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23  悪い話ではないのではないでしょうか

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 色々と打ち合わせをしなければならなかったこともあり、フェル殿下に相談した二日後、クランボ様と話ができることになった。クランボ様が仕事を始める前の朝の時間に、王城と別棟を繋ぐ渡り廊下で待ち合わせをした。廊下には見張りの兵士もたくさんいるけれど、聞かれるとまずい話は小声でするしかない。
 でも、私の身の安全は確保されるので、そちらを優先にした。

 私が先に行って待っていると、クランボ様が「お待たせして申し訳ございません」と言って、別棟から歩いてやって来た。

「おはようございます、クランボ様」
「おはようございます。今日はリリだけじゃなく、鳥も一緒なんですね」
「可愛いでしょう?」

 私の肩に止まって睨みをきかせてくれているヨウムを見て、クランボ様が話しかけてきたので、笑顔で答える。リリは唸り声をあげながら、クランボ様を見つめていた。

 クランボ様が連れて来たジャーマンシェパードのレフは、クランボ様の周りをウロウロと落ち着きなく歩き回っている。クランボ様は三匹の様子を一瞥したあと、用件を尋ねてくる。

「私に話したいこととは何でしょうか」
「クランボ様がレフの教育に苦労しているとお聞きしまして、少しでもお力になりたいと思ったんです」
「……教育に苦労している? そんなわけがないでしょう」
「そうですわよね。ファンクをあんなにも賢く育てたんですもの。クランボ様は良い指導者なのでしょうね」

 本当はドッグトレーナが躾をしたんだけど、私は知らないふりをして言う。

「ええ、そうですよ。ドッグトレーナーがいなくてもレフを立派に育てあげます」

 否定をすることなく、クランボ様はまんざらでもない表情になった。私とクランボ様が会話をはじめたため、手持ち無沙汰になったリリがレフに近づく。

『ねえねえ、顔を貸してくれない?』
『無理だよう。顔なんて取れないよぉう。どうやって貸すの?』

 すっかり逞しくなったリリは、レフに絡むような形になっていて、ただ、話をしたいだけなのに、レフを怯えさせてしまっている。レフには悪いけど、リリに任せて、私はクランボ様との話に集中する。

「ですよね。で、本題に入らせていただきたいのですが」
「何でしょうか」

 浮かべていた笑みを消して、厳しい表情でクランボ様は私を見つめる。

「知っておられるかと思いますが、私は犬の調教が上手いということで、プロウス王国に欲されているわけですが、私よりも、クランボ様のほうが優れていると思うのです」
「私に代わりに行けと言うのですか? 嫌ですよ。何のメリットもない」
「メリットはあります」
「どんなメリットがあると言うのです?」

 失笑するクランボ様に、私はにこりと微笑んで答える。

「パゼリノ王国の国王陛下が、あなたをプロウス王国の王太子として推薦するそうです」
「何ですって!?」
「クヤイズ殿下が亡くなり、プロウス王国は後継者がいなくなりました。パゼリノ王国の国民であるあなたが、次のプロウス王国の国王になれば、パゼリノ王国側としても動きやすくなります」
「実質、パゼリノ王国がプロウス王国を植民地化するのですね」

 クランボ様はにやりと笑った。

「どうでしょう。悪い話ではないのではないでしょうか」
「そうは思いますが、あなたからの話ですから信憑性もありませんし、少し考える時間をいただけませんかね」
「あまり長くは待てないと思います。それから、どうするかのお返事は国王陛下にお願いいたします」
「承知しました」

 クランボ様は頷くと、気が急いているのか、それとも始業時間に近づいているからか、速足でレフを連れて歩き出した。

『レフ、お願いね』

 頭の中でお願いすると、リリから話を聞いたらしいレフが「ばう!」という鳴き声と共に『まかせてー』と応えてくれた。


◇◆◇◆◇◆
(クランボ視点)


 ファンクがカンバーに負けた時は本当にくやしかった。王族として生まれるか、貴族として生まれるかで、国のトップになれるかが変わってくる。本当なら、フェル殿下よりも、私のほうが国王にふさわしいはずだ。
 賢い犬を飼っているというだけで、一目置かれるというしきたりは、私にとって本当に良いものだった。それなのに……!
 あのクソ犬めが!
 犬なんて、権力のために可愛がっているだけで、何の役にも立たない犬は、私の近くにいる必要はない。

 それにしても、今回、敵対しているはずのナナリー様が、あんな提案をしてくるなんて思ってもいなかった。何か考えがあるのは確かだろう。でも、国王陛下に確認し、本当に私をプロウス王国の次期国王にしてくれると言うのならば、その案にのっても良い。

 プロウス王国の国王になれば、クヤイズ殿下のやり方を受け継ぎ、賢くない犬は処分していく。それに歯向かう人間がいるのなら、そいつらも殺せばいい。
 世界は甘すぎる。命は大事だといって処刑を拒む。憎しみは憎しみを呼び、私が処刑を命じた相手の親族が私を狙おうとするだろう。だが、そんなの関係ない。そうならないように親族もろとも殺せば良い。

 今回の件はナナリー様一人で考えて実行できるものではない。フェル殿下が力を貸しているのだろう。国王陛下は……、どうだろうか。
 
 まあ、良い。

 ナナリー様、フェル殿下、何か考えていらっしゃるようですが、勝つのは私ですよ。



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