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第15話  危機と自覚(イロアスside リンスレット死後☓☓日目)

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 ここしばらくは頭痛に見舞われていなかったイロアスだったが、今日の朝は違った。

 今回はいつにも増して酷く、このまま死んでしまうのではないかと不安になった程だった。

 その恐怖に耐えられたのは、リンスレットが過去を変えているからだと信じ、誰かに助けを求める事もせずに頭痛と戦っていると、少しずつおさまってきた。

 無理はせずに頭痛がしなくなるまで待ち、新しい記憶を確かめる事にした。

 相変わらず、自分の記憶の中に2つ以上の記憶があるのは謎だったが、イロアスにとっては助かっていた。

 昔の記憶があるのはイロアスだけで他の人に確認する事は出来ないが、リンスレットの死の原因が色々と変わっていく事に気付けるのは、記憶が残されているからだった。

 リンスレットの死という結末はまだ変わっていない。
 しかも、何度かマレフィナに殺された時もあったが、ここ最近はずっとラシックに殺されている。
 
(どうして、ラシックは執拗にリンスレットを殺すんだ? 理由がわからない…。いや、もしかして…)

 確かめたい事があったイロアスは、その日の夕方、トロエル邸を訪れた。

 昼間に学園で聞こうか迷ったが、誰に聞かれるかわからなかったのでやめておいたのだ。

 約束をしていたので、トロエル邸に着くと、すんなり応接室まで案内された。

(もし、僕の思っている事が間違っていなかったなら、ラシックはリンスレットを事になる。真相を確かめないと)
 
 コンコンというノックの音と共に扉が開かれた。
 入ってきたのは、ラシックではなく、マレフィナだった。

「どうして、あなたが…?」
「ここは……私の婚約者の家ですが?」
「婚約者の家だからといって、勝手に動き回るのはどうかと思うけどね」
「勝手に動き回ってなんか…いないわ。ちゃんと、この家で…働いている人間に…許可をもらっているのよ…?」
「この家の主は使用人じゃないだろう?」
「……そうね…。でも…、いいんじゃない…?」
「良いわけないだろう」

 微笑んだマレフィナだったが、イロアスには全く微笑んでいる様には見えなかった。

「ねえ、イロアス様…、教えていただきたいの…」

 マレフィナはイロアスの向かい側のソファーに腰を下ろすと続ける。

「どうして…、ロリアンナとの婚約を破棄したの…?」

(婚約を破棄した…?)

 イロアスは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 イロアスの頭に浮かんだのは、他の事に気を取られていて気付けていなかった新たな記憶だった。

(僕はロリアンナ嬢との婚約を破棄している。しかも、その後すぐに、リンスレットが殺されている…? そうさせないと彼女に言ったのに…!)

 何とか平静に戻り、イロアスはマレフィナに尋ね返す。

「どうして君はそんな事が知りたいんだ?」
「妹の…事だもの…。知りたいわ…。だって、ねえ?」

 笑うところではないはずだが、マレフィナは笑い始めた。

「なんなんだ?」
「くだらない…、理由だったら…、あなたを殺してしまいたいから…」
「……くだらない理由なんかじゃない。君のような姉がいる女性なんて御免だ」
「……わたくしの…せいだと…言うの……?」

 マレフィナが目を細めた。

「そうだね。それが全てではないけど、一因ではある」
「そんなの……、納得できない…」

 マレフィナが首を横に振った時、扉が叩かれ、ラシックが部屋に入ってきたのはいいが、マレフィナの姿を見て動きを止めた。

「どうしてマレフィナが?」
「聞いて…! わたくしっ、イロアス様に襲われそうになったの…!」

 マレフィナが立ち上がり、ラシックに駆け寄ると大きな体にしがみついた。

(こういう事をして、ラシックを怒らせていたのか…)

「どういう事だよ、イロアス…!」
「僕が彼女に手を出すわけがないだろう?」
「そ、それは…そうだと思ってるが…」
「嘘よ、ラシック…! 私の…言葉を信じて…?」
「で、でも…!」

 ラシックはマレフィナを信じるか、イロアスを信じるか、葛藤している様だった。

(ラシックに殺される事はないと思うが、はっきり言ってもうどうだっていい。リンスレットのいない未来なら…)

 そう思った瞬間、イロアスはまた新たな事に気が付いた。

 今までは妹の様にしか思っていなかったリンスレットの事を異性として好きだった事、そして、それが新しい記憶である事を…。

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