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28  嫌われるようなことをしたのはあなたです

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 私がもらったシルバートレイは、普段、メイドたちが飲み物や食べ物を運ぶ際に使うものと見た目は同じだけれど、使い方が違った。護身用に作られており、女性でも持ちやすいように軽量化されていた。

 リリとカンバーは食べ物ではないとわかると、すっかり興味をなくしてしまい、その後は二匹で仲良く遊び始めた。

「添えられた手紙にはシルバートレイは武器としてではなく、護身用と書かれているのですが、テグノ伯爵に通じるのでしょうか」
「さあな。ただ、友人の友人は魔法が使えると言っていた。そのシルバートレイに不思議な力があるのは確かだ。だから、君を守ってくれるのは確かだろう」
「……ありがとうございます。あの、贈ってくださった方にお礼をお伝えしたいのですが……」
「手紙で良いだろう。かなり、遠い国に住んでいるからな」

 フェル殿下はそう言うと、なぜか照れくさそうにして続ける。

「俺からも渡したいものがある」

 そう言って、フェル殿下が差し出してきたのは、手のひらよりも小さな小箱だった。


******


 それから数日後、一度にかたをつけるために、プロウス王国の両陛下とクランボ様、そして、テグノ伯爵にも集まってもらった。
 その四人以外は私とフェル殿下、リリとカンバーだ。
 場所は国際会議を開く時にも使われる高級宿の中にある大きな会議場だった。

 集まった人数は会議室の大きさには少なすぎるけれど、別に問題はなかった。

 大きな円卓があるにもかかわらず、誰も席には座らず、立ったまま話をすることになったので、シルバートレイを近くの椅子の上に置いた。
 
「本日、お集まりいただきましたのは、テグノ伯爵のお子様のことと、私のことについてです」
「もしかして、戻って来てくれるのか!?」

 私が話し始めると、期待に満ちた顔になったテグノ伯爵が言った。そんな彼に笑顔で否定する。

「そうではありません。では、まずはテグノ伯爵のお子様、クズヤくんについての話をいたしましょう」

 赤ちゃんの名前はクズヤに決まっていた。決めたのはテグノ伯爵でクヤイズ殿下が父親であると主張しているようにも思える。

「その子供が絶対にクヤイズ殿下の子供であるとは言えないのでしょう?」

 次の国王の座を狙っているクランボ様が不機嫌そうな顔で言うと、プロウスの王妃陛下が叫ぶ。

「会わせてもらったけれど、子供の頃のクヤイズにそっくりだったわ! あの子はクヤイズの子よ!」
「赤ん坊なんて、みんな同じに見えますよ!」
「いや、クランボに似ている!」

 両陛下とクランボ様が言い合っている時、テグノ伯爵が私に話しかけてくる。

「ナナリー、元気そうで良かった」
「ありがとうございます。ですが、もう、私とあなたは他人ですから馴れ馴れしく話しかけないでください」
「聞いてくれ、ナナリー!」

 伸ばしてきたテグノ伯爵の手をフェル殿下が掴んで止めてくれた。

「ナナリーに触れようとするな」
「で、ですが……!」
「ナナリー」
「はい」

 フェル殿下がテグノ伯爵の手を放してシルバートレイを見たので、頷いてシルバートレイを手に取った。

 先日、プレゼントの主から連絡が来て私に贈ってくれたシルバートレイには特別な力が付与されていることがわかった。
 その力がどんなものか教えてもらった時は驚いた。

 不思議な力は私が嫌っている人がシルバートレイに触れると効果が発揮される。

 使う前に、テグノ伯爵に説明する。

「これは普通のシルバートレイに見えますが、実は違うんです。私が嫌いだと思っている人が触れると、普通では考えられない効果を発揮します。ですから、痛い目に遭いたくなければ、私に触れようとしないでください」
「オレのことを嫌っていると言いたいのか?」

 悲しげな表情で尋ねてきたテグノ伯爵に頷く。

「嫌われるようなことをしたのはあなたです」
「違うんだ、聞いてくれナナリー!」

 性懲りもなく触れてこようとするテグノ伯爵の手を、シルバートレイで払う。

「いてっ!」

 テグノ伯爵は声を上げて、払われた手を押さえる。でも、すぐに笑顔になった。

「特に何も起こらないぞ。やっぱり君はオレのことを」

 そこまで言った時、テグノ伯爵は床に崩れ落ち、靴のつま先部分を押さえて叫ぶ。

「くそっ! 痛いっ! なんなんだ! 一体、何が起こってるんだよ!?」

 靴を脱ぎ、足の小指を押さえているテグノ伯爵に伝える。

「シルバートレイの効力ですが、足の小指を強くぶつけた痛みが十分ほど続くものになっています」

 微笑んで答えると、テグノ伯爵は涙目で私を見つめた。
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