24 / 30
23 悪い話ではないのではないでしょうか
しおりを挟む
色々と打ち合わせをしなければならなかったこともあり、フェル殿下に相談した二日後、クランボ様と話ができることになった。クランボ様が仕事を始める前の朝の時間に、王城と別棟を繋ぐ渡り廊下で待ち合わせをした。廊下には見張りの兵士もたくさんいるけれど、聞かれるとまずい話は小声でするしかない。
でも、私の身の安全は確保されるので、そちらを優先にした。
私が先に行って待っていると、クランボ様が「お待たせして申し訳ございません」と言って、別棟から歩いてやって来た。
「おはようございます、クランボ様」
「おはようございます。今日はリリだけじゃなく、鳥も一緒なんですね」
「可愛いでしょう?」
私の肩に止まって睨みをきかせてくれているヨウムを見て、クランボ様が話しかけてきたので、笑顔で答える。リリは唸り声をあげながら、クランボ様を見つめていた。
クランボ様が連れて来たジャーマンシェパードのレフは、クランボ様の周りをウロウロと落ち着きなく歩き回っている。クランボ様は三匹の様子を一瞥したあと、用件を尋ねてくる。
「私に話したいこととは何でしょうか」
「クランボ様がレフの教育に苦労しているとお聞きしまして、少しでもお力になりたいと思ったんです」
「……教育に苦労している? そんなわけがないでしょう」
「そうですわよね。ファンクをあんなにも賢く育てたんですもの。クランボ様は良い指導者なのでしょうね」
本当はドッグトレーナが躾をしたんだけど、私は知らないふりをして言う。
「ええ、そうですよ。ドッグトレーナーがいなくてもレフを立派に育てあげます」
否定をすることなく、クランボ様はまんざらでもない表情になった。私とクランボ様が会話をはじめたため、手持ち無沙汰になったリリがレフに近づく。
『ねえねえ、顔を貸してくれない?』
『無理だよう。顔なんて取れないよぉう。どうやって貸すの?』
すっかり逞しくなったリリは、レフに絡むような形になっていて、ただ、話をしたいだけなのに、レフを怯えさせてしまっている。レフには悪いけど、リリに任せて、私はクランボ様との話に集中する。
「ですよね。で、本題に入らせていただきたいのですが」
「何でしょうか」
浮かべていた笑みを消して、厳しい表情でクランボ様は私を見つめる。
「知っておられるかと思いますが、私は犬の調教が上手いということで、プロウス王国に欲されているわけですが、私よりも、クランボ様のほうが優れていると思うのです」
「私に代わりに行けと言うのですか? 嫌ですよ。何のメリットもない」
「メリットはあります」
「どんなメリットがあると言うのです?」
失笑するクランボ様に、私はにこりと微笑んで答える。
「パゼリノ王国の国王陛下が、あなたをプロウス王国の王太子として推薦するそうです」
「何ですって!?」
「クヤイズ殿下が亡くなり、プロウス王国は後継者がいなくなりました。パゼリノ王国の国民であるあなたが、次のプロウス王国の国王になれば、パゼリノ王国側としても動きやすくなります」
「実質、パゼリノ王国がプロウス王国を植民地化するのですね」
クランボ様はにやりと笑った。
「どうでしょう。悪い話ではないのではないでしょうか」
「そうは思いますが、あなたからの話ですから信憑性もありませんし、少し考える時間をいただけませんかね」
「あまり長くは待てないと思います。それから、どうするかのお返事は国王陛下にお願いいたします」
「承知しました」
クランボ様は頷くと、気が急いているのか、それとも始業時間に近づいているからか、速足でレフを連れて歩き出した。
『レフ、お願いね』
頭の中でお願いすると、リリから話を聞いたらしいレフが「ばう!」という鳴き声と共に『まかせてー』と応えてくれた。
◇◆◇◆◇◆
(クランボ視点)
ファンクがカンバーに負けた時は本当にくやしかった。王族として生まれるか、貴族として生まれるかで、国のトップになれるかが変わってくる。本当なら、フェル殿下よりも、私のほうが国王にふさわしいはずだ。
賢い犬を飼っているというだけで、一目置かれるというしきたりは、私にとって本当に良いものだった。それなのに……!
あのクソ犬めが!
犬なんて、権力のために可愛がっているだけで、何の役にも立たない犬は、私の近くにいる必要はない。
それにしても、今回、敵対しているはずのナナリー様が、あんな提案をしてくるなんて思ってもいなかった。何か考えがあるのは確かだろう。でも、国王陛下に確認し、本当に私をプロウス王国の次期国王にしてくれると言うのならば、その案にのっても良い。
プロウス王国の国王になれば、クヤイズ殿下のやり方を受け継ぎ、賢くない犬は処分していく。それに歯向かう人間がいるのなら、そいつらも殺せばいい。
世界は甘すぎる。命は大事だといって処刑を拒む。憎しみは憎しみを呼び、私が処刑を命じた相手の親族が私を狙おうとするだろう。だが、そんなの関係ない。そうならないように親族もろとも殺せば良い。
今回の件はナナリー様一人で考えて実行できるものではない。フェル殿下が力を貸しているのだろう。国王陛下は……、どうだろうか。
まあ、良い。
ナナリー様、フェル殿下、何か考えていらっしゃるようですが、勝つのは私ですよ。
でも、私の身の安全は確保されるので、そちらを優先にした。
私が先に行って待っていると、クランボ様が「お待たせして申し訳ございません」と言って、別棟から歩いてやって来た。
「おはようございます、クランボ様」
「おはようございます。今日はリリだけじゃなく、鳥も一緒なんですね」
「可愛いでしょう?」
私の肩に止まって睨みをきかせてくれているヨウムを見て、クランボ様が話しかけてきたので、笑顔で答える。リリは唸り声をあげながら、クランボ様を見つめていた。
クランボ様が連れて来たジャーマンシェパードのレフは、クランボ様の周りをウロウロと落ち着きなく歩き回っている。クランボ様は三匹の様子を一瞥したあと、用件を尋ねてくる。
「私に話したいこととは何でしょうか」
「クランボ様がレフの教育に苦労しているとお聞きしまして、少しでもお力になりたいと思ったんです」
「……教育に苦労している? そんなわけがないでしょう」
「そうですわよね。ファンクをあんなにも賢く育てたんですもの。クランボ様は良い指導者なのでしょうね」
本当はドッグトレーナが躾をしたんだけど、私は知らないふりをして言う。
「ええ、そうですよ。ドッグトレーナーがいなくてもレフを立派に育てあげます」
否定をすることなく、クランボ様はまんざらでもない表情になった。私とクランボ様が会話をはじめたため、手持ち無沙汰になったリリがレフに近づく。
『ねえねえ、顔を貸してくれない?』
『無理だよう。顔なんて取れないよぉう。どうやって貸すの?』
すっかり逞しくなったリリは、レフに絡むような形になっていて、ただ、話をしたいだけなのに、レフを怯えさせてしまっている。レフには悪いけど、リリに任せて、私はクランボ様との話に集中する。
「ですよね。で、本題に入らせていただきたいのですが」
「何でしょうか」
浮かべていた笑みを消して、厳しい表情でクランボ様は私を見つめる。
「知っておられるかと思いますが、私は犬の調教が上手いということで、プロウス王国に欲されているわけですが、私よりも、クランボ様のほうが優れていると思うのです」
「私に代わりに行けと言うのですか? 嫌ですよ。何のメリットもない」
「メリットはあります」
「どんなメリットがあると言うのです?」
失笑するクランボ様に、私はにこりと微笑んで答える。
「パゼリノ王国の国王陛下が、あなたをプロウス王国の王太子として推薦するそうです」
「何ですって!?」
「クヤイズ殿下が亡くなり、プロウス王国は後継者がいなくなりました。パゼリノ王国の国民であるあなたが、次のプロウス王国の国王になれば、パゼリノ王国側としても動きやすくなります」
「実質、パゼリノ王国がプロウス王国を植民地化するのですね」
クランボ様はにやりと笑った。
「どうでしょう。悪い話ではないのではないでしょうか」
「そうは思いますが、あなたからの話ですから信憑性もありませんし、少し考える時間をいただけませんかね」
「あまり長くは待てないと思います。それから、どうするかのお返事は国王陛下にお願いいたします」
「承知しました」
クランボ様は頷くと、気が急いているのか、それとも始業時間に近づいているからか、速足でレフを連れて歩き出した。
『レフ、お願いね』
頭の中でお願いすると、リリから話を聞いたらしいレフが「ばう!」という鳴き声と共に『まかせてー』と応えてくれた。
◇◆◇◆◇◆
(クランボ視点)
ファンクがカンバーに負けた時は本当にくやしかった。王族として生まれるか、貴族として生まれるかで、国のトップになれるかが変わってくる。本当なら、フェル殿下よりも、私のほうが国王にふさわしいはずだ。
賢い犬を飼っているというだけで、一目置かれるというしきたりは、私にとって本当に良いものだった。それなのに……!
あのクソ犬めが!
犬なんて、権力のために可愛がっているだけで、何の役にも立たない犬は、私の近くにいる必要はない。
それにしても、今回、敵対しているはずのナナリー様が、あんな提案をしてくるなんて思ってもいなかった。何か考えがあるのは確かだろう。でも、国王陛下に確認し、本当に私をプロウス王国の次期国王にしてくれると言うのならば、その案にのっても良い。
プロウス王国の国王になれば、クヤイズ殿下のやり方を受け継ぎ、賢くない犬は処分していく。それに歯向かう人間がいるのなら、そいつらも殺せばいい。
世界は甘すぎる。命は大事だといって処刑を拒む。憎しみは憎しみを呼び、私が処刑を命じた相手の親族が私を狙おうとするだろう。だが、そんなの関係ない。そうならないように親族もろとも殺せば良い。
今回の件はナナリー様一人で考えて実行できるものではない。フェル殿下が力を貸しているのだろう。国王陛下は……、どうだろうか。
まあ、良い。
ナナリー様、フェル殿下、何か考えていらっしゃるようですが、勝つのは私ですよ。
732
お気に入りに追加
2,686
あなたにおすすめの小説
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
辺境伯の夫は私よりも元娼婦を可愛がります。それなら私は弟様と組んで、あなたの悪事を暴きますね?
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢アシュリーは辺境伯ジャスパーの元へ嫁いだ。しかし夫ジャスパーはアシュリーに“友達”を用意したと言って、屋敷に元娼婦ワンダを住まわせていた。性悪のワンダはアシュリーに虐められたと嘘を吐き、夫はその言葉ばかりを信じて……やがてアシュリーは古城に幽閉されてしまう。彼女はそこで出会った夫の異母弟メレディスと手を組み、夫の悪事を暴き出す――
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話
七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。
離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる