あなたへの愛は冷めましたので、ご安心ください!

風見ゆうみ

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第3話  意味がわからない!

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 とにかく、今は人前なのよ。
 落ち着かなくちゃ。

 わたしの視界には今にもローリーにかみつきそうなトーニャ様が見えるけれど、気持ちだけ有難く受け取っておく。

「ローリー、ちゃんと話をしたいの。今から、わたしと一緒に来てちょうだい。ここではゆっくり話が出来ないから」

 冷静になってお願いすると、ローリーは苦笑してから立ち上がり、わたしの方へと歩いてくる。

「そんなに僕と2人になりたいのならしょうがないね! 皆さん、申し訳ないが、僕の婚約者は嫉妬深いんだ。そういうところも可愛いんだけどね! 空気が読めない子で申し訳ない。今日は失礼するね。また、お話しましょう!」

 ローリーはわたしの肩を抱いて、ガゼボの中にいる女性達に頭を下げてから、わたしを促す。

「さあ、行こうか僕のリリアーナ。ワガママを言う君も可愛いよ。だけど、人前では我慢する事を覚えないといけないね」
「それはわたしからもあなたに伝えたいわ」
「ワガママを言う僕も可愛いって? ありがとう」
「その言葉じゃないわよ!」
「怒った顔も本当に可愛いよ」

 笑顔のローリーだったけれど、目の前に立ちはだかったジェインに気付くと笑みを消した。

「なんだ、ジェインか。君も来てたのか。リリアーナ、ほら、このお茶会は別に男性が来ても良い場所なんだよ」
「違う。俺は姉上に呼び出されたから来ただけで参加するつもりはない」
「そんな事を言って、素敵な女性達を独り占めしようと思っていたんだろう? わかるよ。男だからね。好きな人や婚約者がいても、魅力的な女性には心が惹かれてしまう」

 その言葉を聞いて、わたしはローリーに尋ねる。

「ローリー、あなた、誰かに心を惹かれているの…?」
「もちろんだよ。愛するリリアーナ。僕には君だけだよ」
「……本当に…?」

 信じられるわけがない。
 だけど、そんな風に聞き返してしまった。

「本当だよ、リリアーナ。僕を信じてくれ。婚約解消をしないのが真実の愛の証だ。君の僕への気持ちが本当の愛なら君は僕を信じてくれないといけないよ?」
「本当の愛なら…?」
「リリアーナ」

 困惑しているわたしを咎める様に、ジェナお姉様とトーニャ様、そしてジェインがわたしの名を呼んだ。

 わかっていますとも。
 そんな言葉で騙されてはいけないって事くらい!

 わたしは大きく深呼吸してから、ローリーを見る。
 すると、わたしとそんなに背丈の変わらないローリーは目が合うなり、にこりと微笑んだ。

 駄目よ。
 この笑顔に騙されてはいけない。

「大丈夫です」

 お姉様達にそう言ってから、ユティ様には何度もお詫びしてから彼女の屋敷をお暇した。
 そして、わたしとローリーは、彼の家に向かいながら馬車の中で話をする事にした。

「ローリー、いいかげんにしてちょうだい。浮気はしないって言ったじゃないの!」
「だから浮気じゃないってば。落ち着いてくれよ、リリアーナ。そして、そんなに怒らないでくれよ。可愛い顔が台無しだ。君にはいつでも笑っていてほしいんだよ」
「そう思うなら、わたしを怒らせる様な事をしないで!」
「ああ、僕のリリアーナ…」

 わたしの体にぴったりと寄り添って座るローリーは、わたしの頬に自分の頬を擦り寄せてくる。
 
 今は彼にこんな事をされると腹が立ってしょうがなかった。

「やめてよ! 馬鹿にしているの!?」
「違うよ、マーキングしているんだよ」
「マーキング!?」

 彼が言おうとしている事はなんとなくわかるけれど、この場でそんな事を言われても余計に腹が立つだけだった。

「あなた、自分が悪い事をしたって本当に思ってる!?」
「思っていないよ。だって、僕は悪い事なんてしていない。それよりも、リリアーナ。君の方が悪い事をしているんじゃないか」
「わたしが…? 何をしたって言うの?」
「ジェインと一緒にいたじゃないか!」
「……何を言ってるの?」
「さっきだよ! どうしてジェインと一緒にいたの? 僕というものがありながら他の男と一緒にいるだなんて!」
「ジェインとは何もないわ! それにあなただってそうじゃないの! わたしがいるのに他の女性の所へ行ってるわ! 一体何がしたいの!?」

 ローリーが何を考えているのか、さっぱりわからなくて叫ぶと、彼はわたしを抱きしめて言った。

「僕はジェインの様に少しだけ悪い男になりたいんだ」
「……はい?」
「僕が女性に可愛いって言われているのは知っているだろう?」
「……そうね。それの何がいけないの?」
「男として、やっぱり良くないと思うんだ」
「そうなの? よくわからないけれど。ただ、婚約者がいるのに、女性のたくさんいる所に自分から出かけていく方が男として良くないとわたしは思うけれど?」
「そんな事をしてる男って、悪い男だよね?」

 ローリーはわたしを落ち着かせる様に背中を撫でながら続ける。

「悪い男という噂が流れれば、少しは僕にもちょっと悪い男というイメージが付くかなって」

 馬鹿なの?

 口に出しそうになったけれど、何とかのみこんだ。

「ちょ、ちょっと待って、ローリー。婚活パーティーや、お茶会に出かけていたのは、悪い男のイメージをつけたかったとかいう訳のわからない理由なの?」
「訳のわからないだなんて言わないでくれよ!」

 ローリーはわたしの両肩をつかんで体を離させてから続ける。

「全部、君のためだよ! 君にふさわしい男になりたい! 僕の周りの女性は君は僕にふさわしくないって言うんだ。それって、君ががさつなところがあるからだろう?」

 ん?
 もしかして、いや、もしかしなくても、これって悪口を言われているのかしら?

「がさつなところ、っていうのは?」
「男女関係なく気軽に話せるところとか」
「それは他にもそういう人はいると思うけれど…」
「僕以外の男性と話すとか…」
「学園に男性がいるんだからしょうがないでしょう!? 話しかけられたら無視しろって言うの!? 大体、あなただって女性と話をしているじゃない!」

 言い返すと、ローリーは目を潤ませて言う。

「酷いよ、リリアーナ。君は僕が女性と話をしたからって、心変わりしたと思うのかい?」
「それを言うなら、あなただってそうじゃないの! わたしが男子生徒と授業の内容の事を話すだけで心変わりしたと思うの!?」
「……君が可愛いから、不安になる僕の気持ちはわかってくれないんだね…」

 何なの、この人。
 話が全く通じないわ。

「リリアーナ、とりあえず聞いて。僕は君の事だけを思っている。心変わりなんかしないよ。だけど、悪い男になる為に、女性に声を掛けるんだ」
「意味がわからない!」

 ローリーとこれ以上、話をしても無意味な気がしてきたので、彼を屋敷に送り届けた後、すぐに自分の家に戻り、お父様達に相談する事に決めたのだった。
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