23 / 30
22 本当に勝手な人たちね
しおりを挟む
クヤイズ殿下を殺したのは、皮肉にも彼の護衛騎士だった。パゼリノ王国との戦争で兄を失った護衛騎士は、兄は国のために名誉ある死だったと割り切ろうとした。
でも、実際にクヤイズ殿下に会ってみて『こんな男のために兄は死んだのか』と考えたそうだ。
戦争で彼の首を取らなかったのは、王家に忠誠を誓う者が捨て身で戦いを起こそうとする可能性があったことも、一つの理由にあげられている。
不満がたまっているのはプロウス王国の国民だけじゃない。パゼリノ王国の国民も、たとえ貴族であれ、国民一人と犬のために戦争を起こしたということに批判もあった。奥の個人的な感情で犠牲者が増えたというものだ。戦争が長引けば長引くほど、パゼリノ王家への不満も募る。
第三国の介入もあり、平和的な解決に持っていったものの、お互いの国民の一部には王家を恨む人がいてもおかしくない。
一部の国民にとって、王家は命を懸けてまで守る存在ではないのだ。それを公にできないのは、不敬罪が頭の中でチラつくからでしょう。
「それだけなら、パゼリノ王国には特に関係のない話なんだが、クヤイズ殿下の命を助ける代わりに、君をこちらの国に連れてきたようなものだから君を返せと言ってきている」
「そんな無茶苦茶な……」
「そんな馬鹿なことを言うのが、プロウス王国の王家だろう」
そう言われればそうかもしれない。だって、普通の思考回路の持ち主じゃないものね。
「私を戻そうとしているということは、よっぽど犬たちが言うことを聞かないんですね」
「そうだろうな」
頷いてから、フェル殿下は続ける。
「馬鹿馬鹿しすぎて相手をする気にもならない。武力で潰そうと思えば簡単にできるが、弱いものいじめだと言う他国の国王もいて面倒なんだ」
プロが素人を相手にすることに文句を言う人がいるということね。世界には何でも話し合いで解決できると思う人が一定数はいる。
平和には軍隊はいらない、といった主張をしているのよね。間違っているとは思わないけど、そうなると、すべての国が軍隊を持たないようにしないと意味がない。
それができないから、パゼリノ王国は国を守るために軍事力を拡大させている。
「再度戦争をするにしても、巻き込まれる国民が気の毒ですわよね。きっと、プロウス王国の国王陛下は負け戦だろうと、国民には戦えと言うでしょう」
「プロウス王国の同盟国の一部から、やり過ぎるならこちらに攻め込むと言ってきているんだ。そのこともあって頭を悩ませている」
「パゼリノ王国を支配したい国にとっては、良いチャンスですものね」
プロウス王国よりも圧倒的な力を持っていても、他国から同時期に攻められれば、パゼリノ王国は戦力を分散せざるを得なくなる。
そんなことになったら、今まで以上に多くの犠牲者が出るはずだし、多国籍軍と戦うのは辛い。
「……プロウスの国王陛下は、犬を調教できる人がほしいんですよね?」
少し考えて尋ねると、フェル殿下は頷く。
「そのようだ。ナナリーの評判を他の貴族から聞いて、どうしても惜しくなったんだろう」
本当に勝手な人たちね。
「フェル殿下にお願いがあるのですが……」
「どうした?」
「明日にでも、クランボ様にお会いしたいのです」
「手配はするが、どうかしたのか?」
「考えていることがあります」
私が重い表情をしているからか、フェル殿下は眉間の皺を深くする。
「俺も一緒に行こう」
「お気持ちはありがたいのですが、フェル殿下がいらっしゃると警戒するでしょう。ですので、鳥をお借りできませんか」
「かまわないが、何をするつもりだ?」
上手くいくかはわからない。でも、クランボ様は自尊心が強そうだし、自分の権力が強くなると思わせれば厄介払いできそうだわ。
私は微笑んで答える。
「プロウス王国は犬が言うことを聞くようになれば良いわけですよね。なら、私が戻らなくても、私と同じようにできる人間がプロウス王国に行っても良いわけでしょう」
「……犬に頼んでクランボの言うことをきかせるつもりか? たとえ、それでプロウス王国が納得したとしても、クランボは納得しないだろう。それに、プロウス王国にそこまでしてやる義理はない」
「クランボ様には納得してもらえるように、お願いしてみようと思います。それから、戦勝国として追加制裁をお願いしたいのです」
「何だ?」
私なりの考えを話すと、フェル殿下は納得してくれた。
「わかった。それくらいのことはしてもらおう。普通は命を奪われてもおかしくない状態だったんだからな」
「王太子殿下が亡くなったんです。今の王家はどうせ終わりでしょう」
クランボ様は出世欲が強い。それなら、後継者を欲しがっているプロウス王国に引き渡し、その後に、彼には死とは別の最悪な結末を迎えてもらいましょう。
でも、実際にクヤイズ殿下に会ってみて『こんな男のために兄は死んだのか』と考えたそうだ。
戦争で彼の首を取らなかったのは、王家に忠誠を誓う者が捨て身で戦いを起こそうとする可能性があったことも、一つの理由にあげられている。
不満がたまっているのはプロウス王国の国民だけじゃない。パゼリノ王国の国民も、たとえ貴族であれ、国民一人と犬のために戦争を起こしたということに批判もあった。奥の個人的な感情で犠牲者が増えたというものだ。戦争が長引けば長引くほど、パゼリノ王家への不満も募る。
第三国の介入もあり、平和的な解決に持っていったものの、お互いの国民の一部には王家を恨む人がいてもおかしくない。
一部の国民にとって、王家は命を懸けてまで守る存在ではないのだ。それを公にできないのは、不敬罪が頭の中でチラつくからでしょう。
「それだけなら、パゼリノ王国には特に関係のない話なんだが、クヤイズ殿下の命を助ける代わりに、君をこちらの国に連れてきたようなものだから君を返せと言ってきている」
「そんな無茶苦茶な……」
「そんな馬鹿なことを言うのが、プロウス王国の王家だろう」
そう言われればそうかもしれない。だって、普通の思考回路の持ち主じゃないものね。
「私を戻そうとしているということは、よっぽど犬たちが言うことを聞かないんですね」
「そうだろうな」
頷いてから、フェル殿下は続ける。
「馬鹿馬鹿しすぎて相手をする気にもならない。武力で潰そうと思えば簡単にできるが、弱いものいじめだと言う他国の国王もいて面倒なんだ」
プロが素人を相手にすることに文句を言う人がいるということね。世界には何でも話し合いで解決できると思う人が一定数はいる。
平和には軍隊はいらない、といった主張をしているのよね。間違っているとは思わないけど、そうなると、すべての国が軍隊を持たないようにしないと意味がない。
それができないから、パゼリノ王国は国を守るために軍事力を拡大させている。
「再度戦争をするにしても、巻き込まれる国民が気の毒ですわよね。きっと、プロウス王国の国王陛下は負け戦だろうと、国民には戦えと言うでしょう」
「プロウス王国の同盟国の一部から、やり過ぎるならこちらに攻め込むと言ってきているんだ。そのこともあって頭を悩ませている」
「パゼリノ王国を支配したい国にとっては、良いチャンスですものね」
プロウス王国よりも圧倒的な力を持っていても、他国から同時期に攻められれば、パゼリノ王国は戦力を分散せざるを得なくなる。
そんなことになったら、今まで以上に多くの犠牲者が出るはずだし、多国籍軍と戦うのは辛い。
「……プロウスの国王陛下は、犬を調教できる人がほしいんですよね?」
少し考えて尋ねると、フェル殿下は頷く。
「そのようだ。ナナリーの評判を他の貴族から聞いて、どうしても惜しくなったんだろう」
本当に勝手な人たちね。
「フェル殿下にお願いがあるのですが……」
「どうした?」
「明日にでも、クランボ様にお会いしたいのです」
「手配はするが、どうかしたのか?」
「考えていることがあります」
私が重い表情をしているからか、フェル殿下は眉間の皺を深くする。
「俺も一緒に行こう」
「お気持ちはありがたいのですが、フェル殿下がいらっしゃると警戒するでしょう。ですので、鳥をお借りできませんか」
「かまわないが、何をするつもりだ?」
上手くいくかはわからない。でも、クランボ様は自尊心が強そうだし、自分の権力が強くなると思わせれば厄介払いできそうだわ。
私は微笑んで答える。
「プロウス王国は犬が言うことを聞くようになれば良いわけですよね。なら、私が戻らなくても、私と同じようにできる人間がプロウス王国に行っても良いわけでしょう」
「……犬に頼んでクランボの言うことをきかせるつもりか? たとえ、それでプロウス王国が納得したとしても、クランボは納得しないだろう。それに、プロウス王国にそこまでしてやる義理はない」
「クランボ様には納得してもらえるように、お願いしてみようと思います。それから、戦勝国として追加制裁をお願いしたいのです」
「何だ?」
私なりの考えを話すと、フェル殿下は納得してくれた。
「わかった。それくらいのことはしてもらおう。普通は命を奪われてもおかしくない状態だったんだからな」
「王太子殿下が亡くなったんです。今の王家はどうせ終わりでしょう」
クランボ様は出世欲が強い。それなら、後継者を欲しがっているプロウス王国に引き渡し、その後に、彼には死とは別の最悪な結末を迎えてもらいましょう。
874
お気に入りに追加
2,653
あなたにおすすめの小説
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる