家まで送り届けてくれるらしく、本当に感謝しかない。

 そんなことを思っていると、サラが話しかけてくる。

「王太子妃候補を攫ったりして自分がその人の代わりになろうとするとか、ライバルを減らそうとする輩がいてもおかしくないものね」
「そう言われればそうかもしれない。私が呑気すぎたのね。それに、マグナがロキの件で来るとも思っていなかったし」
「あなたの性格をわかっているから余計にロキが手を回してくれたのかもしれないわよ」
「そうかも。今度会ったら、お礼を言わなくちゃ」
 
 サラの言葉に頷いてから、護衛をしてくれている女性たちに助けてもらったお礼を言っていなかったことに気が付いて、慌ててお礼を言う。

「あの、先程は助けていただき、本当にありがとうございました」
「気になさらないでください。それが仕事ですから。こちらこそ、あの様な人間を近付けてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 座ってお礼を言う私に対して、女性二人は椅子から立ち上がって頭を下げてくれた。

 せっかくなので一緒に食べないかとお誘いしたけれど、さすがに仕事中だから駄目だと丁重にお断りされてしまった。

 それはそうよね。
 たとえ、私が良いと言ったとしても、何かあった時に責任を問われる可能性があるのなら、上司が許可を出してもいないのに勝手なことはしないほうがいいわよね。

「今日は色々なことがありすぎたわ」
「そうよね。驚かせてごめんね」

 テーブルに頬杖をついて大きなため息を吐いたサラに苦笑して謝ると、首を横に振ってくれる。

「いいのよ。ちゃんと教えてくれたんだから。あと、私もアイラに報告しないといけないことがあるの」
「どうしたの? 何かあったの?」
「実はね、お見合いすることになったの」
「お、お見合い!?」

 思わず大きな声で聞き返してしまったけれど、考えてみればサラの年齢で婚約者がいないのも珍しい。
 私のようについ最近、婚約者から婚約破棄されたとかいうわけではないもの。
 しかも、サラはスタイルも良いし顔も可愛いんだから、お見合いの話が来ていたっておかしくないわ。

 サラは私の驚きぶりを笑ったあと、話をしてくれる。

「うん。もう学園も卒業したし働き始めてもいるけれど、この国って貴族の女性は家庭に入るっていうイメージが強いでしょう」
「そうね。既婚の貴族の女性が働いていると、旦那様がお金を稼げてないって思われてしまうのよね」

 働きたいと思う女性が、お金に困っていなくても働くのは良いことだと思う。
 でも、そこは男性のプライドというやつなのか、貴族としての見栄なのか、その辺の詳しいことはわからないけれど、この国では貴族に嫁いだ女性は家庭に入るというのが一般的な考え方だった。
 もし、そのことで女性が意見を言おうものなら「生意気な」の一言で片付けられてしまう。

 そんなことを気にせずに働いている人もいるけれど、やはり少ない。

「サラの婚約者になる人が良い人だといいけれど、一体どんな人なの?」
「昨日、両親から話を聞いたばかりだし、直接会ったわけではないからわからないけれど、同じ子爵家の人らしいわ。裕福とまではいかないけれど、うちの家よりかは潤っていそうね」
「サラは可愛いし、今まで婚約者がいなかったっていうのもおかしいから、そういう話がきてもおかしくないけど、突然だったのね」
「学生っていうこともあったから、お父様が断ってくれていたみたい。だけど、卒業したらそうもいかなくなるわよね」
「そうね。でも、うちの家が裕福だったら、あんな男と結婚しないといけなかったと思うと、本当に恐ろしいわ」

 近くを店員さんが通りかかったので食後の飲み物として、私はコーヒー、サラは紅茶を頼んだ。
 店員さんが去ってからサラが言う。

「ロキもアイラも運が良かったわよね。あのタイミングで婚約破棄だもの」
「そう言われればそうなのかしら。あの時がギリギリのタイミングだったものね。それに、あの時、ロキが近くにいなかったら、私は王太子妃候補に選ばれていなかったでしょうし。それで思い出したけど、サラにはエイドが……」

 そこまで言って、私は動きを止めた。

 呑気にサラの婚約者の話を聞いている場合じゃなかった。
 ロキが聞いていて良かったねとかいう問題じゃないわ。
 それなら、エイドはどうなるの。

 エイドはこのことを知っているのかしら。

「ええと、聞きたいことがあるんだけど」
「何を聞きたいの?」
「エイドはそのことを知ってるの?」
「知らないわよ。知るわけないでしょ」
「で、ですよね!?」

 これはまずいわ。
 知っていて、何も言わないのは良くない気がする。

 どこぞの子爵家の人、本当にごめんなさい!
 私はエイドとの友情をとるわ!
 それに、サラだってエイドのことを憎からず思っているはずだもの。

 エイドにとりあえず伝えるだけ伝えなくちゃ。

「あのね、サラ。お手洗いに行ってみたらどう?」
「突然どうしたの? 別に今は行かなくてもいいわ。というか、あなた言葉が変よ?」
「普通だと思う! というかほら、今、お手洗いが空いてそうだから、今のうちに行ったほうがいいんじゃないかなって」

 サラは店の奥にあるお手洗いのほうを振り返ってから、私に視線を戻して言う。

「そうみたいだけど。今、行かないといけない?」
「そういうタイミングだと思う」
「何よ、そういうタイミングって。でも、そんなに言うなら行ってくるわ」

 訝しげにしながらも、サラがお手洗いに行ってくれている間に、私は隣に座っている護衛の女性たちに話しかける。

「あの、今日は王太子殿下と話をしたりされますか?」
「はい。アイラ様がどんなご様子だったか報告しなければいけませんので」
「でしたら、その時に伝えてもらえませんか? サラがお見合いするみたいなんだけど、このまま放っておいて良いかしらと伝えてもらえますか? 意味はわかってくれると思いますから」
「お急ぎのようですし、今すぐ外にいる者に報告に行かせます!」

 二人のうちの一人の女性が慌てて立ち上がって、店の外へ出ていった。

 ロキならエイドにちゃんと伝えてくれるはず。
 どんな動きに出るかわからないけれど、サラが幸せになってくれればそれで良い。

 そして、もう一度謝っておく。
 どこぞの子爵令息さん、本当にごめんなさい!
 
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