あなたへの愛は冷めましたので、ご安心ください!

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
8 / 17

第8話  覚悟を決めないといけないわよね

しおりを挟む
「ジェイン…! どうして、君がここに来るんだ! やっぱり、君はリリアーナの事が好きなんだな!」
 
 ローリーはジェインの姿が見えていないのに、声だけで彼だと気が付いたらしく、わたしを離すと立ち上がってジェインに向かって叫ぶ。

「絶対に、リリアーナを渡さないからな!」
「いいかげんにしろ、ローリー! 男子生徒が嫌がる女子生徒を口説こうとしているって騒ぎになってるんだぞ!」
「リリアーナは嫌がってなんかいない!」
「嫌がってるわよ!」

 ローリーの言葉にわたしが叫んで言うと、ローリーは悲しそうな顔でわたしを見た。

「酷いよ、リリアーナ。君はジェインの味方をするのかい…?」
「味方をするんじゃないわ! 自分の正直な気持ちをあなたに伝えただけよ! 離れてって叫んでいたでしょう!?」
「婚約者で恋人同士なんだから抱き合ったっていいだろう!?」
「そういう場合じゃない時だってあるじゃないの!」

 わたしは立ち上がって叫ぶ。

「ローリー! あなたは本当におかしくなってしまったわ! どうしてジェインにこだわるの!? わたしがいつジェインの事を異性として見ているだなんて言ったの!?」
「リリアーナ…、君はジェインの事を異性として見ていたのか…」

 ローリーの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「何なの? わたしの聞き方が悪かったの!? そんな事を言ったんじゃないわ!」
「リリアーナ、もう、今のローリーに何を言っても無駄だぞ」

 ジェインが片手で自分の頭をおさえて、ため息を吐いた。

 ジェインの言う通り、今のローリーには何を言っても無駄な気がした。
 興奮してしまっていて、冷静な判断ができていない。

「ローリー、今日はもう帰りましょう。あなたは興奮しすぎてるわ。家に帰って冷静になってちょうだい。そうすれば自分がおかしな事を言っている事に気付くはずよ」
「リリアーナ…、君までもがジェインの肩を持つんだね…」

 ポロポロと涙を流すローリー。

 どうしてなんでもかんでもジェインに繋げたがるの?

「そんなにジェインが好きなら、ジェインと婚約すればいいんだよ!」
「ローリー、あなた…」

 ローリーにしてみれば、カッとなって言った言葉なんだと思うけれど、わたしにしてみれば、さすがに腹が立った。

 ジェインの事は好きだし、友人としてとても大切な人。

 だけど、その好きは異性としての好きではなかった。
 今までのわたしは、ローリーの事が異性として好きだったから。

 わたしの好きだったローリーは目の前にいるような人じゃない。
 わたしは自分の理想をローリーに押し付けていたの…?
 そうじゃないわよね?

 ジェインへの蓄積されてたコンプレックスが今になって爆発してしまった感じ…?

「本当にそんな事思ってるのか? そうじゃないだろ?」

 ジェインに言われて、ローリーが泣き叫ぶ。

「ジェインは僕の気持ちなんてわからないだろう! 女の子みたいに可愛いなんて、男の僕には褒め言葉じゃないんだ! 僕だってカッコ良いとか言われてみたい!」
「べつに可愛い男がいたっていいだろう! 親の決めた婚約者に顔の条件なんて付けられないだろうが! 大事なのはリリアーナの気持ちなんじゃないのか!?」

 ジェインに言われ、ローリーの体がブルブルと震え始めた。
 怒りなのか何なのかはわからない。

 驚いて見つめたままでいると、ローリーはこぼれ落ちる涙を拭おうとせずに、両拳を握りしめてジェインを睨んだ。
 そして、意味のわからない事をジェインに向かって叫んだ。

「僕は悪い男になるんだ!」
「いいかげんにしろ! お前はリリアーナの事だけ考えてればいいんだよ!」
「うるさい! 見てろよ!」

 そう叫ぶと、ローリーはわざとジェインに体をぶつけて走り去っていく。
 その時、ジェインにわざとぶつかったのは良いけれど、ジェインは体幹が強いのか、それともローリーの力が弱いのか、はねのけられたのはローリーだった。

 走り去っていくローリーの背中を見ながら、わたしは呆然としてしまって、彼を追いかける気にもならなかった。

「……大丈夫か?」

 ジェインが眉根を寄せたまま、わたしに聞いてきた。

「大丈夫じゃないわ…。というか、ジェインを巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
「リリアーナが謝る事じゃないだろ。ローリーが勝手に暴走してるだけだ。どうして、いきなりあんな事を言い出し始めたのか全くわからないんだが、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩をしたという感覚はないけれど、今の状況は喧嘩している状況かもしれないわ。ローリーは女性と会う事をやめるつもりはないみたいだし」
「俺が言うと、またローリーに誤解されるかもしれないからなんだけど、一応、一意見として聞いてくれ」
「……何?」
「ローリーが勘違いして暴走して、俺に絡んでくるだけならまだいい。相手にしなければいいからな。だけど、リリアーナがいるのに女性と会う事をやめないのなら、ローリーとの事は考えた方がいい。本当に婚約解消とまではいかなくても、それくらいの話はしておいた方がいいと思う。婚約解消が嫌だから、前みたいに無害なローリーに戻るかもしれない。もちろん、簡単に婚約解消なんて出来ない事はわかってる。女性に対して貴族社会は厳しいからな」
「……そうなのよね。だけど、覚悟を決めないといけないわよね」

 ジェインの言葉に、気がおもいながらも頷いた。

  一度、婚約解消や破棄になった令嬢は、問題ありとみなされて次の婚約者が見つかりにくいと言われている。

 貴族社会では嫁にいけない娘なんて迷惑なことこの上ないでしょうし、両親に迷惑をかけたくなかたんだけど、このままではわたしが不幸になるわよね。
 きっと、お父様達だってわたしが不幸になる事は望まないはず。

 覚悟を決めて、お父様とちゃんと話をする事に決めた。

 そして、この日、ローリーは帰ったものだと思っていたのだけれど、実際は違っていた事が次の日になってわかる事になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから

水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」 「……はい?」 子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。 だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。 「エリオット様と別れろって言っているの!」  彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。  そのせいで、私は怪我をしてしまった。  いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。  だって、彼は──。  そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

処理中です...