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第16話 兄の真意

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 イロアスは大丈夫だと言ってくれたけれど、不安な気持ちは拭えなかった。
 わたしとトマング殿下が婚約者じゃなくなる事はとても嬉しい。
 だけど、イロアスとロリアンナ様の件については複雑だった。

 イロアスには、ロリアンナ様と結婚してほしくない。
 これは心から思う事。
 だけど、これ以上、敵を作りたくない。
 ううん。
 もう敵だから一緒なの?

 どうして、ドリーはわたしを裏切ったの?
 どうして、ビトレイはわたしを裏切ったの?

 それがわからない以上、下手に動かれたくなかった。
 でも、確実に今までの未来とは違ってきたことだけはわかった。

 イロアスと話をした夜、未来のイロアスに向けての日記帳を書いていると、部屋の扉がノックされた。

 慌てて日記帳を隠して返事をする。

「誰ですか?」
「俺だよ。ラシックだ」

 お兄様の声を聞くとドキッとする。

 今のお兄様は昔と違って、マレフィナ様に依存はしていない。

 だから、大丈夫。

 そう自分に言い聞かせて、言葉を返す。

「どうかされましたか?」
「話したい事があるんだ。扉を開けてくれないか」
「……話したい事、ですか…」

 警戒しながらも、扉を開けるしかなかった。

「何でしょうか、お兄様」
「夜遅くに悪いな。少し、相談したい事があって…」
「……相談?」

 ソファーに座るようにすすめてから首を傾げると、お兄様はすすめられた場所に座ってから頷く。

「マレフィナの事なんだけど…」
「マレフィナ様の事…?」
「ああ。マレフィナとトマング殿下の事なんだけど……」
「…マレフィナ様とトマング殿下…?」

 お兄様は言いにくい事なのか、少しずつしか話をしてくださらない。
 痺れを切らして聞いてみる。

「お2人がどうかしたんですか? まさか、陰で会っていたりしたんですか?」
「……そうなんだ」
「……え?」
「2人は俺に内緒で会っていたんだ」
「ど、ど、どういう事です!?」
「2人で会って、どんな話をしていたかはわからない。だけど、俺に隠れて会っている事は確かなんだ。しかも何度も! リンスレット、お前が婚約を解消したがっているのはそのせいなんだろう?」

 訴えてくるお兄様に、なんて答えたら良いのかわからなかった。

 未来のわたしはあなたに殺されて、その時のトマング殿下の笑みを忘れられないから、婚約解消したいだなんて言えるはずがない。

 それにしても、どうして、マレフィナ様はトマング殿下と会っているの…?
 考えられるとしたら、ロリアンナ様との事だけれど…。

「お兄様、トマング殿下がロリアンナ様に思いを寄せられている事は知っておられますか?」
「知っている…」
「では、トマング殿下がロリアンナ様の事で、マレフィナ様に何か相談していただけでは…?」
「……リンスレットは知らないのか…。いや、知るわけがないか。彼女が彼と一緒にいるところを見た事がないしな」

 お兄様が目を伏せて言った。

 どういう事なの…?

「マレフィナはトマング殿下が好きなんだよ」
「……はい?」
「あのマレフィナがトマング殿下を? って思うよな? 人の好みはそれぞれなんだ。彼女は俺みたいな大柄な男よりも華奢なタイプが好きなんだ。守ってあげたいと思うんだろう」

 待って…。
 もしかして、未来でわたしがマレフィナ様に殺された理由は、私がトマング殿下の婚約者だったからなの…!?

 でも、わたしを殺したところで、マレフィナ様がお兄様の婚約者である事に変わりはないわ…。

 待って?
 もしかして、お兄様の弱みを握る為にわたしを殺させたの?

 いつかは愛する人に捨てられるのに、わたしを殺したの?

「リンスレット、お前はマレフィナに狙われている」
「……え?」
「トマング殿下との結婚に一番邪魔なのはお前だ。マレフィナはお前を排除しにかかるだろう。その為に、ドリーを脅して、お前のスケジュールを把握しているみたいだ」

 ドリーを脅す…?
 だから、ドリーはわたしを裏切ったの?

「リンスレット、俺はお前を、とある理由で殺すかもしれない。でも、それは、お前のためだという事をわかってほしい…。いや、わからないかもしれないが…、それが、お前の未来を助ける事に繋がるはずだから」

 お兄様は意味深な言葉を口にした後、勢いをつけて立ち上がる。

「お前がマレフィナとトマング殿下の事について知らないんならいいんだ。邪魔をしたな」
「お兄様、意味がわかりません! さっきの言葉はどういう意味なんです?」
「……恨まれても仕方がない。それくらい、酷いことをするかもしれない。わかっていて、それをするだから、俺は最低な男だ。イロアスの様な守り方は出来ない」

 お兄様は悲しい顔でそう言うと、部屋を出ていく。

 わたしは後を追う事が出来なかった。


 お兄様は、わざとわたしを殺したの…?
 マレフィナ様から守るために…?
 でも、どうして、お兄様がわたしを殺さないといけなかったの…?
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