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25  そうなんじゃないかと言われているの

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 私がパゼリノ王国で生活している間に日は過ぎて、テレサ様は無事に出産を終えていた。
 子供が生まれるということは、とてもおめでたいことなのだけど、生まれた子供がテグノ伯爵の子供ではない可能性が高いと言われているという話を、フェル殿下から教えてもらった。

 子供が生まれたら追い出すと言っていたけれど、やはり、子供を目の前にすると可愛く感じたらしく、母子共に家に置いているらしいけれど、自分の子供じゃないとわかれば、テグノ伯爵のことだから追い出すのでしょうね。

『ねえねえ、ナナリー。フェルでんかは何て言ってたの?』

 フェル殿下が帰っていったあと、リリに説明を求められたのでわかりやすいように説明をする。

『あなたはサモエドという犬種でしょう?』
『うん』
『あなたのお父さんとお母さんはサモエドだったのよね』
『そうだよ。ふわふわの毛で、いつもニコニコしてたの』

 リリがぱかっと口を開いて、笑っているように見える顔をした。

『サモエドのお父さんとお母さんの間に、ファンクのような犬が生まれたら、あれれ? って思わない?』
『思う。全然似てないもん』
『テグノ伯爵の子供だと思われていたんだけど、テグノ伯爵にもテレサ様にも似てない子供が生まれたんだって。だから、どうして? ってなっているのよ』
『どういうこと?』
『普通なら生まれてこないはずの子が生まれてきたから、お父さんは誰なの? ってことになっているの』
『テレサって人は浮気してたってこと?』

 リリが首を傾げるので頷く。

『そうなんじゃないかと言われているの』
『そうなったら、子供はどうなるの? テグノはくしゃくにとっては、いらない子ってことになるの?』
『わからないわ。どうするか決めるのはテグノ伯爵次第だもの』
『……たぶん、テグノはくしゃくは子供だけ助けるんじゃないかな』
『そうね。私もそう思う』

 テグノ伯爵は優しい人ではない。自分のことばかり考えている人だ。今、彼の憎しみはテレサ様にだけ注がれている。ということは、彼が取る行動は一つしかないと思った。


◇◆◇◆◇◆
(テレサ視点)

 ノウル様が先祖について調べると言った日の十日後の朝、兵士が二人、部屋に入って来たかと思うと、寝間着姿の私を抱え上げた。

「放して! 一体、何をするんですか!」
「ノウル様の命令で、あなたはこの屋敷から出ていってもらいます」
「そんな!」

 一生懸命、暴れてはみたけれど、屈強な兵士にわたくしの力が適うはずがなかった。

「お願い! 放して! ノウル様と話をさせてちょうだい!」

 訴えても無駄で、わたくしは馬車の中に放り込まれると、中にいた兵士に手足を縛られ、口には布を巻かれてしまった。

「ふぁふへて!」
「大丈夫です。殺したりしませんよ。あなたには用意した家に、一人で住んでいただくだけです」
「わふぁくひのあかふぁん!」

 わたくしの赤ちゃんはどうなるの!?

「赤ん坊はノウル様がお育てになるそうです。あなたは、ノウル様の用意したい家に住んでいただき、三十日に一度だけ、赤ん坊に会うことができます。あなたを路頭に迷わせないようにと、ノウル様のご配慮です。子供のために離婚もしないと言っておられましたよ」
「……ふぉんな!」

 離婚しないと言ってもらえるのは良かったけど、一体、どういうことなの?
 あの子は、ノウル様の子だと認めてもらえたの?
 でも、それなら、わたくしも一緒に住んでいいはずよね?
 ということは、ノウル様の子供ではないけれど、赤ちゃんには罪はないから、ノウル様が育てるということ!?

 赤ちゃんができたら、ノウル様はわたくしに優しくしてくれると思ったのに!
 可愛い赤ちゃんを生んだわたくしよりも、赤ちゃんを優先するというの?
 
 酷いわ、ノウル様。
 そして、酷すぎるわ、クヤイズ殿下。

 あなたのせいで、わたくしの人生が無茶苦茶になってしまったじゃないの!

 
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