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第21話② 最終決戦

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「お兄様…、マレフィナ様に一体、何を吹き込まれたんです?」

 部屋の中に入らせてはいけない。

 本能的にそう思い、お兄様の体を両手で押すようにして後ろへさがらせて、わたしも廊下に出た。

「何も吹き込まれていない! ただ、脅されてるだけだ!」
「脅されてる!? 一体、どういうことなんですか!」

 お兄様に文句を言っても意味がないとわかっている。
 けれど、今は、誰かに気付いて貰うために、声を張り上げるしかなかった。

 足音が聞こえて、誰かが来てくれたのだと希望を持って振り返ったけれど、見たのを後悔したくなるくらい、最悪な状況に置かれている事に気が付いた。

 そこにはマレフィナ様が立っていて、私と目が合うと、にたりと笑った。
 マレフィナ様の背後には柄の悪そうな大男がいて、わたしの事を睨みつけている。

 確実に助けてはもらえなさそうだった。

 このまま、マレフィナ様の威圧に負けるわけにはいかないと考え、勇気を振り絞って声を掛ける。

「マレフィナ様…、人の家で何をしてらっしゃるんです…? あなたはもう、お兄様の婚約者でもなんでもないんですよ? それなのに…」
「そうね…。でも、わたくしは…、あなたに、用事が…あるの」
「わたしに用事…?」
「ええ…。だって、あなた、わたくしの…、邪魔ばかり…するでしょう?」
「マレフィナ様の邪魔? わたしが何をしたって言うんです!?」
「ふざけないで!!」

 マレフィナ様のおっとりした口調は一瞬にして消え去り、彼女は激高する。

「あなたのせいで、私の幸せは壊された! トマング殿下とやっと幸せになれると思ったのに…!!」
「どうしてわたしのせいになるんです!?」
「だって、そうでしょう!? トマング様を奪った女は…、あなたの親友だったじゃないの…!」
「裏切られたのはわたしも同じなんです!」
「何を言ってるのよ! あなたが裏切られたのは、あなたが賢くないからでしょう! あなたが馬鹿だから、トマング殿下とあの女の不貞に気付けなかったのよ!! そのせいで、トマング殿下はっ!」

 マレフィナ様はそう叫ぶと、背後にいる男性に指示をする。

「用意していたものをちょうだい…」

 男性は無言で胸ポケットのホルダーから短剣を出すと、その切っ先に何かを塗った。

 それが何かは聞かなくてもわかる気がした。

「ふふ、何かわかる…? わからないわけないわよね…?」

 マレフィナ様はうふふと笑い始め、最終的にはその短剣を手に取ったまま、大きな声で笑い始めた。

 やばいわ…。

 これは、マレフィナ様に何かを訴えても無理だわ。
 正気をなくしてしまっている。

「ラシック、これで、リンスレットを殺して…?」
「そんな…」

 お兄様は声を震わせて首を横に振る。

 マレフィナ様は短剣をお兄様に差し出して言う。

「ねぇ、早く! 早く殺さないと誰か来ちゃうでしょう? まあ、今…、見つかっても…、殺したのは、ラシックで…、わたくしと護衛は…、止めようとしたけれど、無理だった…」

 マレフィナ様はくすくすと笑うと、わたしを見て続ける。

「助けを…よぼうとしても…無駄よ? あなたの家の…護衛騎士は…、この男に、やられちゃったから…」

 背後の男性の方を振り返り、マレフィナ様は、恍惚の表情を見せる。

「わたくしからトマング殿下を奪った…、リンスレットが…苦しみながら…死ぬの」

 マレフィナ様の手から、お兄様が短剣を震える手で受け取ると、マレフィナ様は「あはははは」と大きな声で笑い始めた。

「お兄様…、どうして…?」
「すまない。ルーブン達が人質に取られてるんだ…。本当にすまない…」
「わかってます…。でもっ!」

 殺されるという恐怖ではなく、お兄様に手をかけられる事や、かけさせる事が嫌だった。

 涙が溢れ出し、頬に伝っていく。

 短剣を握ったお兄様の表情が辛そうに歪み、私に向かって、もう片方の手に持っていた木の棒を振り上げた。

 わたしはまた、殺されるの?

 ごめんなさい、イロアス。
 
 次に過去に戻った時には、今度こそ選択を間違えないようにするから――

 ――駄目よ。
 戻れないかもしれない。

 最終的にわたしを殺すのは毒。

 その毒を用意したのはお兄様じゃない!
 それが、どう判断されるかわからない…!

「待って、お兄様! 殺すなら…、毒ではなく、お兄様に暴行されて死にたい…。毒は…、嫌なんです…」

 こんな事を言いたくなかった。

 だけど、あの時、お兄様がとった手段がこれだった。

 だから…。

 涙が溢れて止まらなかった。

 怖い。
 助けて。

 これが最善だとわかっていても、やっぱり怖い…。

 お兄様の目に涙が浮かぶのが見え、短剣を床に落とした。

 すると、マレフィナ様が叫ぶ。

「この意気地なし!」

 マレフィナ様は機敏な動きで、床に落ちたナイフを拾い上げると、私に向かって突進してきたのだった。

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