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22  本当に勝手な人たちね

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 クヤイズ殿下を殺したのは、皮肉にも彼の護衛騎士だった。パゼリノ王国との戦争で兄を失った護衛騎士は、兄は国のために名誉ある死だったと割り切ろうとした。

 でも、実際にクヤイズ殿下に会ってみて『こんな男のために兄は死んだのか』と考えたそうだ。

 戦争で彼の首を取らなかったのは、王家に忠誠を誓う者が捨て身で戦いを起こそうとする可能性があったことも、一つの理由にあげられている。

 不満がたまっているのはプロウス王国の国民だけじゃない。パゼリノ王国の国民も、たとえ貴族であれ、国民一人と犬のために戦争を起こしたということに批判もあった。奥の個人的な感情で犠牲者が増えたというものだ。戦争が長引けば長引くほど、パゼリノ王家への不満も募る。
 第三国の介入もあり、平和的な解決に持っていったものの、お互いの国民の一部には王家を恨む人がいてもおかしくない。

 一部の国民にとって、王家は命を懸けてまで守る存在ではないのだ。それを公にできないのは、不敬罪が頭の中でチラつくからでしょう。

「それだけなら、パゼリノ王国には特に関係のない話なんだが、クヤイズ殿下の命を助ける代わりに、君をこちらの国に連れてきたようなものだから君を返せと言ってきている」
「そんな無茶苦茶な……」
「そんな馬鹿なことを言うのが、プロウス王国の王家だろう」

 そう言われればそうかもしれない。だって、普通の思考回路の持ち主じゃないものね。

「私を戻そうとしているということは、よっぽど犬たちが言うことを聞かないんですね」
「そうだろうな」

 頷いてから、フェル殿下は続ける。

「馬鹿馬鹿しすぎて相手をする気にもならない。武力で潰そうと思えば簡単にできるが、弱いものいじめだと言う他国の国王もいて面倒なんだ」

 プロが素人を相手にすることに文句を言う人がいるということね。世界には何でも話し合いで解決できると思う人が一定数はいる。
 平和には軍隊はいらない、といった主張をしているのよね。間違っているとは思わないけど、そうなると、すべての国が軍隊を持たないようにしないと意味がない。

 それができないから、パゼリノ王国は国を守るために軍事力を拡大させている。

「再度戦争をするにしても、巻き込まれる国民が気の毒ですわよね。きっと、プロウス王国の国王陛下は負け戦だろうと、国民には戦えと言うでしょう」
「プロウス王国の同盟国の一部から、やり過ぎるならこちらに攻め込むと言ってきているんだ。そのこともあって頭を悩ませている」
「パゼリノ王国を支配したい国にとっては、良いチャンスですものね」

 プロウス王国よりも圧倒的な力を持っていても、他国から同時期に攻められれば、パゼリノ王国は戦力を分散せざるを得なくなる。

 そんなことになったら、今まで以上に多くの犠牲者が出るはずだし、多国籍軍と戦うのは辛い。

「……プロウスの国王陛下は、犬を調教できる人がほしいんですよね?」

 少し考えて尋ねると、フェル殿下は頷く。

「そのようだ。ナナリーの評判を他の貴族から聞いて、どうしても惜しくなったんだろう」

 本当に勝手な人たちね。

「フェル殿下にお願いがあるのですが……」
「どうした?」
「明日にでも、クランボ様にお会いしたいのです」
「手配はするが、どうかしたのか?」
「考えていることがあります」

 私が重い表情をしているからか、フェル殿下は眉間の皺を深くする。

「俺も一緒に行こう」
「お気持ちはありがたいのですが、フェル殿下がいらっしゃると警戒するでしょう。ですので、鳥をお借りできませんか」
「かまわないが、何をするつもりだ?」

 上手くいくかはわからない。でも、クランボ様は自尊心が強そうだし、自分の権力が強くなると思わせれば厄介払いできそうだわ。

 私は微笑んで答える。

「プロウス王国は犬が言うことを聞くようになれば良いわけですよね。なら、私が戻らなくても、私と同じようにできる人間がプロウス王国に行っても良いわけでしょう」
「……犬に頼んでクランボの言うことをきかせるつもりか? たとえ、それでプロウス王国が納得したとしても、クランボは納得しないだろう。それに、プロウス王国にそこまでしてやる義理はない」
「クランボ様には納得してもらえるように、お願いしてみようと思います。それから、戦勝国として追加制裁をお願いしたいのです」
「何だ?」

 私なりの考えを話すと、フェル殿下は納得してくれた。

「わかった。それくらいのことはしてもらおう。普通は命を奪われてもおかしくない状態だったんだからな」
「王太子殿下が亡くなったんです。今の王家はどうせ終わりでしょう」

 クランボ様は出世欲が強い。それなら、後継者を欲しがっているプロウス王国に引き渡し、その後に、彼には死とは別の最悪な結末を迎えてもらいましょう。
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